「初恋リベンジ」
えーっと。ええーーっと?
ベッドで頭を抱えながら、ぐるぐる考える。
え、なん、何でこんなことに……
いや思い出せなくはないんだけど、ろくな事が思い出せない。
隣で寝てるしずを、そっとうかがう。
顔とか涙の跡でぐちゃぐちゃだし、あと、
何て言うか、その……
ど、
「どうすんの……これ」
朝ご飯食べて部屋に戻って、すぐ携帯をひっぱりだした。
8時か。うん、時間はこんなもんだよね。
しずの番号を開いて、じっとディスプレイを見つめる。
繋がるかな……誰かと麻雀やってたり山で息抜きしてたりするし。
いや、でもまだ朝だし、大丈夫なはず……
「あーもう!」
いつもはこんな緊張しないんだけど。
ちら、とカレンダーに目を向ける。
「……」
って、考えててもしょうがないか。
――いけ、いっちゃえ。
そう気合いをいれて、通話ボタンを思いっきり押し込んだ。
「こんちわー!」
窓の外からしずの大声が聞こえて、鏡台で髪いじってた手を止めた。
……時間切れか。
一つ息を吐いて、玄関に向かう。
まあ、こんな一生懸命見た目整えたって、しず気づかないだろうし。
玄関を開けて、待ってたしずに言った。
「大声で呼ばなくても、チャイムあるってのに」
「あれ、おばさんたちは……って、そいえばお仕事か」
「まあねー、上がって上がって」
「おー」
しずがてくてくあたしの部屋に向かうのを、そっと目で追いかける。
鼻歌ふんふん歌いながら、小さな肩をふらふらさせて歩く――
……こいつ、ホント小学生の時から変わんないな。
小学生。小学生の、時は……
「憧、どうかした?」
視線感じたのか、しずがこっちを見て、不思議そうに首をかしげる。
あ……ちょっとドキッとした。
「ん、ごめん。なんでもない」
そう、そうだ。こんな感じだったっけ。
ぼんやり思いながら、胸を押さえてみる。
小学校のとき、しずのこと好きだったから。
走り回ってるしず見ながら、こんな感じに胸が痛くなってた気がする。
中学のときだって、あたし、ずっと……しずのこと……
――いやいや。
あたしの部屋を開けようとして……横でぴょんぴょん跳ねてるしずに、何となくデコピンしてみた。
「いた、な、なにすんの」
「おちつけっての」
うんまあ、ウソだよね。そうだったら素敵だと思うけど。
実際は、中学3年どころか、2年保ったかどうかも分からない。
いつの間にか、しずのこと、あまり思い出さなくなってたくせに。
ホントに好きだったのに。しずのこと考えるだけで、ドキドキしてたのに。
「淡い想いって……いうしね」
「え、何か言った?」
軽く肩をすくめる。
「なんでもないってば」
あたしはそう言って、しずの背中を押して部屋に押し込んだ。
よかった。もう一度好きになれて。
だから今度は、
「よし、ツモ」
「え、もう?」
二人並んで、ベッドに座りながら携帯ゲームをピコピコいじる。
何だかんだで、最近そんな簡単には勝たせてくれないな。
「ふ、私が勝ったらマッサージでもしてもらうか」
「はいはい、罰ゲームね」
マッサージなんて別に大したことないけどさ。
……ただのゲームだし。ふん。
二人対戦で残りはCPU。次局もすぐに始まった。
「そーいえばさ」
しずが、難しい顔で画面を眺めながら言った。
「今日、よかったの?」
「え、何が?」
「だってほら、あれ」
画面に目を向けたまま、壁に貼ってあるカレンダーを指す。
「今日んとこ、何かでっかい赤丸ついてるけど」
「ああ、あれ」
あれはね。
うん、とても、とても大事な予定。
っていっても、日にち自体は適当に決めたけど。
それで、毎日、毎日、指折りながら数えてた。
「……別に大した用事じゃないけどね。家の手伝いがあったんだけど、結局流れちゃってさ」
「ふーん?」
生返事。しずは捨牌考えるのに没頭してるみたいで、画面から顔も上げない。
ちら、とベッドに目を落とす。
女の子とするのは初めてじゃない。
今度は、
今度こそ、刻んでやるんだ。あたしと、しずに。
こんな風にドキドキしてたって、簡単に消えちゃうんだから。
ひょい、と隣のゲーム画面をのぞき込んだ。
「しず、その九索、いらないんじゃない?」
しずは弾かれたように顔をあげて、慌ててゲーム機を抱え込む。
「ちょ、何見てんだよ」
「だってさー、しず、なっかなか捨てないだもん」
ぴん、としずのゲーム機を弾く。
「ちーちゃん(CPU)とあみちゃん(CPU)とあたしはいいけど、普通そんな待ってくれないじゃん」
「でも憧、この牌待ってるんじゃないの?」
首をかしげながら、しずが自分の画面を指さした。
「え、ううん。別に。まだ手、できてないし」
そういって、持ってるゲーム機をぷらぷら振ってみせる。
「なんだそっか。んじゃホイっと」
「はいロン」
「へ?」
……何でほんとに捨てちゃうかな。
シャカシャカ鳴りはじめたゲーム機を、しずに見せてやった。
「混老頭ね」
「……」
「あと役牌とドラ3」
しずのゲーム機は、悲しい音楽とともに慰めの言葉を垂れ流している。
呆然とした表情でこっちを見るしずが、あれ……何かぞくぞくしてきた。
あたしは、ぽん、としずの肩に手を置いて、
「しず、あんたチョロすぎでしょ。もうちょっと、」
……ん?
