5-568氏 無題

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セーラー服の袖にしがみついて放してくれない和ちゃんを取り合えずそのままにして、

「私はどうしたらいいでしょうか?」

部長と染谷先輩に尋ねてみた。そしたら

「放っておくわけにはいかないでしょ?」
「も、勿論です」
「和にゃんは咲にゃんになついとるようじゃのう」
「そう……みたいですね」
「ということは、自ずと答えは限られるわね」
「えぇ?」
「咲、あんたは今日は和と一緒に保健室登校をしんさい」

って、そんな風にあっと言う間に話が進んでしまった。でも、

「保健室登校?」

それが一体どういうことなのかはさっぱりわからなくて、恐る恐る二人を見つめる。
部長も染谷先輩も含みのある笑顔を返してきて、少し嫌な予感がしたんだけど、案の状

「ええ、咲は今日一日和に付き添って保健室にいること」
「小ネコになった和がどこかへ行ってしまわんようにしっかり見張りんさい」
「ふぇ?」
「だって、このまま自宅に帰したりしたらかえって心配じゃない」
「そうじゃ。目の届くところに居た方がええじゃろ?」

っていうことに……。

「確かにそうですけど…」

(でも、本当にそれでいいのかな?)

お父さんやお母さんに連絡した方がいいんじゃないかとか、
迎えに来て貰った方がいいんじゃないかとか、色々なことが頭に浮かんだ。

(だって小ネコになっちゃうなんて、和ちゃんじゃないけど『そんなオカルトありえない』もん)

なんていうか……私がどうこう出来る問題じゃないんじゃないかな……
そう思わずにはいられなかった。けど、その時

「咲にゃん?」

って声がして、振り向いたら私を不安そうに見ている和ちゃんと目が合ったんだ。
同時に、右腕に軽い違和感が走って、セーラー服を掴んでいる手にさっきより力が入っているのが感じられた。
引き結んだ唇、頼りない肩、それは全身で

『そばにいて』

って、訴えてるみたい。そんなのを見ちゃったらもう断れる筈が無い。
先ほどの迷いはどこへやら、私の心はあっという間に固まって

「わかりました。今日一日私が和ちゃんのそばにいます」

決意が口をついて飛び出していた。

最初はかなり不安だったんだけど、そこは学生議会長を務める部長がうまく話を通していてくれたみたいで、
保健室の先生もすんなり私と和ちゃんを受け入れてくれた。

「あら、本当に子ネコになっちゃったのね」

なんて言っただけで、それ以上は何も詮索しないでベッドを一つ空けてくれたから、ほっとした。
私は先生の厚意にお礼を言ってから、まずカーテンを引いて周りから見えないようにして、和ちゃんをベッドに座らせた。

えーっと、正確には座らせたんじゃなくて、乗せたって言った方がいいのかな……。

っていうのも、和ちゃんはベッドに上がるやいなや白いシーツの上に丸くなって、目を瞑っちゃったから。
それはまるでというか、なんというか、小ネコそのものだった。

『今日一日和ちゃんのそばにいます』

そう意気込んでいた分、無防備な姿になんだか急に肩の力が抜けた。

(ちょっと複雑な気分…………)

それでも、結局黙って和ちゃんを見つめることにしたのは、何か言う気が無くなるくらい、可愛かったから。

その子ネコ(和ちゃん)は呼吸に合わせて胸を上下させつつ、時々思い出したみたいに伸びをした。
とても自由で、とても気侭で、さっきの不安げな様子が嘘みたいにリラックスしているのがわかった。
それを見るうちに私の緊張もとけて、

(飲み物でも買って来ようかな)

ふと思い立った。
それで腰を上げたんだけど―――――
立ち上がる途中で制服の袖をぐいって引っ張られて、尻餅をついてしまった。
振り向いたら、和ちゃんが拗ねた顔で私を見ていた。

「どこ行くにゃ?」

その口調は、もうすっかり我侭な子ネコだった。
困ったけれど、その可愛さにノックアウトされた私は

「どこにもいかないよ」

ってあっさり白旗をあげてしまった。


5-592 無題に続く
最終更新:2010年08月09日 06:47
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