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589 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 06:30:18 ID:khEShGuL
最近、私にはひとつの悩み事がある。その原因は、同じ麻雀部の加治木先輩だ。
私は今、加治木先輩に恋をしている。
先輩は顔も名前も分からない私を探すため、大勢の人の前で私を求めてくれた。
初めて誰かが自分を必要としてくれたという事が、なによりもうれしかったのだ。
先輩への尊敬の念と憧れが、いつしか恋心に変わっていったのはそれからすぐのことだった。

しかし、私は先輩に自分の思いを伝えられないでいる。
私の思いを先輩に告げ、そして断られてしまったら、私は自分自身の居場所を無くしてしまう。
そうなってしまったら、とてもじゃないが耐えられそうにない。

以前の私なら、一人でいることに何の抵抗もなかった。けれど、今の私では無理だ。
先輩と出会い、人と交流することの楽しさを知ってしまったから……
もし先輩との関係が壊れてしまったら、と思うだけで怖くなる。

それに、先輩が私を求めてくれたのは麻雀ができたからであって、麻雀以外の私自身には、
興味を持ってはくれないだろう。

だから、私は自分の感情を抑えることにした。
今のままで十分なんだ、ただ加治木先輩のそばに居られるだけでいい。
部活動の先輩後輩という関係のままで、それ以上は望んではいけないんだ。
私はそう決意した。


それからしばらくは、私にとって散々な日が続いた。
先輩のそばにいられるだけでいい、なんて決意していても、いざ部室に行くといつものように
先輩の姿を目で追ってしまう。先輩と話す機会があったら迷わず話し、少しでも先輩のことを
知ろうとする。
そのくせ思い出したかのように、目線を慌ててそらし、急に先輩と距離を置く。

一方では先輩とより親しくなりたい自分がいて、もう一方ではそれを否定しようとする。
そのひどく矛盾した自分の心がたまらなく嫌になってしまった。

家に帰り、ベッドの中に入ってもそのモヤモヤした気持ちは無くならず、眠れない日が続いた。
その間も、私の心は揺れ動き、落ち着くことはなかった。


そんなある日、授業が終わって放課後となり、部活動へ行く時間になった。多くの生徒が、急いで
教室を出て行こうとしていた。
しかし私は部室へ向かおうとせず、いすに座ったまま漠然と先輩の事を考えていた。

私は先輩に会いたくなかった。別に先輩が嫌いになったとかではない、今、会ってしまうと、
先輩への思いがあふれ、自分の気持ちが抑えきれそうにないからだ。

私にとって先輩は特別な存在だ。しかし先輩から見た私は、
ただの麻雀部の後輩、そう考えると、泣きたくなるくらい惨めな気分になる。

今の気分のままでは、とてもじゃないが部室にいるであろう先輩と顔を合わせられそうもない。 
私は自分の気持ちが落ち着き、普通に顔を合わせられるようになるまで、教室に残る事にした。
しばらくすると、睡眠不足のためか不意に睡魔におそわれ、いつしか私は机に突っ伏し、
眠りこんでしまった。


「モモ、起きろ。モモ」
私はいきなり誰かに肩を揺すられ起こされた。寝ぼけ眼のまま、私はそばにいる人物のほうへ
視線を向けた。目の前には加治木先輩が立っていた。
私の心拍数が急上昇する。

「加治木先輩、どうしてここに?」

私は慌てて立ち上がり、先輩に問いかけた。
すでに他の生徒は誰もおらず、私達二人だけが教室にいた。

「放課後になっても部活に来ていなかったからな。電話もしたのだが、繋がらなかったので
 直接探しにきたんだ」

先輩はそう私に伝えた。慌てて携帯電話を確認したが、確かに先輩からの着信が入っている。
どうやらすっかり眠り込んでしまったみたいだ。

「ずいぶんと眠っていたようだが、どこか調子でも悪いのか?
 ここ数日、少し顔色が悪そうだったが……」

先輩の質問に、私は心の動揺を悟られないように答える。

「最近、寝不足気味なので……少し疲れているのかもしれないっす」

その原因となる人物を目の前にして、私はできるかぎりなんでもないように答えた。
感情が高ぶり、意図せずに体が熱くなる。今日はいつも以上に気持ちの制御ができないみたいだ。 

