その3
次の日もトウマは朝早くから藤岡に呼び出されていた。
正直、藤岡と顔を合わせるのは、恥ずかしかった。
昨日の夜は、覚え立てのオナニーにはまりまくった。
妄想の相手はもちろん藤岡だった。
「うう、あんなことを考えてるなんて、藤岡に知られたら」
藤岡のことを考えると、それだけで、身体の芯が熱くなった。
今から電話を掛けて、やっぱり行けなくなったと伝えたら。
もちろんそうすることはできる。しかし、藤岡に会いたいという気持ちはつのるばかりだった。
快楽の扉を開いたトウマは、さらに深く人が恋しいという思いを知った。
「トウマ、食べないのか」
ナツキの箸がトウマの皿の上に伸びた。
トウマは反射的に頭突きをを繰り出した。
「食べるだろ、常識だよ!」
ナツキは頭を押さえながら、睨みつけてくる。
昔取った杵柄という奴で、ナツキの視線はそれだけで人を殺せる迫力だ。
「な、なんだよ」
トウマは身構えた。
ナツキは、はあ、と息を吐いた。
「なんだ元気じゃねえか」
ナツキは淡々と食事に戻った。
「トウマ、昨日から様子おかしくないか」
「そんなことないよ」
「そうか」
食べ終わるとトウマは顔を洗って、着替えのために自分の部屋に行く。いつもは、兄貴たちがそばにいてもお構いなしに、下着姿になるのだが、今日は、恥ずかしくてそうできなかった。
トウマの部屋の前にアキラが立っていた。
「なあ、トウマ」
「なに?」
「お前さあ……」
アキラが言いにくそうに口ごもった。
「忙しいんだからそこをどけよ」
トウマはアキラの肩を押した。
アキラはトウマの腕を掴んできた。
「何すんだよ。放せよ」
トウマはアキラを振り払おうとした。
「オレのエロ本どうしたんだよ。お前が持ってるのか?」
「捨てちまったよ。あんな恥ずかしい本読んでんじゃないよ。その汚い手を離せよな」
トウマが荒々しく言うと、アキラはショックを受けた顔で手を離した。
いつも特訓の日は、コンビニの前の横断歩道のあたりで藤岡と出くわす。トウマは、藤岡の姿を認めて、声を掛けようとして、固まった。
藤岡の横にカナがいたからだ。
トウマは、動揺を隠して、挨拶した。
「カナ、どうしたんだ」
「ダイエット気分で、サッカーでもしてみようかと」
「カナはサッカーうまいのか?」
「なに言ってんだい。私はすごいよ。球に蹴られる前に、玉を蹴れ!」
「……意味がわからない」
どうやら、カナには深い意図はなく、ただ単におもしろがっているらしい。それには、安心したが、気にくわないのは藤岡の弛緩しきった顔だ。
全くだらしない、肉のかたまりを前にした、犬みたいな顔だった。こんなゆるんだ顔を見たら、藤岡にあこがれている同級生たちも一気に醒めるに違いない。
「それでな、あそこのロングパスはな、って、おい、聞いてるのか藤岡」
「ああ、トウマ、どうかした?」
こんな漫画みたいな上の空ぶりなんて、見たのは生まれて初めてだよ。
「なんでもないよ!」
怒って言って、トウマは早足に歩き出した。
くそ、くそ。藤岡のバカ野郎。
トウマはよく前も見ずに、道路を横切ろうとした。
「トウマ!」
藤岡の叫び声がした。
走ってきた藤岡がトウマを押し倒した。
すごい音がした。
倒れたトウマの上に、藤岡の身体が被さっている。
藤岡の腕と胴の間から、赤い乗用車が見えた。
「オレ、アレに轢かれちゃうところだったんだ」
藤岡がうめく声が聞こえた。
「大丈夫か。トウマ」
「オレは大丈夫だけど、藤岡は?」
「ちょっと、腕がやばいかも。車にかすっちゃったみたい」
藤岡が笑った。
そんな場合じゃないとわかっていても、トウマは藤岡の笑顔にドキドキした。
病院で調べると、藤岡の腕には少し罅が入っていた。
トウマは藤岡のお母さんに何度も何度も謝った。
藤岡にも、もちろん何度も謝った。
藤岡は、トウマの涙を拭ってくれた。
ずるいよ。藤岡はずるいよ。そんな風にされたら、オレ。もう、絶対に諦められなくなるよ。
その4
それからしばらくした放課後。
トウマはチアキに呼び止められた。
「最近、カナと藤岡が仲良いんだよ」
カナは、学校で、右手の不自由な藤岡に何かと世話を焼いているらしい。
