247 二人の約束 [sage] 2009/09/20(日) 01:27:36 ID:6OkKM3g5 Be:
全国大会を終え、遂にこの日がやってきた。福路先輩の引退の日が。
ぼろぼろに泣きながら先輩が言葉を紡いだ。
私たちもぼろぼろ泣きながら耳を傾けた。
そして先輩は涙を拭って微笑んだ。
「華菜。これから風越をお願いね。」
福路先輩の後を継いで新キャプテンとなった華菜ちゃんに。そして、
「吉留さん。華菜のサポートをよろしくね。」
副キャプテンとなった私に。
福路先輩は部室を去った。
隣にいる華菜ちゃんが涙を拭って前を見据えた。
ねぇ華菜ちゃん、覚えてる?
あの日のことを、二人の約束を。
****
「あの…麻雀部の部室ってどこにあるか知りませんか?」
私は入部届を手に近くにいた生徒に尋ねた。
その娘は振り向いて笑った。
「あなたも麻雀部に入るのか?」
私と同じように入部届を手にしていた。
「あなたも…ってことは?」
「あたしも同じだし!一緒に行こ。」
彼女はそう言って私の隣に立った。
「あたし、池田華菜!」
「私、吉留未春。よろしくね」
私が麻雀部で1番最初に喋ったのは華菜ちゃんだったんだよね。
華菜ちゃんは覚えてないかもしれないけど。
*****
自分の力に自信がないわけではなかった。だけど名門と言うだけあって個々の麻雀のレベルは高く、同級生相手ならなんとか勝てても、上級生相手だと歯が立たなかった。
差があり過ぎるよ…。
溜め息をつき空を仰いだ。
「ロン!」
そんな私にどこかで聞いたような元気な声が届いた。声のした方に目をやった。
『池田さん…!』
麻雀部で1番最初に知り合った人、華菜ちゃんだった。
『上級生を相手に…すごい。』
上級生を相手に善戦どころか圧勝していた。
ランキングを見ると華菜ちゃんはトップ5に名を連ねていた。
風越は団体戦にはランキングのトップ5が出場することになっている。このままいけば華菜ちゃんは1年生にして団体戦に出場する。
誇らしげに笑う華菜ちゃんは輝いていて…
『池田さんってすごいなぁ』
その時から華菜ちゃんは私の憧れの人になったんだよ。
*****
そして団体戦の日がやってきた。華菜ちゃんはなんと大将として出場することになった。
『池田さんの初陣。しかも風越の大将として。』
本当は頑張ってねって一言くらい言いたかった。だけど1年生の星である華菜ちゃんの周りにはいつも沢山の人がいて近づけなかったんだ。
そして決勝戦…。
思いがけない苦戦を強いられ風越の大将、華菜ちゃんにバトンが渡された。
でも私は華菜ちゃんの勝ちを信じて疑わなかった。
『池田さんなら、池田さんなら大丈夫。』
言えなかった頑張ってという言葉を心の中で何度も繰り返して私は画面を見つめたんだ。
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先輩たちは涙を流し、私は下を向いた。
華菜ちゃんは泣き崩れ落ちて震えていた。
誰も華菜ちゃんを責めることはなかった。
あれから華菜ちゃんは元気がなくなった。明るい太陽が、今にも雨が降りそうな雲に覆われてしまったような、そんな感じだった。
ある日華菜ちゃんが福路先輩に早引けをお願いしているのを見かけた。
華菜ちゃんの走り去る背中は寂しく見えた。
「彼女、最近元気ないですよね。」
大将戦のあの日からずっと。
福路先輩は何か考えたような顔をしていた。
その次の日から華菜ちゃんは笑顔を取り戻してたんだよね。
きっと福路先輩がなんとかしてくれたんだと思う。
だってあれから華菜ちゃんは福路先輩と帰るようになって、福路先輩は華菜ちゃんを‘華菜’って呼ぶようになっていたから。
『私は覚えられているかもわからないのに…。』
この時のこの感情をどう表現すればいいんだろう?いや、これはただの嫉妬。いつからか憧れという感情は別の感情に変わっていたんだよ。
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必死だった。
どうにかして華菜ちゃんに私の存在に気付いて欲しかったから。
その為にはまず強くなることだと思った。麻雀で強くなってランキングの上位に食い込むこと。そうすれば華菜ちゃんが私な存在に気付いてくれるって、そう思ってた。
毎日の部活はもちろん、家でも夜遅くまでネット麻雀をし続けた。
そして少しずつランクが上がっていった。ただ夜遅くまでネットをやっていたからなのか、視力が下がり、眼鏡をかけることになった。
眼鏡をかけての初めての部活の日。同卓には華菜ちゃんがいた。
華菜ちゃんが1位で私が2位で終え、席を立とうとした時だった。
「あれ?吉留さんって眼鏡だったっけ?」
覚えててくれた!
