744 名無しさん@秘密の花園 [sage] 2009/11/23(月) 07:16:54 ID:GmQ6hS5L Be:
「37.5℃か、峠は越えたみたいだな」
体温計の表示を見て、私はつぶやいた。それにしても風邪を引くとはな、と自問自答する。
体は丈夫なほうだと自負していたが、いかんせん最近はやることがたくさん有り、
睡眠時間もろくに取れず、だいぶ無理をしてきた。ここらで休息を取るのも悪くないだろう。
それと桃たち麻雀部の面子にも心配をかけてしまった。今後は体調管理にも気をつけないと
いけないな。
そのようなことを考えつつ、ふと時計を見ると、時刻は午後四時を過ぎていた。
朝に飲んだ風邪薬が効いたのか、だいぶ眠っていたようだ。
そういえば風邪で寝込んでからはもっぱら水分ばかり取っていて、
ちゃんとした食事をしていないんだった。風邪で食欲がないからと行ってきちんとした栄養を
取らずにいては治るものも治らないな。
そう思った私はベットから起きあがり、何か食べるものはないかとキッチンへと向かった。
あいにくと冷蔵庫の中にはたいしたものが無かった。いつもならこうなる前に買い物に
行くのだが、急な風邪のせいでそれも叶わず、食べるものが無くなってしまったようだ。
いまから買い物に行くべきとも考えたが、まだ熱もあり体もだるく、なにより外に出たことで
風邪をぶり返すことが心配だった。
どうしたものかと考えていると、ふと携帯電話にメールが届いてる事に気がついた。
見るとモモからのメールで、邪魔でなければお見舞いと風邪に効く料理を振舞いたいという旨が
記されていた。
渡りに船とはこのことだと思った私は、モモに了承のメールを送った。
三十分くらいたってから、桃がやってきた。モモは買い物袋を手に下げ、
心配そうな目で私を見ていた。
部屋に招き入れると、開口一番、
「先輩が風邪を引いたと聞いて、ずっと心配していたっす。風邪は大丈夫なんすか?」
と尋ねてきた。
「ああ、熱はだいぶ下がっていて、体もずいぶんと楽になっている」
私はそう言った。
「それなら安心したっす。だけど風邪は治りかけが肝心なんですから、
先輩は休んでいてください。風邪も逃げ出すようなおいしい料理を作ってみせるっす」
モモはそう言い残すと、キッチンへ向かい料理に取り掛かり始めた。
私はというとベッドで横になり、隣から聞こえる包丁の音に耳を傾けていた。
キッチンから流れてくる包丁のリズムに誘われて、いつしか私は眠りについていた。
「――輩、先輩、起きてください」
モモに起こされ、目を覚ますと、テーブルの上には湯気を立てたおかゆが出来上がっていた。
私はモモに感謝の言葉を述べた後、ベッドから出て、席に着いた。
おかゆにはネギ、玉子が入っており、上には梅干しが乗っている。見た目にも体に良さそうだ。
私がおかゆを食べようとした時、モモが顔を赤らめながら言った。
「熱々なので、そのままでは火傷してしまうかもっす。私に冷まさせてください」
そういってモモはレンゲでおかゆをすくい、口元に寄せると息を吹きかけて冷まし始めた。
「そ、そこまでしなくても良いのだが……」
その姿に私は自分の鼓動が速まるのを感じた。
「ダメっす、先輩は風邪引きさんなんすから、じっとしていてください」
そう言ってから、私の口元へレンゲを持ってきてくれた。
「はい、先輩。あーんしてください」
モモの言葉に促されるように、私は目の前のレンゲを口にした。
ちょうどいい熱さにまで冷まされたおかゆは、味も利いており弱った体に染み渡るようだった。
「モモ、とてもおいしいよ」
私は心からそう言った。
「先輩に喜んでもらえて満足っす。さあどんどん食べて早く元気になってください」
そう言って吹き冷ましてくれたおかゆを、次々と口元に運んでくる。
少し恥ずかしくもあったが、私もそれを口にする。まるで赤ちゃんの頃に戻ったかのようだ。
年長者として、後輩にこんな事をされているのは照れくさくもあったが、
私自身それほど悪い気はしなかった。
そうして、茶碗の中に入っていたおかゆは、見事に無くなった。
また食事でエネルギー補給したおかげか、私の体もだいぶ楽になったようだ。
「残りはラップをして、冷蔵庫の中に入れておきました。おなかが空いたら食べてください」
そう言って、ベッドで休んでいる私のそばへ腰掛けた。
私はというと、食後に飲んだ風邪薬が効き始めてきたのか、少し眠気を感じ、
ベッドへと入っている。
「今日は本当にありがとう、モモ」
私は感謝の気持ちを伝えた。食事だけでなく、モモと一緒にいるだけで元気になれた気がする。
「役に立てて私も本望っす」
嬉しそうにモモもそう言った。
そうしてモモが帰った後、薬が効いたのか私はすぐにまぶたを閉じ、
朝までぐっすりと眠りこんだ。
翌日の朝、目を覚ますと体のだるけがとれていた。熱を計ると平熱に戻っており、
これなら学校にも行けそうだ。
私は風邪がぶり返さないよう、いつもより暖かい格好をして学校へと向かった。
放課後、部室でモモに会った私は昨日のお礼を言った。
「モモのおかげで早く風邪を治すことができた。ありがとう」
私の言葉に、モモも明るく答えた。
「私も先輩のお役に立てて本当に良かっ……くしゅん」
モモがいきなり大きなくしゃみをした。モモのおでこに手を当ててみると明らかに熱がある。
もしかすると、これは……
「先輩の風邪が移っちゃったみたいっす」
そう言ってモモは顔を赤くし、寒気で体を震わせていた。
どうやら、今度は私がモモの看病をする番のようだ。
モモに風邪を移してしまったことに対して申し訳ないという気持ちと、
モモの看病ができるという少しばかりの期待感を胸に秘め、私は彼女を見つめていた。
終わり
最終更新:2009年11月23日 17:32