「今日はこれから緊急会議な」
「なんだよ、それ」
「トウマは、カナと藤岡がつきあっても良いのか」
よいわけはなかった。
「私は、少し用事があるから先に行っていてくれ」
トウマはうなずいた。
トウマが、呼び鈴を押すと、藤岡が扉を開けてくれた。
「なんで。藤岡がいるんだ」
トウマは思わず叫んでしまった。
「なんだよ。いちゃいけないみたいだな」
藤岡はカナに呼ばれてきたらしい。そのカナは、ハルカと一緒に買い物に出かけてしまったという。
「チアキちゃんは、まだ帰ってないよ」
「知ってるよ!」
ああ、これで、この家には、藤岡とオレの二人っきりだ。
緊張しちゃうよ。
どうしよう。
まてまて、オレ。カナとハルカだって、すぐに帰ってくるだろう。チアキの用事だってすぐに終わるようなもんだろう。そんなに焦ることはなにもないはずだ。
深呼吸するとトウマは改めて藤岡を見た。
ギブスの白い色が目に突き刺さるようだ。
「それ痛いのか?」
「別にそれほどじゃないよ」
言われても、トウマとしては、あまり心が晴れない。
「腕がそれじゃ、サッカーもできないだろ。藤岡、レギュラーなのに」
藤岡は、トウマの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「何だ、トウマ、そんな顔するなよ」
藤岡の大きな手が心地よくてトウマは目を細める。
「止めろよ。子供扱いは」
トウマは、本当はいつまでも藤岡に触れていて欲しかったけれど、照れくさくて、藤岡の手から逃げた。
「照れるなよ」
藤岡の手が追いかけてくる。
なんだか、今日の藤岡はしつこい。
藤岡の奴なんだって、こんなにオレにかまうんだろ。
オレなんて、迷惑しか掛けてないのに。
「トウマは、オレの弟なんだよ」
唐突に藤岡が言った。
「だって、チアキちゃんの弟なんだろ」
(つまり、チアキはカナの妹で、そのチアキの弟だからオレは、藤岡の弟も同然という訳か。つまり、カナはオレの嫁と暗に主張しているわけだな。)
本当は、トウマだって、藤岡がそんなつもりで言ったのでないことくらいわかったが、ついつい心の声はひがみっぽくなった。見込みの薄い片想いの副作用だ。
トウマは藤岡を困らせてみたくなった。
「藤岡はさあ、エッチな本とか見るのか?」
「えっ」
と藤岡は意外そうな顔をした。
それから、トウマの肩を抱き寄せるようにして、耳元でささやいた。
「トウマ。見たいのか」
藤岡の目がキラキラと輝いている。
こんなに生き生きとした藤岡なんて見たことがない気がする。
こら! 藤岡、顔が近いよ! ドキドキするじゃないか。
「そろそろ、トウマもお年頃だもんな。エロ本というのはな、男のロマンなんだよ!」
なんか妙な自説を披露し始める藤岡。
あれ? こんな反応なんて予想外だぞ。
トウマは、ちょっと引いてしまった。
トウマの視線が冷たいことに藤岡も気づいたらしい。
「な、何だ。その軽蔑したような目つきは」
「結局、藤岡もそういう奴なんだな」
トウマはプイと目をそらせた。
「気持ち悪い」
「気持ち悪くなんてないぞ!」
藤岡は両手を振り上げるポーズで青年の主張。
トウマは鞄からエロ本を取り出すと、床にたたきつけるように置いた。
「兄貴だって、こんな変な本を見ながら一人でエッチなことをしてるんだと思うと、気持ち悪くてたまらないよ」
トウマは藤岡とは目を合わせないままつぶやく。
「男ってみんなあんなこと考えてるの?」
その、変な本で、さんざんオナニーした自分のことは、棚に上げて、男の性欲を、気持ち悪いと非難する。ミニサイズでもずるい女だった。
うーん、って藤岡が腕組みをして唸った。
「そうか、トウマが、そこまで潔癖症とは意外だな。でも、トウマもすぐにわかるようになるよ。こういうのは本能みたいなもんで、男が男である限り仕方がないことなんだよ。よし、オレが責任を持って、トウマに男のロマンを教えてやる」
そして、トウマと藤岡は、二人してトイレの中で、エロ漫画の読書会を始めた。
トウマが本を支え持ち、藤岡が捲る。
なんなんだよ! この流れは!
