とりあえず二組がお風呂からあがり、夕食を食べる事になった。
「ハルカ姉様、何か…おかしくないですか?」
「おかしい?皆静かにご飯食べてえらいじゃない。」
「はぃ…そうですが……」
「?」
静かに進む食事の時間にハルカはご満悦だ…しかし千秋はそうではなかった。
(おかしい…いくらなんでも静かすぎる…。)
確かに、これだけの人数が集まっている割には静かすぎる。
それに何かこう…千秋は場の空気がギクシャクしている気がしていた。
(カナと藤岡は風呂を出てきてからずっとおかしい…
藤岡はボーっとしてるし、カナに至ってはカレーを入れる時、ご飯を入れて残り半分をラッキョで埋め尽くしていた。
それに内田も変だ。風呂を上がってからマコちゃんに馴れなれしすぎる…)
千秋はむずかしい顔をして首をかしげていた。
『ピンポーン』
家のチャイムが鳴ると、空気に耐えきれなかったカナが、一番に部屋を飛び出した。
「こんばんわ。…っと、今日はにぎやかだねぇー」
「なんだ、タケルか。何しに来たんだ?」
「何しに来たって…別にこれと言って用はないけど…」
「そうか。今日は我が家は人口が多いんだ。悪いけど帰ってくれ。」
「えぇー…そんなぁ、ちょっとハルカちゃーん!」
正直カナの言う通り、今日は南家の人口が多い。
部屋まで声は聞こえているが、みんなは聞こえないふりをしてご飯を食べていた。
「はぁ…仕方ない。それじゃあ今日は帰るよ。せっかく駅前の角のあの店のケーキをワンホール買ってきたのに…」
その言葉と共に皆の態度が一変した。
「おぃ!タケル!お前なんでそんな大事なこと黙ってたんだよ!」
「あ…あら、タケルおじさんいらっしゃい!良かったら夕飯いかがですか?」
「ハルカ姉様もこう言っているんだ、あがって行け。」
「タ…タケルおじさん2か月ぶり、その後肝臓の調子どう!」
部屋にトウマ・マコちゃん・藤岡を残し、残りは総出でケーキを迎え入れた。
そして、部屋に入ってタケルは3人とも顔を合わせた。
「えーっと…確かカナちゃんの友達と後輩の…」
「あっ、お久しぶりです藤岡です。」
「マコちゃんです!」
「それから…確か君は……この前プリンを持ってきた時にいた…」
「ト…トウマ!オレは南トウマです!この前はプリンありがとう!」
「そっか、よろしくね。…でも女の子が『オレ』なんて言っちゃだめだよ。」
笑いながらそう言ったタケルに藤岡が不思議そうな顔をしている。
トウマは慌ててタケルの服をひっぱり、台所へ連れて行った。
「あ…あの、藤岡には男って言ってるんで……って、どうしてオレが女って知ってるんだ?!」
「どうして…って、…そりゃ見れば分かるよ。藤岡君は男と思ってるのかい?」
「見れば…って口調も見た目も男なのになんで!?」
「あははっ、君は面白い子だね。僕はこんな可愛い顔の男の子なんて知らないよ。」
「なっ…」
「とにかく藤岡君をだまして遊んでるんだね?僕も協力するよ。」
そう言ってタケルはトウマの頭をポンポンと軽く撫で、食事をする為部屋に戻った。
とりあえずは藤岡にはバレ無くて済みそうだ…
しかしトウマはホッとする以上に、何か心の奥がムズムズするような変な気分になった。
(あのプリンの人……)
トウマはモヤモヤした気分のまま部屋に戻った。
食事も終わり、買ってきたケーキを食べ始めた頃、タケルはふとある事に気づいた。
「皆、特に千秋ちゃんのお友達は、もう遅いけど帰り大丈夫なのかい?」
「あぁ、こいつら今日は泊っていくから平気だよ。」
「そっか…それなら安心だ……ってカナちゃん?!」
「ん?…わわっ!何するんだよ!」
そのままカナは台所に連れていかれた。
「あの…泊まるって、藤岡君も泊まるのかい?」
「モグモグ…ん?そだよ。」
「そだよ。…じゃないよ!ちょっとケーキおいて!」
「もー、なんだよいったい!言いたい事があるならさっさと言えよ!」
