912 数絵・睦月1 [sage] 2009/10/23(金) 00:21:32 ID:pZrmx+Lf Be:
学校の授業が終わり、帰宅途中の電車の中で私は本を読んでいた。
それは、よくある単純なラブストーリーだ。
でも、単純な話だからこそ物語の中にすんなりと深く入り込んでいける。
ふぅ…本を閉じ、感傷に浸った。
こんな恋がしてみたいな。
生まれてから、一度も恋というものを体験したことが無い私。
きっと本に書いてあるように、ほろ苦くて心がくすぐったくなり、辛くもあり楽しいものなのだろう。
正面の電車の窓ガラスを見ると、ぽぅっと頬が赤くなている自分が映っていた。
私が降りる駅の六つ前の駅に着き、ガラガラと電車のドアが開かれ、乗客が出入りし、電車はまたゆっくりと動きだす
さてと…続きを読もうかな。そう思い再び本を開こうとしたその時、私を呼ぶ声が聞こえた。
「南浦さん…?」
ふと顔を上げると、艶やかな髪色。そして私と同じくポニーテールに結っている、高校生が私の目の前に立っていた。
あれ、この方…どこかで見たことあるような…
だが、急には思い出せない。
「あの…失礼ですが、どなたでしょうか?」
「あっ、すみません。麻雀の個人戦で一度だけ対局したのですが…。津山睦月と申します」
「ああ、そういえば…お会いしましたね。お久しぶりです。」
「こちらこそ。隣、宜しいですか?」
「ええ、どうぞ」
チラッと目線を横に向ける。
うわ…肌も白いし、美人さんですね…。
「…?どうかしましたか」
「あっ、いいえ。何でもありません」
「そうですか」
はぁ…駄目だなぁ。
どうにも人を話をするのが苦手です。会話が全く続きません…
「南浦さんは、麻雀は毎日打っているんですか?」
「いいえ。私が通っている学校には麻雀部は無いんですよ。なので、時々家でお爺様とその友人達と一緒に打つくらいなんです」
「そうなんですか…南浦さん、お強いのに毎日出来ないのは勿体ないですね」
「お強いだなんて、そんな…」
「いやいや。とても強かったですよ。個人戦では途中、二位までランキングを上げていたじゃないですか!」
バッと、勢い良くこちらを向き私の目をしっかりと捕らえながら熱心な顔で、そういう彼女。
「…!」
その、あまりにも真剣な表情を見て、言葉に詰まる。彼女の言ったことはお世辞なんかじゃない。
そう考えると、凄く嬉しくなった。
そして、何故だか胸がトクンと高鳴る
「ありがとうございますっ」自然と笑顔になれた私は素直にお礼を言うことが出来た。
「…!あっ、いや…その…」
?
どうしたんでしょう…。
さっきまでとは違い、急に口籠もる津山さん。
しかも、何故かそっぽを向いてしまった。
「あの…どうかされましたか?」
「いや、何でも無いです…っ」
そう言うと、顔を正面に戻してくれた。
気のせいだろうか、少し顔が赤くなっているようにも見えますが…
「南浦さんは、ネット麻雀はやりますか?」
「ネットですか…」
「ええ」
「家にパソコンはあるのですが、使い方がちょっと分からなくて…。やってみたいなとは思うんですが…」
「そうなんですかっ」
「え…はい…」
また、勢い良くこちらを向く彼女に圧倒される
「私、こう見えてもパソコン操作は得意なんですよ!良かったら、今度一緒に練習しましょうよっ。だいたいのことは教えられると思いますし!」
「え…良いんですか?」
「もちろんっ」
思いもよらない返答に戸惑いつつも、じゃあお願いしますと、私達は連絡先を交換した。
そして、気が付いたら電車は私が降りる駅に到着してしまった。
今別れるのは少し名残惜しいですが、仕方がないですね…
「では、私はここで失礼します。今日はありがとうございました」
「こちらこそ。近いうちに連絡しますねっ」
「はい」
ガラガラ――
電車から降り、ゆっくりと動きだすのを横目で見送った。
「津山睦月さん、か」
ボソッと彼女の名前を口に出してみる。
こんな無愛想な私に気さくに話し掛けてくれるなんて。
「優しい人ですね…」
今日は何だか良い日だったな。
私は胸を弾ませながら、家と向かい歩きだした――
カチカチ。
マウスをクリックする音が耳に入ってくる。
「これが、麻雀ゲームをダウンロード出来るサイトですね。今、インストールしますから」
「インストール…?」
「ええと、このゲームをパソコンに取り入れるための準備みたいなものです」
私は本当にパソコンを扱うのが苦手だ。
なので、その準備というものは全て彼女に行ってもらった。
「よし、これで完了です!今から麻雀が打てますよ」
