箱庭の管理者が管理者であることを忘れ、狂ってしまったために様々なものがこぼれ堕ち、第一世界へと降り注ぐ世界。
第十八世界 ルイン
妖精の悪戯
生まれ出でたことが、罪。
ある代行者の話
彼は生まれながらに界渡りの力を持っていた。管理者以外には持ちえぬはずの、世界を移動することのできる力。彼は管理者と同じ身体を持ち、同じ魂の器をしていた。違っていたのは収まった魂だけだった。これは世界が彼を管理者として認識してしまったために起きた悲劇。管理者の器に不相応な魂には不相応な力があたえられてしまった。(界渡りに足りない生命力を、当時数え3つの彼は集落の生き物すべてを、親兄弟だけでなく植物や動物などあらゆる生命を捧げて代用して行った。それは自身についても例外ではない。)
金の目を持って生まれた彼は、本来ならば秘密裏に処分される運びになっていた。金の目は人ならざるものの証。存在自体が罪であるとされる。世界の有事の際には必ずその目を持つものの存在が確認されていた。あるときは老人、あるときは幼子、またあるときは獣として現れる金の目を持つものはいつしか災厄の兆しであり象徴であると認識されていったのだ。しかしながら彼は生き延びた。目をあけたときに最初に写ったものの色を写し取った彼は、周囲を騙し通し報告は産婆の気のせいだと処理された。彼の両親も気味悪がってはいたものの育児放棄をするようなことはなかった。十八世界の主流の宗教では堕胎が冒涜的な行為であった事、3つになるまではすべての子供は神の子であるという通過儀礼的教えがあったため。そして彼自身の生きたいという願望が産声となりふたりに呪い(まじない)をかけ、実行させているためである。
彼には自身が彼らに呪いをかけたという自覚は無いが、両親や周囲の対応から自分が異質な存在であるということは認識していた。
ある夜、緩み始めていた呪いが彼自身の発言によって瓦解し母親に首を絞められる。それを母の裏切りであると思ってしまう。いや、彼にとっては裏切りだったのだろう。母が自分を殺したいほどに忌み嫌い、憎んでいたことも。そしてなによりも自分で自身を偽り、騙していたことも。現実を受け入れらなかった結果、無意識可に行使していた呪いが自身に呪いとなって纏わりついた。そして拒絶とその場からの逃避の強い意志と言葉が合わさって界渡りが行われた。
十八世界から移った後、彼のいた場所は円形状に周囲一帯が綺麗に枯れており、不毛の地となった。
本来管理者権限ではなく界渡りが行われた場合、管理者はすぐさま知ることでき、また迅速に対象の保護と周囲への対応が求められる。しかし十八世界ではその役目を背負った者はすでにその役割を忘れてしまっていた。知らず知らずのうちに狂った管理者を生命力として捧げ、世界はそれを機に崩壊への一途をたどる。際限を知らずに生命の奔流は溢れだし、そして戻ることはなく、循環することなく歯止めもなく消費されていった。十八世界の異変を察知するものは居らず、渡った先の第四世界においてもそのことを知ることのできる者は存在しなかった。
第四世界に降り立った彼は知らない。己の身に起こったことを。母親がどうなったを。自分のしてしまったことを。されどそれはすべて、予め決められていたこと。生まれるずっと前から、咎を背負うことを義務付けられていたのだ。過程は違えど、結果が定められていた。それは第四世界に属する人間には抗うことができないもの。
肉体が生成されるにあたって、第四世界では同じだけの質量が消費された。3人の親子が事故、大人二人は即死、子供は意識不明の重体。彼はその子供として保護された。意識が戻った彼は半狂乱なりながら母親を呼び、否定し、助けを求めた。事故のショックによる記憶喪失であるとされ、孤児院に届けられ、5歳のときにある男に引き取られる。またそのときにある少女等とも出会い、己の言葉に惑わされない人間(呪い耐性、すでに呪いにかかっている)がいることを知る。男の名は鬼灯、少女の名は弓蔓と雪路。
彼の魂の器は管理者と同質のもの。
最終更新:2020年11月22日 13:43