最初に浮かんだのはそんな言葉で、私は勝手に恥ずかしくなって斜め下を見ながら返事をした。
「目、悪くなっちゃって…。眼鏡、変かな?」
「そんなことないし!すごい似合ってるし!」
そうやって笑う華菜ちゃんが眩しくて私は華菜ちゃんをまともに見ることができなかった。
「あ、ありがとう、池田さん。」
「なんでお礼言うんだし!それと…」
華菜ちゃんはそこで言葉を切った。
私はなんだろう?って思って華菜ちゃんを見つめた。
「同級生なんだし、これからは名前で呼ぶし!未春ちゃん。」
『池田さんが私のこと名前で呼んでる!』
その事実が嬉しくて、笑いかける華菜ちゃんの瞳に私がいるのが嬉しくて。
「じゃ、じゃあ私も華菜ちゃんって呼ぶ!」
二人で笑って言うんだ。
「よろしく、未春ちゃん!」
「よろしく、華菜ちゃん!」
前よりぐっと距離が近づいた日、初めて名前で呼び合った日。勝手に名前で呼び合った記念日にしてあるのは秘密。
「未春ちゃん…みはるちゃん…みはる………。」
華菜ちゃんはその後、なぜか小さく名前を呟いたんだよね。
「みはる……みはるん…………みはるん!!」
「え?」
「やっぱりこれからはみはるんって呼ぶし!」
華菜ちゃんだけが呼ぶあだ名が生まれたのもこの日だったね。
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2年生に進級する頃には私も校内ランキングで3位になっていた。
そんなある日、部活が終わると珍しいことに華菜ちゃんと一緒に帰ることになった。
どうやらキャプテンは用事があるらしい。
他愛もない会話もなにもかもが心地よかった。
「ねぇみはるん…。」
私の隣を歩く華菜ちゃんが急に足を止めて真剣な顔をした。
「どうしたの?華菜ちゃん。」
華菜ちゃんは少し俯いていた。
「全国行けるかな?」
華菜ちゃんらしくない不安そうな言い方で。
「不安なんだ。だんだん団体戦が近づいてきて、去年のことを思い出してしまうんだ…。」
いつも明るくて元気な華菜ちゃんが、あの時みたいに暗い表情でいた。
私は華菜ちゃんの手をとった。
「華菜ちゃん!」
華菜ちゃんが顔を上げた。
「あれから毎日頑張ってきたんだから大丈夫だよ!自分の力を信じて。」
華菜ちゃんの目にうっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。
「今年は私も団体戦に出るから。どこまでやれるかわかんないけど、全力尽くして華菜ちゃんに繋げるから。ねっ?」
「…みは、るん。」
華菜ちゃんはそう言ったかと思うと、溢れ出したように泣き出した。
どうしていいかわからなかったけど、私はそっと華菜ちゃんを抱き寄せた。
華菜ちゃんの体は思ったより小さかった。
いつも明るくて前向きで弱い所を見せない華菜ちゃんが私に見せた弱い部分。
もしかしたらキャプテンにはもっと見せてるかもしれない。だけど、私にも見せてくれてることが単純に嬉しかった。
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「ごめん。もう大丈夫だし。」
しばらくして華菜ちゃんは体を離した。
「ねぇ華菜ちゃん?なんかあったらまた言ってもいいんだよ。私には華菜ちゃんのそういうとこ見せてもいいんだからね。」
華菜ちゃんは少し斜め下を見てちょっと唇を尖らせた。
「み、みはるんだってそういうの言っていいし!」
そんな華菜ちゃんが可愛くて私は笑った。
そしたら華菜ちゃんも笑った。
「ねぇ華菜ちゃん。」
「ん?」
「絶対に全国に行こうね。」
「当たり前だし!」
「約束だよ?」
「約束だし!」
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あの日指切りをしてから何日が過ぎただろう。
福路先輩と共に全国に行くことはできなかった。だけどまだ約束は終わったわけじゃない。
「ねぇみはるん。」
「なに華菜ちゃん?」
「福路先輩と全国に行くことはできなかったけど、来年は、来年こそは全国へ行くんだし!」
前を向いたまま話していた華菜ちゃんがこっちを向いた。
「約束だし!全国行くし!!」
華菜ちゃんはあの日と同じように小指を差し出した。
だから私も差し出した。
指を絡めるとき小さい声が耳に届いた。
「みはるんと一緒ならどこへでも行けるし。」
最終更新:2009年09月22日 12:42