いつものように藤岡の膝の上に座り、まったりとしているチアキ。
藤岡も初めてされた時は少し戸惑ったものの、それ以降はごく自然なこととしている様子だ。
そんな2人の様子を見て、微笑ましく思うハルカ。
(ふふ、私がお父さんに甘えていた頃もあんな感じだったのかしら。)
藤岡に父親の面影を見てしまうのは、チアキだけじゃなかった。
チアキをそうさせたのはハルカであり、最初に藤岡からそれを感じ取ったのも彼女である。
そのためか、晩御飯をご馳走した後、少しお喋りをする程度のはずがかなり話し込んでしまい、
藤岡が帰る頃には夜遅くだったということも珍しくない。
その日はそれが普段以上にひどく出てしまい、気づいた頃には日が変わろうとしていた。
「ごめんなさい、こんなに遅くなるまで付き合わせちゃって。」
「いえ、明日は休みですし、大丈夫ですよ。それじゃあ、また来ます。」
藤岡が帰ろうとすると、チアキがあることを提案した。
「そうだ。最近は何かと物騒だから、夜道は危ない。今日は泊まっていくといいよ。」
「ええ!? いいよ、さすがに悪いから!」
藤岡としては女の子と、ましてや自分が惚れている相手と同じ屋根の下で寝泊りするとなって、
平気でいられるわけがない。その動揺は大きい。
「そうそう、別にか弱き乙女でもないから大丈夫じゃないか? 番長なんだし。」
「そういう問題じゃないだろ、バカ野郎。」
「とにかく、チアキの言う通り心配だから、泊まっていって、ね?」
何か心配されているようなので、断っても変に気を使わせることになるかと思い、
やっぱり泊まっていくことにした。
「う~ん。じゃあお言葉に甘えて…。」
「だけどさ…。」
カナがある疑問を投げかけてきた。
「泊めるのはいいんだけどさ、コイツをどこで寝かせるつもりなんだ?」
「毛布を貸してもらって、居間で寝ることにするよ。」
「待て。そんなことして風邪でも引いたら、どうするんだ? ちゃんとした所で寝ろよ。」
「そうは言っても、他に寝る場所なんてないだろ?」
「おい、カナ。ちゃんと考えろ。」
などと色々話し合っていると、ハルカがある提案を持ち出した。
「居間で寝てもらうのは悪いから、藤岡君には私の部屋を使ってもらって、
私はカナかチアキの部屋で寝かせてもらうというのはどうかしら?」
「うぅん、まあいいんじゃないか?」
「それならハルカ姉さま、私と一緒に寝ませんか?」
「うん、ありがとうチアキ。藤岡君もそれでいい?」
「え? あっ はい。」
そんな簡単に男に部屋を貸していいものなのかと不思議に思いつつ、
せっかくの好意を無下にするのもいい気がしないので、承諾しておいた。
「じゃあ、ちょっと待っててくれる? 私の部屋片付けてくるから。それと、寝巻きも持って来るわね。」
「はい、ありがとうございます。」
「ハルカ姉さま、手伝いましょうか?」
「うぅん、いいわ。それじゃあ、ちょっと待ってて。」
こうして話がつくと、カナとチアキは自室に戻り、ハルカは自分の部屋を片付けに行った。
藤岡は電話を借り、家族に「友達の家に泊まる」と伝えておいた。
それから居間で少し待っていると、ハルカが寝巻きを持ってきてくれたので、それに着替えた。
しかし、この寝巻きは曰く付きであった。
(やだ! こうして見るとますますお父さんみたい…。)
そう、ハルカが持ってきた寝巻きは父親が使っていたものだった。
別に何かを意図して持ってきたわけではなかったのだが、
相手はまだ中学生だというのに、父親の面影をより強く見出してしまっていた。
「あの、どうかしましたか?」
「え!? うぅん、何でもない!
