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540 :燃えようむ 序 ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 13:47:51.40 ID:SQV94wee
541 :燃えようむ ① ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 13:53:34.56 ID:SQV94wee
542 :燃えようむ ② ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 13:59:34.17 ID:SQV94wee
543 :燃えようむ ③ ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 14:04:35.53 ID:SQV94wee
544 :燃えようむ ④ ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 14:09:36.31 ID:SQV94wee
545 :燃えようむ ⑤ ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 14:14:37.80 ID:SQV94wee
546 :燃えようむ ⑥ ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 14:19:37.11 ID:SQV94wee
547 :燃えようむ ⑦ ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 14:24:36.07 ID:SQV94wee
548 :燃えようむ ⑧ ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 14:29:44.66 ID:SQV94wee

こんちわー ばか来たれりー

534 さん、レス大感謝です 大将戦wktkですねえ
末原先輩は、きっと漢前に戦い抜くに違いありません
漫ちゃんもバッチリ惚れ直すってなもんですよ うんうん

さて最新号、愛宕姉妹とゆーこちゃん表紙! 仲良し3人どこいくの~ん?

「えー天気! …おお、飛行船やー! ほれ絹、あれ!」 「おねーちゃん、待ってーなー」
「あはは、祥榎ちゃんは今日もパワフルやねー」 「ゆーこー、はよ来ー! おいてくでー」

んできっと、こっそりデート中の末原先輩と漫ちゃんに遭遇しちゃうのです ふひひ

さておき
副将戦クライマックス! ホゥ! 阿知賀編もぐいぐい来ました! おもち!
双方ゆりんゆりんなエピソードがあるといいなと思いつつ、SS投下でございます 

今度の主役は津山さんちの睦月ちゃん 出番がなくとも大好きさ
最近長野勢お見限りだけど、4コマ咲日和で出てきてワーイですよカワイイなー
でも本編でもちょこちょこチラっと出ないかなーなんて、思ったりするのですが立たん

涼しげな美人さんだと思うんですよむっきー でも何で自信なさげだったりするのかなーとか
考えてたら、スイッチ入りました あと、むっきーは武道をやってそうって意見が多かった
ように思うんですが、そんなようなお話です ちっとシリアスで、好き勝手し放題です
先に謝っておきますごぬんなさい

えらい長くなりまして、前中後編の三回に分けようと思います
連作は投下したことありますが、はっきりとした続きものは、初めてです
で、トリというのをつけてみた だめでしょか?

今日は前編で、8レスくらいれす
お茶でも飲みつつのんびりと読んでいただければ幸いです  では、どぞ

出 演:津山睦月、蒲原智美、天江衣、その他エキストラの皆さん
百合分:あるともさ エロ:ありゃしない ばか:揺るぎない、ばか
暴力描写あり&捏造オンパレード おじさんも出るよ 注意ですよ
※完全なフィクションです。実在の人物・団体等には一切無関係です。 それでは
↓スタート
****************************
「 睦月の剣・壱 櫛風沐雨編 」


「運が悪けりゃ、振るだっけっさ~♪ っと、ワハハ~」 お気楽な節回しだ。
蒲原里美は上機嫌で運転中である。ジーンズにシンプルなポロシャツというラフな格好だ。
「先輩、加治木先輩に叱られますよ」 助手席で生真面目にそう言うのは、津山睦月である。
こちらはきっちりと制服を着込んでいる。スカートのプリーツにしわ一つない。

「ん~? 『蒲原、麻雀は運ではないぞっ』 ってか~? こわいこわい」 カラカラと笑う。
(まったくもう……) 嘆息しつつ、睦月はこっそりと蒲原の横顔を見つめた。この笑顔に、
今までどれだけ救われてきたことだろう。(うむ……やっぱり好きだな。この人の笑顔)

「さーて、雨も降り出しそうだし、ゆみちん達を待たせちゃ悪いし、ちっと急ぐかー」
「いえあの、安全運転でお願いします」 かなり切実に訴えた。ちょっと乗り物には弱い。

「今日はありがとな、むっきー。助かった。何でもおごるからさ、好きなもん頼めよー?」
今日、睦月は蒲原家の仕事の手伝いに駆り出されたのだ。いつもは佳織が手伝っているのだが、
今回はたまたま都合がつかなかったそうだ。で、このあと、ゆみ、モモ、佳織の3人と、街中の
繁華街で落ち合うことになっている。

「いえそんな、お手当てまでいただいて、それでは申し訳ないです」
「ワハハ、相変わらず堅いな~。そう言わずにさ、少しは先輩らしいこと、やらせてくれよー」
「いやそんな、先輩は……なんていうか、すごく立派に先輩です。うむ」
「ワハハハ、堅い、堅いぞー。さすがおっぱいも、張りのある堅め美乳なだけはあるなー」

