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417 :寂しがり屋で甘えん坊:2009/09/22(火) 16:19:21 ID:FCCKJole

 
 

 私の尊敬する先輩は、現在二人いる。

 一人は、加治木ゆみ先輩で、もう一人は蒲原智美先輩だ。
 前者は「なるほど」と皆が頷いて、後者は「何で?」と皆に首を傾げられる。
 失礼な奴なんかは、蒲原先輩をとことんけなして、加治木先輩を褒め称える奴さえいる。加治木先輩を褒めるのはいいが、それで蒲原先輩を馬鹿にするとは何事かと、私は憤った。
 その失礼な反応の違いは納得できず、私はいつも一人で腹を立てるが、相談してみた当の先輩方は二人とも笑って「気にするな」とだけだった。
 どうして、加治木先輩は馬鹿にされた蒲原先輩をかばわないのか、どうして、馬鹿にされたのに蒲原先輩は怒らないのか。
 まだ二人を尊敬したての私には、どうにも分からなかった。

「蒲原の良さは、付き合って初めて分かる節がある。普段があんなだからな」

 加治木先輩は、蒲原先輩の肩をぽんぽんと叩きながら微笑して。

「ワハハー。ユミちんは格好良いからなぁ。それと比べたら、誰だって首を傾げちゃうぞー?」

 蒲原先輩は、やっぱりワハハと笑って、本当に気にしていないようで。
 それから二人は向き合って、楽しそうに麻雀の話題をして、他校の牌譜を見ながらいつも通りの部活動を行うのだ。

 私はそれを見て、ひとり悔しい気持ちを空回りさせて、どこか面白くなかった。
 先輩は二人とも、尊敬すべき方だ。
 どうしてそれが分からないのか、一人憤慨して、悔しくて、暫くもやもやと悩んだものだった。

 でも、心のどこかでは、そうやって小さい事に拘らずに、カラリと笑って、前を向いている二人を「やっぱり素敵だ……!」と、改めて尊敬しなおしてもいた。


 多分、私は自分で思う以上に、このお二人に心酔していたのだろう。
 二人の背中を見て、後をついて行くのが、仲間として見られていることが、本当に嬉しかった。

 そう。
 嬉しくて。
 楽しくて。
 三人だけは寂しかったけど、やっぱり、満たされていた。

 だってその当時は、私は先輩方を独り占めしていたのだから。
 

  
 





 私は、部長になった。

 団体戦が終わり、楽しかった合同合宿も終了して、蒲原先輩から「頑張れよ」とお言葉をいただけた。
 だけど、それはお二人が本当に『引退』してしまうという事で、寂しくもあった。
 お二人は、遠方の大学に通うという事で、ここ最近は受験勉強に忙しく、最近は顔を見せる事も少なくなった。

 だから、部室もどこか熱を持たずに、強くはなりたいのに気力が湧かない、とても中途半端な空気だった。
 「はぁ…」と誰ともつかない溜息が部室内に広がる。
 そして、ポツリとここにいない二人を思って、いつもの会話が始まる。

「……加治木先輩、今頃はりきって勉強してるんすかね」
「……うん。智美ちゃんも、頑張ってるといいな」
「……お二人の事です。きっと頑張って勉強していますよ。……きっと、だから勉強に忙しいんです」

 言い聞かせるような最後の言葉は。むしろ自分に言い聞かせていて、私たち三人は同時に顔を曇らせる。

 今日も顔を見せないお二人に、ちょっとだけ、いや、本当はかなり寂しい思いをしながら、私たちはポツポツと会話する。

「……そーなんすよねぇ、先輩ってば頑張ってるみたいで、あんまりかまってくれないっす」
「……智美ちゃんだって、ちょくちょく、顔を出すって言ってました」
「……お二人は、受験生ですしきっと今が大変な時期なんですよ」

 言い聞かせて、でも牌譜を見ているのに頭に入ってこない。
 私はチラリと、あの入り口が開いて、今にも先輩たちが入ってこないかと何度も何度も見たりしながら、開かないドアに肩を下ろす。
 他の二人もそうだが、私もそろそろ限界が近いと、情けなく表情を曇らせる。

「……うぅ、私、もう先輩の顔を三日も見てないっす」
「わ、私だって、もう二日も見ていません……!」
「……私は昨日、お二人を見かけただけで、それだけだった」

 その言葉に、がばっと妹尾が顔を上げて、「何すかそれっ?!」とほぼステルス中だった東横さんが隣に出現した。

「ど、何処で見たんですか!?」
「……図書室」
「な、何をしていたっすか!?」
「……楽しそうに、勉強」

 ずーんと落ち込む。
 そう。それは楽しそうに勉強していた。

「加治木先輩が、蒲原先輩に教えているみたいだった。蒲原先輩が間違うと、加治木先輩が呆れた顔をして、シャーペンで手をつんつんしたりしてた。蒲原先輩はそれに痛そうなしながらワハハって笑ってるみたいだった」

