第一回放送 ◆Il3y9e1bmo
地平線の彼方から煌々と輝く太陽が姿を見せ、会場を照らし始めた午前6時。
突如として、ラジオの周波数を合わせているかのような耳障りなノイズが島全体に流れ始める。
それは音声が流れる前の予兆とも取れるように暫し垂れ流され、しかして男の咳払いが数度それに続いた。
「やあ」
殺し合いに参加させられた者たちが次に耳にしたのは、忘れるはずもない『あの男』の声だった。
袈裟を着、額に傷のある美丈夫。あの慇懃を装ったニヤニヤ笑いまでが、いともたやすく彼らの脳裏に浮かぶ。
「おはよう。君たちに語りかけるのは6時間ぶりだね。よく眠れたかい?」
男は生き残った者たちに労りの言葉をかけた。
もちろん、眠ることが――もとより、心からの休息を取ることができた者など、本当に数えるほどしかいないということを彼が知らないはずはないが。
「さて、今回開催された死滅跳躍だが、初めに言った通り脱落者の読み上げを行おうと思う。聞き逃さないようにしてくれたまえ」
ここで男は何が楽しいのか、失笑を漏らした。
「それでは行くよ? ここまでの脱落者は、『石神千空』、『マグ=メヌエク』、『栗花落カナヲ』、『朝倉シン』、『脹相』、『黒死牟』、『アンディ』、『轟焦凍』、『七海建人』、『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』、『パワー』、『北条時行』……以上、12名だ。
この短時間で、参加者の五分の一近くが死亡したことになる。なかなかいいペースじゃないかな? ……おっと、それから25ポイント消費によるルール追加だが――今回は、ナシだ。もう既に25ポイント以上集めておきながら消費していない参加者がいるのか、それとも誰も25ポイントまで到達していないのかは内緒だけどね」
脱落――つまり、死亡だ。参加者の間に感情の波が広がっていく。
それは自身の大切なものを亡くしたショックであったり、死滅跳躍の主催者である男に対する怒りであったりと様々ではあったが、皆が共通して感じたのは確実に近づいてくる『死』の匂いだった。
「続いて、禁止エリアだが『C-1』、『E-4』、『F-2』に設置することにする。この放送が終わってからきっかり1時間後からは中に入れなくなるから気をつけるように。それでは、最後に君たちの健闘を祈る」
男からの一方的な語りかけが終わり、会場は再び静寂を取り戻した。
しかし、参加者たちは『死』という現実を直視し、休まることがない殺し合いに身を投じることになる。
彼らの心には、深い漆黒の帳が幾重にも降りていた。
◆ ◆ ◆
第一回放送終了後。
袈裟姿の男――羂索は空を見上げた。その目はクリスマスプレゼントを目の前にした子供のように輝いている。
「神(サン)……か。太陽に近づきすぎたイカロスはその翼を失ったけど、私もいずれはそうなるのかな?
それにしても、日本の呪術師がギリシア神話について語るのもなんだか面白いなあ」
燦然と熱を撒き散らす太陽を見つめながら、羂索はそう独りごちる。
「『死滅跳躍』。死滅回遊とは全くもって似て非なるものだけど、彼らは私の意図に気づくだろうか」
ふふ、と笑い、羂索はまた何処かへと去っていった。
最終更新:2025年08月11日 22:06