182 菫→照咲 1 [sage] 2009/10/26(月) 07:58:32 ID:iaGHnV4T Be:
部活が終わって、みんなが次々と帰宅していく中、わたしは帰り支度をしながら、あることで悩んでいた。
「うーん…どうしようかなぁ」
「どうかしたんですか?咲さん」
「うわぁっ?!和ちゃん…っ?わたし、今何か言ってた?」
「ええ…。どうしようかなぁ、と私には聞こえましたが…」
「えぇっ!知らない間にわたし、独り言喋ってたんだ…うぅ。恥ずかしい…」
心配そうに和ちゃんがわたしを見て、こう言った
「何か悩んでいるんですか?私で良ければ、お話を聞きますよ。」
「あ、ありがとう!和ちゃん」
「実はね…」
わたしは和ちゃんに、今悩んでいる事について、説明をした。
「そう…。明後日はお姉さんのお誕生日なんですか」
「うん!だからね、内緒で東京まで一人で行って、お姉ちゃんをびっくりさせたいんだあ…
名付けて、お姉ちゃんびっくり大作戦!
まぁ、そのままなんだけどね…
その作戦の計画はほぼ全部、わたしの頭の中で完成していた。
でも、一番肝心な『何をプレゼントするのか』
これだけが二日前になった今日でも、まだ決まっていなくて、わたしはかなり焦っていた。
最近は、放課後に毎日お店に寄って、雑貨や文房具などあれこれ見て色々と考えるんだけど、いまいちピンと来るものが見つからず、何も収穫が出来ないまま家に帰る度に肩を落としていた。
「咲さんっ!」
「ひゃうっ?!」
急に、和ちゃんに手を握られてびっくりした
「それなら、今から一緒に街までプレゼントを選びに行きましょう!」
「えっ?いいの?和ちゃん…今からそんなとこまで行ったら家に帰るの遅くなっちゃうよ?」
「もちろんです!時間なんて気にしません。そうと決まれば、すぐに出発ですよ」
「う、うんっ!」
そのまま、わたしは和ちゃんに手を引かれて学校を飛び出す。
このままじゃ、当日になってもプレゼントが買えないんじゃないかと不安になっていたところだったので、今の和ちゃんは、わたしにとって凄く頼もしかった。
電車に乗り、和ちゃんに質問をされる。
「プレゼントの参考までに聞きたいんですが、お姉さんは趣味か何かありますか?」
「うーん…趣味かぁ。何かあったかなぁ…。東京のお姉ちゃんの家に遊びに行っても、お部屋の中は必要なものしか置いてない感じだったし…」
「お姉さんが好きなものとかは?」
「やっぱり麻雀かなぁ…?高校を卒業したらプロを目指すんだって。だから、大学に入ったら本格的に麻雀の勉強をするから忙しくなるみたい。」
「そうなんですか。じゃあ、これから忙しくなるんでしたらスケジュール帳とかはどうでしょう?きっと、役に立つと思いますよ」
「スケジュール帳かぁ…うんっ!それだっ。今わたし、なんだかピンと来たよ!それにしようかなっ」
「ありがとう。和ちゃん!」
「いいえ。お役に立てて良かったです」
―――――――――――――――
「ここなら、雑貨や文房具など色々揃っていますから」
和ちゃんに言われて、わたし達は街の中心部にある大きなデパートに入った。
「うわあっ。ほんとだ!品揃え豊富って感じだね!」
「ええっ。文房具はあちらみたいです」
文房具コーナーに着くと、来年用のカレンダーや手帳、スケジュール帳などが棚にたくさん並んでいた。
「うわぁ…いっぱいあるよ…」
「そうですね…。お姉さんは何色が好きなんですか?」
和ちゃんに聞かれて、少し悩んでしまった。
そう言えば、お姉ちゃんとそんな話したこと無いからなぁ…
「少なくとも、ピンクとか黄色みたいな明るい色は好きじゃないかも…。ハート柄とか星柄とかもちょっと…」
「では、シンプルに白などが良いかもしれないですね」
ふと棚の中に白色だけど、お洒落なデザインのものを見つけた。
手に取り、重さや中身を確認する。
うん。大きさもちょうど良くて使いやすそうだ。
よしっ。
わたしはこれを買うことに決めた。
「良いのが見つかってよかったよ。ありがとうね、和ちゃん!」
