962 名前:名無しさん@秘密の花園 投稿日:2009/10/02(金) 09:28:56 ID:/Qxtl+hR
むっきー侍
今、夕食を終えて私たち5人は夜の散歩に来ていた。
四校合宿も残るは明日の一日。私たち鶴賀学園には苦戦の連続だった。
全国レベルの三校との戦いは、私たちに実力の差を痛感させた。
三人打ち、割れ目、東風、ブー麻雀、どんなルールでやっても全くダメ。
私と佳織、蒲原先輩で18~20位フィニッシュもよくあることだった。
加治木先輩や桃子ですら7~10位くらいの凡庸な成績がやっとだ。
来年に向けて私が悩んでいると、蒲原先輩が私に言った。
「何難しい顔してんだよ、うまいメシ食っていい温泉入って、それでいいだろ」
その言葉にみんな、そうそう、とか、確かに、とか言い出した。私が考えすぎなのか?
「麻雀のことは置いといてさ、睦月、あの作戦どうだった?恋人ゲット作戦は」
あの作戦とは、部の中で唯一恋人がいない私が他校の生徒と仲良くなろうという
作戦だった。部室ではいつも二組がイチャイチャしており、私は一人で少し寂しかった。
しかし結果は、こちらも麻雀同様ダメだった。
風越の深堀さんとは、お互い喋らないタイプなので、全く会話が進まず、
同じく風越の池田とは、始めこそ恋人がいないという話で盛り上がったが、
やつの無礼な態度にそのうち腹が立ち、その辺にあった竹刀で斬ってしまった。
「・・・睦月、何故斬った・・・。そこは我慢しろよ・・・」
ここだけの話、実は私は時代劇とかがとても好きで、特に侍が大好きだ。
その影響で剣道をやっていたこともある。それで今回はつい斬ってしまったのだ。
そのため、結局私は危ない人間と思われ、ますます作戦は失敗に向かったのだ。
その後、みんなで歩いていて、少し途中で休んでいた時、ふとこんな話になった。
子供のころの夢は何だった?という話に。
私が、今のままでは全国など夢のまた夢、ということを言ったところ、
夢といえば・・・と、このような流れになった。誰も麻雀のことを考えていない。
「ワハハ、私は確か宇宙征服とかそんなことを言ってた気がするな」
「私はお菓子を作る人になりたかったですね」
蒲原先輩と佳織。差がありすぎる。
「私は目立ちたかったんすよ、影が薄かったから、今でも薄いっすけど。
だからテレビのスターになって、大勢の前で輝きたかったっすね。
あとはW杯に出て、オリンピックに行って、ウィンブルドンにも出場して・・・、
日本ダービーを逃げ切って10万を超える観衆から祝福されるのも夢だったすね」
桃子は意外と夢のあるやつだった。
「・・・画家だな。絵を描くのが好きだったからな。個展とかを開きたかったな。
あ、今でも絵を描くのは好きだから、まだ諦めてはいないが・・・」
加治木先輩は画家か。しかし歯切れが悪く感じた。すると蒲原先輩が、
「おいおい、何言ってんだよ。この間ユミちんの小学校の文集見たぞ?
小学4年にもなって将来はお嫁さんになりたいだなんてことを書いてたのは誰だよ~」
加治木画伯が倒れた。いきなりの暴露にやられてしまったようだ。
「くそ・・・。やっぱりお前なんかに見せなきゃ良かった。
イメージが崩れるからな。墓まで持っていこうとしていた秘密だったのに・・・」
ひたすら苦い顔をして頭を抱えている加治木先輩。だがそこに桃子がきて、
「先輩、私は先輩の嫁になるつもりだったっすけど、婿でもかまわないっすよ!
先輩のウエディングドレス姿も見てみたいっすからね!私は大歓迎っす!」
そして見つめあう桃子と先輩。はいはい、いつもの展開ですよ。
「あの二人はほっといてさ、睦月はどんな夢があったの?」
私はさっきも言ったが侍が好きで、将来は剣豪になりたい、と子供のころ思っていた。
なれるわけが無いというのに、本気でそう思っていた。笑われるだろうな。
でも言ってもいいか、と思って言ってみた。すると、その反応は意外だった。
「・・・なるほどな。今からなればいいじゃないか」
は?どうやって?と私は思った。蒲原先輩にその言葉の真意を聞くと、
「麻雀だよ。麻雀で強豪どもを打ち倒してさ、サムライになればいいじゃん」
・・・こじつけだなあ。でも、それも面白そうだ。麻雀界のサムライか。
「だから頼むよ睦月。来年はこのチームを率いて何とか勝ってくれ。
戦力的に厳しいのは百も承知だけどさ、私やゆみちんの仇を取ってくれ」
この人はちゃんと考えていたんだ。麻雀のことも、部の未来のことも。
私は新部長、そして武士として、先輩の思いに応えようと思った。
「わかっています!先輩方の無念、必ず晴らしてみせます!
団体戦は私が絶対に優勝させます!武士に二言はございません!
個人戦でも、この私が優勝して、頂点に立ちます!」
このときの私は、気分が高騰していた。普通ならこんな放言は言わない。
冷静に考えれば、それこそ夢のまた夢、桃子のダービー制覇よりはさすがにマシだが。
だが、その私の言葉は、桃子と佳織を発奮させた。
「むっちゃん先輩!私も頑張るっすよ!でも、個人戦優勝は譲らないっす!