あれ、しずの肩、何かぷるぷる震えてるんだけど……
「かっ……」
「え、えーと…しず? そ」
「帰る!」
しずは真っ赤になって立ち上がってえええええ、まずいやりすぎた!
「ちょちょちょ、待ってよほら、ゲームだし! それに大会でも色々喋ってくる人いるかもしれないじゃん!」
慌ててしずの腕をひっつかんで言ったけど、
「んなこと、あるわけないだろ! お前ぐらいだよ!」
振り払われた。
えーとえーと、どうしよう帰られたらせっかく色々心の準備してたのに、
「い、いやいや、分かんないよ? 大体、この前だってハルエに煽られて振り込んでたじゃん。オリときゃいいのに」
「あれはっ、」
しずの目が、ふらふら泳いだ。
「あれは……赤土さんがイジワルなんだよ」
拗ねたようにそう言って、しずはあたしのベッドにダイブした。
はぁ……よかった。セーフセーフ。って、本気で帰るつもりはなかったと思うけど。
「……」
でも、顔、上げてくんないな。
ポニーテールに、ちょいちょいと指を絡めてみた。
別に意味はないけど……でもしず、触られると宥められちゃうことが多いような気がするし。
「もー、ごめんってば」
「ふん」
「人の、ベッドの上、で、拗ねなくても、」
しずの髪にくるくる指を絡める。
あれ。だんだん、息が苦しくなってきた。
細い、小さなしずの指が、さっきから気になって仕方がない――
うつぶせたまま、私の布団をこすって、軽く握る、しず。しず、の、
「……ほらしず、そろそろ起きてよ」
あんたは全然知らないだろうけど……二人でベッドに座ってたときから、もう体温が上がってたんだよ?
ふらふらと、しずのほうに手を伸ばすのが分かった。自分じゃない誰かが勝手に動かしてるみたいだった。
『もー、しず、そんなとこ入ったら危ないってば!』
子どものころの……そう、しずに誘われて山まで付き合って、
「あーもう、罰ゲームかー。何すればいいの」
「……え?」
しずの声で、ふと我に返った。罰ゲーム?
もう気が済んだのかな。あくびしながら、のろのろ身体を起こしたしずだけど、
「ひきょーな手で勝っても、勝ちは勝ちだしさー?」
う。まだダメっぽい。
「……機嫌、直りそう?」
「あとちょっと」
少しとんがらせた口元と、うーんと唸って身体を伸ばす、仕草、の――
くらくらし始めた頭を、軽く押さえた。
って、罰ゲームか。もう、しずもたいがい律儀な……あ。
これ……チャンスじゃない?
「そーだなぁ」
声が、すこしかすれてるのが分かった。しずも目をちょっと開いてこっちを見た。
「あの、ほら、ジュースぐらいなら買ってきてやってもいいけど」
あの時は、結構…山の深いとこまで入ってって……しずは慣れてたみたいだけど、あたしはちょっとだけ怖かった。
しずと二人きりだったから、ドキドキして胸が弾んで、帰ろうなんて言わなかったけど。
「いやいや、麻雀で負けたら、やっぱあれでしょ」
「……え」
よし、ほら。ちょっと冗談っぽい感じでいけば。なんとか。よし。
少し前から身体が熱くなってたけど、何かもう、普通に熱出したときと同じ感じになってた。
びし、としずを指さして、言った。冗談っぽく。
「脱げ」
しずは何言われたか分からなかったみたいで、ぽかーんと口を開けて固まっ……あれ?
