千秋の日記
私は電車に乗って驚愕した……人が多すぎる。
この前乗った時はガラガラだったのに、これはどういう事だ?!
電車にほとんど乗った事の無い私は、慌てて藤岡に訪ねた。
「ふ…藤岡?!どういう事だ!この前はあんなに空いてたのに!」
「この前は普通電車だったからね。こっちは着くのが早い代わりに、乗る人が多いんだ。」
「…で、座る場所のない私たちはどうすればいいんだ?降りるのか?」
「え?どうするって…そりゃ立って乗るしかないかな。」
コイツはなんて恐ろしい事をサラっと言うんだ…揺れて転んだら危ないじゃないか!
それに、もし電車が何かにぶつかったりしたら、立っている私たちは飛んで行ってしまうじゃないか!
…そう思い、私はさらに藤岡に問い詰めた。
「立ったまま電車が動くと言う事か?!」
「そうだけど…」
「そんな…揺れたりして転んだらどうするんだ……」
しかし、私の決心は固まっていないと言うのに、電車の奴はピーっと言いながら出発した。
とにかく落ち着け…藤岡は吊革に捕まっているんだ、藤岡から離れなければ大丈夫……
私はそう思い、藤岡の手を強く握りしめた。
「え…えっと…千秋ちゃん?そんなに脅えなくても大丈夫だよ?」
「あ、あ…安心しろ藤岡…わ…私が付いているからな。」
「ぇ…?」
まったく藤岡の奴はのんきなものだ…私たちはいつ飛んで行ってしまうか分からないと言うのに…
そう思った瞬間、電車は右へ緩やかなカーブへさしかかった。
緩やかなカーブと言うのに、私の体は横へ大きく振られた。
私は恐ろしくなって、気がつくと藤岡の腕にしがみ付いていた。
ようやく次の駅に到着すると、席が一つ空いた。
私は少し駆け足でその席へ向かい、藤岡を呼んだ。
「おーぃ、藤岡!ここの席が空いたぞー!」
「うん、良かったね千秋ちゃん。」
「あぁ、…さぁ藤岡、早く座れ。」
「え?そんな、気にしないで千秋ちゃんが座ればいいよ!」
千秋の日記
駅に到着して、私は走って外へ飛び出した。
…しかし、水族館と思われる建物はどこにも見当たらなかった。
「藤岡、この建物のどれかが水族館なのか?」
「いや、水族館はもっと海の方にあるんだよ。…えーっと、ここから歩いて20分くらいかな。」
「そうなのか…よし、早く行くぞ!」
私はそう言って藤岡の手を握った。
最初は恥ずかしかったが、今では並んで歩いても全然平気だった。
しばらく歩くと水族館が見えてきた。
それを見て私は驚いた。…想像の何十倍も大きい……
そして中に入ると私は更に驚いた。
2mくらいの水槽がいっぱいあるのかと思いきや、入ってすぐにとんでもなく大きい水槽があった。
部屋の窓どころか、私の住んでいるマンションくらいあるんじゃないか?
「どう?思ってたより大きくて驚いた?」
藤岡がなんだか笑いながらそう言ってきた。
私は空いたままの口を閉じ、平静を装った表情で返事をした。
「えっと…思っていたより少し大きいな。…うん。」
…とは言ったものの、本当にびっくりだ。
何やら小さい魚が泳いでいると思いきや、大きなサメまで一緒の水槽にいる。
魚の紹介には、プランクトンを食べていると書いているが、大丈夫なのだろうか…
さらに他の水槽にはマンボウも泳いでいた。
マンボウなんて本当に存在したとは…私は都市伝説みたいなものと思っていた。
そして一番驚いたのは出口の近くにいたペンギンだ。
まさかペンギンに水族館で会えるなんて!私はペンギンが大好きなんだ!