トウマはもう泣きそうだ。
ページを捲る藤岡の息づかいが荒い。
「おお、トウマのお兄さんはなかなかマニアックだね」
そんな感想やめてくれよ!
そう思いつつ、しっかりとトウマの目線は、藤岡の股間に釘付けだった。
あのふくらみは、やっぱり……
男の人は、興奮すると、ちんちんが大きくなると言う。
昨日、エロ漫画によって、初めて知った知識だ。
「……藤岡、それって、勃起してる」
「なにいってんの。どうせ、トウマだって」
藤岡の手がトウマの股間に伸びた。
トイレ内という狭い空間。エロ本によってふさがれる両手。
とっさの出来事に、トウマには対処すべき手段がなかった。
さわさわさわ。
トウマの股をまさぐる藤岡の手が、とまどうように止まった。
「トウマ、お前」
藤岡の顔がとっても間が抜けたレア顔になった。
お前は今、女の子の大事な場所をさわってるんだよ!
トウマの頭突きが炸裂した。
「ごめんなさい。トウマ、この通りです」
頭突きのダメージが去ると藤岡はそういって頭を下げた。
「百万回謝ってもすまないよ」
だって、おっぱい、揉みまくって、それでも気づかないなんて、失礼だ!
「だから、本当に申し訳ない」
「本当に申し訳ないと思ってるなら、何でも言うことを聞いてくれる?」
トウマはちょっと甘えた声で言ってみた。
甘えじょうずの末っ子じょうずだった。
「うん、うん。なんでも、言ってごらんよ」
「じゃあ、チンチン見せて」
藤岡が蝋人形みたいに固まった。
「ええと、トウマさん。チンチンでございますか?」
「うん。チンチン」
「それは駄目だ!」
「おっぱい揉んだくせに」
トウマはぼそりと言った。
「あーあ。恥ずかしくて死にそうだよ」
「わかったよ! わかりました!」
藤岡がズボンのファスナーを下ろすのを、トウマは固唾を飲んで見守った。藤岡の指がファスナーの穴に潜り込んだと思うと、チンチンがひょっこりと顔を出した。
うわあ、かわいい。
藤岡のそれは、漫画を見て想像していたのとは全然違っていた。
さっきまでの勃起はとっくに収まっていたらしく、重力に逆らわず、頭を下げている。ついでに言うと、亀頭はしっかりと頭巾をかぶっていた。仮性包茎だ。
しかし、少女の好奇の視線に、暴れん坊の中学生のチンチンが長く耐えられるわけもなかった。
藤岡のチンチンは、徐々に上を向いてきた。
「もう、いいだろ」
「ねえ。触っても良いかな」
「駄目だ」
というのもお構いなしに、トウマは藤岡の肉棒に指を添えた。
「うわあ。堅い。それから熱い」
チンチンってこんななんだ。
人体の神秘にトウマはドキドキだ。
「トウマ、これ以上は、もう駄目だ」
「そんなこと言って、藤岡、本気で抵抗しないじゃん」
トウマは藤岡の性器を触る。しかし、それはいわゆる愛撫という手つきではなかった。そもそも、トウマは、男性器をどうやって可愛がればいいのかなんて知識を持ってはいない。
「ねえ、藤岡、男はどうやってオナニーするんだ」
トウマが上目遣いに聞く。
「そんなこと知らなくて良いよ!」
「そんなことないよ。ちゃんとした知識は必要だよ。それに、藤岡の怪我はオレのせいだから、オレが藤岡の手の代わりをしてやるよ」
「そんなことしなくていいよ!」
「駄目だ。させてくれ。そうじゃないとオレの気が済まない」
「……それでトウマの気が済むなら」
いかにも気乗りしない口調の藤岡。しかし、トウマに手で逝かせてもらいたいと思っているのは見え見えだった。
「チンチンを握ってみて」
藤岡の声はうわずっていた。トウマは言われたとおりにする。
「それで上下に動かすんだ」
トウマは、手を上下に振った。藤岡のチンチンが上を向いたり、下を向いたりする。
藤岡は笑い出した。
「違うよ、トウマ。前後に、擦るようにするんだ」
「こうか?」
トウマは手をシュコシュコと動かした。
「ああん」
藤岡が女のような声で鳴いた。
藤岡の反応に気をよくしたトウマは、手の動きを早めた。