そ、それより、納戸にしまってあったお父さんの寝巻きなんだけど、どう、サイズとか問題ない?」
「はい、少し大きいですけど、大丈夫です。この方が寝やすいですし。」
「そう? ならいいけど。何かあったら呼んでね。それじゃあ、おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
藤岡が寝る頃には既に0時を過ぎていた。本来なら眠くなっていてもおかしくはないのだが、
「………眠れない。」
眠れなどしなかった。ここは女性の部屋である。
今自分が使っている布団だって、普段はハルカが使っているものだ。変に意識してしまい、落ち着けない。
それからしばらく経ったが、悶々とした気分は続いていた。
どれほどの時間が経ったのかわからないが、眠気は少しずつ強くなってはいるものの、中々寝付けない。
トイレの水が流れる音が聞こえるが、自分のこの興奮までは流してくれない。
とにかく自分を落ち着かせようと頑張っていると、突然ドアが開いた。誰かがこの部屋に入ってきたようだが、
半端に起こっている眠気のせいで起き上がって確認しようとするものの、できない。
その何者かは、あろうことか布団の中に潜り込んできた。その時、ようやく侵入者の正体がわかった。
「ハ、ハルカさん?」
トイレから寝床に戻る際、ウッカリ自分の部屋に戻ってきてしまったのだろうか。
しかも困ったことに名前を呼んでも反応してくれない。
藤岡の存在に気づきもしないで、すっかり寝入ってしまっているようだ。
(困ったなぁ。ひとまず起きてもらわないと…。)
そう思い、ハルカを起こそうとすると、いきなり抱きつかれ、
女の柔らかな感触やシャンプーの匂いなどを強く受けてしまった。
思いもよらぬハルカの行動にロクに声も出せずに固まってしまい、
これが女の感触や匂いなのだと、思わず今の状況を堪能してしまう。
(いや、駄目だ! 俺には南がいるんだ!)
今の状況に流されかけるも、カナの顔を思い浮かべ、何とか解こうとする。
しかし、意外にハルカの力は強く、生半可な力では解けない。
かと言って、無理に力を入れるとハルカに怪我をさせてしまうのではないかと悩んでしまう。
大声を出すというのも、カナやチアキまで起こしてしまう恐れがあるから、できない。
特にカナには誤解されたくないし、今の状況を見られたくない。
どうやって、この状況を抜けるかを考えていると、
「…お…さ…。」
ハルカが寝言を口にしている。どんな夢を見ているかは知らないが、
藤岡とは対照的にぐっすりと眠っている。
「…お父さん。」
ハルカはそう口にすると、途端に笑みを浮かべた。何か良い夢を見ているらしく、その笑顔は幸せそうだ。
それを見てしまった藤岡は起こしては申し訳ない気分になり、起こすことができなくなった。
(仕方ない。このままやり過ごそう。)
「う、うぅん…。」
日が昇り始めた頃、ハルカは目を覚ました。良い夢を見たからか、やけに目覚めがいい。
そのためか、今の自分が藤岡を抱きしめている状況を早く認識できた。
「…あ、おはようございます。」
ハルカが起きたことを確認すると、藤岡はとりあえず挨拶をした。
ハルカとは違い、藤岡の方は寝ようとはしたものの、全然眠れやしなかった。
そもそも、女に抱きつかれたまま、平然と寝ることができる男ではない。
「あ、あれ、藤岡君!? な、何で!? ……あぁ、そうか!」
慌てて離れるも、意外なことに早く事の成り行きを理解した。
「ごめんなさいね、私…。」
「い、いえ。気にしないでください。ここはハルカさんの部屋ですし、仕方ないですよ。」
申し訳なさそうにするハルカを見て、起き上がって何とかフォローしようとするもロクな言葉が出てこない。
「そうは言っても、……あっ。」
突然ハルカの視線が藤岡の股間に集中しだした。
「え? ……あっ。」
藤岡の方も自分の股間を見ると、そこは大きく膨らんでいた。無理もない。
一晩中女に抱きつかれたまま過ごしていたのだ。健全な中学生には刺激が強かった。
「…え、えぇと。…その、すみません。」
ズボン越しとは言っても、あまりの恥ずかしさに思わず両手で隠してしまう。
それでもハルカの視線が外れることがなく、より一層羞恥心が高まる。
「………ねぇ。」
藤岡がそんな恥ずかしさからどうにかなってしまいそうになっていると、
呆然と藤岡の股間を見つめていたハルカが声をかけてきた。
「…これって私のせいでこうなっちゃったの?」
最終更新:2008年03月12日 14:51