「いいえ。金曜日、お姉さんと楽しんで来てくださいね」
「うん!」
―――――――――――――――
そして、当日。
わたしはお泊り用の荷物を詰め込んだバックを持って、朝早くに電車に乗り込んだ。
今日これからの計画はこんな感じだ。
まず、東京の駅に着いたら、駅の中にあるお店でお昼ごはんを食べる。
一人で飲食店に入るのはちょっと勇気がいるけど…
次に、学校に向かう電車に乗り換える。
そして、きっと2時頃には学校に着くだろうから、あとは学校の近くにある喫茶店にでも入って、お姉ちゃんの授業が終わるのを待つ。
金曜は、だいたいいつも3時くらいには終わるって前にお姉ちゃんが言ってたから、その頃を見計らって電話をかけてみようかな。
出なかったら、メールでもいいや。
もし、無事に会えなかったらどうしようと、少しだけ不安にはなるけど、でも。
わたし達ならきっと大丈夫。そんな気がするんだ。
あっ、でも…
ふと去年のことを思い出す。
まだ去年はお姉ちゃんとの間に壁があったから、お姉ちゃんの誕生日の時、こっそりお母さんに電話をかけて、代わりにおめでとうって伝えてもらおうと思った。
そしたらお母さんがこう言ってたっけ
「あの子ったら、私がおめでとうって言うまで気付かなかったのよ。若いのに、本当に自分のことに無頓着なんだから…」
確かにお姉ちゃんって、自分のことなのに無関心なところがあるし、少し天然でもあるから、もしかしたら今日のことも忘れてるかも…
でも、今日はわたしが直接お祝いするからね!
よしっ頑張るぞ。
わたしは一人で静かに、キュッと手を握った。
ところが…
頑張るぞ、と意気込んだのは良いものの、駅で降りてから、ちょっと歩いただけで早速わたしは迷子になってしまった。
「うぅ…。こっちで良いはずなんだけど…」
持ってきた地図を何回見直しても、なかなか白糸台高校まで辿りつかない…。
周りにある建物も、地図には書いてないし…
「おかしいなぁ…」
そうこうしていたら、あっという間に時間が過ぎていき、気が付いたらもう3時になってしまった。
「うぅ…どうしよう。今お姉ちゃんに電話しちゃったらせっかく内緒にしていた意味が無くなっちゃうしな…」
そう、ここで諦めたら駄目なんだ。
わたしはもう一度、地図を見直す。
すると、あることに気が付いた。
「あれっ?」
うわぁ…どうしよう…
よく見たら、学校とは全然逆方向に歩いて来ちゃってたよ…
あっ。そっか、さっきのお店を右に行くのか…。
わたしは大急ぎで引き返し、さっき見たお店を曲がった。
時間は今3時半。急がなくちゃ…
お姉ちゃん、もう帰ってたらどうしよ…
焦りながら学校に向かって、ひたすら歩き続けていると、道にはチラチラと白糸台の制服を着ている人達が見えてきた。
良かったぁ。きっと学校はもうすぐだ。
その時、前の方からなんだか見覚えのある女の人が歩いてくるのが見えた。
眼鏡をかけていて、私と同じくらいの髪型の…
あっ!そうだ…
全国大会でお姉ちゃんと一緒に戦ってた人だ。
「あのっ!すみません…」
わたしは、その人を呼び止めた。
「…はい?なんですか」
「わ、わたし、宮永照の妹なんですけど…」
「ああ…そう言えば、あなたも大会に出ていましたね。どうしてここに?」
「実は、お姉ちゃんに会いに来たんですけど、お姉ちゃんって今日はもう帰ったかどうか知ってますか?」
「ああ…確か、今日は麻雀部の後輩に指導をする日だだったはずだから、まだ学校に居るはずですよ。ちなみに、あと15分くらいで終わると思います」
「そうですかっ!ありがとうございます!」
「いいえ。それじゃ…」
「はい、失礼します!」
わたしはお辞儀をして、また学校へと歩き始めた。
良かった、お姉ちゃんまだ帰ってないみたい。
ところで、後輩に指導してるなんて初めて聞いたけど…
引退してからも部に顔を出してるんだ。
やっぱり、麻雀が好きなんだなぁ。
わたしも、お姉ちゃんにもっと教えてもらいたかったかも…
そんなことを考えながら歩いてたら、やっと目的の場所が見えてきた
「あっ。あったよ…。良かったぁ」
