193 『ネコミミと眼鏡は相容れない?』 [sage] 2009/10/26(月) 23:42:16 ID:vx+E69TM Be:
最近、悩み事があります。
眼鏡の度が合わないとか、ちょっと太ったかも…、とかそういった悩みではない。
そう、これはちょっとしたケンカなんです。
華菜ちゃんと私の、果てしなく小さなケンカ。
原因は、多分私のせい。
けど、それを認めたくない。
だって華菜ちゃんが私の言葉を聞かないから!
…まあ、それは置いておいて。
発端は私の一言。
あれは、キャプテンら三年が部を引退して、私たち2年が部の主体となった月のことだった。
―――
――
華菜ちゃんはその実力や人柄を買われ新・キャプテンに選ばれた。
そして私は、キャプテンをサポートする副キャプテン。
まさに私に打ってつけの役職!なんて一人浮かれていたんだけど。
実際は、三年生が引退したことで部の活気が削がれ、特打の時もみんなに笑顔が見えない。
どんよりとした空気で、辺りを黒いオーラが包んでいることがわかるほどに沈んでいた。
「みんな!寂しいのはわかるけど、それじゃあキャプテンたちに心配させるだけだし!
来年の全国大会に勝ってキャプテンたちを喜ばせるんだろ!?だったら、今は練習あるのみだし!」
華菜ちゃんの持ち前の明るさは、部の雰囲気を活気づける。
「そ、そうだよ!華菜ちゃんの言う通り、私たちは来年の全国で優勝するの!だから、ちゃんと集中しよう?」
そ、そうです!
頑張りましょう!
元・キャプテンのためにも!
各々、一年生の子が自分に渇を入れていた。
うん、みんなも一緒に頑張ろうね!
そこで誰かが、頑張りましょうね!キャプテン!なんて叫んでる。
でも当の本人はというと。
「へ?」
なんて間抜けな声を出していた。
「もー…今のキャプテンは華菜ちゃんでしょ?」
「あ、そっか、ご、ごめんね~」
まだまだ自覚がないみたい。
それは別に、いいんだけど。
私がちょっと気になっていたのは、華菜ちゃん自身だった。
休憩の時間、華菜ちゃんに連れ立って飲み物を買いに行った。
聞くなら今だと思って、尋ねる。
「華菜ちゃんさ」
「なぁに~?」
「さっき、みんなに頑張ろうって言ってたけど」
「うん」
「一番落ち込んでるのは華菜ちゃんだよね?」
「え」
「この前部室で一人泣いてるの、見ちゃった」
「…い、いやいやっ、そんなわけないしっ!華菜ちゃん全然のーぷろぶれむ!落ち込むなんてあり得ないしっ!」
「嘘だよ!華菜ちゃんが泣くのは負けた時とコーチに叱られた時だけだもん!」
「あ、あれは目にゴミが入っただけだし!」
「私副キャプテンなんだよ!?相談くらいしてよっ!」
「う、ううっうるさいな!みはるんのくせに!」
「な、何よ!華菜ちゃんのくせにぃ!」
「うるさいうるさい!この眼鏡っ子!」
「うるさいのはどっちなのよ!?華菜ちゃんなんてネコミミのくせに!」
もはや言葉は意味を為さない。
ただの子供のケンカだった。
まるで収集がつかなくて、ぜえぜえはあはあ言って肩を揺らす私たち。
そこへ、一年の文堂さんが、練習再開の知らせを伝えに来た。
「あ、あの…キャプテン、副キャプテン」
「「なにっ?!」」
ひっ、と彼女は肩を縮ませた。
「あ、あ、あのっ…練習始めましょうって、つ、伝えに…」
私と華菜ちゃんは向かい合って、ふん!と互いに顔を背けた。
結局その日から数日間、私と華菜ちゃんは一度として目線を合わそうとはしなかった。
――回想終了
「あ~あ…」
本当は、ケンカがしたかったわけではない。
ただ言いたかっただけなのだ。
もうちょっと頼ってよ、と。
でも、華菜ちゃんは強情で、一人で我慢しようとしちゃうから、拗れちゃう。
そこに私の変な意地っ張りが相まるのだからなおさらだった。
不器用だなぁ…私も、華菜ちゃんも。
…でも、やっぱりこのままじゃだめだ。
仲直りしないと。
華菜ちゃんは福路先輩に憧れているけど…私だって、負けないくらい華菜ちゃんに憧れているんだ!