「そうか。体調管理には気をつけて、早めに寝るよう心がけたほうがいいな」

先輩の言葉に対し、はいとだけ返事をした。私は先輩の顔に引きつけられ、目を離せずにいた。

「どうした、モモ?」

心配そうに私の顔を覗き込んでくる先輩を見ていると、ふと私の心に満たされない感情が
あふれ出てきた。
私はこんなにも先輩に対して思いを寄せているのに、当の本人は何も知らないでいる。
そんな先輩に対して、私の気持ちを伝えたくなった。
麻雀部の後輩としての「私」ではなく、あなたに恋焦がれている「私」を知ってほしい。 

私は自分の中からこみ上げてくる思いを抑えきれず、先輩の顔に自分の顔を近づけていく。
いきなり私の顔がすぐそばまで来たため、先輩は戸惑ったような表情を浮かべていた。

「いったい、どうし……」

先輩が何か言おうとしていたその口に、私は唇を重ねた。

ふとわれに返った私に、強烈な後悔が襲いかかってきた。私はなんて事をしてしまったんだ。
いきなりキスするなんて、どう考えても許される事じゃない。先輩に対する申し訳ない気持ちで
いっぱいになった。

私は呆然とその場に立ち尽くす先輩から逃げるように、その場を後にした。



ここ数日、どことなくモモの様子がおかしいとは感じていた。そして、いつもなら遅れずに
部室へと来ていたモモが、今日に限って遅刻していたこと、それと電話をしても通じなかった事に
不安を感じ、直接彼女を探しに教室へと向かった。
そして机で眠っていたモモを起こし、一言二言言葉を交わしたはずだ。

変わったことは何も無かったはずだ。それなのに、モモからの突然のキス、私は何が起こったのか
理解できずに、ただ教室から駆け出していくモモの背中を見つめることしかできなかった。

「なぜ、どうして……」

何かを考えようとしても、まるで思考がまとまらない。
全身が燃えるように熱い。特にモモに触れた唇が熱を持ち、否応なしに意識がそちらへと向かう。
私はしばらくの間何もできず、その場に立ちすくんでいた。


考えがまとまらない私は、ひとまず教室を出て部室へ戻ることにした。
あまり遅くなると、蒲原たちが心配してしまうだろう。
部室へと向かう間も、モモの事が頭から離れなかった。
部室の前に着き、私は一息ついた。できるだけ心の動揺を悟られないよう気を引き締めてから扉を
開け、部室へと入っていった。

「あ、ゆみちんおかえり。モモは見つかった?」

蒲原がいつも通りの顔で聞いてきた。睦月や妹尾も私のほうを向いた。
モモを探しにここを出たのが、ずいぶん前のように感じる。

「……あぁ、教室にいた。だが今日は来ないだろう……」

わたしはできるだけ平静を装いながら、そっけなく言った。
そうか、という返事を聞きながら私は席に着いた。

部活が終わり、妹尾と睦月が帰った後、部室には私と蒲原二人だけになった。

「ワハハ、どうしたんだゆみちん。さっきからずっと心ここにあらずって感じじゃないか。
 今日の麻雀もずいぶんひどかったよ」

蒲原が私のほうを向き話しかけてきた。

「いや、なんでもない」

私はできるかぎりいつも通りに答えた。部活中、私はずっとモモの事を考えていたため、
まったくといっていいほど麻雀に集中できず、散々なものだった。
蒲原はしばらく黙っていたが、おもむろに口を開いた。

「モモと何かあった?」 

いきなりモモの名前を言われたため、私は狼狽し、驚きの表情のまま蒲原の方へ顔を向けた。

「やっぱり」

蒲原がやれやれといった顔をした。

「モモとなにがあったかは知らないけど、今のゆみちんは、すごく思い悩んだ顔をしてるよ。
 それを察して、かおりやむっきーも足早に部室を出て行ったんだって」

どうやら自分では感情を表に出さないようにしていたつもりが、周りにはバレバレだったようだ。
妹尾や睦月にまで気を使わせてしまった事を知り、私はいたたまれない気持ちになった。

「最近はモモもどことなく様子が変だったからなぁ、ゆみちんも何かあったんじゃないかと
 心配したよ」

蒲原の口からモモという単語を聞き、そうだ、と私は思った。そもそもの原因であるモモが
なぜ私にあのようなことをしたのか私には検討もつかない。
そこで、とりあえず蒲原にモモの事を尋ねることにした。

