※少しグロ目の表現があります。苦手な方は注意して下さい。
「センパイガ、ワルインスヨ…」
手にした包丁を突き立てる。
『ゆみ──』『久か』
合同合宿でモモの知らぬ間に下の名前で呼び合うようになっていた二人。
「ユルセナイ…センパイ…センパイ………カジキ…」
カジキと呼ばれた”それ”に、もう元の面影はなかった。
ただの赤い物体へと成り下がったそれは、包丁を握り締めるモモの前に横たわっていた。
「フフ…ハハハハハハ………」
狂気にでも駆られたのか──凶刃はあろうことか今度はモモに向いた。
「ゥ…クッ…」
呻き声が上がる。包丁は何か固い物に当たって止まっていた。それを力づくで叩き切る。
切り離されたモモの一部。塊だったそれは何度も斬りつけられ、やがてただの欠片となった。
『昨晩仲良くなってな』
「ユルセナイ…ユルセナイ…ユルセナイ……」
まるで嫉妬の炎に自身も焼き尽くさんとするように──駆られるままモモは火を付けた。
「先輩、お弁当作ってきたっす。今日は”カジキのソテー 桃ソースがけ”っすよ」
弁当のおかずにしては手の込んだ大作だ。しかし──
「…あ…モモ。気持は嬉しいんだが、私は…その…カジキがどうも苦手で…」
カジキに何か親近感でも覚えてしまうのか、かじゅはカジキが食べられなかった。
「好き嫌いはダメっすよ。はい、アーン」
微笑むモモ。しかし──目がまったく笑っていない。
「……先輩……あーん。………あー…ん……」
……ああ、そういうことか。カジキのソテーを前にかじゅは悟った。
モモはかじゅがカジキを苦手にしているの知っていた。知った上での確信犯だ。
「モモ…まだ合宿のこと怒ってるのか?」
「怒ってなんかないっすよ。怒るような事なんてなかったじゃないっすか?」
清々しいほどの棒読み。絶対に怒ってる。絶対に怒ってるって……。
返事の代わりにモモの手の中で箸がミシっと悲鳴を上げた。
「…あ、あの…モモ…本当にすまなかったっ!!でも私は何もやましいことなんて…」
「何を謝ってるんすか?変な先輩っす。あはは」
モモの笑顔が怖い。
かじゅには断末魔を上げている箸と、この後の己の運命が重なって見えたという。
「う…。も、もうモモに黙って誰かと会ったりしないから、絶対にっ!お願いだから許し──」
「…ぷっ……あははははっ」
「───?」
「本当に怒ってなんてないっすよ」
「……モモ?」
「でも、ちょっとだけ意地悪したくなっちゃったっす。ごめんなさい、先輩」
「……よ、よかっ…た…」
安堵の溜息をつき脱力するかじゅ。そんなかじゅにさっきとは別の弁当箱が差し出された。
「こっちが先輩の本当のお弁当っすよ。先輩の好きな物たくさん入れておいたっす」
「──ありがとう、モモ」
「はい、先輩。アーン」
「……あ、あーん」
何度やっても慣れずに顔を真っ赤にするかじゅと、
そんなかじゅを何度見ても、飽きることなく幸せそうに笑うモモ。
今日も鶴賀学園は平和だった。
「あ…でも先輩」
「──ん?」
──浮気なんてしちゃダメっすよ?
最終更新:2010年03月20日 16:39