だから、支えたい。
堪えすぎる華菜ちゃんに、我慢しないで!突き進め!って、背中を押せるような存在に。
私は成りたい。
…決めた。
「謝ろう…明日」
※ ※ ※
うー。
やっちゃったし…。
みはるんと、ケンカをしてしまった。
「あんなみはるん、初めて見たし…」
あるいは、あたしが見てなかっただけかもだけど。
キャプテンばっかり追いかけて、盲目的になってたから。
それにみはるんとは、もう二年目の付き合いなのに。
何やってんだろ、あたしってば。
「相談、かぁ」
まさか、みはるんに泣き顔を見られてしまうとは思わなかった。不覚。
…って思ったけど、この思考が、みはるんに迷惑をかけた、というか苛々させたのかな。
でも、確かにそうかも。
あたしも、親しい人間が悩んでたら、何か言ってほしいかもしれない。
言ってくれなきゃ、何かすっきり出来ないし、納得も出来ない。
「あたしが、みはるんの立場だったら」
――嫌かも。
……。
………よしっ!決めたっ!
華菜ちゃんは明日!みはるんに謝るんだ!
ちゃんと仲直りして、また全国へ向けて一緒に走りたい!
今度はキャプテンのためだけじゃなくて、みはるんや仲間のためにも!
ファイトだ華菜ちゃん!
※ ※ ※
――翌日
「「あ…」」
授業を終え、放課後に部室へ向かう途中、廊下で華菜ちゃんに出会った。
声を上げたのは二人同時で、何故だか互いに動けなくなった。
とりあえず、口を開く。
「か、華菜ちゃん…」
「…みはるん」
言葉に詰まる。
謝りたいのに、何も思い付かない。
考えは何もないけど、とにかく謝ろうっ。
「「あのっ!」」
また被った。
何でこんな時だけ息が合うんだろう。
「か、華菜ちゃんから…どうぞ」
「い、いやいや…みはるんから」
「華菜ちゃんから」「みはるんから」
なんて言い合って、結局繰り返し。
進歩なさすぎるよ私!
しばしの沈黙が訪れる。
「じゃあもう華菜ちゃんから行くし!」
痺れを切らしたのか、勢い付いてまたネコミミみたいのがぴょこっと見える。
「みはるん!昨日はごめん!」
意外と、直球だった。
「何か、心配かけちゃったっていうか…感情的になりすぎたっていうか…」
そんなことはないのに。
心配したのは本当だけど、煽ったのは、私の方なのに。
「ともかくごめん!」
あの華菜ちゃんが、頭を下げていた。
…失敗した。
先に謝られてしまった。
「…顔を上げてよ、華菜ちゃん」
ネコミミが、ピクっと動いた(ように見える)
華菜ちゃんは、ゆっくり顔を上げた。
そして私は。
「み、みはるん!?」
華菜ちゃんに、抱き付いた。
「どっどど、どどうしたのみはるん!?」
華菜ちゃんはかなり戸惑ってるけど、何故か私は、非常に落ち着いていた。
「華菜ちゃん…」
「な、なに?」
華菜ちゃんが少したじろいだ。
構わず私は続ける。
「私って…そんなに頼りないかな…?」
「え…」
「私じゃ…華菜ちゃんの支えにはなれないのかな」
「み、みはるん…」
「私ね…一年の頃から、華菜ちゃんに憧れていたの」
「そ、そうなの?」
「うん。先輩たちとの特打で、いつも連勝してた華菜ちゃんが、私にはとても眩しく見えた」
「…」
「強くてかっこよくて、前向きで、ちょっと調子に乗りやすいけど、憧れてた」
抱き付いているから、華菜ちゃんの表情は見えない。
けど、照れてることだけは、触れ合う肌を通して伝わってきた。
なおも私は続ける。
「それは今も同じ。華菜ちゃんの明るさも、自分の生き方を曲げないその強さも、全部。私の憧れ」
華菜ちゃんはぷるぷる震えて、私を突き放すわけでもなく叫ぶ。
「あ、あたし…そんな憧れたりされるような強い奴じゃないし!」
華菜ちゃんに触れる肌から、だんだん早まる鼓動を感じる。
「あたしなんて…コーチに叱られて泣いちゃうヘタレだし、負けたら悔し泣きしちゃう弱虫だし!
もうとにかく弱っちょろい人間だし!支える価値なんてっ…」
「泣いちゃうことが弱虫なんて、思わないよ」
腰に回していた腕に、少し力を込める。
「それでも、ね」
「みは、るん…?」
「それでも、前を向こうとした華菜ちゃんだから…私は、あなたを支えたいの」
「…っ!」
腕の力を緩めて、華菜ちゃんから身体を離す。
正面にしっかりと、いずれはさらに輝くであろう紅くなった新キャプテンを見据えて。
私は微笑む。
「あ…の」
「それと、もう一つ」
「え…」
「…私は、福路先輩にも負けるつもりはないからね。華菜ちゃん」
「あ……うん」
そして私は、また笑った。
「じゃあ、部室行こっか」
「…う、うん」
華菜ちゃんの手を引っ張って。
部室へ走ったのだった。
―――
――
その日の部活は、華菜ちゃんが終始どぎまぎしてたこと以外は、いつも以上に活気のある部活でした。
…あ、また赤くなってる。
了
最終更新:2009年10月28日 14:58