えと。あたしは……どっちかと言えば、川で遊ぶほうが好きだったかな。
でも、二人きりの山の中で泥だらけで笑うしずも、あたしはすごく、
「あ…、と? いつも人指さすなって言ってるくせ、に……、じゃなくて、え?」
『だから、指さすな!』
『もー、憧はいつもうるさいんだよ』
そう、昔から言ってる。全然直らないんじゃん。
「って、あはは、へ、ヘンなゲームじゃないんだし」
「そだね、一回負けただけだから一枚でいいよ」
「いや、だって一枚脱いだら私、ほら」
真っ赤になって、ぎゅーっとジャージを下に引っ張って言う。
多分、下はいてないのが恥ずかしくなってきたんだと思う。
脳みその、削れちゃダメなところがどんどん削れていく。
「人の部屋で、くつ下脱ぎ散らかすの止めてっていつも言ってるでしょ。聞かなかったしずが悪い」
「だから、ほらジュース買ってくるから! わ、私が脱いだって仕方ないし!」
そんなこと全然ない。
「ジュースなんて冷蔵庫に入ってるからどーでもいいって。ほらほら、さっさと脱いで見せてよ」
わたわた慌てるしずの肩をつかんで、ベッドの上に引き倒す。
「……っ、あ、憧!?」
「ま、勝ったら返してあげるから」
「素っ裸で麻雀って!」
しず、体力バカだけど、腕力そんなあるわけじゃないんだよね。ちっちゃいし。
押さえつけて馬乗りになるまで、そんな苦労しなかった。
「だ……なん、なんで私の裸なんか見たがるんだよ! 昔は川なんかでほら、よくびしょ濡れになってさ、あの」
川の方が好き……あれ、昔もしずの裸見て嬉しかったり……
いや、いやいやいや、それはないっしょ、さすがに。
「わ、わかった、わかったよ! 脱ぐから! 自分でするから!」
なんか言ってるみたいだけど、もう何かあまり聞こえないっていうか、右から左に音波が通ってるような気はするんだけど。
そういえば、山いってしずが怪我したとき、暴れるしずをこんな風に押さえて何か消毒液塗ってやったことがあったような。
オキシドールだっけ、お医者さんごっこのノリだったかもしれない。憶えてないな……
あたしの手が、しずのジャージにかかるのを見ながら、そんなことを思う。
「あのさ。こんなの、別にたいしたことじゃ…そう、たいしたことじゃないんだよ?」
「なに、なにが!?」
……ひょっとしてこれ、あの時着てたやつとかじゃないよね。
さっきから、あの日の川の流れる音とか、二人で山に入ったときの鳥の声とか、そんなんばかり聞こえるけど。
結構本格的に暴れ出したしずはどうでもいいけど……なんだか思ったより、脱がせるのが難し、い?
「う……」
んなわけない。だからあたし、こういうの初めてじゃないし……いや、ていうかジャージだし。
でもしずは初めてだから、大げさにとるじゃない? そしたら結構あたしでいっぱいになって……。
「憧、憧、ちょっと聞いてる!? だから自分でやるって! ちょ、ちょっと」
あ。思い出した、山から戻った後、オキシドール借りてきて塗ったんだ。
だって涙目で見上げてくるしずって、肩も背も小さくて、髪型も服装もあの時と一緒、で……
「ジャージ……」
「え、…ええ?」
「ジャージとか。なんでこんなの着てるかな……」
「だ、だから他に服なんて持ってないし……? え?」
目をぐるぐる回したまま、しずがワケが分からないって感じでそんなことを言った。
「ふ……」
ゆっくり、息を吐く。一回、二回、三回。
思ったよりは簡単に、しずの服から手を離すことができた。
「……?」
「あー、もう」
目に涙を浮かべたまま、不思議そうに首をかしげるしずに、何とか声を絞り出す。
「ってね。驚いた?」
……無理!
やっぱ無理だ。なんでこんな変わらないんだこいつ!
