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603 悪夢と現実 [sage] 2009/11/15(日) 00:13:02  ID:gmj8X9x2 Be:

「え…?」

初めて会った時みたいに雨が降っていた。
でもあの日とは逆だった。
傘をさしているのは和ちゃんで、私は傘も持たずに和ちゃんを追い掛けて走ってきた。

「…。」

和ちゃんは視線を合わせようとしないで地面を見てた。
聞き間違えだと、思いたかった。

「…咲さん。私は…。」

雨が私を容赦なく打ち付けていた。
でも、体よりも心が冷たかった。

「そんな!?嘘だよね…?」

雨に紛れて涙が頬を伝った。
わかってる。
だって和ちゃんは冗談を言うような人じゃないから。
和ちゃんは首を横に振った。
もしかしたら、和ちゃんも泣いていたのかもしれない。だけど雨でわからなかった。表情も和ちゃんの心も。
力が入らなくなって私は地べたに崩れ落ちた。
服も顔も頭も心もぐちゃぐちゃだった。
和ちゃんは私に近付いてきて、自分がさしている傘を私に差し出した。
私は和ちゃんを見上げた。
和ちゃんは微笑んでいた。だけど泣いていた。
今までに見たこともないくらいの切ない表情だった。

和ちゃんは私が受け取らないでいると、困ったような顔をして、肩にかけるように置いた。
そして和ちゃんはしゃがみ込んだ。
やっと和ちゃんと目が合った。
和ちゃんはやっぱり泣いていた。
またあの切なげな笑顔をした。

「のど…」

名前を呼ぼうと開きかけた口を和ちゃんの唇が覆っていた。


長い長いキスだった…。

唇を離して見つめ合った。
このまま時が止まればいいと思った。


「…咲さん、ごめんなさい。」


それは和ちゃんによって終わりを告げた。

「さようなら…。」

和ちゃんは立ち上がり背を向けた。

「和ちゃん…!やだよ!!一緒にいたいよ!」

駄々をこねる子供みたいに叫んだ。泣きながら何度も何度も名前を呼んだ。

和ちゃんは振り向かなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


嫌な夢を見た。
朝起きるとパジャマは汗で体に張り付いていて、涙もこぼれてた。

「夢だよね…。」

自分自身に問い掛けた。

最近の和ちゃんの様子が変だからかもしれない。
それが気になっていたから、こんな夢をみたんだ。

そう言い聞かせた時、1つの疑問が頭をよぎった。


最近の和ちゃんの様子がおかしいのは、なんで…?


寒気がした。
あんな夢を見たせいだ。
だけど、あの夢が正夢になる可能性だってなくはない。

和ちゃんは最近、部活を休むことが多かった。
何かこそこそと部長と話してることもあった。
その時はほとんど気にもとめなかった行動の1つ1つが頭に引っ掛かって仕方なかった。
気付けば授業は終わっていて、放課後になっていた。
空を見ると今にも雨が降りそうで、私を余計不安にさせた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「こんにちはー。」

部室に行くと和ちゃん以外の皆が揃っていた。
まだ放課後になってからそんなに時間が経っていない。だから、いつもなら気にならない。
だけど、今日は、不安で不安で仕方なかった。

「あ、あの、和ちゃんはまだ来てないんですか?」

部長は首を傾げた。染谷先輩は眼鏡を持ち上げて、京ちゃんはネット麻雀をやり続け、優希ちゃんはタコスを頬張った。
誰も何も答えないことが私を不安にさせた。

「まだ来てないみたいね。」

少し間を開けてから部長は答えた。
いつもは賑やかなのに、今はすごい静かだった。
「あ…、降ってきたじょ。」

優希ちゃんが外を見て呟いた。

「今日傘持ってきたかしら?」
「帰りには止むじゃろ。」

雨が降り始めた。
夢が今と重なって、怖くなった。

「あの…。みんな私に隠し事とか、ないですよね?」

皆が皆、顔を見合わせた。

「なんもないじょ。」

代表して答えた優希ちゃんの言葉は、微妙に震えていた。きっと普段の私なら気付かないくらい微妙に。
それが私の不安を加速させた。
何か言おうと口を開きかけた時ドアが開いた。

「こんにちは。」

和ちゃんだった。
少しほっとして和ちゃんに挨拶を返そうと振り向くと、和ちゃんはドアの傍から動かずにいた。

「あの、今日の部活は休ませて頂いてもよろしいでしょうか?」

部長が答える前に私は聞いていた。


「な、なんで?」

和ちゃんは私から目をそらしながら答えた。

「ちょっと用事があるだけです。」

和ちゃんが答え終わると同時に部長が「いいわよ。」と言って、和ちゃんは「ありがとうございます。」と頭を下げて部室を出て行った。

もう不安しかなかった。

「部長!私も今日の部活休みますっ!!」

部長が答える前に私は部室を飛び出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇


雨が降っていた。
すぐに追い掛けたのに和ちゃんの姿は見えなくて。
無我夢中で走ってた。

「和ちゃん!!」

やっと彼女の姿が見えた時、考える前に名前を呼んでた。
和ちゃんが振り向く。

「咲さん?」

振り向いた和ちゃんの表情は驚きだけだった。

「どうしたんですか?」

不思議そうに首を傾げた和ちゃんに、私は感情が爆発していた。

「和ちゃん、私やだよ…!和ちゃんと離ればなれになるなんて、考えられないよ!ずってずっと和ちゃんと一緒にいたいよ!おねがい…さよならなんて言わないで。」

いつの間にか涙が溢れてた。
立っていられなくて地面に崩れ落ちた。

和ちゃんが近付いてきたのがわかった。
顔を見るのが怖かった。
あの表情をしていたらどうしよう…。

頭には不安しかなかった。


「え…?」


温かい。
最初に思ったのはそれで、そのあと不思議が頭に浮かんだ。
和ちゃんが私を包み込むように抱きしめてくれていた。

「咲さん…。私はずっといますよ。」

吐息とともに耳に届いた和ちゃんの言葉で、また涙が込み上げていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「何があったんですか?」

私が落ち着いてきた頃、和ちゃんが私に尋ねた。
私は夢で見たことをありのままに話した。

「そんな夢を…。」
「でも最近の和ちゃんの様子おかしかったし、皆もちょっと変だったし…。」

そうだよ。
まだ不安は完全に解消されたわけじゃない。

「私のせいで…咲さんをそんなに不安にさせてしまったんですね。」

和ちゃんはそう呟いてから、体を離して私を見つめた。

和ちゃんは最近染谷先輩の所でバイトをしているのだと言った。
皆の様子がおかしかったのも私に内緒にするためだったらしい。
お金持ちのはずなのになんでバイトをしていたかと言うと…。

「自分で稼いだお金で咲さんにプレゼントをしたかったんです。」

そう言った和ちゃんは頬を赤らめた。
私も顔が熱くなっていた。

「和ちゃん…。」

やっぱり私は和ちゃんが好き。
顔をあげた和ちゃんに私からキスをした。

「和ちゃん、大好き。」
「私も咲さんが大好きです。だから…」

そこで和ちゃんは言葉を切って、私にキスした。

「ずっと一緒にいますよ。」

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最終更新:2009年11月23日 17:11