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第三回目

 誰にも言えない、そんな苦しみ。
 それに慣れてしまうといことは、死ぬよりも辛いことだろう。
 精神的にも、肉体的にも、傷が癒える間もなく、傷は増え続け、やがて、痛みも感じなくなる。
 それが、どれだけ辛いか、僕にだってわかる。
 僕だって、昔はそうだったから。

三話 「夜明けと日の出」

無琴「本当は、辛かったんでしょう? 怖かったんでしょう? 泣きたかったんでしょう?」
月視「そんなことは・・・・」
 月視さんがうつむいて、涙をこらえようとしているのが、わかった。
 誰にも言えなかったから、こうして、この場所にいるんだ。辛くないわけなんてない。
無琴「・・・月視さんの親って、本当の親じゃ、ないんですよね・・・」
月視「・・・・・うん、私、養子だから」
無琴「家でも、暴力を受けていたんですよね・・・。父親のせいなんでしょう。右足の小指が無いの・・・」
月視「っ!」
 月視さんが、驚いた顔で、こっちを見ている。
 そりゃそうだ。ずっと靴を履いていたから、見えるわけない。
 そう、「普通の人間」なら、見えるわけない。
無琴「僕は、人の「夢」と、「心」に干渉できるんです。だから、月視さんの夢も、一度だけ、見てしまったんです」
月視「そう・・・ですか・・・」
レィティ「無琴様は、日本でも有数の魔法使いの家系、白井家の生まれなんです。だから、魔力もひとしおで」
無琴「ちょ、レィティさん、その話はなしですよ」
月視「そうなんですか? でも、無琴君の名字って、赤井ですよね?」
レィティ「それは、私たちの主人である、赤井様の名字です。本名は存じ上げませんが、今の無琴様の保護者なのです」
月視「じゃ、無琴君は・・・」
無琴「僕は、育児放棄だよ。うちの親は、僕を捨てて、今もどこかで暮らしてるだろうさ」
月視「そう・・・だったんだ・・・」
レィティ「赤井様が、少年院から引き取ったんです。魔法使いなら、もっといい境遇で暮らしてもいいだろう、と」
 なんか懐かしいな。
 ま、僕の親は、赤井さんだ。
 物心ついたときには、赤井さんの家に引き取られていたし、本当の親のことは、何も知らない。
 顔もほとんど覚えていないし、名前だって覚えてない。
 唯一、血のつながりがあるやつで知っているのは、弟の白京 龍士だけだ。
月視「私よりも、ひどい境遇ですね・・・」
無琴「そんなことないさ。今の生活に不満はないし、本当の親じゃなくても、俺の親は赤井さんだから」
月視「・・・・・・私の親、もう死んでしまったんです」
レィティ「そう・・・なんですか?」
月視「私が3歳のときに、交通事故で亡くなったんです。それからは、父方の祖母の家で暮らしていたんですが、5歳の誕生日の少し前に、ガンで死んでしまって・・・。それから、養子になって、あの家に引き取られたんです」
無琴「そっか・・・。本当の親に、もう会うことはできないのか・・・」
月視「今の親は、最初はとても優しくしてくれたんです。毎日ご飯も一緒に食べたり、クリスマスプレゼントをくれたり・・・。だけど、子供ができてから、私は見放されたんです。なんでも、私はただの玩具。子育ての練習のために、拾われたんだって」
 ひどい奴らだ。
 僕がしょっ引いてやろうか?
月視「それから、私の居場所は、どこにもなくなりました。家に帰っても、なにもない。ただいまって言っても、何も帰ってこない。ご飯も用意してないし、自分の部屋に入ること以外、何もできなかったんです」
レィティ「それじゃ虐待じゃないですかね。でも、児童相談所とかに、相談にいかなかったんですか?」
月視「そりゃ、何回も行きましたよ。でも、毎回毎回、見事に相手にされないんです。腕にできた痣を見せても、何も言われないし、見向きもしない。それで、自分の居場所は、もうどこにもないって、痛感しましたよ」
無琴「なんで相手にされないんですか? おかしいですよ、そんなの」
月視「根回しがあったみたいなんです。うちの親、そこそこ大きな企業の社長なんです。だから、児童相談所に賄賂を贈って、私の出口を塞いだ」
 権力を振りかざしたわけか。
 そりゃ、そんな企業の社長が、児童虐待をしてるなんてばれたら、マスコミに散々たたかれるだろうさ。
 すべては、自分の地位を守るためにやっていたってことかよ。
レィティ「そろそろ着きますよ」
無琴「あ、わかりました」
月視「あれ、もしかしてこのお屋敷が・・・」
無琴「そう。ここが僕の家。極秘裏に魔法使いを育成している、特殊機関。イギリスとか、アメリカとかにある機関とも連携していて、魔法使いによる犯罪防止や、魔法テロの抑制も受け持っているんだ」
月視「す、すごい」

◇屋敷敷地内◇

レィティ「ファレル、フュー、無琴様がお帰りですよ」
ファレル「無琴様、お帰りなさいませ」
 彼女はファレル。
 イギリス出身の魔法使いで、ライセンス(階級)7、レベル(実績)23のエリートである。
 一応、僕の専属である。
フュー「おかえりなさい、無琴様」
 そして、この女性はフュー。
 同じくイギリス出身の魔法使いで、ライセンス8、レベル21のエリート。
 彼女も、僕の専属である。
無琴「彼女を僕の部屋に通しておいて。アクセサリーを洗ってくる」
ファレル・フュー「「かしこまりました」」
レィティ「無琴様、私もお手伝いします」
無琴「ああ、ありがとう」
月視「広い・・・」
無琴「部屋に行って適当に待ってて。飲み物とかは、隙に頼んでくれていいから」
月視「あ、うん。わかった。と、ところで、アクセサリーってなに?」
ファレル「アクセサリーとは、我々魔法使いの間で使われている暗号で、武器のことを指します」
フュー「基本的には、物理的なものを使わない魔法使いが多いですが、無琴様のように、『魔法で物理的な武器を呼び出す』魔法を使う方は、その武器のメンテナンスが必要なんです」
月視「はぁ、なるほど」
 あまり馴染みがない単語だろうが、ここではよく使われる言葉だ。
 ま、名前の由来は、別の場所にあるんだけど。
少年「うわぁ!」
無琴「うん?」
 夜が明けようとしている時、一人の少年が敷地内に転んできた。
 わずかな太陽光に照らされたその姿は、どこか神秘的にも感じられた。

NEXT・・
最終更新:2012年05月26日 14:55