「さ、触ったことないでしょっ!」「見ればわかるさー。でも触ってみたいなー、いーい?」
「だっ、だだっ、駄目です!!」 「ちぇーなんだよー、むっきーのけちー。ぶーぶー」
「何言ってんですかもう、セクハラ。佳織に言いつけますよ」 「ワッハッハそれは勘弁だ」
いつもこんな風にからかわれるが、不思議と全く嫌な感じはしない。

「でもまー、むっきーも大分丸くなったよなー」 「そですか?」
「ああ、最初会ったときは、おお、サムライが来たーって感じだったぞー」 「う、むむ…」

(サムライ、か) 友達にそれっぽいと言われることは時々あった。自分では普通にしているつ
もりなのだが、多分、外見や所作が堅苦しいってことなんだろう。皮肉なものだ。その実、中身
ときたら、常に不安と焦燥で一杯なのだから。特に先輩と出会ったとき、あの頃はいろんな意味
で惑ってた。いや、それは今も同じかな。(こんなんでサムライだなんて、とてもとても……)

実はあながち的外れというわけでもない。睦月の実家は小さな道場を営んでいる。しかも普通
の剣道場とは少々異なり、とある古流剣術を連綿と伝える、伝統ある武術道場なのだそうだ。
地味だが、知る人ぞ知るというやつらしい。しかし、そう言われても睦月にはピンと来ない。
両親は普通のサラリーマンだし、現在師範として道場を営んでいる祖父からして、外見は飄々
とした好々爺という感じで、とてもその道の達人とかには見えない。実際どうなんだろうか。

睦月は、幼い頃から道場で地道に鍛錬を積んだ。もともと体があまり丈夫ではなかったため、
少し鍛えるつもりで続けてきたのだ。伝統を受け継ぐとか、そういう類のものでは無い。事実、
祖父や両親からも、その辺りを期待しているように言われたことは一度も無い。稽古自体は嫌い
ではなかった。寧ろ、道場の凛とした空気や礼儀に則った静謐な雰囲気が、とても好きだった。

ところが、中学3年生の時のある事件をきっかけに、ぱたりと道場に足を運べなくなった。
(確かあの日も、こんな風に雨の降り出しそうな曇り空だったな……) あれから2年が経つ。
でも何もかも鮮明に覚えている。大げさと言われるかもしれないけれど、思い出す度、今後どう
生きていけば良いのか何だか分からなくなるような気さえする……辛い、思い出だった。

* * * *


「あの、津山さん……」 中学3年のある日の放課後、同級生に声をかけられた。
普段あまり会話したことのない子だった。何か思いつめたような顔で、声をかけてきた。
「あの、急にごめんなさい。お願いがあって、その」
その子は女子剣道部に所属しており、そのときも剣道着を着ていた。

「あのね、道場に、来てもらえないかしら」
笑顔の似合いそうな愛嬌のある顔を曇らせて、少しおどおどしながらそう言った。
何処から聞きつけたのか、睦月の家が武術の道場であることを知った他の部員達が、
是非、自分達の稽古を睦月に見てもらいたいと言っている、とのことだった。

「いや、私はそういうのは」 「お、お願い! 見るだけ、ちょっと見るだけだから」
様子がおかしい。こういうのには、乗らない方がいい。……だけど……。
「私が行かないと、困るのですか?」 「いえ、あ、あの、その」 もじもじと指を組む。
剣道着からチラリと覗く腕、防具のコテよりも上に当たる部位に、大きな赤黒い痣があった。
「……わかりました。行きましょう」 「え? そ……いえ、あ、ありがとう」

剣道場はそのとき掛かり稽古の最中であったが、睦月が姿を見せた途端、一瞬静まり返った。
「……?」 一礼して入場し、壁際の床に正座する。
「ね、あれが?」 「そうなんじゃない?」 「達人なんだって?」
少し離れた位置で控えていた部員達の声が聞こえてくる。刺すような複数の視線を感じる。

どうにも嫌な雰囲気だが、さて……。 「津山さん、ようこそ」
長身の部員が声をかけてきた。凛々しい顔立ちだが、少し険がある。目が殺気をはらんでいる。

「一度古流の達人とやらに稽古をつけてもらいたくてね。快く受けてくれて、ありがとう」
「うむ? 何の話ですか。私は見学だけと」 「おい! お前の道着と防具、貸してやれ!」
先ほど睦月を案内してきた同級生が、ビクッと反応し、「つ、津山さん、こっちへ」
睦月の手を取り、無理矢理道場の更衣室へと引っ張っていった。

「ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい」 更衣室に入るなり、謝られた。
「うむ、ま、こういうことなのかな、とは思わないでもなかった」
しきりに謝る同級生によると、あの長身の部員は3年生の女子剣道部主将であり、睦月を連れて
来るように指図したのも、彼女とのことだった。

先月、3年生にとっては中学校最後の公式戦があり、彼女達は惜しくも決勝で敗れたという。
問題はその後だ。反省会も終わり解散した後、忘れ物を取りに来た部員の一人が、道場で一人
座して嘆息する監督のつぶやきを聞いてしまったのだ。『ふぅ、津山がいてくれたら……』

そういえば入学したての頃、剣道部の監督に熱心に勧誘された。家にまで押しかけてきた。
まだ若い、はつらつとした女性だった。師匠である祖父は、良いとも駄目とも言わなかった。
睦月自身が決めること、と、にこやかに言うだけだった。
乗り気ではなかったし、断った。稽古は好きだが、それだけのことだ。そもそも勝負事自体に
さして興味があるわけでもなかった。そしてもう一つ、引っかかることがあったのだ。

あれは小学校5年生の頃だったか、ある日型稽古を終えた後、諭すように師匠が言った。
「うむ、睦月、これよりお前は無闇に人を打ってはならん。拳でも、もちろん剣でもだ。
もし万が一喧嘩に巻き込まれそうになっても、お前は出来得る限り、そうした事態を避けなけ
ればならない。己の技を使うべきときを、しっかりと見極めなければならないよ」

何故そんなことを言うのか、よくわからない戒めだったが、もとより喧嘩の類は大嫌いだ。
「はいっ」 と元気良く返事した。以来、その戒めを心に堅く誓っている。
そんな訳で、きちんとした指導者のいる部活とはいえ、積極的に打ち合うという場に身を置く
こと、それ自体に抵抗があったのも事実である。

「本当にごめんなさい。私……」 「その腕の痣、わざと打たれたのですか?」
はっとして同級生が腕を隠した。やはり、そうか。まさか私と同級というだけで?
いや、おそらくは私を庇ったとか、そういうことなのだろう。

「うむ、何、問題ない。一本打たせれば満足するでしょう」 「ううぅ~……ご、ごめ」
「何、大丈夫」 泣き出してしまった同級生をなだめ、道着と防具に身を包み、道場へ出た。

中央に主将が仁王立ちしていた。周囲の壁に沿って部員がずらりと座している。
「時間が惜しい。始めようか」 主将がビッと片手で竹刀を振った。
アップする時間も与えてくれないらしい。そういえば監督の姿が見えない。
もちろん無断でのことなのだろう。つまりは問答無用というわけだ。
「津山さん、竹刀を……」 「うむ。ありがとう」 同級生から竹刀を受け取った。

「『うむ』 って、達人きどりかよ」 「つけあがってんな」 「中2病だろw」
部員達の一角から睦月を蔑む甲高い声が上がる。続いて「ぎゃはははっ」 と嘲笑が湧いた。
睦月は黙って一礼し、蹲踞しつつ竹刀を抜き合わせ、立ち上がってぴしりと正眼に構えた。

「はじめっ」 ドンっと太鼓の音が鳴る。 「やっちまえ! 主将!」 「ぶったぎれっ!」
うおーっと歓声が響く。どんどんどどどどんっ、一斉に立った部員達が激しく床を踏みならす。

「キェアーッ!」 気合一閃、いきなり打ち込んできた。睦月は足捌きだけでこれをかわす。
主将は追いすがるように間合いをつめ、連続して激しく打ち込んでくる。力強い打ち込みだ。
最小限の動きで竹刀を操り、睦月はその悉くを受け流した。主将なだけあって、よく鍛えられ
ているのがわかる。だが、憤りに任せているためか、大降りで剣筋が粗い。隙がある。

こうした申し合いではない打ち合いは、あまり経験が無かった。しかし、思っていたよりも
スムーズに体が動いた。それに、普段黙々と続けていた型の意味を、実感することもできた。
(うむ、なるほど、あの型はこうさばくための……) 少し楽しくなってきた。
「何を、笑ってやがる!!」 はっとしたところに、主将がどかんっと体当たりをしてきて、
鍔迫り合いになった。「古流が何だ! 馬鹿にしやがって! なめんじゃねえ打って来い!!」

ああ、まずい。変に誤解されてしまった。……なめるもなにも、そもそもどっちが強いかとか、
そんなことは心底どうでもよかった。まして古流と現代剣道の技巧的優劣を比するなど、全く
意味のないことだと思うし、興味も無い。もとは同じものだろうに。

