アットウィキロゴ
43 名前:15[sage] 投稿日:2009/12/03(木) 10:48:16 ID:6jFUks1o

  *  *  *

 一面の青が広がっていた。前を見ても後ろを見ても、右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても、清々とした青い空間がそこには在った。例えるなら、雲一つ無い空。その真っ只中に居るような感覚だった。
 周りを見渡すが、自分以外の誰も何も見つける事は出来なかった。此処には自分一人しか存在していないのだろうか。にも関わらず、何の不安も感じなかった。むしろ、非常に心地良い――満たされた気分になっていた。
 そういえば、自分はこの空間に立っているのだろうか? 見渡す限りの同じ風景で、平衡感覚を忘れている。ふわふわとたゆたって、何にも逆らう事無く導かれる事無く、ただどこまでも在るがままに行く。
 果ては見えない。終わりは知らない。しかし、得体の知れない安らぎを感じる。ずっとここに留まっていたいという思いが湧き上がる。
 意識は霧散していき、自分自身すら曖昧に感じる中、ただ漠然と思った事がある。

 ――ああ、これが、永遠というものなのか――

「――気が付いたら、ベッドから落ちてました」
 締まらないオチが付いた所で、桃子の話は終わった。
「その夢が、原因なのか……?」
 ゆみには、その夢が桃子の異変とどう関係するのかよく分からなかった。
「……どうなんでしょう。でも、私が周りから見えなくなっていったのはその日からだったから……」
「――――」
「でも、どうしてあんな夢を見たのか……分かる気がするっす」
「え……」
 奇妙な夢を見た、更にそれには原因があると桃子は言う。
「夏の大会の個人戦……私、負けたくないって思ってたっす。――特に、清澄のリンシャンさんには、絶対に」
 先輩の敵討ちっす、と桃子は付け加えた。
「……結局、駄目だったっすけど。でもあの後、先輩が慰めてくれたりして、それはそれで嬉しかったっす」
 ちらりとゆみの横顔を見て、桃子は頬を染める。それに気付いたゆみもまた、顔を赤くした。
「でも、それでも私、怖かったっす。私も先輩も負けちゃって、そうしたら……もう先輩と一緒に居られなくなっちゃうって思って」
「そ、そんな事は無い! 私は、モモと……!」
「……きっと、その時の私はそこまで考えてる余裕が無かったっす。だから、その夜はずっと、怖くて布団の中で震えてました」
「モモ……」
「それで――最後にはこう考えてました。『先輩と居られなくなるなら、いっそこのまま消えてしまいたい』って――」
 子供の頃から存在感が無かった。今だって、それはあまり変わらない。それならば、例えこのまま自分が消えても、誰も困る事は無い。
「人間、参ってる時って変な事ばかり考えるもんすね。……それで、その日の夜にさっきの夢を見たんす」