なるほど、女の子の中にチンチンが入っているイメージなんだな、とトウマは気づいた。女の子がチンチンの代わりに指を入れるのと一緒だ。五本の指と手のひらで形作られる輪っかが女の子の性器の代わりなのだ。
オレの手が、今おまんこの代わりになってるんだ。
「藤岡。気持ちいいか?」
「ああ、最高だよ」
藤岡があえぐ。
藤岡のチンチンの先からは、透明な液体があふれ出してきた。
「これは、精液じゃないんだよな」
「うん、よく知らないけど、気持ちよくなってきたら出るんだ」
ふーん、男にも濡れるということがあるのか。それはトウマにとって新鮮な驚きだった。
最初は緊張していた藤岡も、すっかりトウマの愛撫に身をゆだねきっている。
「なあ、トウマ。もっと、亀頭の方を攻めてくれ」
そんな、要求をする始末だ。
藤岡の包茎チンチンの余った皮の上から、トウマは少しきつく亀頭を締め上げた。
そして、しこしこと動かす。
「うああ。トウマ、それ良い」
そんな藤岡の姿を見ているとトウマは少し意地悪をしたくなった。
なんで、お前だけ、気持ちなっているんだよ! という思いもある。
トウマだって、もうアソコは大変な状態なのだ。今すぐにでも、ズブズブと指を突っ込んで逝きまくりたいところなのだ。
しかし、さすがに藤岡の前で公開オナニーをする勇気は出なかった。
トウマに、今、許されているのは、藤岡に手コキ奉仕しながら、己の肉体に満たされない欲求を蓄えていくことだけなのだ。
そんなの不公平だよ。
トウマは、藤岡のチンチンから手を離した。
「えっ」
藤岡が、間の抜けた声を上げる。
「やっぱり、やめよ」
トウマは、そんな気もないのに言った。
ここまできたら、トウマだって藤岡が逝く瞬間を見たいのが本音だ。
でも、そんなことはおくびにも出さない。
「で、でも、トウマ」
トウマの手から離れると、射精する気満々の、ビンビンに天井を向いた牡器官は、滑稽に見えた。
「藤岡だって、本当はいけないことだと思ってるだろ」
それを言われるのは藤岡のつらいところだ。
トウマは小学生の女の子なのだ。
だけれども、そんな理性ではもうすでに藤岡の欲望は抑えられないところにきていた。
「トウマ、頼むよ」
藤岡の声は小さくかすれていた。
「え、よく聞こえない」
トウマの声は意地悪だ。
それで藤岡にもトウマの仕掛けたゲームが理解できたらしい。
「トウマ。頼むから、逝かせてくれよ」
薄笑いして言う。
「おいおい、藤岡。人にものを頼むには、それなりの礼儀があるんじゃないのかい」
もともと、トウマの方から奉仕させて欲しいと申し出たはずなのに、立場がすっかり逆転していた。
トウマは藤岡の姿が愉快でたまらない。
トウマには、男の本質というものが理解できてきた。チンチンというのは、女が男を屈従させるための操縦桿なのだ。一度、握ってしまえば、こちらのものだ。射精欲に駆られた男はどこまでも卑屈になる。
「トウマ、お願いだよ。逝かせてくれよ」
藤岡は、拝むまねをして言う。
「トウマ様、だろ」
自分でも驚くほど、酷薄な声が出た。
藤岡が言いにくそうに口を開いた。
「トウマ様。お願いします。どうか逝かせてください」
ゾクゾクゾク。
トウマの全身を何かが駆けめぐった。
それはとても気持ちいいものだ。
「しょうがないなあ。逝かせてやるから感謝しろよ」
トウマは、再び操縦桿を握る。
勢いのついたトウマは、さっきまでよりも強く、リズミカルに、藤岡のチンチンを刺激した。
「お、お、お」
藤岡が声を漏らす。
「言いかい。逝くときは、『トウマ様、逝っちゃいます!』って叫ぶんだよ」
トウマが言うが早いか、
「もう駄目。トウマ様!」
藤岡の腰が震えて、トウマが生まれて初めて目にする白濁液が飛んだ。
正直、トウマはこんなに勢いよく飛ぶものだとは思っていなかった。
よけ損なった精液がトウマの顔を汚す。
「いいかい。もう藤岡のちんちんはオレのものなんだからな。他の女に触らせるんじゃないよ」
トウマは口元を白く汚したまま、肉食獣の笑みを浮かべた。
最終更新:2008年02月21日 19:57