「何から何まですみません。ありがとうございます」
「いえいえ」
津山睦月さん
彼女とは先月、偶然にも電車の中で再会した。
それから私達は時々連絡を取り合い、今日は約束をしていたネット麻雀のやり方を教えてもらうため、彼女を家に招いたのだ。
そして今に至る。
「じゃあ、早速やってみましょうか」
「はい」
「これはゲームなので、自動的にプレイヤー全員に牌が配られます。あ、ここに表示されているのがドラですね」
「なるほど…」
「で、これがツモった牌です。ツモ切りならそのままこれをクリックして下さい。別の牌を捨てるなら、この矢印を捨てる牌に合わせてクリックします。」
「はい」
「じゃあ、試しにそのまま一局プレイしてみて下さい。何か分からない事があれば、すぐに聞いて下さいね」
「はい、分かりました」
「ロンッ!」
うわ…開始早々に、親に振込みをしてしまった。
「あっ、振込んじゃいました?」
後ろから彼女の声が聞こえる
「はい…」
「まぁ、何回もやってればすぐに慣れますよ」
「そうですね。夜にでも、またチャレンジしてみます」
せっかく津山さんが遊びに来ているのだ。続きは後ででも良いでしょう。
そう思いパソコンの電源を切り、私はテーブルを挟んで津山さんの向かいに座った。
「ところで、南浦さんは…」
「はい」
「今お付き合いしている人とかは居るんですか?」
「なっ?何を言うんですか、急に…」
「いや…南浦さん、美人だからモテるだろうなと思って…」
美人?モテる?
この私がですか…?
初めて言われた言葉に嬉しさと恥ずかしさを覚える。
「いえ…実は、今まで誰ともお付き合いとか、そうゆうことはしたことが無くて…。」
「そうですか。意外ですね」
「それに…津山さんの方が肌が白くて綺麗で…そのっ、美人ですよっ!」
「えっ…?」
「あっ…」
勢いで、もの凄い事を口走ってしまった自分に驚く。
「あ、ありがとうございます…っ」
「い、いえ…」
お互い顔が赤くなり、目を下の方へと向ける。
ああ…恥ずかしい…。
「あの…、南浦さん。隣に座っても良いですか?」
「えっ?あ、どうぞ…」
では…、と言い彼女が私の隣へと移動してきた。
うっ
肩と肩とが触れ合う。
とても距離が近い…
「あのっ、南浦さん…」
「は、はいっ?」
緊張のあまり、声がうわずる。
「実は私…あの県予選の個人戦であなたと対局をしてから、ずっとあなたのことが忘れられなかったんです…」
「え…?」
「最初は、ただ単に一年生なのにとても強かったあなたに圧倒されて、尊敬という意味で惹かれるものがあったのかな、と思っていました。」
「…」
「でも、あの時電車の中で本を手に持って綺麗な座り方をしているあなたの姿を見て、何故か今度は別の意味で惹かれるものがありました」
「それからは、あなたからメールが来るのがとても嬉しくて、それが私の一番の楽しみになっていました」
「そして今日こうしてまた、あなたに会うことが出来た…」
そう言い終わると、彼女は私の両肩をガッと少々荒々しく掴み、熱い眼差しで、続けてこう言った
「南浦さん、好きですっ!」
「えっ?ええっっ?!」
一瞬、時が止まったように思えた。
そのまま、ギュウッと抱き締められる…
私はどうして良いのか分からず、ただただ呆然としていた…
何分か経ってから、ゆっくりと背中に回されていた腕がほどかれ、また彼女と目が合う
しかし、さっきまでとは違い今の彼女の表情はなんだか暗い。
「今日は…これで失礼しますね」
そう私に告げると早々と立ち上がり、持ってきていた鞄を手に取って、パタンと部屋のドアを閉めて出ていってしまった。
「あ…」
一体今、何が起こったのでしょう…
ボフッとベッドに飛び込み、枕に顔を沈めて今日あった出来事を整理してゆく
ええと…
まずはネット麻雀の操作方法を教えてもらい…
付き合ってる人はいるのかて聞かれて…
それから…私の隣に移動してきて、それから…それから…
「好きです」と言われた。
カァーッ
顔に血が昇ってゆく
思い起こせば、電車の中で彼女と再会したあの日。
そう言えば私はあの時、なんだか嬉しい気持ちでいっぱいだったんでしたっけ…
胸がトクン、と脈打つ。
あ、そっか…
「これが、好きっていう感情だったんですね…」
自分の気持ちを理解した途端、すーっと心が晴れていった。
早く、あの人に私の気持ちも伝えないと…
私はケータイを手に取り、津山睦月という名前を探し出し、通話ボタンを押した―――
最終更新:2009年10月23日 17:51