 事の顛末を話し終えると、桃子は夜空を見上げた。
「――本当は」
そしてまた、呟くように言った。
「もう、先輩とは会わないつもりでした。先輩も、もう私の事を忘れてると思ったから」
「…………」
「でも、やっぱり会いたかったっす。忘れられてても構わない。見えなくても、私は先輩の傍に居たかった。……だから、先輩が私の事を憶えててくれて、本当に嬉しかったっす」
 ここで、ゆみの頭に疑問が浮かんだ。何故自分は桃子の事を忘れずにいられたのか。同じ麻雀部の智美が忘れかけていたというのに、自分だけは、いつもの様に桃子の事を考えて――
「……ふふ」
 そこまで思考して、ゆみはある結論に至った。いや、結論というよりは妄言に近かったのだが。
「先輩?」
 急に微笑んだゆみを見て、桃子が首を傾げる。
「ああ、すまないモモ。少し考えていたんだよ。私がモモの事を忘れなかった理由を」
「……それは、どんな理由すか?」
 ゆみの言葉に、桃子が身を乗り出す。ゆみは立ち上がり、胸に手を当てた。大きく息を吸い、吐き出すように答える。
「――愛、かな」
 ……言った途端に恥ずかしくなってきた。慣れない物言いはするものではない、とゆみは痛感した。別に場を和ませる為のジョークを言ったつもりではないが、改めて考えると、かなり意味不明だった。
「…………」
 ゆみは恐る恐る桃子の方を見る。と、言われた方の桃子自身も、どう反応していいのか考えあぐねているといった様子だった。
「あー……、いや、これは」
 今更取り繕えるものでは無かったが、言い訳くらいはさせて欲しかった。
「……先輩」
 が、それもすぐ桃子の言葉に遮られる。
「その言葉、信じていいっすか?」
 ゆみはそのまま桃子に抱きしめられた。
「――不思議っす。私が消えちゃう理由とか、変な夢とか、何もかも信じられなかったのに……先輩の言葉だけは、信じられるっす……」
 桃子はゆみの胸に顔を埋め、消えそうな声で言った。
「……モモ」
 ゆみの心が少し痛んだ。決して軽薄なつもりで言った台詞では無かったが、覚悟を持って言った訳でもない。悪く言えば無責任だった言葉に、桃子は縋るように信じてくれた。
「私は、モモに消えて欲しくなんか無い」
 だから、次は嘘偽りの無い、自分の心からの言葉を言う。
「――だからもう、キミを離したくない。ずっと一緒に、居て欲しい」
 桃子の耳元で囁く。上手く言えただろうか。変に思われたりはしなかったか。そんなゆみの不安を消すように、桃子のゆみを抱く力が強まった。
「私も……先輩とずっと一緒に居たいっす。離れたくないっす……!」
 そう言ってゆみを見上げた桃子の瞳は、涙に濡れていて。ゆみはそれを指でそっと拭うと、目尻に唇を落とす。
「……先輩」
「モモ……」
 一度溢れた気持ちを抑える事は難しい――が、今ここで抑える必要など無いのかもしれない。
 夜の気温が二人を包む中、触れた唇はとても温かかった。

