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965 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2010/05/09(日) 01:01:32 ID:ngWRYUL+

 「照、お前は美しい」

美しいといわれて気分を害するほど性根はひねくれ曲がってないつもりだ。
だが、いきなりベッドに押し倒されて、鼻先で言われるというシチュエーションでは正直微妙だ。

相手は同じ部屋の同級生。無論同性でさっきまでは至って普通の、友人といえるくらいの間柄。
このように突然の求愛行動に出るような人間だとは思ってなかったし、ましてや性愛としての好意を抱かれているとはまったく気づいてなかった。
長く、きらきらと輝くストレートの黒髪は、やや癖っ毛の猫っ毛である私には羨ましい限りであった。
今その黒髪は私の身体を縛り付けるかのように覆いかぶさり、私の両手首はこの女によってベッドに押し付けられている。
刻一刻と近づいてくる唇と吐息に、私の胸は急激に上下運動のペースを上げ、体中の循環が良くなったためかひどく暑い。

天井の照明が視界から消える。
押し倒して唇を奪おうとしている人間にしては、随分と辛そうな顔をしているじゃないか。
今にも泣きだしそうだぞ、お前。
私の視界もいきなりぼやける。
あぁどうやら私は先に泣いてしまったようだ。

「私には…咲がいるんだ…」

もう随分と長いこと連絡が取れない、取っていない妹の名前が唇から滑りだす。
なぜだろう。
こんな時に言う台詞じゃない。
どうやら動転してろくでもないことを口走っている。
思わず目を閉じる。
嗚咽が漏れる。
胸の辺りが苦しくてたまらない。
人の見ている前で泣きたくなんてないのに。

火照った頬に冷たい感触を感じて、閉じた目を開いて目の前を見る。
泣き顔だった。
そんなに悔しそうな顔で泣くなよ。
私だって泣きたくて泣いてるんじゃないんだ。
こっちは喉の奥がひりひり痛くて声も出ないんだ。
両手を離してくれ。
一刻も早く胸の真ん中にぽっかり空いた穴を埋めたいんだ。

赤ん坊のように泣きじゃくる私を見飽きたのか。
私はようやくと一人になってベッドのシーツにくるまって泣き続けた。
何故あんなことを口走ったのか。
何故私は泣いてしまったのか。
皆目見当もつかず、だからこそ涙を止めることもできず、私はずっと泣いていた。

(了)

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最終更新:2010年05月26日 04:51