36 ラブストーリーは突然に~製作の裏側~ [sage] 2010/01/12(火) 21:01:34 ID:ljNJKEim Be:
正直驚いたよ。だって、あのゆみちんがだよ?
恋愛にはまるで興味ありませんって顔してるような奴が、自分から告白するなんて。
でもさ、私は思うんだよ。相手間違えたんじゃないかってさ。
私はてっきりモモに告白したんだとばかり思っていたから、もうちょっとで命が危なかった。いや、本当もうマジで。
ゆみちんとモモに交際記念に赤飯を渡したら、モモから普段存在さえも感じられないモモから黒い何かが見えたんだ。
私はこのとき悟った。モモには絶対逆らわないって。
だってあれ、本気で怖かったんだぞ!?
それからゆみちんに詳しく聞いてみると、相手は清澄の部長だってことが分かった。
まぁ、でも、ゆみちんが興味持つのも分からなくはない。あの打ち筋、正直私は翻弄される一方だった。
あんな悪待ちをするなんて、牌譜のデータとかでは見た事はあったが、まさか直接見るなんて思わなかったからだ。だからこそゆみちんは興味を持ったんだろう。
でも、私の考えが正しいなら、あんまりあの二人では恋人っぽくならない気がするんだ。
その考えは案の定、当たっていた。
「ゆみちん、付き合ってから会うどころか、一度も連絡してないってマジか?」
恋人っぽいとかそれ以前の問題だったか。
「何か問題だったか?」
あーうん。まぁ、あんまり連絡してないってのは予想してたから、そこまで驚かないけど。
「まぁ、付き合い始めたばかりなら毎日とは言わないけどさ、二日に一回くらいはメールとかするものじゃない」
「そうか?」
「うん。まぁ、ゆみちんがいいならいいけどさ」
これってモモ的にはかなりいい感じなんだろうな。
怖いから聞かなかったけど、凄い怒ってたし。
「センパーイ」
ああ、噂をすればってやつか。
「部室に居るなんてどうしたんっすか?もしかしてデートのお誘いっすか!?」
こう言う時のモモは本当に存在感がマイナスだなんて思えないな。
「モモ。今日の授業は午前中だけだから、久々に特打でもしようかと思ってな」
「あー、そうなんすか?でも、今日は部活ないんっすよ」
「ないのか?」
「はいっす。今日はムッキー先輩もかおりん先輩も用事があるとかで」
「そうだったのか。それなら仕方がないな。今日は帰るか」
帰ろうとするゆみちんを、モモは腕に抱きつき引き留める。
「せっかくだから先輩とお話ししたいっす。ダメっすか?」
上目遣いで見上げるモモは、私でもきゅんと思わずなるほど可愛い。
ゆみちんも少し頬を赤らめて、席に座りなおす。
「ああ、そうだな」
それから私は二人の会話を黙って聞いていた。
何て言うか、自分は存在しない気持でその場に居た。
適当に牌譜を見て、話し終わるのを待っていたんだけど、その話題には思わず聞き耳を立ててしまった。
「先輩、清澄の部長さんと付き合ってから一度も会わないなんてありえないっすよ!?」
そうだモモ言ってやれ。
「しかも連絡すらしないなんて、ダメっす!」
私だったら毎日連絡するぞ。
「先輩今日は予定がないんっすよね?」
「ああ」
「なら今すぐ清澄の部長さんに会いに行くっす!」
「会いに行く用事がないのにか?」
「このチケットをあげるっすから、今すぐ清澄の部長さんに会いに行ってください!」
あれ?モモは二人の交際に反対していたんじゃ?
「これは?」
「映画のチケットっす。ほんとは先輩と見に行こうと思ったっすけど、そう言うことなら話は別っす!!」
そして、ゆみちんにデートの秘策とやらを伝授してモモは送り出した。
「モモ」
「なんすっか?元部長さん」
私の名前覚えてないのかな?
