471 名無しさん@秘密の花園 [sage] 2009/10/12(月) 20:26:06 ID:svu/KI5/ Be:
最近、というか…つい一月前からなのだけど。
ただ麻雀を打つだけの虚ろな生活から、変わったことが一つある。
まあ、改まって言う必要もないのだけれど。
私にとっては、割りと小さな出来事という訳でもないので、今ここで語っておきたいと思う。
その、出来事というのは。
――妹との、再会。
「お姉ちゃん!」
ここは全国大会の会場。
あの子は、渡り廊下で私を見つけ、小さい時よりも短くなった髪を揺らして追いかけてきた。
周囲には誰もおらず、あの子が、今の私を正確に認識していることがわかる。
…正直、少し嬉しかったりもした。
けれど、ここであの子に振り向いてしまったら。
あの子を抱き締めてしまったら。
それはきっと、あの子の為にはならない。
だから、私はあの子を無視して歩いた。
胸がチクリと痛むのは、私が大人に成りきれていないからだ。
「私、お姉ちゃんと麻雀を打ちたいの!」
…やっぱり、そういうことか。
その言葉は、私を立ち止まらせるには十分な一言で、ある種の魔法だった。
あの子は嘘のつけない子だから、今の言葉に嘘はないだろう。
けれど、それならば尚更振り向いてはいけない。
あの子が、私を目指してくれるのならば…決勝で、会いましょう。
「私…絶対に負けないから!たくさん、たくさん強い人に勝って…
お姉ちゃんと麻雀を打って、お姉ちゃんと仲直りしたいんだ!」
…。
だめ…。
ここでは振り向かない。
あの子を真っ直ぐ見つめる時は、決勝だから。
―――
――
それから、あの子は何度となく強敵にぶつかり、苦戦を強いられたが、あの子はそれら全てに勝利した。
あの子は、私たちのいる、決勝ブロックまで這い上がってきたのだ。
そして、大将戦。
「お姉ちゃん…」
「…」
私は、まだあの子を、本当のあの子を見ていない。
見せて。
本当のお前を。
中堅戦までは、白糸台が清澄の点差を遥かに上回っていた。
しかし、副将の原村がその流れを断ち、大将のあの子が物の見事に、この圧倒的点差を縮めた。
―――
――
南場の4局目。
親は私で、あの子は対面。
白糸台が清澄の点差を僅かに上回り、最後の局面。
(また国士…多分、次のツモで、決まる)
…結局この子は…咲は、花開くことすら出来ずに枯れてしまうの?
そう、思ったのとは裏腹に。
正面にいるあの子は、笑っていた。
「今行くよ…お姉ちゃん」
「!」
「カン!」
それから加えて二つの槓をして、そして、
あの子は、
「………ツモ、混老対々、三暗刻、三槓子、三色同刻、赤一……嶺上開花」
私という存在を、
「32000です」
越えていった。
―――
――
白糸台は、あの子の数え役満で、清澄に敗退した。
「…ふぅ」
悪かったね、菫。
あなたたちにも、ごめんなさい。
私、負けちゃったよ。
負けるつもりなんて、なかったのだけれどね。
それでも、全然口惜しくないの。
不思議なくらい。
だから、ごめんなさい。
「…強くなったね、咲」
ここで、初めてこの子の顔をまともに見た気がする。
「お姉、ちゃん…」
咲は、私と目が合った途端。
涙で顔がボロボロになっていて。
「…お姉ちゃんっ!」
所構わず、抱きついてきた。
「こらこら」
以前と、何も変わらないただの女の子が、私の胸に埋まっている。
さっきまでの気迫はどこへやら。
「前みたいに、手、抜かなくなったんだね」
「うんっ…私の友達がね、教えてくれたの!」
「なんて?」
「麻雀は、楽しいものなんだって!」
多分、原村和のことだろう。
何かの記事で、抱き合っていた写真が掲載されていたから。
「…うん。そうだね、咲」
お前と打っている時、何だか昔を思い出して、少し懐かしいなと頭の片隅で思っていたけど。
…うん。
確かに、私も楽しかったかもしれない。
長い間、忘れていた感情が蘇ってくるようだった。
「妹に教えられるなんてね。私も、まだまだだなぁ」
「あー!今バカにしたでしょお姉ちゃんっ!」
「あははは」
久しぶりに見た咲の笑顔は、頂きに咲き誇る花のようで。
美しく、輝いていた。
…あの子が、携帯を買って、私とアドレスを交換したのは、また別のお話。
了
最終更新:2009年10月13日 11:35