「それは…その、年頃の女の子の家に男が泊まるって事は…ゴニョゴニョ……」
「あー、言いたい事は分かるよ。でもそれなら千秋に言ってからにしろよ。」
「千秋ちゃんに?どうして?」
「千秋が気にいって藤岡を帰さないんだよ。お前、藤岡帰しりしたら一生南家に入れてもらえないかもな。」
「………」
それは流石にまずい…タケルはそう思い、一つの結論をだした。
「なら…僕も泊まるよ。それしかない!」
「はぁ?お前なんでそうなるんだよ。うちの家は満員なんだ、ケーキ食ったらかえれよ。」
「カナちゃん…ケーキそれだけで足りるかい?…良かったら僕の分も……」
「まぁ、やるだけやってみるよ。」
そう言ってカナはタケルのケーキを食べながら、見事ハルカを説得した。
「カナちゃん…これって……」
「仕方ないだろ?我が家の番犬と炊事!そう言う約束で泊める事になったんだ。」
「はぁ…オレって人望無いなぁ……」
タケルはそう思いながら食後台所で洗い物をしていた。
「じゃあ千秋、私たちもお風呂入っちゃおうか。」
「は、はい!ハルカ姉様!」
そう言って二人は脱衣所に向かった。
「そう言えば千秋と二人で家のお風呂入るのって久しぶりね。確か…2年ぶりくらいかしら?」
「はぃ、ハルカ姉様の疲れをとる時間を奪ってはいけないと思いまして…」
「そっか…千秋は本当に優しい子になったね。私の自慢の妹だよ。」
「そ…そんな事……」
そして二人は湯船につかった。
この二人でお風呂に入ってる間に、ハルカは千秋にどうしても聞きたい事があった。
「ふぅ~、このお湯につかる瞬間…一日の疲れが一気にとれる気がするよのねぇ。」
「まったくです、ハルカ姉様。」
「…ねぇ千秋、いきなりなんだけど…千秋は藤岡君のこと好きなの?」
「藤岡ですか?…う~ん……そうですね。好きなんだと思います。」
「好きなんだと思う?」
「はぃ。ハルカ姉様がお父さんと似てるって言ってから、どうも気になるんです。」
「それは…お父さんとして好きってこと?」
「どうなんでしょう…私にもよく分からなくて……ただ、藤岡とキスをした時……」
「えぇ?!キ……キス?!」
千秋の口から出た言葉に、ハルカは思わず大声を出してしまった。
「はぃ。キスをしてみれば何か分かると思いまして…」
「…で、ど…どうだったの?」
「うーん…確かに恥ずかしかったんですが…何も変わらなくて、私は膝に座ったり、だっこされてる時の方が幸せでした。」
「でもカナが藤岡君と仲良くしてると、千秋はいつも機嫌悪くない?」
「そ…そうですか?…そう言われてみれば、なんて言うかこう…お父さんを独り占めされてるみたいでカナには腹がたちます!」
「そっか…ならいいんだけどね。」
「…?」
ハルカは少しホッとした。もし千秋が藤岡の事を本気で好きだったなら、
千秋に悲しい思いをさせるかも知れなかったからだ。
「じゃぁ千秋は学校に好きな男の子とかいるのかな?」
「学校ですか…特にいませんねぇ…」
「あの…マコト君だっけ?あの子とかは?」
「あいつはバカな子供です。話になりません!」
「フフフッ、そうなの?」
「そうです!私が心から好きなのはハルカ姉様だけです!」
「あら、じゃあ千秋大先生に私もキスの仕方教えてもらおうかなぁ~…なんちゃって……あれ?」
冗談で言ったこの言葉、どうやら千秋は本気にしてしまったらしい。
千秋は少し顔を赤らめゆっくりとハルカに近寄ってきた。
「ち…千秋、ちょっと待って。あれは冗…」
「ハルカ姉様!目をつむってくださぃ!」
「??? 千秋?どうした……んんっ!……んっ…」
ハルカが話している途中に、千秋はハルカの口の中へ勢いよく千秋が舌をのばした。
ハルカの口の中に千秋の舌が入ってきた。
(…さっき食べたケーキの甘い香り…それに少し大人の香り……大人の香り?!)