「ちくしょう、なんで監督は、こんな奴っ!」 主将の目に、少し涙が光っていた。
ズキッと胸が痛んだ。(……打たせて、終わりにしよう。うむ、なるべく、自然に、)
「本気で来い! でなきゃアイツ、もっと痣だらけになっちまうぜ!!」 「! ……」

  ぷつんっ と、睦月の中で何かが切れた。

柄を握った両拳で、どすっと主将の胸元を打つ。主将がととっと後ろに後ずさった。
「!? ……のやろう!」 意外な力強さに驚きつつも、即座に反撃して打ち込もうとする。
しかしそのとき、「むっ?」 主将の動きが止まった。睦月の雰囲気が変わっている。
ゆらりと背後の景色が歪む。まるでその細い体から、見えない炎が立ち上がっているようだ。

不可視の炎を纏った睦月が、切れ長の瞳を細める。
「下衆め……」 ぼそっとつぶやいてから、すぅっと竹刀を下段に構えた。

「下段だとぉ? お・の・れどこまでも~っ、なめんじゃねえーーー!!」
凄まじい勢いで主将が上段から打ち込んできた。と、次の瞬間すっとすり上がった睦月の竹刀
が小さく弧を描き、主将の竹刀を絡めとるようにして、斜め上に跳ね飛ばした。「うおっ!?」

竹刀を手放したりはしなかったが、主将の体が泳いで体勢を崩す。距離を取り立て直そうと、
「くっ!」 だだっと後ろに下がる。しかし睦月は等間隔に間合いを保って追いすがる。
「きぇあっ!」 無理な体勢だったが、主将が思い切り引き面を放った。その刹那――、

 ゴズッ   鈍く、重い音がした。

睦月の竹刀がたわんでいた。その剣先は、主将の喉下にめり込んでいるように見えた。
ずるりと切っ先がずれる。前のめりに崩れ落ちるようにゆっくり、主将がどさりと倒れ込む。

……あれほど騒がしかった道場内が、しんと静まり返った。

睦月の放った技は「転び突き」 と呼ばれる中目録の奥義の応用であったが、このときの睦月は
それを知らない。睦月にとっては、稽古で幾度となく繰り返した動きを、状況に合わせつつトレ
ースしただけのことだった。と、言うは安いがそう簡単な事ではない。百戦錬磨の剣道有段者を
相手にそれができるというのは、最早、天賦の才というべきだろう。

「しゅ、主将っ!」 数名の部員が駆け寄り、主将を抱え、面を取った。
「う……ぐっ、がはっ」 道場の床に、パタタッっと鮮血が散った。口から出血している。

「こ、この……突き技は、きき、禁止なんだぞ!」 「そ、そうだそうだ! き、きたねえぞ」
興奮した部員達が、睦月に詰め寄ろうとした。 「てめ、何とか言……ひっ」

睦月が静かに顔を上げる。蒼白な顔面は無表情だ。が、重く強く両の瞳が光っている。
無言のまま背筋を伸ばし、竹刀を低く下段に構え、主将の方へずいっと一歩、踏み出した。
「う、うわわわっ」 「ひいっ」 迫力に気圧された部員達が、主将から離れ、後ずさる。
一人になった主将は、「んぐ、うぅ……」 それでも立ち上がろうと、もがいた。

「そ、それまで! それまでっ!! 待って、津山さん! あなたの勝ちよ、お願いっ!」
睦月を連れてきた同級生が、主将を庇うようにその頭を抱きかかえ、叫んだ。

(うむ? 勝ち? 何が? ……え? 何だ、これ……私は一体、何を) そのとき、

「お前ら! 何してるっ!!」 道場に監督の大喝声が響いた。

*


その後は、ちょっとした騒動になった。主将は監督の車で病院へと運ばれていった。
女子剣道部の顧問と生徒指導の教師に事情を聴取された後、睦月は帰宅した。
ほとんど何も語らない睦月に、教師達は辟易としていたようだった。

その夜、監督と主将の父親が訪ねてきて、祖父と共に応対した。
「……全ては、私の不徳の致すところです」 いきなり監督が土下座した。
「申し訳ありませんっ」 声が震えている。今回の騒動に至った経緯を知ったのだという。
しかしそれを具体的に語ることは無かった。きつく目をつぶり、歯を食いしばっていた。

「ですから監督、あなたが気に病むことはありませんよ」 主将の父親は特に怒ることもなく
そう言って、「なに、あの跳ねっ返りにはいい薬です」 と、にこやかに笑った。
自身も剣道を嗜むとかで、祖父とは知らぬ間柄でも無いらしい。

主将のけがは、思ったよりも大したことは無いということだった。
「ま、当分の間、カラオケは禁止だそうです。わははははっ」
睦月は心の底からほっとしたが、それでも、その心自体が晴れることはなかった。

