葦を啣む ◆dKv6nbYMB.
―――べん
薄暗い部屋の中、三味線の音と共に彼等は目を覚ました。
彼等の中の誰一人として、このような場所に連れてこられた覚えはなかった。
故に、彼等の大半はたちまち混乱に陥り、部屋中がざわめきに包まれる。
「目を覚ましたようだな」
しかし、それもすぐに男の声に収められた。
一同が声のした方へと意識を向けると、いつの間にいたのかそこには片膝を立てて座る壮年がいた。
腰に差した刀と時代がかった着物は見るものに歴戦の剣士を思わせる風貌である。
「私の名前は禪院扇。これより貴様らが執り行う儀式の管理者となる者だ」
儀式。その言葉に一部から動揺の声が漏れるも、男・扇は構わず淡々と続ける。
「貴様らが行うのは蠱毒の陣―――謂わば殺し合いだ。最後の1人が決まるまでのな」
殺し合い。その言葉に響めきが走る。が、しかし。意味を理解しているのかしていないのか、響めきに反して恐怖や狼狽の悲鳴は殆ど無かった。
「流石にこの程度で恐れ慄く者はそうはおらんな。手間が省けるというものだ。では、これより
ルールを説明する。これより貴様らをある会場に送り、最後の1人になるまで殺し合いをしてもらう。食糧は成人男性が普通に使って1日分と、いくつかのランダム支給品を配る。それは武器かもしれないし医療道具や何かに使える道具かもしれん。
また、基本的に禁則事項は無い。だが、ある禁則を犯した場合にのみ罰を与える...こんな風にな」
扇が立ち上がると、その背後には、顔と両腕に痛々しい火傷が刻まれた女性が両手足を縛られ床に転がされていた。
「これより貴様を贄とするが...何か遺す言葉はあるか出来損ない」
扇は女を汚物を見るような目で見下ろし吐き捨てるように言う。
女は憎々しげに目だけ見上げながら、堂々と言ってのけた。
「くたばりやがれ、クソ親父」
その言葉を最後に。
ボン、と小さな音と共に彼女の首元が爆ぜーーー鮮血と共に、女の首が胴から離れ転がった。
「―――ァッ」
誰かが叫びをあげようとしたその時、一同は金縛りにあったかのように全身が硬直し喉元から出かけた声すら阻まれる。
「これが罰だ。貴様らにもこの出来損ないと同じ首輪が嵌められており、罰が執行されれば如何なる者でも死に至る。それこそ、千年生きても朽ちず、如何なる傷すら忽ち治る体質を持つ鬼ですらな」
鬼―――その単語に一部の者が反応するも、扇は構わず続ける。
「禁則事項は四つ。一つ、この首輪に強い衝撃を与えること。一つ、6時間毎に死者の提示と共に指定する禁止エリアに一定時間留まること。一つ、三日以内に優勝者が決まらなかった場合。最後の一つ、明確に私に逆らうことだ」
そこまで説明し終えると、扇はくたびれたようにふぅ、と息を吐く。
「さて、そろそろ時間だ。これより貴様らを会場に送る。―――鳴女」
―――べべんッ
扇が呟くのと同時、再び三味線の音が鳴り響き、皆の足元に襖が現れ1人残らず吸い込んでいく。
「最後の
ルールだ。この殺し合いで生き残った者は如何なる願いも叶えることが出来る。莫大な富でも、永久なる幸福でもーーー死者の蘇生でもだ」
その言葉を聞き遂げた参加者達は襖に吸い込まれながら意識を失った。
死体と共に残された扇は1人呟く。
「真に当主に相応しいのは兄でも甚壱でも直哉でも甚爾でも、ましてや外様の小僧や出来損ないの汚点ではない―――この私だ」
【主催:禪院扇@呪術廻戦】
【主催:鳴女@鬼滅の刃】
最終更新:2022年01月06日 00:08