「最近のモモに何かあったか知らないか?」
「いや、別に。ただ顔色も悪く、調子が悪そうだったけどね」

そのことなら私も気付いていた。確かに、ここ数日のモモはどことなく様子がおかしかった。

ただ、一応思い当たる節はあるんだけどね……」
「それはいったい何なんだ?」 

蒲原の返事を聞き、私はその理由を問いかけた。
蒲原は何かを考えるように少し視線を落とし、そして私の方へ向きなおり言葉を続けた。

「これは本来、私が言うべき事ではないと思うんだ、この考えが違ってるかもしれないし。
 だからモモに関することは本人から直接聞けばいいよ」

そういって、蒲原は話をやめようとした。

「なんか考えがあるんだろう?だったらそれを教えてくれ」

私は蒲原に懇願した。今の私には、どんな考えでもそれが知りたかった。

「じゃあ、質問に答えてくれる?この質問に答えられたら教えてあげるよ」

蒲原は真剣なまなざしで、次の問いかけをわたしに投げかけた。

「ゆみちんはモモを、モモはゆみちんを、それぞれどう思ってるのかな?」

私は答える事ができなかった。
私にとってモモは部活動の後輩、いままでそう思ってきたはずだ。
しかし本当にそうなのか?自分に問いかけるが、答えが出てこない。

またモモにとっても、私は部活動の先輩というだけなのだろうか?いやそれは違うだろう。
ただの先輩に、いきなりあんな事をしたりはしないだろう。私はモモからどのように思われている
のかなんて、考えた事もなかった。
いままで考えてもいなかった事に急に答えろと言われても、簡単には結論が出せない。

黙って思案している私に対し、
「これに答えられない限り、私は何も言えないよ」

蒲原は、ワハハと乾いた笑いを浮かべた。

これはゆみちんとモモ、2人の問題だからね。そう言って蒲原は部室を出て行った。
部室に一人残された私は、答えの見つからない問題を抱える事になってしまった。

家に着くなりベッドの上でうつ伏せになったまま、私は何もできずにいた。
先輩と別れてからここまで、どうやって帰ったかほとんど覚えていない。
覚えている事は、私が先輩にしでかしてしまった事だけだった。

どうしてあんな事をしてしまったんだろう。後悔ばかりが押し寄せ、自分自身が本当に嫌になる。
私は、自分が一番大切な人を、私自身で傷つけてしまった。
たった一つの居場所を自分の手で壊してしまったんだ。
そう考えていると、思わず涙が溢れてくる。もう先輩のそばにいることができない、そのことを
考えると、私の胸は張り裂けそうになった。

とにかく、明日の放課後にでも、先輩に会って謝らないといけない。
その結果、先輩から見放されたとしても仕方がない。
それだけのことをしてしまったのだから……

明日のことを思うと不安で体が震え、頭がいっぱいになっていった。



蒲原と別れた私は、部室を後にして自宅へと帰った。自分の部屋へと入ると、すこしは気が楽に
なる。そうしてから私は、蒲原に言われた事を考え始めた。

(私はモモの事をどう思っているのだろうか)

客観的に見れば、私とモモとは部活動の先輩後輩だろう。それ以上でも以下でもないはずだ。
しかしこの答えでは不十分だ、私自身が納得いかない。
第一に、睦月や妹尾たちとモモとでは同じ後輩だが何かが違う。何がどう違うのかは、自分でも
よく分からない。

考えてみれば、私達はかなり変わった出会い方をしている。
最初、モモの顔も名前も、そしてどんな人物なのかもまったくわからなかった。
ただその打ち筋に引かれ、なんとかして麻雀部に勧誘しようと苦心した。
その結果、1年A組乱入事件などというとんでもない事件を起こしてしまった。しかし恥ずかしさ
こそあったが、後悔は一切なかった。
自分が後先考えずにあそこまで大胆になれたのは、まだ見ぬモモを思ってのことだった。

モモが部活に入ってからも、私は何かとモモのことを気にかけていた。
それは自分が勧誘したからという理由以外にも、その存在感の薄さからくるはかなさが、
どことなく気になっていた事も挙げられるだろう。
モモと一緒にいるだけで、心がはずんだ。この感情は他の誰でもない、モモがそばにいるから
湧き上がっていた。

あらためてモモへの気持ちを考えてみると、おのずとその答えは浮かび上がってきた。
私自身、この気持ちに気付かなかった。
いや、違う。
いまの関係を壊したくなかったから、わざと気付こうとしなかったのかもしれない。
自分の気持ちに気付いてしまったら、臆病な私はそこで止まってしまい、動けなくなってしまう
だろう。

そして次に、モモが私をどう思っているのか考えてみる。私にいきなりキスをしてくるくらい
だから、好意を寄せているのは間違いないのだろう。私に対して、好意をあれほどストレートに
ぶつけてきたのはモモが初めてだ。放課後のことが頭をよぎり、思わず頬が熱くなる。
しかしモモの強すぎる好意に対して、素直に応じられない自分がいる。
これも、やはり私自身が恋愛ごとにひどく臆病なためなのだろうか。