その後、監督は辞表を提出したらしい。周囲の説得にも耳を貸さない状態だったが、結局祖父が
出張って撤回させたとか、後で聞いて知った。あれから睦月は稽古に出ていない。
睦月にお咎めは無かった。しかし、あの日以来ずっと、心の中には冷たい嵐が吹き荒れている。

……もしも竹刀ではなく木剣だったら、いや、竹刀であっても、もし防具がなかったなら、
いや、もし切っ先が、防具をすり抜けて入っていたら! 私は主将を、きっと彼女を――

  殺 し て い た

瞬間的な怒りに、我を忘れた。自分の中に、思いがけずも荒ぶる修羅が眠っていた。
古く源流は室町の昔に生まれ、数百年に渡り連綿と受け継がれ練られ育まれて来た技は、
恐るべき力を秘めていた。そうした諸々に、全く無自覚であった。
あの瞬間の感触が、手のひらに張り付くように残っている。 『ぐぢゃっ』 と。
生きている肉を、押しつぶす感じ。思い出すと、ぞわっと全身が総毛立つ。

仕方なかったと割り切ることができない。向こうが悪い、と斬って捨てることもできなかった。
竹刀を交えた睦月には分かる。彼女がどれほどの克己心を保ち、修練を積み重ねて来たのか。

生半可な覚悟では無かった筈だ。……あの騒動はつまり、だからこそ、だったのではないか。
倒せたのは、きっと偶然に過ぎない。打たせて終わろうなどと、なんと傲慢であったことか。

しかし、彼女が睦月の同級生にしたであろうことは、やはり許せない。わからない。どうすれば
よかったのか。他に方法はなかったのか。剣の道に触れたもの同士、もし語り合うことができて
いたなら、友達になれたかも。そんな風に夢想するのは、ぬるいのか。甘いのだろうか。

悩める睦月の脳裏に、一つの言葉が浮かび上がった。(『 活人剣 』 って、何だっけ……)
どこかで聞いたことのある言葉だった。とても大事なことだったような気がする。
しかし、いつどこで聞いたのか、そしてそれが何なのかは、何故か思い出せなかった。

*


卒業までの数ヶ月は、まるで針のむしろだった。睦月の武勇伝は、あっと言う間に学校中に
広まっていた。しかも尾ひれがついて、あまり好ましくない形で。
それなりに仲の良かった友達からも、距離を置かれた感じがした。特にいじめられたとか、
何かされたわけではないが、まるで周囲に壁ができてしまったようだった。

そんなある日、偶然、自分が陰では、「人斬り津山」 と呼ばれていることを知った。
その頃から、いつの間にか人と接する際に、妙な気後れを感じるようになっていた。
緊張と不安。ひどいときには、カーッとのぼせたようになり、じわりと冷や汗がにじみ出た。

受験を終え、鶴賀学園に進学した。中学卒業まで、とうとう主将と会話することは無かった。
あの同級生とも、何か気まずくて、ゆっくりと話をする機会は得られなかった。
幸い、と言っていいのかどうか、本来中高一貫教育の鶴賀学園に外部受験者は比較的少数で、
同じ中学から進学した者の中に、睦月のことをよく知る人間はいなかった。

入学式の当日、桜の舞い散る中、前庭で早くも部活動の勧誘が行われていた。
睦月はどこにも入るつもりはなかった。剣道部のブース前を、眼を伏せて足早に通り過ぎた。
(今日はもう授業も何もない。早く帰ろう……) 正門に向けて歩きだしたそのとき、

「ワハハ、おー初々しいのがいっぱいだー! みーんなかわいいなー、なあゆみちん!」
何か聞いているとスコーンと肩の力が抜けるような、とぼけた声が耳に入って来た。
そっちを向くと、前庭の一番端っこに机を一つだけ出して、勧誘している二人組がいる。

「蒲原、まじめにやれ」 目つきの鋭い美人さんが言った。
「何言ってんだい、ゆみちんこそもっと笑わないと。ホレ、スマイルスマイル~♪」
さっきの声は、こっちの小さい方の人か。団栗眼をきらきらさせて、口を開けて笑っている。

机の前に手書きで部の名前が張り出してあった。(麻雀部……)
睦月は何故か立ち止まり、その人たちをじっと見つめていた。小さい方の人と目があった。
睦月の視線に気がつくと、その人は眩しいくらいにぺかーっと笑って、大きな声で言った。

「ワッハッハ、ようこそ! 鶴賀学園麻雀部へ!!」

* * * *


なんだかんだで麻雀部に入り、今日に至るという訳だ。
(あれから目の回るような日々だったな。蒲原先輩に振り回、じゃなくて引っ張られるように
して、ぐいぐいと進んでいくような毎日だった。それこそ悩んでる暇なんて無かったくらい)