「驚い…って……」
「冗談に決まってるでしょ」
「は……はあ!?」
「脱衣麻雀とか、面白いかなって思ってさ、響きとか」
「ひ、響き……」
しずは力が抜けちゃったのか、大きなため息をついてバタンと仰向けに倒れた。
「あのなあ……」
もちろん冗談でも何でもなかったし、心臓はバクバクしたまま全然おさまる気配ないけど。
でも、いい。こんな事、さすがにしずもあたしも忘れないっしょ。
嫌われたら困るけど、しずだからそれは絶対ない。
だからま、慌てなくてもいいっていうか。高校は三年もあるしね。
あれ、でも、ドキドキしたまま全然直らないな。
このまま馬乗りになってるのはまずいかも……でも離れたくないっていうか……
しずが、ぺんぺんあたしの太ももを叩いてくる。
「気が済んだんなら、そこどいてよ」
「ああ、うん」
――確かに、確かにね。中々どこうとしなかったあたしも、悪かったのかもしれないと、思わなくもないんだ。
けどさ、しずもせっかちだったし。ええと、例えば、悪いのはしずのジャージを挟み込んでたあたしの膝っていうか。
あたしの下から、背中をずりずりさせながら這いだそうとしたしずの服が、思いっきり引っ張られた。
「うわっ!?」
ビッ、と全てが終わる音がして、ファスナーの留め金が滑り落ちる。
脱げはしなかったけど、ジャージは肩からずり落ちて、中途半端にしずの身体を晒した。
中途半端っていうか、だいたい裸だった。ベッドの上で。
「……あ」
「し、しず……」
しまった、みたいな顔して、しずがこっちを見た。
一瞬で頭が半分くらい白くなって、そっちはとりあえず諦めて残りの半分で必死に考える。
待って、ちょっと待って。慌てなくてもいいから。高校は三年あるから。
ってまあ、しずの胸とか背中とか、そういうのは見慣れてるし、別にどうってこともないけどね。
えーと。えーとほら。最近だと温泉、に、確か、ほら。もうダメだ。
……あ、あ、
「あのさ」
「う、うん」――怯えたしずの声。
頭の中が、ちりちり熱くなっていくのを呆然と自覚する。もうどうしようもない。
「あたし、悪くないよね」
「え」
そう。
今からしずはひどい事いっぱいされるけど、あたしが悪いんじゃない。
「何度も言ったじゃん。あたしの服、貸してあげるって。なのにさ、んなバカげたカッコしてさ」
「だ、だって、そんな今っぽい服似合わないし、いろいろブカブカっていうか!」
泣きそうな顔してまくし立てるしずを無視して、もう一回ベッドに突き倒した。
「――っ」
半分以上開いたジャージの前を、
「ちょ、憧、まっ、て」
誰が待つか。もう待ったんだ、ずっとずっと。
吸い寄せられるように、ぱたん、としずの胸に顔を落とした。
「~~っ!」
唇が、胸の先に触れた。無意識だったと思う。舌をだして、そっとなめてみた。
「ぅあ」
かすかに汗のにおい。
初めてだから、やさしくしてあげよっかな、とかね。カレンダー見ながら想像してたときは思ってた。
しずの胸の上で唇を滑らせて、頬に先っぽがかすめていくのを感じる。
「あ、こ、ちょっと、なん」
あっという間に何も考えられなくなった。
しずの太ももの内側に指を這わせて、
でも、40度の熱にうなされてるときみたいに、時々、意識がはっきりすることもあった。
確か、首筋にかじりつかれてた。しずはもちろん泣いてた。
しずは恥ずかしがって必死で声抑えてたけど、耳元で「…ん、ぁ…ぅ」とか「やぁ…っ、は……」とか言われて、すぐ意識が吹っ飛んだ。
「うああああっ」
例えば、しずのそんな声を聞いた。色気とかなんもなくて、痛くて叫んだだけだと思う。
思いっきり指押し込むことしか考えてなくて、ぴったり閉じた足の間で、ぬるぬる手動かしてて……
しずの身体が開いたあたりでまた理性が飛んで後は覚えてない。
気がついたらしずに頭抱え込まれてて、顔が胸にぺったり当たってて、汗が……
しずの手はもう全然力入ってなくて、髪の毛くしゃってされて、あれ、それからどうしたっけ?
えーと。それから……えーと。
ベッドで頭を抱えながら、ぐるぐる考える。
しずは横で寝てるけど、普通に終わって寝たのか、やりすぎてダウンさせたのかも分かんない。
まずい、あんまり覚えてないけど、かなりやらかした。
おしりに指とか入れようとして大暴れされたことは覚えてるけど……やったっけ?
