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照SS投下します。
元ネタは吉田拓郎の歌、「望みを捨てろ」。
菫→照→咲の定番です



143 名無しさん@秘密の花園 [sage] 2009/10/25(日) 15:23:42  ID:94ZUj7Jg Be:
 
望みを捨てろ

 私は一人になりたかった。強さを求めるが故に全てを失ったのだ。
 今さら誰とも仲良くしたいと思わなかった。一人になりたかった。

 私に妹などいないのだ。向かってくるものは皆、敵だ。ただ屠るだけだ。
 確かに私にはかつて姉と妹のあるべき感情を越えた妹がいた。しかし今はいない。
 彼女はもう別の者と愛し合っていた。新聞とテレビで確認しただけだが、私にはわかる。
 彼女は私を忘れてしまった。もはや私にとってただの敵に過ぎないのだ・・・。

 いや、私から彼女・・・つまり咲を捨ててしまったのだ。私が拒絶したのだ。
 彼女の私を超えるかもしれない強さに恐怖、嫉妬して私は咲を拒絶した。
 そのときの私は幼かった。しかし幼い日の過ちであっても取り返しはつかなかった。
 
私は咲と離れた。念願の強さを手に入れた。しかし、どこかむなしさがあった。
 私が本当に求めていたものはこれではなかったのか。別のものだったのか。
 私は最近そう考え、悩むようになった。だが、今さら考えても後の祭りだ。
 今の私には強くなること以外の幸せが、必要とするものが、生きがいがわからない。
 誰かを愛することなどその邪魔になるだけだ。私は私だけを好きでいればいい。
 私は一人でいたかった。もう誰も愛さないために。


 望みを捨てろ、望みを捨てろ。

 
 私は一人でいたかった。しかし私は一人になれなかった。
 避けてきたはずなのに、逃げられなかった。私は一人になれなかった。

 私を愛してくれる奴がいた。私を理解しようとしてくれる奴がいた。
 私はそいつを幾度と無く突き放そうとした。でもそいつは離れなかった。
 そいつが言うには、私は柄でもないのに無理して無愛想にしている、らしい。
 そしてそこが可愛らしくて好きなんだと。訳がわからない。
 自分の前では本当のお前を見せてくれ、とそいつは私に言った。

そいつ・・・私のチームメイト弘世菫は私を愛してくれていた。
私は一人になれなかった。結局私も誰かに愛されたかったのだ。
私が本当に好きな相手ではないというのに。私は菫から離れることは出来なかった。
私は一人でいたかった。でも一人になれなかった。


 望みを捨てろ、望みを捨てろ。


私は二人になりたかった。二人になりたい、一人だった。
 私は自分でもどこに向かおうとしているのかわからなかった。私は二人になりたかった。

 テレビで全国大会の特集番組があり、その日は神奈川県、大矢海星高校と
長野県、清澄高校の回だった。清澄高校・・・・・・。
 清澄高校が同県の鶴賀学園という高校と練習試合をしている様子が放映された。
 清澄高校のメンバーはやはり大したことはなかった。なんら見るべきところは無い。
 そもそもその場にいる誰一人として強い、とは思えなかった。ガキの遊び場に見えた。
 ・・・ただ一人、宮永咲を除いて。咲は圧倒的な強さを発揮していた。
 

『ツモ、リーヅモ嶺上開花、混一色、中、ドラ4、三倍満です』
『・・・相変わらずえげつないっすね・・・。やってらんないっす・・・』

他の塵芥、名も無き芥子粒ども相手に、戦意喪失させるほどの無敵さを誇っていた。
あの泣き虫で気弱の咲がここまで成長するなんて。
私が昔教えた嶺上開花を武器としていた。覚えていてくれたのか・・・。
 私は他のメンバーもいる手前、いつもの無表情、無感情を装っていた。
 しかし、咲がアガる度に小さくこぶしを握り、聞こえない声で、よし、と言った。
 相手のリーチの時には心の中でハラハラドキドキしていた。
・・・やはり私には咲への思いを捨てることは出来ないのだろうか。

結局咲は2位に5万点以上の差をつけその半荘のオーラスに入った。
もともとの力量が段違いな上、この点差だ。勝利を確実なものとしていた。
ところが次の瞬間、信じられないことがおきた。

『カン!・・・もいっこ、カン!もう一つ・・・』
『・・・ロン。その二個目の1筒・・・それだ、チャンカンだ』

 暗カンでロン?ということは、まさか・・・
『国士無双、親の役満48000、逆転だ、悪いな、全国に向けて弾みをつけたかった時に。
 ま、これが全国大会じゃなくて良かったな。さ、気を取り直して次の半荘に・・・』
『や、やったぜユミちん!一矢報いた!鶴賀の反撃開始だ!』

 役満を決めた側の生徒たちが歓声を上げる中、咲は呆然としていた。
 くそ。クズのくせに咲にあんな悲しい表情をさせるなんて許さん。私は怒りに燃えていた。
 気がつくと、握っていたこぶしでテーブルを思いっきり叩きつけていた。
 チームメイトの飲んでいたお茶がこぼれて私と菫以外にかかり、パニックになっていた。
 そんな中、菫は私に冷静に話しかけてきた。