ハルカは慌てて千秋から離れ、ケーキの事を思い出した。
確か下の生地にレーズンが……もしかして、あのレーズンにラム酒が入って…
そんな事を考えるハルカの唇を再び千秋が襲った。
「ハルカ姉様…私…ハルカ姉様が大好きなんれす!」
「ち…千秋、とりあえず落ち着い…んっ……」
千秋の体は小さくて、体重も軽い。ハルカが少し力を入れれば引き離す事もできた。
しかし、ハルカはそれをしなかった。ハルカは初めてのキスに少しずつ気持ちよさを感じる様になっていた。
千秋の激しいキスは1分ほど続いた。
「…ハァ……ハルカ姉様、キスって少し苦しいですね。」
「そ、そうね…でも千秋とキスしてたら…私まで少しドキドキしてきちゃった…。」
「私はずっとドキドキしてます…。ハルカ姉様…その……もう一度だけ…」
「もう一度だけ?…なに?」
何を言いたいかは分かっていたが、恥ずかしそうにしている千秋を見て、ハルカは少し意地悪をしてみたくなった。
その時、自分も少し酔っていたのかもしれないと思いながら…
「その…キスをもう一度だけ……」
「じゃぁ…もう一回だけね。はぃ…」
そう言うと今度はハルカの方から目をつむり準備をした。
千秋の唇が重なると、ハルカま無意識に少し口を開き千秋の舌を求めた。
気がつくと、二人は湯船の中でしっかり抱きしめあいながらキスをしていた。
「ハァ…ハァ……その、ハルカ姉様…わがまま言ってすみませんでした…。」
「気にしなくていいよ、それより藤岡君の時と何か違った?」
「はぃ、あの時よりずっとドキドキして…その……私はやっぱりハルカ姉様が大好きなんだっ…て思いました。」
「そっか、私も千秋の事大好きだよ。」
「ハ…ハルカ姉様……あの、それでは先に上がってるので、ゆっくり疲れをとってください!」
そう言って千秋はそそくさと風呂場を後にした。
(はぁ…お酒のせいと言っても、千秋もすっかり大人になった…って言うか家で一番最初にキスしたのか…でもカナだってまだだよね…)
そう考えると、高校生にもなってキスもした事の無い自分が恥ずかしくなった。
そして、もし藤岡とカナがした事を知ったら倒れてしまうだろう。
そんな事を知らないハルカは、千秋が藤岡をどう思っているか聞けて、とりあえず満足していた。
その頃台所では…
「タケル、今日のケーキ美味しかったよ。二個も食べれて大満足!特にあの下の…なんだっけ?」
「あぁ、干しぶどうかい?」
「おー!それそれ!あれって確かラム酒につけてるんだよな。」
「うん、普通わね。でもあの店では子供に食べてもらう為に、お酒は一切使ってないらしいよ。」
「ふ~ん…。まぁどうでもいいや。」
「えぇー…」
さらに続いて脱衣所。
(す…少し調子に乗りすぎたかな……でも最後はハルカ姉様も気持ちよさそうだったし…大丈夫だよね……)
そう思いながらも、千秋は大満足し今日の事を長々と3ページに渡り日記に書いた。
さまざまな思いはあるものの、三姉妹はそれぞれ満足し、就寝時間を迎えた。
最終更新:2008年02月24日 00:47