よふかしのうた ◆7XQw1Mr6P.
いかに世界で最も高貴な血筋であろうとも、思いのままに怒りと助けを叫び続け、考え無しに遊郭中を歩き回ったならば、肉体に疲労が溜まるのは自明の理。
ましてやそれが8歳の少年なのだから、殺し合い開始早々にドフラミンゴ少年の体力は尽きつつあった。
加えて今は深夜。健康な子供が日中に活動すれば、おのずと睡魔がやってくる頃合いだ。
どれだけ欲望のままに生きる者であろうとも、あるいは欲のままに生きるからこそ、子供の体力では眠気に抗える限界もある。
考え無しの移動だったとはいえ、それでも無意識に不衛生な環境を脱しようとしていた少年は花街の表通りにまで出てきていた。
マリージョアのかつての住居とは比べものにならないが、最初にいた切見世地帯よりはマシだ。
少年は適当な座敷に潜り込み、目についた布団の上で眠ることにした。
危機感の欠片も無く、少年はいびきをたてて眠りにつく。
室内の貧相な装飾も、寝具のお粗末な出来にも、もはや怒りや不満を抱けないほどの眠気だった。
激情による興奮を上回るほどの強烈な眠気
それはあるいは、何不自由なく生きてきた少年が異常な環境に一人放り込まれたが故の、一種の防衛機制だったのかもしれない。
「もしも~し」
間延びした声とともに身体を揺すられ、ドフラミンゴ少年の意識が眠りから浮上する。
寝ぼけ眼をこすりながらそばを見やれば、そこには一人の女が座っていた。
若い女だった。少女と言ってもいい。
とはいえドフラミンゴ少年よりはかなり年上だ。
「こんなところで大きいいびきかいて寝てるなんて、あなたかなりの大物サンですね」
ドフラミンゴと同じ色の髪を、頭の両サイドで団子状にまとめている。
刃物で裂いたように切れ長の三白眼に見つめられ、寝起きの少年は一瞬ひるむ。
少女の人相が悪いというわけではない。むしろ可愛らしいといえる顔立ちである。
ただ、少女の眼差しの空虚な鋭さが、ドフラミンゴの心をざわつかせた。
とはいえ、世界で最も気位の高い一族の自尊心が、竦む心を立ち直らせる。
「な、何者だえ! 下々民がおれの眠りを妨げるとは、いったいどういうつもりだえ!」
「しもじ……? 誰のことです?」
「お前のことだえ! 見るからに貧乏で不潔そうな格好をしているえ!」
「ヒドイなぁ……確かにリアルな家なき子やってますし、貧乏ってのは正しいかもですケド。
その前に綺麗好きな女の子やってるんで、身だしなみには気を付けてるんですケド」
少女の三白眼が細くなる。
だがもうドフラミンゴ少年はひるまない。
おれは天竜人、世界の頂点に立つ一族だ。こんな女一人、何を恐れる必要がある
「汚らわしい手でおれの身体に触れるとは、どうなるかわかっているのかえ!」
「どうなるんです?」
「殺してやるえ! いや、まず奴隷にして百回鞭で打って、百本の矢を射かけさせるえ!
それから、馬に繋いで屋敷の庭を百周引きずり回してやるえ!
ズタボロになった後でライオンの餌にしてやるえ!」
「……残酷趣味ですね。グロ!」
少女は顔をしかめて見せた後、すぐに薄い微笑みの表情に戻った。
言葉遣いこそ敬語ではあるものの、その態度は年下に対するただの丁寧語でしかない。
ドフラミンゴに対する敬意も畏れも、この女は抱いてはいなかった。
実際、少年がどれだけ望もうと、今の彼にそれを実現させるだけの力が無いことは明白である。
仮に破壊的な"能力"の行使を仄めかしたならば、話は別であったのだが。
「それより、聞きたいことがあるんですけど」
「それより!?」
「ステ様に会わなかった? 名簿に名前があるから、どこかにいると思うんですけど」
少女はデイバッグから取り出した名簿を見せ、一つの名前を指さす。
眼前に掲げられた『ステイン』という文字列と、その横の少女の顔をしっかりと見比べ、ドフラミンゴ少年は拳を振るった。
「おっと」
「そんなやつ知るか! おれは偉いのに、なんでお前なんかの人探しを手伝わなきゃいけないんだえ!!」
ドフラミンゴ少年は少女に殴りかかるが、少女は余裕をもって避けていく。
少女と言えど、少年に比べて身体付きは大人のそれに近い。
文字通り大人と子供の体格差。加えて少年に武の心得などない。
精々が、逃げ回る奴隷を狩る遊びで多少銃の扱いが出来る程度だ。
するすると少年の攻撃を避けながら、少女はポツリと独り言をこぼす。
「怒鳴ってばかり、不満ばかり。あなたも、生きにくそうだねェ」
「知るか! おまえ、さっきからおれに気安く話しかけすぎだえ!」
「生きやすい世界になったらいいのになって思わない?」
少年の怒声も、少女はまるで意に介さない。
年齢に見合わない残虐性と選民思想の過激さには多少驚きこそあるものの。
目の前の小さな独裁者に対して抱くのは、むしろ共感の部分が大きかった。
「……今は、ものすごく生きにくい! あの縫い目頭と、お前のせいだ!