「やけに肩入れしていたな。やはりあの宮永咲、お前の妹・・・」
「いや、私に妹などいない。前にも言ったろう・・・」
「・・・そうか。その割にはやけにお気に入りのようだな。お前の顔が輝いていた。
 私といる時にはそんな表情は見せてくれないのにな。ふふ、少し悲しいな」
「・・・・・・・・・」

・・・菫にはばれていた。私の僅かな変化が。
 
私は二人になりたい一人だった。誰と二人になりたいのか、整理がついていなかった。
私を愛してくれる者に背を向け、私を愛していない者の方を見ている。
だから私は結局自分のせいで一人だった。二人になりたい一人だった。


望みを捨てろ、望みを捨てろ。


私は一人になりたかった。私は望みを捨てたかった。
どれだけ大勢の友がいようが、本当の勝負どころ、大事な決定の際は、やはり一人なのだ。
求めようが求めまいが、誰でも最後は一人なのだ。だから望みを捨てたかった。
 
『ツモ。四カンツ、全部暗カンなので四暗刻。ダブル役満。全員トビで終了ですね』
『・・・・・・うむ、今日はこれくらいで勘弁してやろう』
『・・・ワハハ、睦月ワロス』


咲が敗れたのは最初の一回だけで、後は誰を相手にしようが完勝だった。
清澄の他のメンバーも最終的に大きく勝ち越した。県代表だけあり、やはり地力はあった。
野球で言うなら、初回に1点は取られたが結局15対1くらいで大勝、そんな内容だった。
燃え尽きて白い灰と化した鶴賀の5人を背景に、清澄の選手のインタビューが行われていた。
咲以外の選手のインタビューなどどうでもよかった。興味など全く無い。
そして、ついに咲のインタビューとなった。
 
『宮永選手は、全国大会ではどの選手と対戦したいですか?』
 
 私の名前が当然出るものと思ってワクワクしていた。だが・・・。
 
『はい。鹿児島の神代さん、東東京のガイエルさん、宮城の田中さん、そういう強い人達です!』
 
 ・・・あれ?咲、肝心な名前を忘れているぞ?どうしたどうした?
 
『ナンバーワン選手である宮永照選手については?同じ名字ですが、何か関係でも・・・
 いや、ないですよね。照選手自身が否定していましたからね。
・・・ま、それはともかく、宮永照選手に関してどう思われますか?』
『・・・はい。とても強そうですが、対戦できるなら、優勝のために、絶対勝ちたいです』


アナウンサーの質問に答えた後、とたんに咲の表情が暗くなっていた。
そうか。咲は私のことが嫌いなのか。それは当然だな。私のせいだ。
私が咲を避けて、否定したのだ。妹などいない、と。
今さらあれは私の愛する妹だ、とは誰にも言えなかった。
そのおかげで私は念願の一人になれたのだ。むなしさだけが残った。
私はそれ以上咲の悲しそうな表情が見ていられず、部屋を出た。

 やはり私たちはもう何も関係は無いのだ。憎しみ、戦いあう敵なのだ。
 もう仲良くなどなれないのだ。望みを捨てろ。そうすれば楽になる。
 
 
 望みを捨てろ、望みを捨てろ。


 望みを捨てろ、望みを捨てろ。
 
 私は屋上の自分の好きな場所に一人でいた。今は一人でいたかった。
 咲とあの原村和、本当に仲がよさそうだった。あの二人、どこまで行ったんだろう。
 まあ、もう私には関係の無いこと・・・そう思っていると、人が来た。

「・・・菫か。何の用だ」
「照。テレビは最後まで見ないと。途中で抜けちゃ駄目だろ。あの後面白かったぞ」

 面白い?こいつの面白いは信用できないからな・・・。

「宮永咲が絶対勝ちます、って言った後にこう続けたんだよ。
勝ったらお姉ちゃんと仲直りして、また一緒に暮らして、思いっきり甘えたいって。
 だって私は今でもお姉ちゃんが大好きだから、だとよ。よかったな照。
 それにしてもよくあのまま放送したよな・・・。なあ照、お前先鋒やめて大将になれよ。
 お前がやるって言えばあの金髪は所詮お前より弱い。あっさり譲るだろうよ」

 咲。お前は強くなったのに私は弱いままだ。私は望みを捨てられそうに無い。

「・・・いや、先鋒のままでいい。咲と戦うなんて、憎み合うなんて・・・。私には無理だ。
 でも、副将にならなってもいいかな。あの原村を粉砕してやるのもいいな。
 原村とどっちが咲にふさわしいか、麻雀でケリをつけるのも悪くないな」
「ふふふ、そうか。なら私が大将になるとするかな。お前を虜にしている
 宮永咲を倒してやるのも面白いな。どっちが照にふさわしいか、麻雀で決着を・・・」

 そして二人で笑いながら部室へ戻った。すっかり気分は晴れていた。
 この後どのような運命が待ち受けているかわからないが、私は私らしくあろう。

「あ、菫、誤解するなよ、私に妹などいないからな・・・・・・」


 望みを捨てろ、望みを捨てろ。

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最終更新:2009年10月25日 21:50