「ちょ、いきなり何すんだっ……!」
「何というか身体が勝手に……」
「私にだって心の準備ってものが……。それに少し……苦しいよ」
「……! ああっ、ごめん!!」
そう言われて、抱きしめる腕の力を緩めてみたはものの、
己の身体自体をカナから離すことは到底出来そうにもない――藤岡は心底そう思った。
さっきから鼻腔をくすぐる洗い立ての髪の匂い、小さな肩の感触、胸板に僅かに触れる胸の柔らかさ……、
一つずつあげていったらキリがないほど、カナの全ての要素が藤岡を抱擁に駆り立てていた。
そしてカナもカナで、浴衣のはだけた半裸の男子にきつく抱きしめられている状況を、
実のところ、そこまで不快だとは思っていなく、いや寧ろ心地よくすら感じていたのだった。
それは何のことはない。自分のことを嘘偽りなく『好きだ』と言ってくれる存在に対して、
いつの間にやら我が家に招くことに何の抵抗もなくなっていた藤岡に対して、
同年代の男子の中で一番自分に近い存在として深層心理で認識していたことを気付いたからであった。
勿論、それを自覚するに至ったキッカケとなる出来事は先の浴場での遭遇に他ならないのであるが。
「うん。これくらいなら苦しくないし、ちょうどいい……かな」
「そ、そう?」
どのくらいの間、抱き合った状態のままでいたのだろうが。
よく考えればここは大浴場前の廊下だ。非常に目立つことこの上ない。
それなのにやはりさっきから誰も通りかからないのは、自分達以外に宿泊している客が少ないということを加味しても、
何かの陰謀と思ってしまえるくらいに出来すぎた状況だ。
と、余りの歪な状況と辺りの静寂に堪えかねたのか、カナが口を開いた。
さっきから気になって仕方なかったことを藤岡に指摘するためだ。
「藤岡……ちょっといいか?」
「ん、何?」
「さっきから……そのお前の『アレ』が……当たってる」
「ッ!!」
ここで藤岡はやっとのことで身体を離すに至った。
カナの言う『アレ』とは勿論藤岡の立派に育った息子のことに他ならない。
未だに収まりのつかない藤岡の息子は、カナと密着したことで更に硬度倍、もはやオリハルコンと見紛う程の状態になっていた。
「こ、これは……そのっ!!」
慌てて弁解しようとする藤岡だが、この場合は何を言っても無駄と言うものだろう。
そもそも硬く膨張した己の息子を、先程は自らカナの目の前に晒すという暴挙まで犯している。
「――わかってるよ」
そんな藤岡に、まるで聞き分けのない子供を諭すかのようにカナは顔を近づけた。
「私のせいでこんなになっちゃったんだろ?」
小学生の妹にバカと罵られる普段のお気楽なカナからは想像もつかないような、色を孕んだ声――。
「だったら……とらなくちゃな、『責任』を」
おかしい――。いつのまにか責任を取るべき立場が逆転している――。
そんな矛盾も、愛しさと興奮に白濁する藤岡の思考では落ち着いて認識することが出来なかった。
そしてカナは不器用な手つきで藤岡の股間をはだけさせ、ソレを露出させた。
「こういう時は……とりあえず手で擦ればいいんだろ?」
女だらけの家庭で育ってきたカナの、知りうる限界の男子の悦ばせ方であった。
「うっ!」
カナに直に触られ、僅かにその手を上下させられただけで、藤岡はうめきを上げ、顔を歪ませた。
「!? どうした藤岡? もしかして気持ちよくなかったか?」
藤岡の表情を見て、カナは己の失敗を危惧した。
だがそれは杞憂も杞憂。藤岡にしてみれば愛する女性の手で自分のモノを触られるなど、それだけで昇天モノの気持ちよさなのだ。
「いや……続けて」
「あ、う、うん。わかったよ」
懸命に手を動かすカナ。
正直その手の挙動は、藤岡がいつぞやクラスの悪友の家で見たAVの女優に比べると、月とスッポンと言っていいくらいのぎこちなさだった。
(でも……滅茶苦茶イイ……!! 自分でするより……全然イイ!!)
