362 純咲照① [sage] 2009/10/11(日) 02:08:04 ID:oLX4JM6J Be:
「晴好ドライブ」
ある晴れた休日 清澄高校2年 宮永咲はあてどもなく一人 川沿いの道を歩いていた
― お姉ちゃんー…
去年の夏 忘れ得ぬあの熱い闘いの後 照とは和解した…はずだった
あの日以来、一週間とあけずに電話している 学校のこと、友達のこと、
面白かった本のこと、照は優しく相槌を打ちながら聞いてくれた …昨日までは
(『疲れているの 今日はもう切るわ』)そっけなかった
”私に妹などいない” と 突き放されたときと同じ声のトーンだった
どうして…お姉ちゃん…
足元が崩れるような不安感を抱えたまま、とぼとぼと歩く そのとき
1台の車が後ろからすべるように咲を追い越し、5メートルほど過ぎて止まった
ウィンドウが静かに下がり、中から明るい声がかかった
「そこの麻雀の強そうなお嬢さん、ヒマならお茶しない?wきょろきょろすんなってw 君だよキミ」
(ええっ?私?…ナ、ナンパってやつ?わっワッどうしようっこわいっ)
「ははっ 俺だよ俺」 ウィンドウから顔をのぞかせたドライバーがサングラスをはずした
「! 純さん…」 龍門渕高校の井上純だった 純は軽快な身のこなしで車を降りると、咲の前に立った
「よっ久々!こないだの大会以来か?元気にしてたか?」
「は、はい び、びっくりしました 速そうな車…どうしたんですかこれ」
「おお、速いぜ!へっへー免許取ったからなー 出世払いっつーことで透華に買ってもらった
で、慣らしも兼ねて流してたら、見覚えのあるお嬢ちゃんがトボトボ歩いてっからさ…ん?」
「……………」 「どした?ホントに元気ねえな」
「じ、純さ…」「うん?」「う、うぅ~…」 知った顔をみてホッとしたのか、泣き出してしまった
ぽろぽろと涙が頬をつたう
「うわわわ!な、泣くな、泣くなって!と、とにかくほら、乗れよ 気晴らしにでも行こうぜ!」
***
「ふ~んなるほど、姉ちゃんが冷たいってか…んなこと気にすんなっても…無理か?」
「…」こくんと頷く
少し開けた丘の上の駐車スペースに車を止めて、純は話を聞いてくれた
見た目は少し恐いが、話すと気さくで暖かい人柄が良く伝わってくる
漠然と咲は思う(お兄ちゃんとかいたら、こんな感じなのかな…)純にしてみれば失礼な話ではある
純は少し考え込んだ後、突然咲のほうへ身を乗り出して言った
「よっし、今から会いに行こうぜ!」 「え…ええっ?!」
「こっからだと東京まで2、300キロってとこか?えーとカーナビのスイッチはっと…」
「え、あっあのでもその」
「なに、中央道をかっ飛ばせばすぐだ!よ~しテンションあがってきたぜ~!」
「でもあのそんなご迷惑」
「四の五の言うな!こうなったら放っとけねえ!もう決めた!」軽くウィンクしてニヤリと笑う
「うじうじ悩んだって仕方ねーよ!そんなときゃ行動に移すのが一番だ!そういう流れってこった!
顔見て話さなきゃ伝わんねえことだってあるしな!よっしゃあ行くぞーーー!!」
ウォンッ!と一回大きく空ぶかしをした後、二人を乗せた車は一躍東京へ向けて出発した
思いのほか楽しいドライブとなった 流れる景色を眺めていると、不安な心が少しずつ解けて
飛散していくような気がした
なにより、純の話が面白かった 4校合宿のとき鶴賀のOG蒲原に触発されて免許を取ったこととか、
透華の失敗談や衣の甘えん坊エピソードなど、めそめそ泣いていた自分が嘘だったみたいに、
咲は本気で笑ってしまった 咲に気を使ってくれたのだろう 心遣いが伝わってくる
(かっこよくて優しくて楽しくて…もてるんだろうな)惚れるというか感心してしまう咲であった
途中のサービスエリアで、咲は父に、純は龍門渕家に連絡を取った 簡単な経緯と、
今日は遅くなること(道路状況によっては日付が変わるかも知れないということ)を口早に説明した
純は透華に怒られているようだった 携帯を切るとき、そばにいた咲にも声が聞こえてきた
『くれぐれもっくれっぐれも!安全運転ですのよー!!ちょっと純!聞いてますの!じゅ』…ブツッ
「はー…」純はぐったりしていた
「さて、もうすぐ着くぜ で、姉ちゃんにはどこに行けば会える?家か?大学?」
「あ、わ、わかりません」純の携帯を借りて照に電話をしてみた 電源を切っているようだった
「うーん、仕方ねえ、もう一度龍門渕に電話して…」
また透華が出て怒られるのがいやだったらしく、純は咲に電話をさせた
沢村智紀に問い合わせろとのことだった 問い合わせたところでどうして姉の居場所がわかるのか
疑問だったが、言われた通りにした
話を聞くと智紀は『5分』とだけ言って電話を切った きっちり5分後、電話がかかってきた
『…宮永照は白糸台高校に後輩指導に行っている 休日返上で特訓中…』
えっ?ホントに?すごい何で?