「むっきー、おい、むっきーってば」 「え? あ、はい、すみませんちょっと考えごとを」
「あれ、天江衣じゃないか?」 蒲原が前方を顎で示した。小雨が降り始めていた。

他に人気のない川沿いの道を、幼い少女が一人、傘も差さずにとぼとぼと歩いている。
停車して蒲原が車を降り、声をかけると、少女はゆっくりと振り向いた。
「おー、やっぱり。龍門渕のアリスちゃんじゃないか、ワハハ」
「ふん、鶴賀のチェシャ猫は、ニヤニヤじゃなくてワハハって笑うのか」
衣が不機嫌な様子でそう答えた。長い髪に細かい水滴がつき、きらきらと輝いている。

だんだん雨足が強くなってきたこともあり、ぐずる衣を車に乗せた。睦月が後部座席に移り、
タオルで衣を拭いてあげた。少し震えていたが、青い顔をして俯いたまま、衣は黙っている。
(しかし小さいな。これで私と同い年……)

合宿でも親しく会話をする機会は無かった。間近でよくよく見るのは、初めてかも知れない。
白磁器のように白く艶やかな肌、豊かな亜麻色の髪、幼く見えるが端正な顔立ちに大きな目。
その瞳は、今にも泣き出しそうに潤んでいる。(お人形さんみたいだな。いや、妖精、かな)
それも違うかもしれない。この美しさを的確に表現する語彙を、睦月は思いつけなかった。

この愛くるしい妖精が、麻雀の際は魔神のように変貌する。人を超えた存在という意味では
同義かも知れない。合宿で一度だけ対局したが、圧倒的だった。あっという間に飛ばされた。
今、その超人は睦月のほうを見ようともせず、下を向いたままだ。
(私のこと、憶えてないのかな。つか、私みたいなへっぽこ雀士は眼中に無し、だな。うむ)

運転をしながら、蒲原が衣に質問をし始めた。
「どーしたんだい?こんなトコひとりで。いつもの愉快な仲間たちはー?」 「………」
「今日はカチューシャしてないんだなー。ウサギの耳みたいの。何でー?」 「………」
「先輩、そう矢継ぎ早に質問されても困りますよ。大丈夫? 寒くない?」 「………」
「えっとその、私達これから食事に行くんだけど、よかったら天江さんも」 「カ……」

「ん、何?」 「カチューシャは、捨てた。あれには発信機が、ついてるから」
「は……、え?」 「皆は、いない。ころもは一人で、龍門渕を出奔したから」
「おや、衝撃の告白だなー」 「先輩、もう。えと天江さん、その、どうして」
「喧嘩でもしたのかなー? ワハハ」

「してない。皆大好き。でもころもは、あそこにいちゃいけないんだ。とーかが、冷たく…」
ぽろぽろと大粒の涙が、衣の頬を伝った。「とーかの側に、い、いちゃだめなっ……んだっ」
「わっわっ、天江さんっ、あの」 「ありゃま、ちっと深刻っぽいなー」
「ああのあの、天江さん、泣かないで」 「うぅー、ひっく、けほっこほっ、ううう~」 
「どど、どうしましょう、先輩」 睦月が衣の背中をさする。華奢な体が震えている。

「う~ん……うん、よし! とにかく飯を食おう! ワハハ」 「ひっくっ……いらない」
「だめだぞー、人間って腹が減ってるとな、どんどん考えが悪い方へ傾いてくんだよ。まずは
腹ごしらえだ! その後さ、もしよければゆっくり話を聞かせておくれよー」

「お前達に、ぐすっ、話したところで、どうもならぬ。畢竟、ころもはけい独の宿命なんだ」
「ほらほら~、それだよそれ。悪い方にグラグラッと来てるぞー。それにさ、宿命云々とか
言うんなら、ここで私らに出会ったのだって、そうかもしれないだろー?」 「………」

「話してみて楽になるってこともあるぞ? ちっとは力になれるかも知れんし」 「………」
「無理にとは言わないけどなー。ま、お腹一杯になってデンと構えてよーく考えてみたらさ、
なんだーどーってことないやーってなるかもだ。てな訳で、飯屋へGOだな! ワッハッハー」

「……ぐすっ、強引な奴だな」 「ふふっ、観念した方がいいですよ。お話云々はともかく、
何か暖かくて美味しいもの、食べに行きましょう。ね?」 衣が初めて睦月の方を見た。
大きな瞳に一杯涙をためながら、少しだけ笑ったように見えた。 と、そのとき、

