902 秘めた願いの先に [sage] 2009/10/01(木) 07:19:28 ID:xnpltL9+ Be:
コンコン。
夜。通い慣れたその部屋の扉を、今日も叩いていた。眠れない日は、いつもこうだ。
「……はい」
中からは、いつもの様に気だるそうな声が聞こえてくる。ゆっくりとドアが開き、その部屋の主――宮永照が顔を出す。
私の顔を見るなり、『またか』と言う顔になったが、それでも無言で招き入れてくれる。
「それで、何の用」
そう言いながら、ベッドの上に身体を投げ出す照。……分かっている癖に。私がこんな時間にお前の部屋に来る事が、何を意味しているのか。
「つれないな。もう少し雰囲気を出してくれると有り難いんだが」
「馬鹿言わないで。どうせそんな事気にもしていない癖に」
「……そうだな」
軽口を叩いた所で、ベッドに寝転がる照の上に覆い被さる。僅かに視線が交差した後、私は照の唇を塞いだ。
* * *
私が照と今の関係になったのは、いつだったか。兎も角、私は気付いた時には照に惹かれていた。
壮絶なる麻雀の腕前に、何者も寄せ付けない孤高の佇まい。そんな彼女がある日、一瞬だけ見せた無防備な憂いの表情。
それを偶然にも見た私は、その顔に、今まで経験した事の無い胸の鼓動を覚えたのだ。
「……っ、あっ、照っ……」
それから、自分でも驚くくらい後先考えずに素直に照に告白していた。……当然、無理だと思っていた。
すると、照は『そう』とだけ言った。否定されたのか肯定されたのか分からない返事に、私は戸惑った。
それから、動けずにいた私に照は近付くと、何をするのか考える間も無く、私の唇を奪っていた。
「んんっ……あっ、や、そこっ……」
驚く私に、照はいつもの様に無愛想な顔をして、『菫がそれでいいなら、別に構わない』と言った。
「ああっ……! も、うっ……!」
――それから、今の様な関係になっている。時折私が照の寮部屋を訪ねては、身体を重ねる。それ以外は、特に何も変わらない。
「照ッ――――っ、あっ…………!!」
こういうのを、世間では不健全な付き合いと言うのだろうか。でも私は、それで良かった。
私は照の事が好きで、照はそれに一応は応えている。
照という孤高の存在を、この時だけは独占していられる――ただの独占欲だったとしても、それでも、私は――
* * *
「照……」
一通り行為が終わり、同じベッドで眠りにつく。
「…………」
照は私と顔を合わせないように、背を向けて横になっている。私も無理に、照の顔を見ようとはしない。
――本当は分かっている。照が私を抱いている時、その瞳に私が居ても、映っていない事に。
照は一体誰を見ているのだろう。聞きたいが、出来なかった。
もし聞いたら、今までの関係が失われてしまいそうだったから。照の事になると、私は臆病者だった。
「照、抱き締めさせて」
返事が無いのを肯定と受け取り、背中から抱き締める。照も抵抗はしない。
冷たいようで暖かい感触が、触れた肌から伝わってくる。
照。お前の瞳は、一体何を見ているんだろうな。その瞳に私が映る事はあるのだろうか?
――私は待ってるからな。だから照。今だけは、私だけの照で居てくれ――
了
最終更新:2009年10月01日 17:52