「恐ええ女だろー?敵に回したくない奴だよなー」純が笑いながら言う
『…純に伝えて 衣がおいてかれたって怒ってる…』
その通り伝えると、先ほどより一層ぐったりとする純であった
白糸台高校に着いたのは夕暮れ前だった
部活動の盛んな学校らしく、制服姿の少女がちらほらといる
スポーツカーの脇に立つ長身の純は目立つ こちらをチラチラと眺める女の子の一人に声をかけ
照を呼び出してもらうことにした 純に軽く肩を組まれた女の子の顔は真っ赤だ
(はー…、ぶちょ…久先輩みたい どっちの方がもてるのかなー)
感心しつつ、少しチクリと胸が痛んだ(え?なにこれ…)
「呼んでくるってよ 落ち着いてな」「…はい」 何ヶ月ぶりだろう もうすぐ会える
お姉ちゃん、私、来たよ 心臓が早鐘を打つ
5分後、弘世菫を従えた宮永照が、校門から姿を現した
瞬間、咲は弾けるように駆け寄り、姉に抱きついた「…お姉ちゃん!」「咲…」
「…一体どうした、咲 こんなところまで…」
「うっ…ぐすっうぅっだ、だって!だって昨日お姉ちゃん電話切っちゃうから私、わたしまた
嫌われちゃったんじゃないかって思ってそれで…純さんに会ったから相談したら会いに行こうって」
「龍門渕高校3年の井上純か…妹が世話になったな…」
「へぇ、俺のこと知ってんのか?」「天江衣を擁する龍門渕高校…当然チェック対象だ」
「ふふん、光栄だね」 不敵に笑う 対する照はポーカーフェイスだ と、そのとき
「なーにカッコつけてんだよ照」 菫がバシンッと照の背中を叩いた 「ぐっ」
「大体察しは着いた 悪い姉ちゃんだよな おい妹、心配することはないぞ
こいつ落ち込んでるだけだ」「おい…」 「落ち込む?」
「ああ、昨日急に何を思ったのか、”咲にあげるため”とか言って柄にもなくクッキー焼こうとしてな
案の定大失敗 消し炭の山作ってへこんでたんだよ ばつが悪かったんだろ」 「おい菫…」
「スカしてるけど、相当なドジだからな照は 何もないところで転ぶし、迷子にはなるし」
「や、やめろ、菫!」「ホント?ほんとにそれだけなの?お姉ちゃん」「…あ、ああ うん」
「大切な妹にかっこ悪いとこ知られたくないってだけだよな 電話しててボロが出るの恐かったんだろ」
(蓋を開けてみりゃ何のことはない お互いが大切すぎて起ったすれ違いって訳か)
思わずにやける純 安堵した咲は、大きくため息をついて、改めて照に抱きついた
当の照は赤い顔でそっぽを向いている (しかしやっぱり…)
嬉しそうに姉にじゃれる咲を見て、純はつい思ったままのことを口にしてしまった
「…やっぱ チワワっぽいよな」
「?…何だチワワとは」耳ざとく聞きつけた照が問う
「ああ、いや、それっぽいなーってな… 原村和に言わせると、豆芝犬なんだそうだが」
「う、純さん…」「……」 少し咲の顔を見つめてから照は言った
「…戯言を …咲はビーグルに決まっている!」「お、お姉ちゃんまで!」
しばらく咲は何犬かで純と問答した後、ニヤニヤしながらこちらを眺めていた菫に、唐突に照が問うた
「菫はどう思う?」「え?あ、ああ …ふむ」じっと咲を見る菫「ううう…」たじろぐ咲
「ふむ、種類はともかく… 雨に濡れた子犬?ってとこかな」
「!おお…」「はー…なるほど」 咲以外が感嘆のため息をもらした
「うう、な、なんで犬なの?…///」
***
今日中に帰ると約束したからと、泊まっていくように勧める照と菫に別れを告げ、東京を後にした
帰り際、純は照に釘を刺された 「咲に手、出すなよ」「俺は女だっつーの」
「…そんなこと 貴様が咲に手を出さないという保証にはなるまい」
(やれやれ、ありゃとんだ姉バカだぞ …まあ確かにコイツちょっとカワイイよな…)
安心したのか助手席で安らかな寝息を立てる咲を見て 純はクスッと笑った
龍門渕家に到着したときには、もうすっかり深夜と呼べる時間帯だった
咲は純に乞われて、龍門渕家に泊まることになってしまった
咲を盾に透華と衣の攻撃をかわす作戦のようだった
しかし意に反して純を出迎えたのは、衣の強烈なタックルだった 「ぐはっ」
「天網恢恢祖にしてもらさず!衣を置いていくとは何事だ!」そのままぺちぺちと叩く
「いてっ、悪かった!悪かったって!いててっ この埋め合わせはするから!」
あんまり痛そうにも見えなかったが、咲は間に割って入った
「ごめん、衣ちゃん 急な話だったから 純さんは悪くないの 悪いのは私なの」「むぅ…」膨れる衣
「純さん、本当にありがとうございました なんてお礼をいっていいか…」
「気にすることないよ、宮永さん 純はキミをだしにしてドライブしたかっただけなんだから」
(ギクッ)「し、失敬だな、国広クン 俺は見るに見かねてだな」
「ふふっ冗談だよ 純は普段めんどくさがりのくせに、こういうときは大胆だよね」
「まったく、どうしてこう男の人というのは 車だのバイクだの好きなのでしょうね」
透華が呆れ顔で言う
「ぐっ、どいつもこいつも… 俺は女だっつーーのっっ!!!」
煌々と輝く月の光に照らされた龍門渕家の園庭に、少女たちの軽やかな笑い声が響き渡った
…後日、井上純は、強烈な闘気のオーラを纏った原村和に麻雀勝負を挑まれるのだが
それはまた別のお話
最終更新:2009年10月13日 11:10