  *  *  *

「それで、先輩?」
「ん、何だい?」
「どうして私は林の奥に連れ込まれて、服をはだけさせられているんでしょうか」
「……それは勿論、モモが欲しくなったからだ」
「でもまさか、この場で始めるとは思わなかったっす。先輩はケダモノっす」
「何とでも言ってくれ。今更止めたくない」
「……しょうがない人っす」
 人気の無い公園の林の奥。ゆみは桃子の身体を木に預けると、ゆっくりとその服を脱がし始めた。桃子も軽く抗議の声を上げるが、抵抗はしていない。互いの告白の後、気持ちが昂ぶり火照ってしまった身体を鎮めるのに、場所を選んではいられなかった。
「んっ……」
 桃子の白い肌が、ひんやりとした外気に触れる。形の良い乳房が露わになり、ゆみの手がそれにそっと触れる。
「あっ……先、輩……」
 ゆっくりと手を動かし、乳房を揉みしだく。その度に、桃子の唇から甘い吐息が漏れてゆく。
「モモの身体は柔らかいな……羨ましい」
「変な事言わないで下さい……恥ずかしいっす……」
 ゆみの言葉に、桃子は頬を赤く染めて俯く。その仕草が堪らなく可愛く見えて、ゆみは思わず手に力を込める。
「んぁっ……!」
 びく、と身体を反らして桃子が喘ぐ。伸びた首筋に舌を這わせ、そのまま吸い付く。
「ちゅっ……ん、ちゅぷ……」
「ひぁっ、んっ、ふぁあっ」
 ゆみが桃子に触れる度、嬌声が奏でられる。その声をもっと聞きたくて、ゆみはもう片方の手を、桃子の下着の中へと滑り込ませる。
「っ、ひゃぅんっ!」
「もうこんなに濡れてるじゃないか、モモ……」
 ぬるりとした感触を見つけ、ゆみは微笑んだ。柔肉を優しくほぐすように、指先をクレバスに沈めてゆく。
「んああぁっ!!」
 くちゅり、と音を立てて、ゆみの指が桃子の中に呑み込まれる。熱を持ってゆみの指を迎え入れた桃子の秘部は、蕩けるような感触で指を包み込む。
「先輩……せんぱいが、私の中に……」
「すごいな……モモの中、私の指を咥えて離そうとしない……」
「ふぇ……そ、そんな事、無いっす……」
「何言ってるんだ。こんなに締め付けてきて、痛いくらいだ」
「やぁあっ……!」
 桃子の中をかき混ぜるように、ゆみは指を動かす。ぬちゅ、ぐちゅ、と次第に音が大きく重くなる。雫が数滴地面に零れ落ち、桃子は一層声を上げる。
「んあっ、ふっ、んっ、くぅぅっ……!」
 立っていられない、とばかりに桃子は膝を震わせ、ゆみに抱きついてくる。桃子の唇がゆみの耳の近くに来て、嬌声がはっきりと聞き取れる。
「可愛いよ、モモ」
 囁いて、首筋に口付ける。片手で胸を、もう片方で秘部を責め、桃子を頂へと導いてゆく。
「せ、せんぱ、ぁ、ぃっっ……! わたし、もおっ……!」
 声を震わせ、桃子が懇願するように叫ぶ。息を荒げ、ゆみをしっかりと抱き締め、離そうとしない。
「――いくぞ、モモ」
 それを合図に、ゆみは桃子の陰核を捏ねるように擦り上げた。
「――……っっ!! あっ、んあぁあぁぁぁぁ…………!!」
 瞬間、桃子の身体が跳ねる。ぷちゅん、と噴き出した雫の勢いを、ゆみは手の平で感じた。
「あぁっ……んっ……せん……ぱぁ、ぃ……」
 崩れるように脱力した桃子は、ゆっくりとゆみに持たれかかる。ゆみは桃子の身体を優しく抱き留めると、子供をあやすようにその頭を撫でる。
「ふぁ……せんぱい……」
「……疲れただろう? ゆっくり休むんだ」
「ふぁ……い……」
 ゆみの言葉に従い、桃子は目を閉じる。そうして暫くすると、小さな寝息が聞こえてきた。
「……お疲れ様、モモ……」
 ゆみは、桃子の身に降りかかった不可解な現象を少しでも忘れさせたいと思っていた。

