千秋の日記
夜10時…いつもならそろそろ眠くなる時間だが、今日は藤岡がいるせいか眠くならなかった。
ハルカ姉さまは「パーティーの後片付けがあるから」と言って台所へ行き、
いつもなら私が手伝うのだが、今日は何故かハルカ姉さまはカナを連れて行った。
居間で藤岡と二人になり、さらに遊園地の話は盛り上がりをみせた。
「藤岡はジェットコースターが怖かったんじゃないか?」
「え?そんな事無いよ?」
「だって私が先に乗り場の階段を上がって、藤岡を呼んだのにお前なかなか来なかったじゃないか!」
「そ…そうだっけ?」
「そうだよ!ずーっとうつむいたまま上がって来ないから、私が降りて引っ張って行ったじゃないか。」
「あー、そう言えばそうだったね!…アハハ。」
藤岡は恥ずかしかったのか、顔を少し赤くしながら笑っていた。
そしてその後、藤岡が私に反撃を仕掛けてきた。
「そう言う千秋ちゃんだって、最後に入ったお化け屋敷が怖かったんでしょ?」
「ば…ばかっ!私はお化けなんて怖くないよ!」
「でも中では珍しく悲鳴あげて、ずっとひっついてたのは誰だったかな?」
「それは…うぅっ……」
「それにお化け屋敷から出たら、凄く涙目で泣きそうになってたよ?」
「う……うるさーい!!」
藤岡は少し意地悪そうに笑いながら話してきた……よかった、気付かれていなかったらしい。
本当は怖くなんてなかったんだ。ただもっとひっつきたかったから、驚いたふりをしただけ…
それに、最後泣きそうになったのは…もう帰らなくちゃと思ったからだ。
でも藤岡には少しもばれてなかったらしい…。
「…それじゃあ一番楽しかったアトラクションは何だ?」
「う~ん…そうだなぁ、やっぱりメリーゴーランドかな。」
「ぇっ?メリーゴーランドって、藤岡は乗ってなかったじゃないか。」
そう、確かにあの時藤岡は「少し疲れたからベンチに座って待ってる」と言って、
メリーゴーランドには乗っていなかった。
「うん、でも千秋ちゃんがメリーゴーランドから降りた時、オレのこと探してたでしょ?」
「えーっと…確か乗った場所と違うところで止まったから、藤岡がどこにいるか分からなくなったんだ。」
「その時にオレを見つけて、手を振りながら笑顔で走ってきた千秋ちゃんはすごく可愛かったよ。」
「……なっ…そ、そんなの乗り物なんて関係ないじゃないか!バカ野郎!!」
「あははっ、ごめんごめん。でも本当にそれが一番思い出に残ってるから。」
そう言って、藤岡の奴は謝りながら笑っていた。
確かにあの時は雨も上がって元気だったとは言え…私はそんなに楽しそうにしていただろうか…。
私は恥ずかしくなって、藤岡から少し目をそらした。
「えっと…あの、千秋ちゃん?…怒ってる?」
「…いや、別に怒ってないよ。」
「あっ!そうだ、これオレからクリスマスプレゼント!」
藤岡はそう言うと、ポケットの中を探り紙切れを取り出した。
「これ…新聞の集金の時にもらったやつなんだけどさ……」
「……水族館の招待状?」
「そう!もしよかったら来週の日曜日でも一緒に行かな…」
「行くっ!絶対いくよ!……あっ…」
私は嬉しすぎて、藤岡が話し終わる前に答えてしまった。
それによく考えてみれば、カナはともかくハルカ姉さまは用事があるかも知れない。
「えっと、私は大丈夫なんだが…ハルカ姉さまは用事がないのか聞いてみるよ。」
そう言って私は台所へ向かおうとした。
「あっ、千秋ちゃん!」
「ん?なんだ?」
「その…水族館のチケットって二枚しかないんだよね…」
「えーっと…それって……つまり…」
「うん。遊園地の時みたいに、オレと千秋ちゃんの二人で行かない?って意味なんだけど…。」
私の思考回路は完全にストップしてしまった。
二人っきりのお出かけなんて、遊園地が最初で最後と思っていたのに…
こんな最高のクリスマスプレゼントが……
「……ち…・ゃん?……千秋ちゃん?」
「…あっ!…えっと、悪い…ボーっとしてた。」
「その…無理にとは言わないけど…」
「え?!行く!行くよ!行くに決まってるだろ!」
「…? 良かった。じゃあ前と同じ時間に同じ場所で。」
藤岡がそう言ったとほぼ同時に、カナが台所からやってきた。
そして、藤岡の耳元で何か言ったと思うと、藤岡は時計を見て「そろそろ帰る」と言いだした。
確かに時計を見ると、すでに11時前だった。
カナは何故か藤岡を連れて一緒に外へ出て行った。
その直後ハルカ姉さまがやってきて、そろそろ寝なさいと言った。
…そして私は思い出した。今日がクリスマスと言う事を。
11時…毎年サンタに扮したタケルがやってくる時間だ。
私はハルカ姉さまを困らさないためにもベッドに入ることにした。
藤岡の日記
夜10時…南の話では、そろそろ千秋ちゃんは寝る頃なのだが…そんな様子は無かった。