あれだ。あれがお姉ちゃんの学校だ
わたしはホッと、胸を撫で下ろす。
無事に着いて本当に良かった…
なんか安心したら、今頃急に緊張してきたよ…
お姉ちゃん、喜んでくれると良いな。
校門の前まで着き、お姉ちゃんに電話をかけようとしたその時。
わたしは、ちょうど遠くの方に、お姉ちゃんと誰かが一緒にこっちに歩いてくるのが見えた。
やったっ
すごいタイミングだ。
「あれ、でもあの人って…」
長い髪の毛…
あ…やっぱり。弘世菫さんだ。
わたしは、とっさにお姉ちゃん達から見えないように隠れてしまった。
そして、前にお姉ちゃんに聞いたことを思い出す。
そうだ、あの人はお姉ちゃんと過去に関係を持っているんだ…
うっ…
別の意味で、また緊張してきた。心臓がドキドキする。
どうしよう。もし今日これから、菫さんと誕生日会を開く予定になっていたら…
何でわたし、計画立てる時にお姉ちゃんが友達に誕生日会に誘われるかもしれないってことが頭に入って無かったんだろ…。
でも、ここまで来たんだ。ちゃんと立ち向かわなくちゃ。
とりあえず、今お姉ちゃんに電話してみよう
出てくれると良いけど…
「プルルル…プルルル」
「ガチャッ」
「もしもしっ、咲?どうしたの?」
あっ、良かった。出てくれた…
わたしは、嬉しい気持ちと不安な気持ちで声が震えるのをグッと、押さえ、いつものように明るい声で会話をした。
「もしもしっお姉ちゃん?実はね…今お姉ちゃんの学校の前まで来てるんだよっ」
「えっ?嘘っ、今こっちに来てるの?」
あ、だんだんお姉ちゃんの声がわたしに近づいてくる。来たっ!お姉ちゃんだ。
「お姉ちゃん!」
わたしは、久しぶりにお姉ちゃんに会えて、すごく嬉しくなり、お姉ちゃん達の前に飛び出した。
咲!と、お姉ちゃんがびっくりしている。
それと…
「菫さん…こんにちは」
「あ、ああ。こんにちは。妹さん」
菫さんとも挨拶をした。
菫さんもちょっとびっくりしてるみたい。
気のせいか、今少し睨まれたような…
なんだか、ちょっとこの人が怖くなってきたよ…
あっ、でも今はそんなことよりも、お姉ちゃんにおめでとうって伝えなくちゃ。と、我に返る
「えへへっ。お姉ちゃん…来ちゃった」
「もう、急にこっちに来るなんて、びっくりしたよ。どうかしたの?学校は?」
あ、この反応は…
お姉ちゃん、やっぱり自分の誕生日忘れてたんだ。
「学校は今日、開校記念日でお休みだったんだよ。っていうか、やっぱり…お姉ちゃん、今日が何の日だか忘れてるでしょ…」
「え?ごめん、何かあったっけ…」
私は、カバンの中からプレゼントを取り出して、お姉ちゃんに渡した。
「これって…」
「今日はお姉ちゃんの誕生日だよっ。おめでとう。お姉ちゃんっ」
「あ、そういえば…すっかり忘れてたよ」
「もう、お姉ちゃんったら…」
あはははっと、わたし達は笑い合う。
そして、菫さんと別れの挨拶をした後も、しばらく校門の前でお姉ちゃんとのお喋りに夢中になった。
やがて、家に行こっか。とお姉ちゃんに言われて、わたし達はやっと歩き始める。
途中でお姉ちゃんに手を繋いでもらえた。
普段人前でこんなことはしないから、少し恥ずかしかったけど、でも凄く嬉しくもあった。
家に着いてからは、わたしがお姉ちゃんにご飯を作ってあげたり、二人で一緒にケーキを食べたりした。
夜寝る前にもお喋りをしたり、とても楽しい時間を過ごした。
明日も、もっと楽しくなりそうだなぁと思うと、なんだか胸が弾んでくる。
お姉ちゃんと過ごす時間だからこそ、楽しくなるんだ。
お姉ちゃん…大好きだよ。―――――――――――――――
そう。この時のわたしは、とても幸せだった。
お姉ちゃんも、きっとそう。
でも、まさか…
まさか、お姉ちゃんと菫さんの間にあんなことが起きるなんて…
この時は、これから先のことなんてまだ分かるはずが無かった。
だから、わたしもお姉ちゃも笑っていられたんだ。
もし事前に分かっていれば、防ぐことが出来たかもしれないのに…
お姉ちゃん…
最終更新:2009年10月28日 14:53