 だから今は、自分の腕の中でひとときの安らぎを感じて欲しい――そう願っていた。

  *  *  *

 すっかりと夜も遅くなり、ゆみは眠ったままの桃子をおぶさりながら、彼女の家へと向かっていた。桃子の家には一度だけ行ったことがあった。とは言っても、その時は玄関の前までだったが。
 こんな時間になってしまって、両親が心配しているかもしれない。そう思うと、ゆみの足は自然と速くなっていた。
「……ごめん下さい」
 しばらくして、東横と書かれた表札が見える。家の前に着き、控え目にインターフォンを押す。ややあって、女性の声が応答した。
『はい、どちら様でしょうか』
「夜分に失礼致します。私、鶴賀学園の加治木と申します」
『……はい』
 インターフォンの向こうから、怪訝そうな声が聞こえる。そういえば、桃子の親御さんとは会った事がなかったな、とゆみは思った。
「あの、急で申し訳ありませんが、お宅の桃子さんをお送りしに来たのですが」
『――――』
 流石にナニをしていたとは言えずに、簡潔に用を伝える。が、向こうの声が急に止まってしまった。
「……もしもし?」
 ゆみは不思議に思い、もう一度用件を伝えようとする、と――
『……申し訳ありません。お宅違いではないでしょうか?』
「え……?」
 全く想定外の答えが返ってきた。ゆみは一瞬、頭が真っ白になった。
『私共に子供は居りませんもので……申し訳ありません』
 ゆみが反応出来ずに立ち尽くしている間に、プツリとインターフォンが切れた。ゆみは目眩を起こしそうになるのを必死に堪えた。
「何……で……」
 家を間違えた訳では無い。東横という苗字は、この辺りでは桃子の家しかなかった筈だ。だというのに、今の母親の態度は――
「……とうとう、実の両親にまで、完全に忘れられたっすね……」
 背中からの声に、ゆみは驚いて振り返る。そこには、目を開けた桃子が居た。
「な、モモ……!」
 まさか、今のやり取りを聞かれたというのか。一番聞いて欲しくなかった人物に――
「……いつかはこうなるって、思ってました。前から、時々忘れられてたっすからね」
 事も無げに言う桃子だったが、ゆみにはそれがいたたまれなかった。
「これからどうしましょう? 私、帰る家が無くなっちゃったっす」
 まるで冗談を言うかのように、桃子は笑う。ゆみはそんな桃子の顔を見るのが辛くて、こう言っていた。
「――ウチに来るんだ」
「……へ?」
 ゆみの言葉に、桃子が目を丸くする。と、急にゆみが駆け出した。
「わ!? ちょ、先輩っ?」
「いいから来るんだっ! 大丈夫、見つからないんだろうっ!?」
「え、あ、いや、そうかもしれません、けどっ」
「だったらつべこべ言うな! ちゃんと掴まってろよっ!」
「うわっ、は、はいっ!」
 ゆみは桃子を背負ったまま走った。
 もうこれ以上余計な事を考えたくなくて。無性に叫びたくなる心を抑えつけるように。
 ――溢れそうな涙を堪えるように。ゆみは走り続けた。

  *  *  *

「……あの、先輩。大丈夫っすか?」
「……ああ……」
 ゆみは自室に戻るなり、ばたりとベッドに倒れ込んだ。幾ら何でも人一人を背負って全力疾走するものではない、と今更ながら痛感した。
「ええと、お邪魔します、先輩」
「……ああ……楽にしてくれ……」
 思えば桃子を自分の家まで連れて来た事は無かったな、とぼんやり考える。しかし、いつまでも胡乱な頭のままではいられない。疲れきった体を何とか起こし、ベッドに座る。
「モモ……私は」
 衝動に任せて桃子を連れてきたものの、その後の事をほとんど考えていなかった。今後の事も含め、一体どうすれば良いかと思案に耽る。と――
「せんぱい」
 身体に感じる重み。気が付けば、ゆみは桃子に押し倒されていた。桃子はゆみにしっかりと抱きついて、胸に顔を埋めている。
「ありがとうございます」
 ぽつりと、そう言った声が震えていた。
「私、あの場所に後少しでも居たら、きっと我慢出来ずに泣いてたかもしれないっす」
「……モモ」
「先輩の家に連れてきて貰えて、少し落ち着きました。先輩が」
「モモ」
 桃子の言葉を遮り、細い体を抱き締め返す。
「もう無理しなくて、いいんだ。何も、我慢する事なんて無い」
「…………」
「私にはこれくらいしか出来ないけれど、それでも良ければ……モモ、私は」
「はい……」
 それから少しの沈黙の後、桃子が呟いた。
「先輩……少しだけ、泣いても、いいっすか」
「……ああ」
 桃子のくぐもった声。そして嗚咽。それらが号泣に変わるまで、少しの時間もかからなかった。
 ぎゅう、と桃子がゆみを抱き締める力を強くする。胸に桃子の涙の熱さを感じながら、ゆみはそっと桃子の背中を撫でる。
「せん……ぱいっ……! っ、ぅぐ、ふあっ、うあぁぁぁあぁぁぁん――……!!」
 桃子の身に降りかかる苦難に、自分は何も抵抗出来ない。ならばせめて、今この時――いや、これからも、桃子の全てを受け止める事が出来たなら――ゆみはそう思いながら、泣きじゃくる桃子を離さないように、しっかりと腕に力を入れた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年12月10日 21:54