ハルカさんは気を使ったのか、今日は珍しく千秋ちゃんではなく南を手伝いに連れて行った。
千秋ちゃんはそれを見て、少し不思議そうな顔をしながらも、遊園地の話を続けた。
「藤岡はジェットコースターが怖かったんじゃないか?」
「え?そんな事無いよ?」
「だって私が先に乗り場の階段を上がって、藤岡を呼んだのにお前なかなか来なかったじゃないか!」
「そ…そうだっけ?」
「そうだよ!ずーっとうつむいたまま上がって来ないから、私が降りて引っ張って行ったじゃないか。」
「あー、そう言えばそうだったね!…アハハ。」
オレはとりあえず笑ってごまかした。…助かった。
本当はジェットコースターが怖かったわけじゃなく、あの時千秋ちゃんは先に上にあがった訳なんだけど、
…その……短いスカートだったので、呼ばれて上を向いたら…下着が見えてしまったのだ。
それで上が向けなかったんだけど…どうやら千秋ちゃんは気づいてないらしい。
オレはとりあえず話を変える事にした。
「そ、そう言う千秋ちゃんだって、最後に入ったお化け屋敷が怖かったんでしょ?」
「ば…ばかっ!私はお化けなんて怖くないよ!」
「でも中では珍しく悲鳴あげて、ずっとひっついてたのは誰だったかな?」
「それは…うぅっ……」
「それにお化け屋敷から出たら、凄く涙目で泣きそうになってたよ?」
「う……うるさーい!!」
千秋ちゃんは顔を真っ赤にして必死に反論してきた。
よっぽどお化け屋敷が怖かったんだろう…普段はクールなのに、お化けが弱点なんて…本当に可愛い。
でも、これ以上は本当に怒られそうなので、これ以上お化けの話はやめることにした。
「それじゃあ…千秋ちゃんが一番楽しかったアトラクションは?」
「うーん…そうだなぁ…観覧車かな。」
「観覧車?…結構意外だなぁ…」
オレはてっきりジェットコースターやメリーゴーランドと答えると思っていた。
「どうして観覧者なの?」
「だって15分くらいの間、藤岡と二人でいっぱい話ができただろ?」
「……あははっ…そ、そうだね!」
千秋ちゃんはサラッと言ったが、オレはそれを聞いて内心ドキドキした。
なんて言うか…嬉しいって言うか…顔が熱い。
とにかく話を終わらせよう…そう思い、オレは話を続けた。
「そう言えば観覧者と言えば、千秋ちゃんが膝の上に乗るもんだからゴンドラが傾いてたよね。」
「仕方ないだろ?ここが私の席なんだから!」
「そうそう、それと同じ事を降り場のおじさんにも言ったんだよね。」
「『片方に寄ると危ないよ』って言ってきたから、膝の上が私の特等席なんだ!って言ってやったんだ。」
「それで、おじさん苦笑いしながらオレと千秋ちゃんの方見て……」
「そう、藤岡と私を見て、『仲のいいカップルだね』…って言ったんだよね。」
話が終わるどころか、ますますおかしな方へ話は進んでしまった。
オレは、慌てて
「あはは、本当にまいっちゃうよね!」
などと言ってしまった。
すると、千秋ちゃんは機嫌をそこねたのか目を逸らしてしまった。
慌てたオレはポケットから水族館の招待券を取り出した。
「えっと…あの、千秋ちゃん?…怒ってる?」
「…いや、別に怒ってないよ。」
「あの、これオレからクリスマスプレゼント!」
いきなりだったので千秋ちゃんは少しキョトンとしてしまった。
「これ…新聞の集金の時にもらったやつなんだけどさ……」
「……水族館の招待状?」
「そう!もしよかったら来週の日曜日でも一緒に行かな…」
「行くっ!絶対いくよ!」
どうやら喜んでくれたらしい…オレはとりあえずホッとしていた。
すると、千秋ちゃんは立ち上がり、ハルカさんのスケジュールを聞きに行こうとした。
オレは慌てて千秋ちゃんを呼びとめた。
「あっ、千秋ちゃん!」
「ん?なんだ?」
「その…水族館のチケットって二枚しかないんだよね…」
「えーっと…それって……つまり…」
「うん。遊園地の時みたいに、オレと千秋ちゃんの二人で行かない?って事なんだけど…。」
千秋ちゃんの動きが止まった…と言うか時間が止まった感じだ。
1分程返答がなかったので、オレは勇気を出して返事を聞いてみることにした。
「千秋ちゃん?……千秋ちゃん?」
「…あっ!…えっと、悪い…ボーっとしてた。」
「その…無理にとは言わないけど…」
「え?!行く!行くよ!行くに決まってるだろ!」
「…? 良かった。じゃあ前と同じ時間に同じ場所で。」
オレがそう言ったとほぼ同時に南が来て、オレは外に連れ出された。
「藤岡、お前がいちゃ千秋の奴がなかなか寝ないんだ。」
「あっ…そっか、もう11時前だったのか。」
「いまハルカが千秋をベッドに誘導してるから、お前はこのサンタの衣装を着ておくんだ。」
「うん、わかった!」
そう言って、オレはサンタの衣装を身にまとい、千秋ちゃんが寝るのを待った。
最終更新:2008年02月24日 21:55