その1
休日だというのに、朝っぱらから、トウマと藤岡はサッカーの練習をしていた。
へとへとになるまで走り回ったトウマは、すっかりバテていた。
「だからね、あそこはロングパスで正解なんだよ」
藤岡はさわやかな笑顔で語る。
まったく、タフな野郎だぜ。
ロングパスに対する意識の差を埋めようと思うものの、息が切れてしゃべるのもつらくて、もうどうでもよくなってしまう。
そんなトウマの表情を見て、
「少し休もうか」
と藤岡が言った。
その場に、倒れ伏してしまいそうになるのを、トウマは根性で耐えようとしたが、結局、地面に座り込んでしまった。
「おいおい、大丈夫か」
言って、藤岡が手を差し出してくれる。
見上げた藤岡は、ちょっと格好よかった。
不覚にも、トウマは、藤岡の笑顔に見とれてしまった。
差し出された藤岡の手を握ると、照れくさくて死にそうになった。
って、何考えてるんだよ、オレ。こいつは藤岡だぞ。
いつまでたっても、オレのことを男だと思いこんでるような奴だ。
トウマは思わず、恨みがましい目で、藤岡を見てしまった。
「えっ、なに?」
問い返す藤岡に、
「なんでもないよ!」
トウマはキレ気味に返事をした。
ベンチに座り込んだトウマは、水筒のお茶を飲みながら、リフティングをする藤岡を眺めた。
藤岡のしなやかな身体がトウマの目にはまぶしく映った。
やっぱり、藤岡、もてるんだろうな。
そんなことを思い、自然とため息が漏れた。
こんな風に藤岡を意識してしまうようになったのは、いつからだっただろう。
何かきっかけがあったわけではない。
気づけば、トウマは、藤岡のことを……。
一度、意識してしまえば、それまで見えなかったものが、見えてきた。
チアキの気持ちも、カナの気持ちも、藤岡の気持ちも。
「全く、藤岡の奴、いい気なもんだよ」
気づけば、また、ため息だ。
練習に一区切りつけた藤岡が、トウマの横に座った。
何となく、トウマは藤岡から身体を離してしまう。
「オレばっかり、ドキドキしてる。バカみたいだ」
だってこいつはオレのことを男だって思ってるんだから。
でも、どうせ、女だとわかっても、恋愛対象になんてなりようがない。所詮小学生だし、それにトウマは、自分が男の子たちに、どんな風に言われているのかを知っている。
「なんだ、トウマ。顔が暗いぞ」
言って、藤岡は、トウマの胸をグニュっと掴んだ。
「!」
あまりのことにトウマは何の反応もできなかった。
「毎日、特訓してるのに、どうして余計な脂肪が落ちないんだろう?」
藤岡は首を捻る。
それは、余計な脂肪なんかじゃないよ!
どちらかというと、女の子にとって大事な脂肪だ。
「いや、むしろ、大きくなってきてないか」
もちろん、トウマだって日々成長しているのだ。
「うーん、おかしいなあ」
藤岡は、円を描くような運動で、トウマのふくらみを優しく愛撫した。
「ちょ、バカ」
トウマは藤岡の魔の手から逃げようとしたが、なぜか身体に力が入らなかった。
ううう、やばいよ。
乳首がたってきちゃったよう。
つーか、人に見られた藤岡の人生が普通にやばいような。
「おい、藤岡」
トウマのタンクトップを突き上げる勢いで、盛り上がった乳首を、藤岡の指が転がした。
「ヒッ」
思わず声が漏れた。
「あれ、このコリコリしたの、何だろう」
「このバカ野郎!」
叫んでトウマは、藤岡を突き飛ばした。
「このセクハラ野郎」
泣きながらトウマは、家に逃げ帰った。
その2
トウマは自分の部屋に飛び込むと、息を整えた。
「藤岡の奴、なんてことしやがる」
仮にも乙女の大切な部分なのだ。
ぜってーありえねえ。
だって、普通気づくだろ!