はぁ、と私はため息をついた。モモへの気持ちに気付いてしまったため、モモと会うことを
恐れている自分がいる。こんなにも弱気になっている自分が、本当に嫌になってしまった。


翌日、私はあくびをしながら学校へと向かった。
昨日はモモの事を考えていたため、あまり寝れなかった。モモに会いたいという気持ちと
会いたくない気持ち、その両方が私の胸の中をかき乱していた。

授業もほとんど耳に入らず、もちろん自分の気分も晴れなかった。そのうち放課後の時間となり、
私は重い足取りで部室へと向かった。

部室には蒲原一人だけがいた。挨拶を交わし、自分の席へと座った。
他の部員は、また誰も来ていないそうだ。モモがおらず、ほっとしたようなそれでいて残念な、
矛盾した気持ちが私の中に湧き上がった。

「昨日言った質問の答えは出たかな?」

蒲原が何気なく問いかけてきた。

「ある程度はな」

短くそう答えた。蒲原の問によって、自分の中にあるモモへの気持ちがしっかりと認識できた。
しかしそれゆえ、私がこれから何をすればいいのか分からなくなってしまった。

「私はどうすればいいのだろうか?」

ふと蒲原にそう問いかけた。蒲原はすぐに答えを返した。

「ゆみちんが心に思うことをすればいいんだって。頭で考え過ぎなんだよ」
「後悔しないよう、自分の気持ちに素直になりなって」

蒲原の言葉を聞き、私の頭の中のモヤモヤが徐々に晴れていく。

(ああ、確かに蒲原の言うとおりだ)

私は臆病者だ、だからといってこのまま何もしないでいるのは嫌だ。
何も行動しないでいたら、せっかく見つけだした自分の気持ちを裏切る事になってしまう。

私の今一番したい事とは何だ?
決まっている、モモと直接会って話をすることだ。

「ありがとう、蒲原」

すばやく礼を言い、私はすぐに部室を後にした。

596 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2009/12/27(日) 06:34:38 ID:khEShGuL
はやる気持ちを抑えつつ、モモのいるであろう教室へと向かった。途中、玄関にある靴置き場へ
寄り、モモの靴があることを確認したので、おそらくまだ教室にいるはずだ。

私はモモと初めて会ったときの事を思い出していた。あの時もこうやって、モモのいる教室へと
足早に向かっていたのだった。
今思えば、あの頃からすでに私にとって、モモは特別な存在だったのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、ようやく1年A組の扉が視界に入ってきた。


私は教室の扉を開け、教室を見渡した。何人かの生徒の姿が確認できたが、その中にモモの姿は
見あたらなかった。
だが私は目を凝らして、モモの姿を探し続けた。すると教室の隅のほうに、ぼんやりとした影の
ようなものが見えた。
あのときはまったく見えず、気配も感じなかったモモの影が、今は少しだが見ることができる。
モモと一緒に過ごした時間によって、私自身成長したのだろうか。
私は迷わずにその影、モモのいる場所へと歩み寄った。

モモは戸惑いと不安の入り混じった、複雑な表情で私を見ていた。いきなり私が教室に入ってきた
事に驚きを隠せないでいるようだ。ここでは人目もあり、ゆっくりと話すことが出来ないので
場所を移す事にした。

「一緒に来てもらおう」

有無をいわさずにモモの手を取って、私達は教室を後にした。

どこか二人きりで話せる場所はないかと考えた結果、誰もいないであろう屋上へと向かうことに
した。廊下を歩いている間、モモは何も言わず私についてきている。
私の胸は高鳴り、モモとつないだ手がとても熱く感じた。


屋上には人影が無く、ひっそりとしていた。ここなら人目も無いだろう。
太陽を背にして振り返り、私はモモを正面に見据えた。
モモの顔はまぶしい陽光に照らされている。モモはいきなり教室から連れ出されため、
当惑しているだろうか、私から視線をそらしたままだった。

私は意を決し、まずは今回の発端となった事から聞くことにする。
なぜあんなことをしたのか、モモの口からその理由が聞きたかった。
私はモモに対し、その事を問いただした。

ああ、やっぱりそのことか、予想通りの問いかけに私の心が重くなる。昨日は先輩の前からすぐに
逃げてしまったため、何の謝罪や説明もできずにいた。今日だって放課後すぐに謝りに行こうと
思ったが、体が動かなかった。