もはや藤岡にとってはカナが自分の息子をシゴいているという事実だけで十分なのだ。
「ごめんな藤岡、私はお前がどうやったら気持ちよくなるかなんて、そんなによくは知らないんだ。
こんなことだったらハルカに教わっておけばよかったよ」
残念なことにハルカの性的知識はカナと同レベルである。
そんなことはカナも藤岡も知る由もないが、藤岡にとってはカナが自分のためにそこまで一生懸命になってくれるだけで嬉しかった。
「今だから言えるけど――」
と、カナが何かを言いかけた。
藤岡の息子をシゴキながら真剣な面持ちで口を開いたその姿はある意味とてもシュールではあったが、
藤岡にとっては最高に猥雑で愛しい、崇高な天使だった。
「もしかしたら私がお前を待っていたのは……こうなることを望んでいたからかもしれないな」
そしてその言葉を聞いた瞬間、藤岡の中で一度は目覚め、すぐに眠ったはずの嗜虐心が、再度首をもたげた。
カナはこの行為を嫌がってはいない。だったらもう少し要求をしてみてもいいだろう。
何せ自分が毎晩のように妄想し、夢にまで見た状況なのだから――。
藤岡は意を決して口を開いた。
「南……そしたら今度は、口で咥えてみて」
するとカナは手の動きを止め、目を丸くして藤岡を見た。
「……え!? く、口で?」
「うん、そう……口で」
「咥える!? コレをか!?」
カナは心底驚いている。無理もない。男のいきり立ったアレを見るのなんて、勿論初めてだったであろうし、それを触るというだけで重大なことだ。
ましてや咥えろだなんて、カナにとっては不味いゲテモノ料理を喰えと言っているのと大して差はないようなものだ。
「ダメ……かな?」
カナは黙り込んでしまった。
藤岡は「失敗したな」と思った。流石にいきなりフェラチオはハードルが高すぎたかもしれない。
多少カナもその気になっているとは言え、多少Sっ気の強すぎる要求だったのは事実だ。
が、カナは数秒目を泳がせた後、
「いいよ――」
極めてあっさりと了承してしまった。
「本当にいいの? 無理しなくても……」
我ながら白々しい発言だと藤岡は思う。
既に視線はカナの瑞々しい唇に固定され、それが己の息子に触れるヴィジョンで頭の中は一杯だというのに。
それでもこれは嘘偽りない願望だし、全てはカナを愛しく思う気持ちから派生した感情――誤魔化せようもない。
「いや、大丈夫だと思う……」
それでもカナは藤岡が望むなら、と全ての躊躇を脳内で霧散させつつあった。
「正直、ハードルは高いよ。これがもし他の男子のだったら、きっと『してくれ』って言い終わるのを待つ前に拒否して、
ついでに黄金の右を食らわせて警察に突き出してるだろうさ。
でも、なぜだろう。藤岡のは全然汚いとか嫌だとか、そーいう気持ちにはならないんだ」
藤岡は今このままショック死をしても、世界で一番死に方をした男だと自負できるだろうと思った。
もしくは、何故かこの場に突如車が突っ込んできて轢かれて死ぬなんていうどこぞの理不尽メロドラマのような展開があっても、
カナの傍で逝けるならそれはそれで幸せだろうとも思ったくらいだ。
「咥えればいいんだな。いくぞ……」
そしてとうとうカナは唇を亀頭に寄せ、小さく口を開けるとそれを包み込んだ。
「ほれれ、いいのふぁ?(コレでいいのか?)」
正直歯が当たって少し痛いとも感じたが、モノを咥えながら上目遣いでこちらを窺うカナを見たら、何も気にならなくなった。
また、咥えたまま喋ろうとする様子も滑稽ではあるのだが、やはりそれも右に同じだ。
「うん……そしたら、そのまま……上下に動かす感じで……」
「ほうふぁ?(こうか?)」
ぎこちない動きで、啄木鳥の如き上下運動を始めるカナ。
「うん……そう。凄くいい」
「ふぁ……おおひすひてれんぶふぁいらない……(ふぁ……大きすぎて全部入らない)」
別に大きいことはないだろう。そう思うのはカナに比較対象がないからだ。
それでも藤岡は嬉しかった。それはつまりカナが初めて咥えた異性のモノは自分のソレに他ならないという事実をより強固に印象付けてくれるからだ。
そんな歪んだ支配欲に脳の3分の1くらいを犯されながらも、目を瞑ると天使が「こっちへおいで~」と手招きさえしているのが見えた。勿論、天使はカナの顔をしている。
(……!! 駄目だ! いくら気持ちよすぎるからって、まだ早いぞ!!)
藤岡は下半身に気合を入れなおした。
男たるものの、好きな女の子に悦ばせられてばかりではいかん。
寧ろ、相手が昇天するまで悦ばせてこそなんぼなのだ。
「南……そろそろ」
「ふぇ?」
藤岡の目にただならぬものを感じ取ったのか、カナは口を離した。
「次は……俺が南を気持ちよくさせる番だね」
最終更新:2008年03月12日 15:35