 状況を説明していくと、二人が同じくずーんと落ち込んで行く。

「ぶ、部長、ずるいっす」
「か、加治木先輩、羨ましい……!」
「うぅ」

 思わず窓の外に隠れて、かれこれ一時間は見つめてしまった。
 半分ストーカーだと気付いて、こそこそとその日は終わったが、しかし、これからは図書室の前を歩こうと密かに決めていた。

「……さみしーっす」
「……寂しいです」
「……私も、寂しい」


 私たちは見詰め合って、がっくりとパイプ椅子に座って、手にしていた牌譜を置く。
 もう、普通の部活なんて、この心境では難しかった。

 ……先輩方。来ないかな。

 そんな風に、また入り口を諦めた眼差しで見つめて、目が大きく見開いた。

 カチャリと、ノブが回されていた。

「――――あ」

 思わず声に出て、二人の視線が私に集まる。
 その間に、ドアは開いて、開ききって、――――お二人がそこに立っていた。


 プツン。という音を、私は遠い所で聞いた。


「おー――っす!?」
「失礼す――ぐっ!?」
「………………―――――――っっっ!!!」

 気付いたら、
 もう私はお二人に抱きついていた!

「あ、あーっ!? むっちゃん先輩ずるいっす!」
「む、む、睦月さん!?」

 遠くで、二人の声が聞こえるが、私だって限界だった。

「ぐっ、く……わ、ワハハ。いい体当たりだった、ぞー」
「の、暢気に言っている場合、か。かなり、の威力だ」

 先輩の声。先輩の匂い。先輩の体温。
 ……二人とも、いる!

「うーん。……そろそろ限界かと思っていたが、やっぱりかぁ」
「……ふぅ、流石だな蒲原。お前のそういう勘は、やはり侮れない」
「ワッハッハ。もっと褒めていいぞユミちん」
「いや、お前は付け上がるから、ここまでだな」

 懐かしい先輩方の会話。
 嬉しくて、「うー」と呻きながらお二人の制服に頬ずりする。

「ちょ、ちょちょちょ、むっちゃん先輩!?」
「ずるい! ずるいです睦月さん!」

 制服を強い力で引っ張られたが、私はひるまない。
 むしろチャンスとばかりに更に強くお二人に抱きつく。
 加治木先輩のふくよかな感触と、蒲原先輩のスレンダーの感触。凄く懐かしい。

「蒲原先輩。小さいです」
「……ほっといてくれ。……ワハハ」
「加治木先輩。少し太りましたか?」
「……さ、最近運動していなかったが、ど、どうだろうな」

 お二人の、たったそれだけの会話で満たされながら、本当に、私はこの二人が大好きだと、強く思う。
 気がついたら、私は蒲原先輩に抱きしめられて、加治木先輩に肩を抱かれて引き寄せられていて。
 
 私はまた、お二人の事が大好きと尊敬する気持ちが、ぐっと上がっていくのを感じていた。



 それから暫く。
 私がぴったりとお二人にくっついて、恥かしげにもじもじしていると、当然だが、同じくお二人の事が大好きな二人が、涙目で怒った。

「ど、どういう事なんすか! 説明してください先輩!」
「せ、説明? というかモモ、何でそんなに怒っているんだ?」

「さ、智美ちゃんの馬鹿!」
「ば、馬鹿? ちょ、佳織?」

 訳が分からない、という先輩方に、私は二人の気持ちを良く知っているので、本当に気まずくて、やっぱり、これは説明をしないと自体の収集が付かないと、覚悟を決める。

「あ、あの、二人とも聞いてくれ。じ、実はだな―――」

 私は、お二人の片腕ずつ借りて、両腕でしっかりと抱きしめながら、誤解が無い様にはっきりと言う。


「私は、お二人が大好きなんだ!」


 ビシッ!
 と、何故か二人が凍りつく。
 
 が、私はお二人を尊敬する気持ちを、何とか言葉にしようと口を開き。

「ストップ」

 パシッと、何故か蒲原先輩に口を塞がれた。
 見ると、蒲原先輩は「……あー」と笑いながら困って、加治木先輩は固まってしまった東横さんにオロオロと普段のクールさから考えられないぐらい動揺していた。

「あー。よし、なんか分かった」

 蒲原先輩はそう言うと、ペリッと私と加治木先輩をまず引き離し。えいっと加治木先輩を東横さんに押して渡した。

「先輩!」
「うわぁ!?」

 無事、加治木先輩は東横さんの腕の中に閉じ込められ、「先輩の馬鹿! 浮気モノ! 大嫌いだけど大好きっす!」と怒られ、加治木先輩は「えぇ!?」と真っ赤になって焦っていた。