おれは、世界貴族だ。この世界はおれたち天竜人のためにあるんだぞ!
この世界は、おれたちが生きやすい世界じゃなきゃいけないんだぞ!」
空振りする攻撃にしびれをきらし、少年は叫んだ。
不満を、怒りを、思いの丈を、思いのままに。
少年が振るった拳も蹴りも、一つとして少女に届くことは無かった。
だが最後に、少年の一番の感情の発露を、少女は確かに受け止めた。
「ですよね」
少女は、静かに微笑んだ。
さっきまでの薄ら笑いとは違う、少年に対する心からの笑顔(スマイル)だった。
打てど響かず、怒鳴れど届かず。
権力に怯まず気安い態度を取り続けていた少女が、初めて自分の言葉に同意した。
その事実に、寝覚めから一気に激情に身を委ねていたドフラミンゴが困惑する。
「ま、ステ様を知らないならいいです。それじゃ」
「えっ」
唐突に会話を切り上げ、少女はさっさと部屋を出ていった。
結局一度も標的にぶつけられないままだった拳を握ったまま、ドフラミンゴ少年は一人立ち尽くす。
さっきまで少女がいたのがウソのように、部屋の中は静かになっていた。
「ステ様とぉ、あ・い・たーい。
ステ様にぃ、な・り・たーい。
ステ様をぉ、こっろ・したーい……」
歌、というほどのものでもないが、少女の口から零れる言葉には微かなメロディがあった。
機嫌よく、リズムよく、遊郭を出た少女は一路、人が集まりそうな会場の中心方向へ向けて夜の道を往く。
「ステ様に、会えたら、そのあとは……」
ふと振り返ると、遊郭で会った少年が走ってきていた。
夜だというのに、子供のくせにサングラスなんかかけちゃって。
こちらを見下す態度といい、サディストぶりといい、とんだマセガキだ。
「お、おま、おまえっ! おれを、置いていくなぁ!」
でも、こんな小さな子供も生きづらさを抱えて生きているのだ。
―――この世界は、おれたちが生きやすい世界じゃなきゃいけないんだぞ!
「まったくもって、その通りですね……」
どうして自由に生きられないのか。
どうして排斥され、抑圧され、不自由に甘んじなければならないのか。
柄にもなくたくさん考えている。
でも考えることは苦痛じゃない。
この殺し合いの場は、抑圧された世界を壊してくれる。
閉ざされた視界が開けるように、少女――トガヒミコの瞳は闇の中で輝いていた。
夜も遅いが、ねむるには眼が冴えすぎている。
息苦しくてスリリングな殺し合いの夜。
憧れの人を探し、起きたまま夢見る理想の世界。
少女が口ずさむ、よふかしのうた。
【G-8/1日目・未明】
【ドンキホーテ・ドフラミンゴ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2(確認済み)、ベガパンクの失敗作の人造悪魔の実@ONE PIECE
[思考・状況]
基本方針:あいつ(羂索)をドレイにしてこの俺をこんな目に合わせた罰を与えてやるえ
1.この女(トガ)、おれを置いていくのは許さないえ
2.ムカつくやつは殺すえ
3.新しいドレイが欲しいえ
4.こいつ(人造悪魔の実)はドレイに食べさせようかえ
5.きっと父上が海軍大将を呼んでくれてるえ
[備考]
※子供時代、父に連れられてマリージョアから下界に引っ越して来たばかりの頃から参戦です。
【トガヒミコ@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:生きやすい世界にしたい
1.ステ様を探す!
2.生きづらさを抱える少年(ドフラミンゴ)にちょっとシンパシー
3.ドフラミンゴがついてくるのは気にしないが、別に護ったりする気はない
[備考]
※参戦時期は敵連合と合流する前です。
最終更新:2023年01月04日 18:49