ギャギキキキーッ!! 突然、車に急制動がかかった。「うわっ」 睦月は咄嗟に衣を抱える。
「うおー、あっぶなー!」 「せ、先輩、何事ですか?」 フロントガラスの向こうを覗く。
1台のセダンが、こちらの車の前を斜めに塞ぐように停車していた。「あ~ん? 何だ~?」

車のドアが開き、2人の男が降りてきた。がっしりした体格に黒っぽい背広で、サングラスを
掛けている。滅茶苦茶怪しいおじさんたちだ。はっと衣が息を呑む。
「? 天江さん?」 「……て、敵だ」

黒服の1人が運転席の1メートル程手前まで近づき、言った。
「降りるんだ。その子を渡してもらおうか」

「天江さん、敵って?」 「奴らはころもを、さらおうとしている! とーかを脅すためだ!」

「先輩っ!!」 「つかまってろっ!!」
蒲原が素早くシフトをバックギアに叩き込み、アクセルを踏み込む。車が急発進で後退する。

「おい、待て!」 黒服が此方に向かって身を乗り出す。一気に20m程も後退し、ワハハカー
はギュキッと止まった。蒲原はシフトをゴンッとローへ、「いっくぞー!」 前方へ急発進!
「おわっ!」 黒服たちが、慌てて前方を塞いでいる車から離れた。

「ワ ハ ハ ターーーン!!」 ギャギャギャキュキキキーーーーーーーーーー!!

タイヤが激しく水飛沫を上げ、車がくるりと180度方向転換、一瞬片輪が浮き上がる。
直後にドンッと接地するやいなや、猛スピードで走り去った。黒服たちがぽかんと見送る。
「おお、やりますな」 「か、感心してる場合か! 追うぞ!」 慌てて車に乗り込んだ。

「先輩! 追ってきます!」 「飛ばすぞ! しっかりつかまってろよー!」
衣がぎゅっと睦月にしがみついた。「うむ、だいじょうぶ」 睦月もしっかりと衣を抱えた。

ワハハカーはタイヤを軋ませコーナーを駆け抜けるが、如何せん性能差はどうしようもない。
追手の車がどんどん近づいてくる。事故の危険を恐れてか、先ほどのように強引に追い越そう
とはしてこなかったが、一定の距離を置いてピタリと張り付いている。

黄色信号の交差点を通過したとき、後続の黒服の車の前に、信号無視の車が飛び出してきた。
危うくぶつかりそうになり停車する2台の車を置いて、ワハハカーが遠ざかって行く。

信号無視の車から、4人の若者が降りてきた。でかい。レスラーみたいにゴツイ連中だ。
「おい、危ねえだろ、おっさん!」 「降りろコラ!」
「……はぁ」 ため息をつき、黒服たちが車を降りた。

*


「あっぶないなー。でもま、こっちとしちゃラッキーだな。今の内に距離を稼ごう」
バックミラーを眺めながら、蒲原がため息混じりに言った。
「うむ、先輩、このあと」 「うん、このまま警察へ行こう」 「だ、だめっ!」

「天江さん? だめって?」 「け、けーさつは、その、中にやつらの手先がいるんだ」
「てさき? やつら一体、何者なんだい?」 「そ、それは、その、……わかんない、けど」
「ふ~む。お金持ちってのも大変だなー」 「先輩、どうしますか?」

「お、お前たち……、信じてくれるのか?」 「んー、何がー?」
「子供の戯言だ、とかって笑わないのか?」 「天江さんは私と同い年でしょ?」
「龍門渕は桁違いのお大尽だしなー。そういうこともあるかも知れないよなー、ワハハ」
「うむ、信じますよ」 「……あ…う」

「ありゃトランプの兵隊って感じじゃないしなぁ。怪しさ大爆発だ。ま、何にせよ、あんな
連中にアリスちゃんは渡せないよな、むっきー」 「うむ、当然です」

「あ、ありすじゃない。ころもだ。お前たちは、えっと、か、か……」
「蒲原。かんばらさとみ。さとみでいーよ。そっちは津山睦月。むっきーだ」
「さとみと、むっき……」

「とにかく、援軍が欲しいな。よし、むっきー、そこの鞄に私の携帯が入ってる。龍門渕のお嬢
様の番号が入ってるから、電話してくれ」 「はい!」 睦月が携帯を取り出す。

「だめーーっ!!」 衣が叫んだ瞬間、パキッと音がして、携帯の液晶画面にひびが入った。
「うわ、あれれ」 画面が消えて、電源が入らない。完全に壊れてしまったようだ。
代わりに取り出した睦月の携帯も、同様にお釈迦になっていた。 「こ、これは一体……?」

