第一回放送(仮) ◆vV5.jnbCYw
誰もいない大広間。
つい6時間と少し前。12の世界から61人もの有象無象が集められた場所だ。
この場所には、今は1人しかいない。
(さて、そろそろ始めるか。)
部屋の真ん中に立った、額の縫い目が印象的な男が一呼吸おいて、口を開いた。
数百年の時を生きた羂索だが、これほど興奮したことはそうそう無かった。
何しろ、自分が始めた儀式が、気持ち悪いほど順調に進んでいるのだ。
自分の声が上ずってしまわないか、少しだけ気にする。
「おはよう。」
それは静かで、低くて、それでいて良く通った声だった。
「殺し合いに夢中になっている所を済まないが、6時間が過ぎたのでね。最初に報告した通り、途中経過を告げることにするよ。」
冷たい声。だが、その裏に甘さも含まれている。
ゆっくりとした淀みのない口調を聞いた参加者は、何を思うだろうか。
そんな彼ら彼女らの気持ちを知ってか知らずか、羂索は言葉を紡いでいく。
「まずはこの儀式で贄となった者達を告げていくことにする。
中には大切な者が呼ばれて辛い者もいるかもしれないが、最後まで聞くように。」
一拍置いて、12人の名が告げられる。
石神千空。
マグ=メヌエク。
栗花落カナヲ。
朝倉シン。
脹相。
黒死牟。
アンディ。
轟焦凍。
七海建人。
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
パワー。
北条時行。
「以上、12名だ。私も心底驚いているよ。同時に嬉しくもある。
この儀式が予想以上に順調に進んでいるということだからね。」
静かな声に、幾分か高揚感が混ざる。
だが、興奮状態でありながらも重要事項を忘れることは無い。
「次は禁止エリアの発表だ。まずはA-4、次にH-7、そしF-2だ。
この放送が終わってから1時間後、もう中に入れなくなるから、間違っても入らないように。
こちらとしても、そのような形で死んでくれるのは望ましくないからね。」
「そうだ、一つ言い忘れたことがあった。5人の参加者を殺め、25ポイントを溜めた者は、ルールを変更できるという話だがね。今の所それに値する者はいない。
とはいえ、言うまでもないがそれに近づいている者はいる。叶えてもらいたい願いや、気に食わないきまりがあるのなら、早くしたまえ。
では、健闘を祈ってるよ。」
始まりの間は、静寂を取り戻す。
しかし、それは一瞬だけ。
羂索の声とは異なる、笑い声と嗚咽の声が響いた。
暗い部屋の中、突如青い炎が灯り、笑い声の方が明らかになる。
「哀しいなあ、轟焦凍。こんなに早く薪になるなんてな。」
青い炎を纏った青年はクルクルと、不気味な踊りを舞う
ボンボンと、火の粉が散る。まるでこの邪悪な儀式を盛り立てるかのような舞いだ。
誰かを悲しんでいるようにはとても思えない。
「おや、燈矢。兄弟のことを気にかけてくれているのかい。」
「その名で呼ぶなっつってんだろイカレ縫い目。」
「なら、荼毘と言うべきかな。」
「勝手にしろ。」
羂索に対して悪態をつくも、どこか愉快そうだった。
何を隠そう、彼はこの殺し合いで死んだ漕凍の兄だ。
ただし呪われた血縁関係の兄だが。
彼は父に、家族にいなかったことにされてから、ずっと憎んでいた。どうすれば苦しむのか、考え続けた。
勿論、そんな怨嗟の気持ちは、兄弟が一人死んだくらいでは到底晴れない。
「轟炎司……お前はどんな顔するだろうなあ……。」
爛れた口元を歪に歪め、最も憎む父親の表情を思い浮かべる。
「俺がこんなふざけたゲームの協力者だって知ったら、どんな気持ちだろうなあ……」
興奮を発散するかのように、ステップを踏む。
壊れた悪がそこにいた。
「いくら父親のことが気になるからと言って、勝手に殺し合いの会場に出たりしないように。
それと君はそろそろ泣くのをやめたらどうだ。」
くちゃくちゃくちゃくちゃ
ずずずずずずずずずず
荼毘がいる方向とは別の方で、食べ物を咀嚼する音と、鼻をすする音が同時に聞こえる。
その音を聞くだけで、大半の者は食欲が減退してかなわないだろう。
「みんな、無事でよかったなあ!良かったなあ!!」
そこでは、黒い帽子と丸眼鏡をつけた白髪の男性が立っていた。
涙を流しながら、骨付き肉を食べている。
しかし、涙で濡れたその瞳は、不気味な光を放っていた。
「恐ろしいな、夜桜百。愛する家族をこの儀式に巻き込むとは。」
「大丈夫だ。凶一郎は、四怨は、六美は、生き残るよ。そして太陽。君も六美の婿として、この殺し合いで勝ち残ってくれるよ。
そしてその時は祝おう!家族の団欒を!!」
食べながら大声でしゃべったため、肉の欠片が羂索の顔面にへばりつく。
少し顔を顰めながらも、そんな夜桜家の父親相手に話をつづけた。
「どうなるやら。何にせよそこまで興奮してくれて嬉しいよ。わざわざ死滅回游をやめ、イチからこの儀式を始めただけある。」
「ならば零を生き返らせてくれるんだね?期待しているよ?」
「ああ、無事にこの儀式が終わり、私の目的が達成できれば誰でも生き返らせてやろう。」
荼毘こと、轟燈矢に夜桜百。
羂索とは異なる世界にいながら、卓越した呪いを心に秘める彼らは、この殺し合いの協力者として呼ばれた。
そしてその礼代わりに、特等席で殺し合いを楽しむ権利と、儀式が終われば願いを叶えてもらえる権利を得たのだ。
歓喜、狂喜、喜悦、驚喜。
様々な喜の感情が、そこに渦巻いていた。
死滅跳躍 残り 49人
協力者
荼毘@僕のヒーローアカデミア
夜桜百@夜桜さん家の大作戦
最終更新:2025年08月11日 22:22