なんて言うか…少しどんくさくて可愛いんだ。
テレビでしか見たことが無かったけど…本当に可愛い………一羽欲しいな……
そんな事を考えながら歩いていると、私は何かにつまづいて転んでしまった。
「うわぁっ!!…………いててっ…」
それを見た藤岡が慌てて私の方へ走ってきた。
「千秋ちゃん!だ、大丈夫?!」
「へ…平気だ、これくらい。」
「なら良かったけど、足元には気をつけて歩かないと危ないよ。」
「なっ…!お前が手をちゃんと握ってないからだろ!バカ野郎!!」
「えぇ?!」
…ついつい恥ずかしくなって藤岡に八つ当たりしてしまった。
でも、ちゃんと手を握っていなかった藤岡も悪いんだ!
私はそう思いながら、藤岡に手を引かれ立ちあがった。
「イタッ…!あれっ…?」
「どうしたの?どこか痛いの?大丈夫?!」
「…大袈裟だな……少し足を捻っただけだ。もう大丈夫だよ。」
そう言って私たちは水族館を後にした。
藤岡の日記
駅に到着すると千秋ちゃんは走りだし、当たりをキョロキョロしだした。
「藤岡、この建物のどれかが水族館なのか?」
「いや、水族館はもっと海の方にあるんだよ。…えーっと、ここから歩いて20分くらいかな。」
「そうなのか…よし、早く行くぞ!」
そう言うと千秋ちゃんはオレの手を握り歩き始めた。
なんだかこうしていると、もう立派なカップルと言った感じかな…。
しばらく歩き水族館が見えてくると、千秋ちゃんは驚いた顔をしていた。
たぶん思っていた以上に大きかったのだろう。
オレは水族館に入った時に千秋ちゃんがどんな顔をするのか楽しみだった。
…中に入って一番大きい水槽を見た千秋ちゃんは、ボーっとした顔で口は少し開いていた。
普段隙がほとんど無いだけに、こういう表情は凄く新鮮だ。
「どう?思ってたより大きくて驚いた?」
オレがそう聞くと、千秋ちゃんは慌てて口を閉じ、顔を少し赤くしながら
「えっと…思っていたより少し大きいな。…うん。」
しかし平静を装ったわりに、オレの手をぐいぐい引っ張り水槽の一番近くで魚を見ていた。
その後も、いろいろな魚を見るたびに千秋ちゃんは驚いたり笑ったりしていた。
そんな千秋ちゃんが一番反応したのがペンギンだ。
よっぽど好きなのか、ペンギンが見えると一人で走って行ってしまった。
後から追い付いてみると、千秋ちゃんは珍しくキラキラした目で、ペンギンの動きを追っていた。
「千秋ちゃん…ペンギンが好きなの?」
そう聞くと、ペンギンを見たまま何も言わず首を縦に振った。
しばらく動きそうもないので、オレは隣の土産物屋でペンギン人形付きのストラップを二つ買った。
…よっぽどペンギンが気に入ったのだろうか…かれこれ20分程黙ってペンギンを見ている。
オレは少し疲れたので後ろの椅子に座って、ペンギンを見る千秋ちゃんを見ていた。
ペンギンが右に走れば千秋ちゃんも右へ…水に潜ればしゃがみ、ずっと動きを観察している。
ハッキリ言ってペンギンなんかよりよっぽど可愛い。
しかし、ペンギンに集中していた千秋ちゃんは、何かにつまずき派手に転んだ。
オレは慌てて千秋ちゃんの元へ走った。
「千秋ちゃん!だ、大丈夫?!」
「へ…平気だ、これくらい。」
「なら良かったけど、足元には気をつけて歩かないと危ないよ。」
「なっ…!お前が手をちゃんと握ってないからだろ!バカ野郎!!」
「えぇ?!」
千秋ちゃんから手を離して走ったんだけど…と思いつつも、
いつも通りの口調の千秋ちゃんにホッとしつつ、オレは千秋ちゃんを引き上げた。
「イタッ…!あれっ…?」
「どうしたの?どこか痛いの?大丈夫?!」
「…大袈裟だな……少し足を捻っただけだ。もう大丈夫だよ。」
千秋ちゃんがそう言ったので、とりあえず安心し水族館を後にした。
この時、オレがもっとちゃんと足を気にしてあげればよかったんだ…。
最終更新:2008年02月24日 22:07