「だめ、だめなの……もういい、これ以上さとみとむっきに迷惑はかけられぬ。降ろしてくれ」
「何言ってんだい、そんな事できるわけ無いだろー?」
「もういいんだ、も、もう……」 突然ぐらりと傾く衣。慌てて睦月が支える。

「わ、と……天江さん?」 苦しそうに喘いでいる。睦月が衣の額にそっと手を当てた。
「先輩! 天江さん、すごい熱!」 「おおう、なんてこったい。大ピンチだなー」
ちっともピンチっぽく聞こえない声で、蒲原がつぶやいた。

「せ、先輩……」 「………」 前方を睨みながら押し黙る蒲原。
口元は相変わらず笑っているが、その眼は真剣だ。

手近な連絡手段を失った。頼みの警察には、敵のいる可能性がある。
それほど大掛かりな敵ならば、あいつら……あの黒服の他にも、追っ手がいるかもしれない。
とすると、絶対安全と言い切れるところは限られる。病院ですら危ういと言わざるを得ない。
しかし衣は発熱している。もし見た目よりも重篤な状態であれば、一刻を争う。
さあ、どうする!?

「……当初の予定通り、ゆみちんたちと合流しよう。困ったときの、ゆみちん頼みだ!」

*


「はい、ええ、十代と思われる女2人組です。一人は制服で」 黒服が電話をしている。
「古いワーゲンのバンです。ナンバーは……」 睦月たちの情報をどこかに伝えている。
「いえ、決してそのような……、はい、はいっ、了解です。では」
通話を終え、少し離れていたもう一人の黒服の元に近寄っていく。

「ご立腹ですか」 もう一人が訊いた。その足下には大きな図体の若者が3人、呻きながら横た
わっている。顔を腫らした残りの一人が、正座をしていた。

「引け、とさ。あの優男が此方に向かってるそうだ」 「おや、お役御免ですか。やれやれ」
「いや、このままじゃ面子丸潰れだ。追うぞ。先刻接触したとき、あの車に発信機を付けた」

「おお、抜かり無いですな。と、コイツらどうします?」 一通り尋問は済ませていた。県外の
大学のラグビー部員とのことだ。練習に嫌気が差して合宿を脱走し、逃げる途中だったらしい。
「あの大学のチンピラバカ学生か。さっきの2人組みとは無関係みたいだな。支援の連中に任せ
よう。あそこの鬼監督に、のし付けて送り返してやればいいだろう」

「おい、おまえら!」 「は、はいっ」 正座をしている学生が居住まいを正す。
「ここらで何か悪さしてみろ、月の裏まで蹴り飛ばされっぞ!」 「はいっ! サーセン!」

「おお、おっかないですな」 もう一人が笑いをかみ殺しながら小声で言った。
「子供騙しのはったりだけどな。……でもうちの女王陛下が本気で怒ったら、その位のことは
あっさりやってのけると思わんか?」
「ははは、違いないですな。剣呑、剣呑」

*


雨が降っている。車の屋根を、雨粒が叩く音がする。せわしなく左右に動くワイパーの向こうに
目指す街の小さなビル群が見えた。不吉な未来を暗示するように、上空を暗雲が覆っている。

蒲原は黙って運転している。衣は睦月の膝に頭を乗せ、ゼイゼイと苦しそうに喘いでいる。
人形のように整った美しい顔が、青ざめ、苦痛に歪んでいる。

「天江さん……」 辛そうだ。体が熱い。何故もっと早く気づけなかったのか。
(いつも、こうだ。私はどこか、抜けている。そしてうじうじと、悔やむことばかり……)
睦月の手が、微かに震えた。じわりと冷や汗がにじみ出る。

(うむ……守らねば) 衣の額をそっとなでながら、きゅっと唇をかみしめた。

****************
前編以上 読了感謝  次回、「 睦月の剣・弐 驟雨激闘編 」「 へ続く

 むっきー、闘います

549 :燃えようむ 後書 ◆by6Stw9WCY 2011/09/25(日) 14:34:41.92 ID:SQV94wee
はい、お疲れ様でした ありがとうございました
前編、いかがだったでしょ このくらいだと長すぎますか?
次はもっと短いです

剣道とか、かっちょぇーとは思うものの、やったことないし
詳しい方、色々とお見逃しくだされ

ちなみに、ワハハターンはどうやってやるのか、知っているのはワハハだけですわはは
真似したらあかんのよーって、ゆーこちゃんも言ってます あかんよ?

さて次回中篇、闘いの章です むっきー奮闘です でも根底にあるのは百合萌え魂です
後編に向けて徐々に百合度が上がっていくのです 多分 いやその

ではまた 近いうちに

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最終更新:2012年07月20日 02:41