思い続けていれば、いつかは振りむいてくれると信じていた。
「怜」
キスをしようと近づくと、顔を横背けられる。
「……」
「好きやで」
代わりに向けられた耳に想いを伝える。
ベッドでの恋人同士の時間。
邪魔をする者は誰もいない。
「っ」
顔が横を向き露わになった首筋をぺろりと舐める。
シャワーを浴びた後なので、石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。
「ええ香りやな。今度からこのホテルにする?」
「同じ場所はあかんって、竜華が言うたのに」
「そうやけど」
同じホテルを利用すれば顔を覚えられる可能性もあるし、何より同じ学校の生徒に見つかるのはまずい。
だけど今回のホテルは学校からもお互いの家からも離れた場所にある。
滅多なことでは知られない自信があった。
それに何より
「香りが怜によう似合っとる」
「そうなん?」
「うん、そうや」
「でも、ここ結構高いしな」
「別にお金の事は気にせんでええって、何時も言ってるやん」
「でもいつも竜華に出してもらうんは、やっ」
まだ何か言おうとする怜の耳たぶを軽く噛む。
「もう、黙って。折角のええ雰囲気が台無しや」
多少強引に怜の意識を集中させる。
「綺麗やで、怜」
バスローブの紐を解けば、雪原の様に白い胸元が姿を見せる。
少し肉付きの悪い身体だが、手に収まる程の胸も折れそうなほど細い腰も、私には何にも勝る魅力的な肢体。
そっと唇を寄せ、胸元に触れる。
「ん、ぅん、あっ、や」
身体のラインを唇でなぞる様に触れるたび、怜から耐えるかのような甘い声が漏れる。
耐えようとする怜の力を抜かせようと、片手で唇と同じように触れていく。
身体のラインをなぞり始めた片手のおかげであいた唇は、先程から自己主張する場所へと向かう。
ピンク色のそれは、甘い果実の様でそっと口に含んだ。
「ふあ」
軽く舌で転がせば、予想どおりの甘さを含み私を虜にする。
ちゅっと音を立て吸いつけば、逃げるように怜の体は反応を返す。
「可愛い」
その反応を楽しみながらも、念入りに怜の体に舌を這わせていく。
辛うじて腕だけは隠せていた筈のバスローブを脱がせ、背中の背骨をなぞってお尻の方へと舌を這わせれば、羞恥心でいっぱいの怜の表情。
恥ずかしさでシーツを力いっぱい握り絞める手をそっと片手で包み込む。
「もうちょっと我慢してな」
「―――っ、ん」
目じりに涙を溜めて、首を縦に振る怜にめちゃくちゃにしてしまいたい衝動に駆られそうになる。
そんな劣情を抑え込み、ゆっくりと怜の望む場所へと触れる。
「あ、やっ」
ゆっくりと割れ目を、円を描くように触れるとそこは十分なほど濡れて溢れだしていた。
「もう、大丈夫やな。もっと気持ちよくしたるから」
後ろから抱きかかえるようにして怜の大事な場所に指を侵入させる。
「はっ……あぅ、ぃ……ふゃ、あ」
何度も指を受け入れているがいまだに狭く、痛いほど絞めつける。
その辛さの所為か、怜の息使いも先程までの感じている以外に苦痛の色が混じる。
(もう少し、慣らした方がよかったかもしれんな)
「大丈夫やで怜。何時も通り力抜いて」
そうは言っても簡単に力を抜けるなら、最初から怜もしているだろう。それを分かっているから怜の弱い耳を重点的に愛撫する。
「―――ぃ、いゃ……耳ばっ、かり、あかん、よぉ」
「怜が一番感じやすいところやからな。ほら、痛みも少し和らいどるやろ?」
ゆっくり動かしていた指の締め付けも少しずつ力が抜け、水音が部屋に聞こえ始める。
それでもまだ痛みを感じるらしく力いっぱい握る手を、怜の体の下に腕を通して手を重ねた。
重ねた手の甲に怜の爪が食い込む。
「指、もう少し早く動かすで」
絞めつけが緩くなったそこを前後に動かしながら、最も敏感な場所で親指を少しずつ上下させる。
「あ……あぅ……んぅ……ふあ」
怜の声の調子から限界が近いのを感じて、指のスピードを上げる。
「怜、怜、怜」
耳元で自分を刻むように名前を呼ぶ。
「あぁ、もう、……んぅぅぅぅぅぅ!」
ピクピクと弱い痙攣を見せる怜の身体から指を抜きさる。
弱く乱れたい気遣いをしながら気を失ってしまった怜を横目に、指に絡みついた液体を舐めとる。
「相変わらず、なんとも言えん味やな」
よく創作には好きな人のは美味しいとか聞くけど実際そんな事ない。
ただ吐きたいと思うほど嫌悪感を抱く事もないが。
眠る怜に肩まで布団を被せ、シャワーへと向かう。
シャワーを捻り御湯を浴びると、僅かに手に痛みを感じる。
「あー、ちょっと血が滲んどるな」
手の甲を見つめながら鈍く伝わってくる痛みに、普段は忘れようとしている事が思考を占めだす。
(あかん。考えたってしゃーない事や)
被りを振ってシャワーを終える。
髪を拭きながらベッドへ戻ればまだまだ目を覚ます気配のない眠り姫がいる。
そっと近付きベッドに腰掛ける。
頭を撫でるとその髪は柔らかく、心地いい。
静かに眠るその唇にそっと唇を重ねようとして止める。
(あかん、あかんで。怜の約束やないか)
ピリリリリリリ
不意に携帯が鳴り、急いで音を止めようとすると自分の携帯を取るはずみに隣に並んでいた怜の携帯が床に落ちる。
落ちた形態はバッテリーの蓋が外れ、中の電池が見える状態になる。
それを拾うと電池には一枚のプリクラが貼ってあった。
プリクラにはキスをしている怜と……。
(ああ、なんて間の悪い)
付き合う時に怜と約束をした。
キスだけはしないと。
キスだけはどうしても嫌なのだと。
それ以上の事はしてもいいのに。
その理由をこんな形で知りたくはなかった。
「――――――っ、好きや、好きなんや」
眠る怜に泣きながら許しを乞う。
「ごめんな、私が怜を好きになったから」
知ってた。
怜が私を友達として見てなかった事も。
知ってた。
怜が好きなのは誰だったかなんて。
知ってた。
二人が両思いだって。
それでも、どうしても私は怜が好きで好きで、どうしようもないほど好きで。
「ごめんな、ごめんな、怜。……セーラ」
誰も聞く事のない懺悔がホテルの部屋に響き、眠る怜の頬が私の涙で濡れていく。
だけど
「それでも私はやっぱり怜が好きなんや」
だから怜を手放すなんて事は……もうできない。
最終更新:2012年08月24日 01:27