トウマは自分の胸に手のひらを当てた。そして、藤岡がしたようにグニッと揉んでみた。
じんわりと快感がよみがえってきた。
トウマはあわてて、手を離した。今更ながらに、とんでもない目に遭ったのだと思い知らされた。
トウマは気持ちを切り替えるために、最近お気に入りの漫画を読むことにした。
しかし、その漫画は間の悪いことに、アキラに貸していたのだった。
「兄貴。オレの漫画、返せよ」
トウマはノックもせずにアキラの部屋の扉を開けた。
しかし、そこは無人だった。
「あ、そういえば」
とトウマは手を打った。
ちょっと前に、友達と出かけるとか言ってたっけ。
「いいや、勝手に持ってちゃお」
トウマは兄貴の部屋を物色し始めた。
「本当、汚い部屋だよな。掃除しろよ」
トウマはポイポイと手当たり次第にモノを投げながら言う。
汚れたパンツとかも指でつまんで、後ろに投げる。
「脱いだら脱ぎ放しかよ。仕方ないな、アキラの奴」
そうやって10分ほどが過ぎた。
「うーん。みつかんないや。どこに置いたんだろうね」
トウマは腕組みをして唸った。
これは、オレに対する挑戦か?
男なら、絶対に見つけ出してやるぜ!
部屋の隅々まで探し尽くしてやる!
「まずは、ベッドの下からだ!」
トウマは短パンのおしりを突き出す格好で、ベッドの下をのぞき込んだ。
「お、早速あるじゃないか」
そこには漫画本らしきモノが落ちていた。
トウマは腕が引きつりそうになりながら、その本を引っ張り出した。
「ふー、手間かけさせやがって」
帰ってきたら、藤岡番長直伝のケリをお見舞いしてやるよ。
額の汗を拭う仕草とともに本の表紙に目線を下ろしたトウマは一瞬にして固まった。
それは漫画本ではあったが、トウマが求めていた漫画本ではなかった。
なんというか、かわいい絵柄のキャラクターがおかしなことをするような漫画だった。
トウマは顔を真っ赤に染めて、その本を投げ捨てた。
脚から力が抜けてその場にしゃがみ込む。
「エ、エロ本」
信じられなかった。
自分の兄がそんなものを持っているなんて。
そんなこと考えたことがなかった。
アキラの奴、あんなとぼけた顔をしてあんな本を読んでるのか。
トウマは胸を押さえて、深呼吸する。
ようやく気持ちが落ち着いてきたトウマは部屋を出よう立ち上がった。
しかし、そこから一歩を踏み出すことができなかった。
床に落ちたエロ漫画は磁石のようにトウマの視線を吸い付ける。
表紙の女の子が頬を桃色に染めて、トウマを誘っている、ような気がする。
トウマだってお年頃。当然、そっち方面の好奇心だってある。何もサッカーばかりが興味の対象というわけではないのだ。
「ちょっとくらいならいいかな」
そう考えかけて、トウマはぶるぶると首を横に振った。
駄目だ! 何を考えてるんだ、オレ。
あんな「変態」っぽいものを女の子が読むなんて!