昨日の理由を今から先輩に話さないといけない。理由を伝えるということは、自分の中にある
先輩へと思いを伝える事だ。そのことを考えるだけで私の身は凍りつく。
一度自分の気持ちを伝えて、そしてそれを否定されたら、私はきっと立ち直れないだろう。

けれど、先輩に謝るなら、今が絶好のチャンスだ。これを逃してしまったら、
次はいつ機会があるか分からない。
それに謝る機会を先延ばしにしてしまったら、もう先輩に会う勇気が出せなくなるだろう。
私は意を決して前を向き、太陽を背にして立つ先輩に対して、謝罪の言葉を口にした。

「ごめんなさい、先輩にあんなことをしてしまって」

私は自分の中にある気持ちを話し始めた。

「私は子供の頃から影の薄い子で、誰からも気付いてもらえませんでした。
だけど先輩は私を見つけてくれました。そんな先輩に、私は強く引かれていきました」

先輩が教室まで来て、私を求めてくれた時の事が頭をよぎる。
あの時からずっと、私の心の中には先輩がいた。

「だけど、思いが強くなるほど不安は大きくなりました。私にとって先輩は、かけがえのない人
ですが、先輩にとって私はただの後輩。先輩に、私の気持ちが拒否されたと思うと怖くて……」

だから自分の気持ちを抑えようともした。しかし、
「先輩への思いを絶とうとしましたが、それもできませんでした」

先輩に恋焦がれる気持ちと、諦めの気持ち。その二つの思いが葛藤し、歯止めが効かなくなって、
そうしてあなたを傷つけてしまった、そう先輩に伝えた。
先輩は何も言わず、静かに話を聞いている。

「先輩を傷つけた私が、こんな事を言う資格なんてないのは分かっています。けれど、私は先輩が
 好きです。これが私の正直な気持ちです」

先輩に謝罪し、自分の気持ちを伝えて言うことができて、すこしは気分が楽になった。

私からは逆光となり、先輩の表情をうかがうことはできなかった。けれどそれでよかったのかも
しれない。もしも先輩から嫌悪の表情で見られていたら、私は耐えられなかっただろう。
すべてを伝え終えた私は、先輩の言葉を待った。

しばらくして、先輩が話を始めた。私は先輩の顔を見る事ができず、目線を落としていた。

「昨日の事は私もずいぶんと驚かされたし困惑した。予想だにしていないことが
 起こったんだからな。その事で、色々と考えなくてはいけなかった」

 先輩を困らせてしまった事が何よりもつらい、先輩の言葉が胸を締め付けた。
しばらく間を置いてから、先輩が口を開いた。

「だが結論がでた」
「モモ、私は君が好きだ」

突然の事に驚き、私は一瞬先輩が何を言ったのか理解できなかった。
あんな事をしたのだから嫌われて当然のはずなのに、先輩はまったく逆の言葉を私に投げかけて
いる。私はあわてて顔を上げ、先輩の方へ顔を向けた。
戸惑っている私に対し、先輩は言葉を続けた。

「私は自分自身がモモの事をどう思っているかなんて、考えたことも無かった。
 しかしいざ考え始めるとその答えが分からなくなってしまったんだ」

「そして、真剣に考えた結果、私自身の気持ちに気付いたんだ」

 先輩は少し恥ずかしそうにしながら、しゃべり続ける。

「自分でもその気持ちから目を背けていた。私は、自分の気持ちを知る事が怖かったんだ。
 自分の気持ちに気付いてしまったら、私自身が抱く感情に整理がつかずに、何もできなくなる
 だろう」

 私は本当に臆病者だ、そう先輩がつぶやいた。

「今でも頭の中の整理がつかず、考えがまとまらない。しかし、自分の心が何も求めているかは
 はっきりと分かる」
「これからも私のそばにいてくれないだろうか?」

先輩が真剣な眼差しで私をみた。少し照れているのだろうか、その頬が赤く色づいていた。

私の答えは一つしかない。

「はい、こんな私でよければ」

私の目から、涙が自然にあふれ出てきた。
先輩は静かに、私に向かって微笑みかけていた。


涙がおさまり私が先輩の瞳を見つめると、先輩も私を見つめ返してくる。
黙っていても、お互いの気持ちが伝わるのを感じた。
自然と私たちの距離が近づいていく。

先輩の顔がすぐそばまで来て、目の前でそのやさしげな瞳が静止する。
そうして、私たちは唇を重ねた。

初めてのキスはほろ苦く、悲しい思いをしてしまったが、二度目のキスはとろける
ように甘く、幸せな気持ちが私達を包みこんでいった。

終わり

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最終更新:2010年01月11日 02:32