「なんでゆみちんにあんな事言ったの?」
「あんな事?」
「清澄の部長とうまくいくようにしただろ」
「ああ、その事っすか」
「モモはゆみちんが好きなのに、なんで応援するような真似をするんだ?」
「……別に応援した訳じゃないっすよ」
「誰がどう見ても、応援したようにしか見えないと思うけどな~」
出なければ、何か企んでいるのか?
「加治木先輩が恋愛体質じゃないのは、最初から分かっていたっすから。ただ、あそこまで反恋愛体質の人も珍しいっすけど」
「それは言えてるなー」
だてに高校三年間一緒に居た訳じゃないから、ゆみちんの恋愛記録は多少知っている。
「ゆみちんは付き合っても、自分から距離を縮めようとはしないし、相手が浮気をしようが約束をすっぽかそうが怒らない」
そう言うのは大人と言うよりは
「まるで興味の持てない子供っすよね」
「だなー」
まさにその通り。
「先輩優しいっすから、基本的には紳士的な態度でデートとか過ごせると思うっすけど、特に恋人って気はしないっすね」
そうそう。特別って気がしない。
「先輩と付き合う人は間違いなく毎日不安に過ごす事になるのは明白。それは将来の私になりかねないっす」
はい?モモ?
「あの、モモさん」
「何っすか?」
「どういう意味でしょうか?応援してたんじゃ?」
「応援なんてしてないって言ってるじゃないっすか」
「じゃあ一体さっきのは」
「清澄の部長さんには悪いっすけど、先輩の練習台になってもらうっす!」
「すいません。よく分からないんですけど」
「先輩の反恋愛体質を克服するのは容易ではないっすけど、それを意識する事で幾らかマシになるはずっす」
なるほど。確かに。ゆみちんは自覚がないからあれだけど、自覚させれば改善される可能性は高い。
「だけど付き合っている相手からそれを言われてやるのは結構精神的に疲れるっすから、今のうちに先輩を自分好みに清澄の部長さんを使って育ててみせるっす!!」
ああ、ある意味効率のいいやり方だ。
付き合ってったらお互い遠慮して言えない事もあるけど、友人とかなら遠慮せずにあーしろこうしろって言えるもんな。
それで、実行してくれるなら自分の番の時要求しやすいし。
ん?自分の番?
「モモ、ゆみちんの事諦めたんじゃ?」
「そんな事ある訳ないっす。今は清澄の部長さんに貸すだけっす。隙あらば返してもらう予定っす」
「そっか」
「それに清澄の部長さん。もしかしたら不幸な事故が起こるかもしれないっすし、ね?」
怖い!怖すぎる!何だ!?あの黒いモヤモヤしたものは?
モモの背後からどんどん出てくる。
不幸な事故ってそれを使って何かする気じゃ……考えるの止めよう。
私はそこで思考を停止させた。
これ以上は恐ろしくて考えたくもなかった。
「モモ、この間はありがとう。おかげで上手くいったよ」
「それは良かったっす。またいつでも、聞いてください」
「そうか?ありがとう。実は聞きたい事が――――」
嬉しそうにデートコースやイベントの日の事を話すゆみちんとモモ。
そのモモのお尻辺りには黒い尻尾が見える。
「色々参考になった。また相談に乗ってくれ」
「はいっす。何時でも相談に乗るっすよ」
「ゆみちん。そろそろ、五限始まるよ」
「ああ、すまない。蒲原。じゃあなモモ」
「またっす」
教室へと向かう途中嬉しそうなゆみちんを私は直視できない。
「そんなにデートはうまくいったんだ?」
「ああ」
「そっか」
私はゆみちんに言えなかった。
だって、幸せそうなゆみちんと、背後に黒い何かを背負ったモモがあまりにも怖かったから。
ああ、親友よ。出来れば永遠に君が幸せであるように。
最終更新:2010年02月23日 07:09