803 名前:ひと夏の経験10[sage] 投稿日:2010/04/19(月) 23:59:12 ID:0QikPTmg
―♪誰でも一度だけ経験するのよー誘惑の甘い罠ー♪―
旅行当日。桃は百さんの歌をマスターし、口ずさめるようになっていた。
(こ、今晩、経験しちゃったりするんすかね…せ、先輩と。ふぉぉぉ…)
「桃子」
「せ、先輩…」
「可愛いぞ、桃子」
「そ、そんな恥ずかしいっす…」
「恥ずかしいことなんかないぞ、お前となら」
「ああ、先輩、ああん…(って、あう。妄想だけでまた鼻血が…。ティッシュはと…。
ううっ、これって病気なんすかね。こんなんじゃ、今晩、先輩と経験できないっすよぉ)」
朝五時から無駄に元気な桃であった。
ちょっと早めの待ち合わせ、行きの電車でゆみは思い出話を、桃はクラスでの話をした。
海でのひと時を過ごし、宿の夕食は「先輩あーん」「あーん」とお刺身の食べさせっこをして、
楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。
二人は温泉から上がると、並べて敷かれた布団にそれぞれの想いを抱き横になった。
「桃、寝たか?」寝ていないのを承知で、ゆみが話しかける。
「いいえっす(寝られるわけがないっす。夜はこれからっすよ!)」興奮気味に返事をする桃。
「今日は楽しかったな」そんな桃の様子に気づかず、ゆみは続ける。
「はいっす(先輩、これからもっともっと、もっともっと楽しく…)」桃は気合い十分だった。
「あの返事なんだが」話の風向きが変わり、「何のっすか?」ちょっと桃の気がそがれた。
「大会前に私に聞いただろう。県予選が終わったら、一緒にいる意味がなくなるのかと。
あの時、私は答えることができなかったからな」思い出話をするようなゆみに
「…そんなの、今一緒にいるのが返事なんじゃないんすか?それに、これからも部活に
来てくれるって。ずっと先輩と一緒っすよ」なーんだというように桃が答える。
「そうだな。あの時から状況が変わったしな。桃も声をかけてくれるクラスメイトが増えて
嬉しいと言っていただろう。桃。お前はこれから、もっと色んな人と付き合っていけるんだぞ」
「先輩?ちょっと、待ってください。何すかそれ…」桃は今の話のどこにゆみの本心が
あるか分からず、それまで握っていた手を急に離されたような気分になった。
桃のゆみに対する感情は愛情には違いなかったが、それは子供がいつまでも手放せない
手触りのいい毛布を心のよりどころにしているのに近かった。
今、「もうお姉ちゃんなんだから」とその毛布が取り上げられようとしているのかもしれない。
愛というにはまだ幼い感情。それは相手を思う余裕のない激しい感情であった。
「桃、私はな…」ゆみの次の言葉を聞くのが怖くなった桃は、処女の血を欲する
ヴァンパイアよろしく、噛みつかんばかりの勢いでゆみの首筋にむしゃぶりついた。
「わっ。ま、待て。どうした?そんなにしがみつくな。苦しっ、いたっ、痛い。
ええい、やめんか!ばかもの!」柔らかい首筋を思いっきり吸われたゆみはたまらない。
桃の頭を両手で挟むと、手のひらにぐぅっと力を込めた。
「あ、あたたた…。あ、頭が…痛いっす。せ、先輩…」桃がゆみの腕を2、3回叩き、
タップアウトを伝える。
「痛いのはこっちだ!お前は男子中学生かぁぁ!ハアハア」息を荒げ、ゆみが突っ込む。
「…そうっすよね、私なんか、もういらないんすよね…はは…」ユラリ
ゆみに拒否されたショックで、突っ込みも耳に入らない桃がステルス化しようとした時、
「こら、待て!桃、桃!消えるな!」ゆみは消えかけた桃の手首をつかんで、グイッと引き寄せた。
「せ、先輩…」ゆみに引きとめられた安堵感から、桃の目は涙が溢れそうになった。
「そんな鼻血まみれ顔でどうする気だ。ほら、ここを押さえて待っていろ。
いいか、消えるなよ」桃の顔からは、涙が溢れる前に鼻血が溢れていた。
ゆみは桃に消えないように念押しをして、ティッシュで鼻血を押さえさせる。
濡れタオルを持ってくると額から鼻にかけて冷やし、息ができるように、鼻の少し上を
つまむように押さえた。
「まったく、お前のおかげで、鼻血の処置が上手くなってしまったぞ。はっはっは」
「ほ、ほーふか。へんぱい…」「しばらく喋るな」ゆみが優しく桃を制し、
「ふぁ、ふぁいっふ」「何を言っているか分からんな。ははは…」優しく笑った。
「ファファ…」ゆみの笑い声を聞いて、桃も安心したように一緒に笑った。
「先輩、何もしないので抱かせてくださいっす。」鼻血の止まった桃が懲りず言うので、
「………桃、日本語がおかしいぞ」呆れたゆみは軽く突っ込んだ。
「抱っこだけでいいんす。今日は、暴走した自分が悪いすから」
「………しょうがないな。抱っこだけなら…。桃、無茶をしたら次はグーだぞ」
何もしないと言ったが、桃はゆみの首に腕を回して抱きつくと「えへへ」と小さく笑い、
ゆみの頬に頬ずりを始めた。甘える桃は愛おしく、ゆみは優しくその黒髪を撫でる。
(久、美穂子、すまない。特訓は役に立たなかったようだ。どうも私はされる方らしい)
そう思うと、ふいに唇に久の首筋、てのひらに美穂子の胸の感触がよみがえった。
(ふっ、何をバカな…私には桃が…)
先ほどの殺気立った様子は消え、「せんぱーい」と自分の身体にまとわりつく桃を見て、
(しかし、この調子では桃とはしばらく…私はしくじったのかもしれんな…はぁ)
ゆみは心の中でため息をついた。
翌朝、首筋に赤を通り越して青痣になったキスマークを発見したゆみは、罰が当たった気分になった。
おまけ
「ねぇ、ゆみに揉まれてどうっだった?」久がからかうように聞くと
「な、何を…」美穂子は固まった。恐ろしくデリカシーのない質問なのは久も承知している。
「な、なら、久だって」思いがけず美穂子が反撃に出たが、
「なぁに?」と、あっさりとぼける久。
「そこ」ほんとはつねってやりたい鎖骨のキスマークにそっと触れると、
「あはは、わかっちゃった」白々しく笑い飛ばされた。
「ねぇ、いつかさー、ダメ?」
「えっ、今はまだ…嫌です…」
「だったら、美穂子もしてくれなきゃ、ね」
「そ、そんなこと…言われても…」
「えー、じゃあいいでしょー。一番は美穂子なんだしさー」
「もー久のばかー!欲張り禁止!です」
<了>
最終更新:2010年05月26日 04:24