寝てるしずの顔を眺めてみる。
涙の跡。着てたジャージは汗とかイロイロでぐちゃぐちゃになって、ベッドの隅に丸まってる。
するのはするつもりだったけど、こんなめちゃくちゃやるつもりは……なかったんだけど……。
「はぁーあ……」
ぱたん、と身体を倒す。すぐ横の、しずの寝顔を見つめる。
しずが起きたら、どんだけ怒るだろ。
久しぶりに昔のこと色々思い出して、良い感じに我慢できそうだったのに……。
「……しょうがないじゃん」
ずっと、好きだったんだしさ。
手を伸ばして、しずの頭をなでてみた。
そういえば最近、あんまり思い出すこともなかったな。
二人で遊んだ山とか、みんなで遊んだ川とか、そういうの。
なのに……ああもう。しずが悪いんだ。あんな……声だすから……
……。
「……好きだよ、しず」
すぱこん。
「いた」
しずの手が伸びてきて、軽くはたかれた。
「逆じゃないの、それ」
おっと。
「あれ、起きちゃった?」
「っていうか、そんな寝てないし。つ、か、れ、て、休んでただけ」
ジト目でにらまれた。
「え、えーと。逆って?」
「普通それ言ってから、色々あってああいうことするもんだと思ってた」
「え、そう?」
「知らんけど」
普通は……どうなんだろ。よく分かんない。
「いや、ほんとゴメンってば。やさしくするつもりだったんだけどさ、何でか……」
まあ、盛り上がってきたらアレかもねーとは思ってたけど……
しずは、くしゃくしゃ頭をかきむしって言った。
「そうじゃなくって。……あれ? 最初からこんなこと、するつもりだったってこと?」
肩をすくめて、カレンダーを指してみせる。
「あれ、初めて記念日ね」
しずは顔をしかめながら、ゆっくり身体を起こした。
「機嫌、直りそう?」
「あとちょっと」
しずは、そういったきり黙り込んだ。
かちこち、ヘッドボードの時計が鳴るのが聞こえる。
……。
しずが、ぽつりと言った。
「好きって……」
「ん?」
「好きって、いつから……何か全然気づかなかったんだけどさ、私、ひょっとして鈍い?」
「あー、どうなのかな。結構上手に隠せてた気がするし。まあ、何て言うか……」
……下手でもしずは気づかなかった気がするけど。
「えっとさ」
深呼吸。よし。こほん、と息をついて、言った。
「小学校のころから、ずっと好きだったよ」
中学生んときのことは、わざわざ言わない。
「そ……そう、なんだ」
しずは顔を赤くして、ぽりぽりほっぺたかきながら、また沈黙した。
えっと。
「それでー、どんな感じ?」
ドキドキしながら、しずの顔をのぞき込む。しずは一つ、ため息を吐いた。
「まあ、あれだよ。考えさせて」
って感じかな、とは思ってた。
しず、こういうのまだよく分かんないと思うし。
「はいはい、いくらでも考えて」
しずのおなかに指を当てて、くるくるいじってみる。
「うぐぐ……」
「たぶん、大丈夫な気がするしね」
「ふん、どうだかー?」
うん、こういうのも、悪くないかな。
「あ、そうだ。キスしてもいい?」
「逆だろ! だから!」
え、そう?
「だってほら、キスってさ。なんか……別カウントな気がしない?」
しずの肩に腕を回しながら言った。って肩小さい。小さすぎ。
目の前のしずの目が、ふらふら揺れる。
「ええと……ダメっていったら?」
「ダメっていってもやるけど」
「じゃあ聞くなよ」
そういって、仕方なさそうにしずは目を閉じた。
く。
また熱が上がりそうになってる頭を、脇腹を思いっきりつねって冷やした。
ゆっくり、唇を合わせる。
柔らかくて、すこし冷たい、しずの唇を感じた。
絶望的な勢いで跳ね回ってる心臓を、必死で抑える。
脇腹をつねりまくる。手を離したらまずい。
いや舌入れるとかそんなレベルじゃなくて、しずが死んじゃうかもしんない。
しばらく、唇を軽く合わせて……ゆっくり、離れた。
ぽーっとして、唇に手を当てているしず、か、ら……慌てて目をそらす。
「っと、あれ……そんなんでいいの?」
こいつ、自分が何言ってるか分かってないな……
「まーね。ファーストキスだからね」
実は小学生の時、こっそり寝てるしずとしたけどね。
あのときはあたし、泣きそうになってたけど。
だからこれは、そのリベンジなんだ。
最終更新:2012年06月17日 09:36