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713 名無しさん@秘密の花園 [sage] 2009/11/22(日) 18:28:04  ID:NPUjW0e/ Be:

「福路せーんぱい!」

いつからだったかしら。一人で帰るのが当たり前になったのは。
いつからだったかしら。人と壁を作るようになったのは。
いつからだったかしら。そんな自分を肯定するようになったのは。

「福路せーんぱいー!」

いつからか、私に友達と呼べる人はいなかった。


「福路さーん。これやってくんない?」
「あ、これも!」
「あれも!」

頼られてるんだと思ってた。

「宿題見せてー」
「今日用事あるから掃除当番代わってー」

「福路…。宿題見せてやったらあいつらの為にならないんだから見せるんじゃない。」

「あ、あの…自分でやらないと自分の力にならないわ…。」

「うっわー。」
「いきなり先生面ですかー」
「うっぜー」
「うわ、泣き出した?」
「まじうざい」

頼られてるんじゃなかった。好かれてるんじゃなかった。
私はただの便利屋だったのね…。


「福路先輩ってば!」

池田華菜さん。
私の1学年下の女の子。
彼女はとても不思議な子。
今日も私について来る。

「池田さん?」

まるで今まで気が付かなかったみたいに振り返った。
ほんとは学校を出た時から気づいていたのに。
怖いの。
周りに気を遣うこと、周りに優しくすること、お節介かもしれないけれど、周りの人は放っておけない私。
でも、怖いの。
人と仲良くすることが。
どう接すればいいか分からなくなるの。
だから、気付いていたけど今まで振り向かなかった。

「よかった、追いついて。」

彼女はほっと一息ついて私に笑いかけた。

「福路先輩、一緒に帰りましょう!」
「ええ。」

彼女は私の横に並び、歩を合わせる。

不思議な子だった。
これで何日連続かしら?
もう数えきれないくらい一緒に帰っている。
朝も別れ道で待っている。
本当に不思議な子だった。
彼女は微笑む。無邪気な笑顔。

「福路先輩!」


****


例えば中学時代。
それまで仲良くしていた子がだんだんと離れていった。
気付くと私の周りには何もなかった。
唯一残ったのが麻雀だった。
その頃からだったかもしれない。私が麻雀に没頭するようになったのは。
私にとっての唯一の存在が麻雀に思えた。

「福路先輩?」

色の異なる瞳。
いつからだったかしら。右目を人に見せないようになったのは。

「ん、なぁに?」

隣を歩く彼女に目を向けると彼女は優しく微笑んでいた。

「福路先輩は優しいですよね。」
「えぇっ!?」

思いもかけない言葉に驚きを隠せなかった。
そんなことないって否定すると、彼女はゆっくり首を振った。

「あたしは福路先輩が好きですよ。」

まっすぐな言葉に、まっすぐな瞳に戸惑った。
どういう意味で言ったのかなんてわからない。
ただ、“好き”という感情を向けられていることに戸惑った。

「ありがとう。」

そんなありふれた言葉を返すしか私には浮かばなかった。


*****


あの日からも毎日池田さんは一緒に帰ろうとしてくれる。
それにもまた、戸惑ってしまう。
好意が怖かった。
池田さんの瞳はまっすぐで輝いていて、中学時代の人たちとは全然違う。
だけど、怖いと思ってしまう。

「福路先輩!」

だけど、この子は…。

「やっと追いついたー」

息を切らして今日も私を追ってきた。

「池田さん…、毎日一緒に帰ってくれるけど、私そんな子供じゃないのよ?高2よ?」
「いやいやいや。それはわかってますし!少しあぶなっかしーけど。」

だからかもしれない。
ずっと親にも誰にも言わなかったことを言ってしまったのは。

「でも、嬉しいわ。誰かと登下校なんて小学生以来だから…。」
「え。」

え、って言った池田さんは戸惑いの表情を浮かべた。
池田さんの反応を見ていられなくて池田さんに背を向けて歩きだした。

「私ねぇ、中学の頃から同級生の仲良しができなくなっちゃって」

頼られているんじゃなかった。
好かれてるんじゃなかった。
私はただの便利屋だった…。

「たまにうざいとか言われたりもするの…。」

彼女はこんな私にどんな反応をするのだろう。
同情の視線を送るのだろうか。
それとも、振り向いた時にはいなくなっているのだろうか。
言ってしまってから後悔した。
こんなことわざわざ言う必要なんてなかったと。
明日から、また1人で登下校するようになるのかしら…。