 私は、先輩へ未練たらたらに腕を伸ばし、それを蒲原先輩が、おいでおいでと呼んでいた妹尾と一緒に、私たちを抱きしめる事で治めた。

「さ、智美ちゃん!?」
「蒲原先輩?」

 立ったままの私たちを抱きしめるというのは、小柄な蒲原先輩には大変そうなのに、蒲原先輩は「ワハハ」と私と妹尾を両手でぎゅうっとして、抱きしめるというよりは抱きつくみたいな格好で、ワハッと笑う。

「つまり、説明するからまず聞こうな?」

 まさに鶴の一声。
 皆が皆、とりあえず大好きな相手に触る事ができて満たされていたので、素直にその言葉を聞けた。


「あのな、誤解がある様だから言っておくが、むっきーはこんな整った顔をしてクールそうに見えて、実は甘えん坊さんなんだぞ?」

 ……ぁう!
 否定できない事実に、私は真っ赤になる。
 その言葉に目を丸くするのは、それを知らないまだ麻雀部の日が浅い二人。



「え?」
「むっちゃん先輩が、っすか?」

 妹尾と東横さんの視線が痛くて、私は思い切りあさっての方を向く。

「そうなんだ。アレは去年の、私とユミちんが修学旅行から帰ってきた時の事なんだけど――――」



『先輩、先輩、先輩……!』
『ただいまーむっきゅぐは!?』
『蒲原? 何をふざけ……きゃわ!?』
『私は、私なりに精一杯、寂しさに、寂しさに耐え、耐え切れませんでしたぁ……!』
『む、むむむっきー! 落ち着け、分かった! 前々から思ってたけど、むっきーってば寂しがり屋さんで甘えん坊さんだもんな!』
『む、睦月落ち着け! ほら、お土産がある! おいしいし可愛いから、泣き止もう! な?』
『さみしかったですぅ……!』
『よ、よーし! 明日は休みだけど、ずっと一緒にいてやるぞ! 遊びに行こう! 一杯甘やかしてあげるからなー!』
『そ、そうだな、うん! 遊びに行こう!』



「――という感じで、それはもう大変だった」
「……あれ以来。私たちは大型連休で会えない日は電話をする一緒に遊ぶ麻雀をする、と睦月と過ごしていたからな」
「ま。それが最近忙しくて、会えない日が続いたし、何よりそろそろかなーって心配になって来たら、案の定ってわけだ」

 ワッハッハと笑う先輩に、恥かしさに穴があったら入りたくて、私はでも、蒲原先輩の腕の中から逃げるなんてどうしても嫌で、大人しく「うぅ」と呻いていた。

「そ、そうだったんすか」
「し、知らなかった……」
「むっちゃん先輩って、可愛い人だったんすね」
「わ、私、少し誤解をしていました」

 一気に親しみやすい目で見てくれる二人には悪いが、是非誤解したままでいて欲しかったと、私は先輩に切なげな瞳を贈る。
 先輩はやっぱりワハハって顔で、私の頭を撫でるだけだ。

「まあ、だからという訳でもないけど」

 そして締めくくるように、蒲原先輩は加治木先輩とチラッと目を合わせて言う。

「またむっきーが暴走しても大変だし、これからはちょくちょく遊びに来るからな」
「……ま、まあ。私たちにも、息抜きは大切だし、これからは、もう少し時間を作るよ」

 え?

 その言葉に、私たちは一瞬反応が遅れて、すぐに「わあっ!」と歓声を出す。


「ほ、本当ですか!?」
「勿論だぞ!」
「本当に本当、智美ちゃん!?」
「ワハハ、ああ、安心していいぞー佳織」
「先輩、私、嬉しいっす……!」
「も、モモ……!」

 加治木先輩と東横さんは抱きしめあい、私と妹尾は蒲原先輩に抱きついて、「ぐえ!?」と先輩を潰さんばかりに喜んだ。

 ああ、やっぱりお二人は素敵だ……!
 大好きだ!


 そして何より。


 今は、私だけの先輩ではないけれど、皆の先輩であるお二人も、同じぐらい、大好きだ。

 尊敬するお二人の顔を、
 尊敬するお二人を大好きな二人の顔も一緒に見つめて、


 私は満足で、これから、私なりに精一杯。
 尊敬するお二人に近づいて、そして、来年こそお二人の無し得なかった全国へ行こうと、心からそう思えた。









 おわり



 以上です。

 鶴賀はとっても仲良しを希望します!

 むっきーは二人の先輩を尊敬して、甘えてたらいいなと妄想して書きました。

 失礼しました。

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最終更新:2009年09月22日 18:52