藤岡の日記


水族館を出ると、時間は1時を過ぎた頃だった。
お腹もすいたので、お昼御飯を食べることにした。

「そろそろお昼ごはん食べよっか。」
「そうだな。そう言えばお腹すいたな。」
「何が食べたい?御馳走するよ!」
「え…そんな、コンビニでおにぎりでも…」
「そんな、なんでも好きな物言ってよ!」

オレは二人でお昼を食べるくらいなら、十分なお金は持っていた。
…実は昨日、親戚のおじさんが来て少し早いお年玉をくれたのだ。

「そうだ!焼肉でも食べようか!」
「えぇ?!ダメだ!そんなのお昼から贅沢すぎるぞ。」
「じゃあ何にしようか?」
「…あっ、あれが食べたい。」

そう言って千秋ちゃんが指をさす方にはハンバーガー屋があった。

「えっ?ハンバーガー…?」
「うん。私はハンバーガーとやらを食べた事がないんだ。」
「そうなの?」
「………」

千秋ちゃんは少し黙り込んでしまった。
おそらく気を使って、ハンバーガーを食べた事がないから食べたいと言ってくれたのだろう。
せっかくなので、オレ達はハンバーガーを食べることにした。

「…藤岡。…ハンバーガーってこんなに種類があるのか?」
「え?…まぁ。」
「藤岡はどれを食べるんだ?」
「オレはテリヤキバーガーのセットにしようかな。」
「そうか…じゃあ私も同じのにするよ。」

どうやら千秋ちゃんは、『ハンバーガーを食べた事が無い』と言う嘘を通すつもりらしい。
気を使ってくれるのは嬉しいけど、少し悪い気もする。




「お会計1160円になります。」
「はい。」
「あっ、やっぱり私も半分だすよ。」

そう言うと千秋ちゃんはかばんの中をゴソゴソし始めた。

「え?!そんなの良いよ!これくらい出させてよ。」
「でも…やっぱり悪いだろ……」
「デートの時くらい…オレの顔を立てるつもりで…ねっ?」

そう言うと千秋ちゃんは黙ってうなずいた。
正直1160円くらいで顔を立てるって……オレは言った後に少し恥ずかしくなった。

「…はむっ!…もぐもぐ……うん!美味しいよコレ!!」
「そう?良かった。」
「なんて言うか…初めて食べたけど、ハンバーグとパンって合うんだな!」
「あははっ、そんなに気を使わなくてもいいよ。千秋ちゃんは本当にやさしいね。」
「……???」

オレはそう言いながら千秋ちゃんの頭を撫でた。

お腹もいっぱいになり、店を出たのが2時…帰るにはまだ少し早い時間だ。

「藤岡、せっかく海の近くまで来たんだ。海を見ていかないか?」
「うん、それいいね!帰るには少し早いし行こうか!」

そう言って二人で海へ行くことにした。
店を出て海に向かっている最中も手はつないで歩いていると、オレは何か違和感を感じた。
…なんだか千秋ちゃんの歩くスピードが遅いような気がする。

「千秋ちゃん、少し疲れた?休憩しようか?」
「だ…大丈夫だ。早く海へ行こう。」
「わかった。…けど疲れたらすぐ言ってね。」

そう言って再び歩き始めたが、早く行こうと言った千秋ちゃんのスピードは上がることは無く、
むしろスピードは落ちていった。




千秋の日記


外に出ると、時間は1時くらいだった。
水族館に夢中になっていて気付かなかったがお腹がペコペコだ。

「そろそろお昼ごはん食べよっか。」
「そうだな。そう言えばお腹すいたな。」
「何が食べたい?御馳走するよ!」
「え…そんな、コンビニでおにぎりでも…」
「そんな、なんでも好きな物言ってよ!」

なんでも好きな物と言われても…藤岡と食べれるなら何でも良いよ。
…なんて事も言えるわけもなく、私は何がいいか少し考えていた。

「そうだ!焼肉でも食べようか!」
「えぇ?!ダメだ!そんなのお昼から贅沢すぎるぞ。」
「じゃあ何にしようか?」
「…あっ、あれが食べたい。」

私はハンバーガ屋を指差した。

「えっ?ハンバーガー…?」
「うん。私はハンバーガーとやらを食べた事がないんだ。」
「そうなの?」
「………」

藤岡は不思議そうな顔をしている…ハンバーガーを食べた事無いのはおかしいのか?!
うちはクリスマス等のイベント以外、外食なんて殆どしない。
そういうイベントの時は夕食を食べに行くので、ハンバーガーなんて食べにいかないし…
コンビニでも売っているが、CMで見るのと全然違う…
とにかくハンバーガーに、私は少し憧れの様なものを持っていた。

店に入るとメニュー表に何種類ものハンバーガーが載っていた。
どれがおいしいのか分らないので、藤岡と同じものを食べることにした。


「お会計1160円になります。」
「はい。」
「あっ、やっぱり私も半分だすよ。」

私はそう言ってカバンの中から財布を取り出そうとした。




「え?!そんなの良いよ!これくらい出させてよ。」
「でも…やっぱり悪いだろ……」
「デートの時くらい…オレの顔を立てるつもりで…ねっ?」

…私は黙ってうなずいて下を向いた。……なんだか嬉しいな…。
藤岡は何も考えないで言ったのかもしれないが、確かにデートと言った。
友達とならデートじゃない……特別な人とだからデートなんだ。
私は最初からそのつもりだったけど、藤岡も同じ気持ちでいてくれたのかな…
そんな事を考えるとまた顔が赤くなった。

「……ゃん?…千秋ちゃん?」
「わっ!!どど、どうした?!」
「えーっと…席に座って食べようか?」
「あ…あぁ、そうだな。」

そして私は席につき、はじめてのハンバーガーを食べた。

「…はむっ!…もぐもぐ……うん!美味しいよコレ!!」
「そう?良かった。」
「なんて言うか…初めて食べたけど、ハンバーグとパンって合うんだな!」
「あははっ、そんなに気を使わなくてもいいよ。千秋ちゃんは本当にやさしいね。」
「……???」

藤岡は意味の分からない事を言って、私の頭を撫でた。
いつ気を使ったのか分らないが、悪い気分ではないので私は黙って頭を撫でられていた。

ハンバーガーを食べ終わって時計を見るとまだ2時だった。
…まだ一緒にいたい……私は藤岡が帰ると言う前に、先手を打った。

「藤岡、せっかく海の近くまで来たんだ。海を見ていかないか?」
「うん、それいいね!帰るには少し早いし行こうか!」

良かった…藤岡もまだ帰る気はなかったらしい。
私は張り切って藤岡の手を引いて海へ急ごうとした。
…その時私はあることに気がついた。

(あれ…さっき捻った足が痛い……)

信号待ちの間、藤岡に気づかれないように、足首をさわってみた。
少し腫れている気がする……私の歩くスピードはますます落ちて行った。
少しすると、私の様子がおかしい事に藤岡も気付き始めたらしい…。

「千秋ちゃん、少し疲れた?休憩しようか?」
「だ…大丈夫だ。早く海へ行こう。」
「わかった。…けど疲れたらすぐ言ってね。」

早く行かないと足が動かなくなってしまいそうだったので、私は急いで海へ向かおうとした。
…しかし気持ちとは逆に、私の歩くスピードは遅くなり、痛みはどんどん増していった。


最終更新:2008年02月24日 22:09