聞こえる音は風の音だけ。
もうここには私しかいないのかもしれない。
そう思った時だった。

「ウザさならあたしも負けませんよ?」

彼女の言葉が耳に届いて、彼女がそこに存在していることに安心した。
でも、彼女の言葉は私の予想とは全く違うもので、正直よく意味が分からなかった。

「昔から陰口でうざいうざい言われてますし!」

彼女は何を言っているのだろう。
振り返ったその先には、

「あたしがそばにいる限り福路先輩は全然うざくなんてないです!」

彼女の変わらない優しい笑顔と、

「そんでもって優しすぎる先輩の代わりに、あたしが図々しくなってみせますよ!」

彼女らしい前向きな言葉があった。


「ありがとう。」

ありふれた言葉。
でもあの時とは違う、心からの言葉だった。
今までにいなかったから。
こんな言葉をかけてくれる人は今までいなかったから。

この子になら、右目を隠さなくていいかもしれない。
この子には、あるがままたの自分を出すこともできるかもしれない。


「ひとつお願いいいですか?」

今にも零れ落ちそうな涙をこらえた。
彼女は私から目をそらしていた。
なにかしら…?
お願いに私は弱い。
弱くて弱くて失ったものもある。
なにをお願いするのか一瞬怖くなった。でも…。

「あたしのこと下の名前で呼んで--…毎日一緒に帰ってください!」

彼女のお願いは私の望みでもあった。
いつからか私の周りには名前で呼ぶような人はいなかったから。
一緒に帰る子はいなかったから。

「福路先輩…?あの…、い、嫌ですか?」

黙っている私を不安に思ったのか首を傾げて私に問い掛ける。
私は首を振って笑いかけた。

「もちろんよ、華菜さん。」

誰かを下の名前で呼ぶのはあまりにも久しぶりで、さんをつけるのか、ちゃんをつけるのか、それとも呼び捨てなのか…?わからなくなって、無難だと思ってさん付けで言った。
彼女はふふって笑ってから私に言った。

「華菜でいいです!ていうか…華菜って呼んでください!」

緊張してしまった。
呼び捨てで呼ぶなんていつ以来なのかしら…。

「か…かにゃ。…あぅ。」

緊張のあまり、声は裏返り、しかも噛んでしまった。
恥ずかしくて俯いた。
少し間があってから彼女の笑い声が届き、赤面してしまう。
ふと気付くとすぐ近くに気配を感じた。

「ふふふ、先輩。無理に呼ばなくてもいいですよ。徐々にでもいいです。」


顔を上げると彼女は優しくそう言った。
そんな彼女を見て私は思った。
彼女を見たい…と。
麻雀以外ではほとんど開かなくなった右目を、開けて。
彼女を両目で見つめたい。

思ったときにはもう行動に移っていた。

両目で見た先の彼女は…変わらない、優しい笑顔で私を見ていた。

「…きれい。」

それは右目について言ったのか、夕日の沈む景色について言ったのか、それはわからない。
だけど私は満足だった。

「ありがとう、華菜。」


****


「キャプテン!帰りましょう!」

彼女は部活の後、掃除を終えると私に言う。
あの日からずっと変わらない。

「キャプテン?」

彼女はとても不思議な子。
私が唯一名前で呼ぶ子。

「なんでもないわ。さぁ帰りましょう。」

私の隣を今日も変わらず歩いている子。
いろいろな話をして、最後はいつもニコニコ笑う。

「先輩、何か考え事ですか?」
「え?」
「今日の先輩ぼーっとしてること多かったですから。もうすぐ大会ですし。」

彼女は不安そうな顔をしていた。
だから私は正直に言った。

「貴女と会った時のことを考えていたのよ。」

彼女は驚いた表情をして

「え?ど、どんなことですか!?」

と勢いよく尋ねてくる。
私は人差し指を口に当てて微笑んだ。

「ん、内緒よ。」


彼女は、華菜は私にとってとても不思議な子。
そして、とても特別で、大切な子。

不満げな表情でついてくる彼女に心の中で呟いた。

ありがとう、華菜。

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最終更新:2009年11月23日 17:20