優勝して、テレビの前で先輩との婚約発表するっす!嫁にもらうっす!
団体戦までは味方っすけど、その後は全力で私と先輩の未来のため、潰すっすよ!」
「桃子さん!それなら私だって負けるつもりはありませんよ!
私だって優勝して、智美ちゃんとの仲を大々的にみんなに知ってもらうんですから!
桃子さんと加治木先輩は出会ってまだすぐじゃないですか!私たちは違うんです!
智美ちゃんのこと、長野県中の人たちに自慢したいんです!」
やる気のみなぎる二人。対照的だったのは、先輩方二人だった。
それは勘弁してくれ、という表情だった。それはそうだ。恥ずかしいだろう。
「頼むぞ津山。モモの個人戦優勝阻止のため、絶対勝て」
「睦月、絶対だぞ。佳織だけは何としてでも撃ち落とせ」
・・・何はともあれ、私は強くなろうと決心した。私はサムライだ!
相手が誰であろうと斬る!サムライとは常に孤独なものだ。
あんないつもイチャついてる桃子や佳織になど負けてなるものか!
一人で寂しいなどとはもう思わない。
翌日。生まれ変わった私は快進撃を続けた。
「(これをカンしてリンシャンで倍満・・・)あ、その7筒カン・・・」
「ロン。タンヤオ、1300」
「ロ、ロン!役満だし!その中、大三元だし!」
「残念、ロン。七対子、1600。頭ハネです」
(き、きましたわ!純正九蓮テンパイ!これを和了れば確実に目立ち・・・)
「ツモ、ツモのみ。300、500」
明らかに敵が増えたような気がする。みんな私を憎いやつを見る目で見ている。
サムライに敵は多いのだ。私は勝ち続けることを決意した。
そして翌年。私たちは残念会、いや、反省会を行っていた。
「今日は何も無いな。特に津山。言いたくはないが、最低だったな」
「・・・・・・・・・」
私たちは団体戦、奇跡の優勝を果たした。私が大将であの宮永、天江を完封したのだ。
だが今日、個人戦初日。何と全員初日で敗退というあまりにも無様な結果だった。
団体で優勝したあと、私は駆け寄ってきた皆に胴上げされた。最高だった。
その後桃子に佳織、一年の二人、大学に行きながらもちょくちょく足を運んでくれた
先輩方二人まで胴上げして、狂ったようにとにかく喜びまくった。
その後、私たちへの注目度は高まり、清澄や龍門渕を一刀両断したサムライと言われた。
平成の麻雀新撰組とまで呼ばれ、その衣装を着せられて雑誌の取材も受けた。
でも侍と新撰組は別物、違うのだ。そもそも新撰組とは・・・・・・
「むっちゃん先輩が一番ノリノリだったじゃないっすか。何でもよかったんでしょ」
・・・・・・。まあな。無感情を装いながらも私が一番浮かれていた。
そして連日のように祝福に取材に祝勝会。昨日も徹夜で騒いで寝不足だった。
こんな状態でどうして勝ち残れようか。
「え~と・・・。モモが47位、妹尾が60位、一年の二人が88位、91位か」
「ワハハ・・・酷いな。そして去年個人戦優勝を誓った睦月は何位だったかな?」
「・・・・・・186位です」
大惨敗。生き恥。これは切腹ものだ。誰か介錯を頼む。
「やっぱ注目されすぎてマークがきつ過ぎたっすね。目立たないのが良かったのに。
それにしてもこんな結果になるんだったら、団体で勝ったときに
さっさと先輩との婚約発表、しちゃえばよかったっす」
「私もそのときは喜びすぎて忘れてました。・・・でも桃子さん、まだチャンスはあります!
全国ですよ!日本中で中継されるテレビの前で一緒にやりましょう!」
先輩方二人はそろって椅子から転げ落ちていた。普段あんなにところ構わず
ベタベタしているのに、いざとなったら度胸が足りないな。まったく。
部室を家のベッドやホテル代わりにするな、と何回も言っているのに。
「・・・ワハハ・・・。そんなことよりさ、睦月、お前の夢は叶ったな。サムライ。
次は・・・どんな夢を見るんだ?」
「ええ。今度は戦国武将として、天下統一、全国優勝ですよ。
それでファンをいっぱい集めて大奥を作って、私は暴れん坊将軍・・・」
話している途中だったが、蒲原先輩に止められた。
「もういい・・・!もう・・・休め・・・!休めっ・・・!睦月っ・・・!」
自分でも何を言っているか分からなくなった私は無理矢理寝かされた。
186位・・・か。そういえば去年の私はマイナス18600点だったな。
そして江戸時代が終わったのも1860年代・・・なんてことを考えながら
私は眠りについた。そして朝。起きてみると、一年生たちが困っている様子だった。
見ると、二組の夫婦がそれぞれ裸で寝ているではないか。
新聞紙を丸めてまとめて斬り捨てた。またつまらぬものを斬ってしまった。
私の孤独な戦いはまだまだ続くようだ。
最終更新:2009年10月07日 00:11