そう思いつつ、トウマの手はエロ漫画に伸ばされていく。
「これはオレが読みたいわけじゃないんだ。ただ妹として兄貴がどれくらい変態か確認しておく必要があるからな」
そんな言い訳にもならない言い訳を自分自身にしながら、トウマは、エロ漫画を手に取った。
おそるおそるページを捲るトウマの前に繰り広げられるのは、未知の衝撃だった。ページを捲る指は次第に早くなり、それにつれてトウマの鼓動も怪しく高鳴った。
アキラがそういう趣味なのか、たまたまその本だけが、そうなのか、小学生かせいぜい中学生くらいの女の子が、男をいじめる話が多い。
これが逆であれば、トウマも不快感の方が強かったかも知れない。
しかし、男をいじめ抜く少女たちの姿は、トウマに爽快感を与えた。
男の股間を踏みつけ高笑いする少女たちの姿に、トウマは、夢中になった。
『はあああん、やああ、もっと舌をつかいなさいよ』
いやらしい文字列がトウマの脳内で音声に変換される。
ほらこっちも舐めなさいよ、と女の子が男の顔に跨る。
「うわあ、これお尻の穴だろ!」
ほんの好奇心から開いた本はトウマを、激しく引きずり込んでいく。
トウマと同じような年の女の子が、秘所を机の角の擦りつけながら感じているページが出てきた。
「これって、気持ちいいのかな」
トウマは部屋の扉に鍵をかけると、短パンを脱ぎ捨てた。
ベッドの角に秘所を押しつけてみる。
縞模様のパンツの布地越しに、大事な部分に圧迫感が生じる。
それだけで、トウマは頭が真っ白になった。
「これで動くんだよな」
一抹の恐怖感のせいでトウマの腰を振る動きはぎこちないものとなった。
だが、そんな刺激すら、初めてのトウマは、心地よさに酔った。
「これが、オナニーなんだ」
自分が汚れたような、それでいて、一歩大人に近づいたような、奇妙な感覚だった。
「藤岡。オレはもう子供なんかじゃないんだ」
トウマは、潤んだ目で、エロ本を眺める。
トウマはタンクトップも脱ぎ捨て、パンツと靴下以外は、生まれたままという、見方によっては全裸よりもいやらしい姿になった。
トウマはドキドキと高鳴る心臓の上にある薄いふくらみをギュッと掴んだ。
「ああ、藤岡」
藤岡から与えられた感触が指先からよみがえってくる。
あのまま逃げずにいたらどうなっただろう。
藤岡もさすがにトウマが女だと気づいただろう。藤岡はきっとあわてることだろう。そうしたら、トウマは藤岡を脅して、もっとその先に……
トウマの身体の中から熱があふれ出してくる。スケベな液体でパンツがグチョグチョしている。
もはやベッドの角が与えるぎこちない刺激ではトウマのエッチな身体は収まりがつかなくなっていた。
トウマはアキラのベッドに横たわるとパンツも脱ぎ捨てた。
秘所が直接空気にさらされると自分が兄貴の部屋で兄貴のエロ本を盗み見ながら、オナニーをしているというこのシチュエーションを改めて意識した。
「オレ、とんだ変態だよな」
だが、そんな変態的なのがトウマには気持ちよかった。
アキラの布団には思春期の男の子の体臭がしみこんでいた。
生まれて初めて聞くクリトリスという名前。
トウマの指はすぐにその突起を探り当てた。
おそるおそる指の先で擦ってみた。
「ックウウ、あああ」
電流が走ったのかと思った。
瞬間、意識が途切れていた。
「これなんて気持ちいいんだ」
トウマは呆然とつぶやいた。
トウマは覚え立ての性知識を自分の身体で試していく。
トウマが絶頂を迎えたとき、そのおまんこには二本の指が、そしてアヌスには一本のボールペンが突き刺さっていた。
息を荒げながら、トウマはエクスタシーの余韻に浸っていた。
おまんこから抜かれた指は、すでに新たなネタを探して、エロ本のページを捲っている。
そして、トウマの指が止まった。
漫画の登場人物がカナにそっくりだったからだ。
いや、それだけなら良いのだが、元はショートカットだった髪型を、わざわざボールペンで書き足してツインテールにしているのだ。もしも、ツインテールでなかったなら、そんなにカナに似ているとは感じられなかっただろう。
まさか、アキラの奴……
カナに惚れてるのか?
そう感じた瞬間、トウマの胸に嫉妬の嵐が吹き荒れた。
「どいつもこいつもカナがいいのかよ!」
トウマは思わず大声を出していた。
トウマは手早く衣類を身につけると、アキラのエロ本を持ったまま部屋を出た。
最終更新:2008年02月21日 19:55