国境なき医師団

歴史

国境なき医師団は、1968年から1970年にかけて赤十字の医療支援活動のためにナイジェリア内戦中のビアフラに派遣されたフランス人医師たちを中心に設立された。ビアフラでの活動から戻った彼らは各国政府の中立的態度や、沈黙を守る赤十字の活動に限界を感じ、人道援助およびメディアや政府に対して議論の喚起を行う組織を作る必要があると考えた。そして全ての人が医療を受ける権利があり、また医療の必要性は国境よりも重要だという信念に基づき1971年12月20日、「国境なき医師団」を創設した。

1979年の「ベトナムの船」の活動では、創設者の1人ベルナール・クシュネルがチャーターした船「光の島」号に医師たちだけでなくジャーナリストたちも同乗させ、同国での人権侵害を告発した。この活動があまりに宣伝的ではないかとの論争に発展、クシュネルは国境なき医師団を離れ1980年、新たに「世界の医療団」(Médecins du Monde)を設立した。彼はその後同団の活動も離れフランス政界へ転進、2008年5月現在現職のフランス外務大臣である。なお、フランス外務省から公的助成を受ける国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」のロベール・メナール代表によると、同団体は国境なき医師団関係者がメディアで「第三世界の人々の窮状に関する報道が少ない」と訴え、これを受けたフランスのジャーナリストらに設立されたものであり、クシュネルとメナールは互いに親交を保っている。

活動 [編集]
国境なき医師団は貧困地域や第三世界、紛争地域を中心に、年間約4,700人の医療スタッフが世界各地70ヶ国以上で活動している。災害や紛争に際し、どこよりも早く現地入りする緊急医療援助を得意とし、マラリアのような地域特有の疾病の撲滅にも力を入れている。チェチェンやコソボ住民のような公式な代表のいない人々に代わり、非人道的行為を国連に対し告発している。時には国連の手法を非難することもあるが、実際には活動現場で国連や他NGOと連携していることが多い。メディアなどを通し、現地で見てきたことを伝える「証言活動」も重要な活動の1つと位置づけている。日本人も多く活躍しており、最初に加盟したのは貫戸朋子である。

日本での活動 [編集]
日本では、1992年に支部結成。1995年の阪神・淡路大震災、1997年のナホトカ号重油流出事故の際に活動を行った。さらに、2004年10月23日の新潟県中越地震発生に際し調査チームが派遣され、被災地での診療や情報収集にあたっている(2004年10月29日の発表内容による)。

2000年頃より、寄付を依頼するダイレクトメールを名簿業者から購入した個人の住所宛に大量に発送している(319,636,881円。2006年度のキャッシュフロー計算書による)。

10の原則 [編集]
国境なき医師団はその活動において、10の原則を掲げている。

1.第一に医療援助活動
2.証言活動
3.医療倫理の遵守
4.人権の擁護
5.独立性への配慮
6.基本原則:公平性
7.中立性の精神
8.義務と透明性
9.ボランティアからなる組織
10.メンバー一人ひとりが参加し動かす組織
構成 [編集]
ボランティアと常勤職員で構成されている。活動資金の多くは、一般個人・非営利組織・企業・欧米政府からの寄付で賄われている。資金の8割は一般個人からの寄付となっている。活動は5カ国のオペレーション支部が担当し、他に14カ国のパートナー支部がある。

オペレーション支部 [編集]
活動の運営を担当し実際の医療チームを編成、派遣する。

オランダ、スイス、スペイン、フランス、ベルギー
パートナー支部 [編集]
活動に参加するボランティアを募集、派遣する。広報、募金活動を行う。

イギリス、イタリア、オーストリア、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ルクセンブルク、オーストラリア、日本、香港、カナダ、アメリカ合衆国、ギリシャ
(日本支部はフランス支部の傘下)
MSFインターナショナル [編集]
支部間の調整を行う。(スイス)

付属組織 [編集]
MSFロジスティック [編集]
物資の調達管理を行う。(フランス、ベルギー)

エピセンター [編集]
疫学研究組織。(フランス)

評価 [編集]
国境なき医師団の活動は広く評価され、多くの賞を受賞している。その中でも目立つのは、1999年のノーベル平和賞受賞である。1996年にはインディラ・ガンディー賞を受賞している。

参加資格 [編集]
ボランティアとして参加するには、臨床経験・実務経験が必要である。

求められる資質と能力 [編集]
国境なき医師団(MSF)の活動理念への賛同
MSF憲章へ賛同することが求められる。
異文化の環境に適応し、チームの一員として活動する能力
MSFの海外派遣スタッフは共同で生活し、活動を行う。活動が忙しく、生活環境が厳しい地域もあり、プライバシーが確保できない時もあり得る。そのような環境の中で、さまざまな国籍・文化のチームメートと人間関係をうまく築いていく能力が求められる。
指導・管理業務の能力
海外派遣スタッフの職種のほとんどは、現地スタッフの指導・監督業務を伴う。自らの業務を行うだけでなく、適切な指導力も求められる。
ストレスに対処できる能力
援助プログラムの多くは、紛争地域またはその近隣で展開している。厳しい状況の下、援助を必要とする人々も多く、活動地ではさまざまな問題が生じている。海外派遣スタッフは、困難かつ予測のつかない環境の中で、うまく自分のストレスに対処していくことが求められる。
柔軟性
活動地の状況は急変することがあり、それに伴ってチーム編成や各自の業務内容も変える必要がある。現場のニーズに対応した活動を行う、極めて高い柔軟性と適応力が求められる。
語学力
基本的にMSFが活動を行う上では英語を用いる。しかし、フランス語またはスペイン語で活動を行う国もある。これらの国への派遣を希望する場合、該当する言語の能力も不可欠である。いずれの職種においても、少なくとも使用する言語でコミュニケーションが支障なくとれることが大切だが、職種によっては、より高い語学レベルが求められる。
独立して働く能力
海外派遣スタッフは一人一人が責任を担う。各自がプロフェッショナルとして、必要最小限の指示のもとで、自分の業務内容を整理し優先順位をつけながら率先して行動していくことが求められる。
自信を持って取り組む姿勢
新しいことに挑戦する姿勢と、今まで直面したことがないような問題に対しても自信を持って解決していく姿勢が求められる。
その他
年齢制限は特に無い。派遣期間は原則として6ヵ月。外科医と麻酔科医については、短期の派遣も可能だが、アドミニストレーターの派遣期間は12ヵ月と長期にわたる。また、派遣地によっては生活環境が厳しい地域もあり、十分な体力と環境への適応力が求められる。
望ましい経歴、知識 [編集]
以下の知識や経歴はあれば望ましいが、必須ではない。

開発途上国での経験
国境なき医師団(MSF)のプログラムの大半は開発途上国で展開している。過去に他の非政府組織(NGO)の人道援助活動に参加し、類似した役割で現地活動を行った経験がある場合、その経験はMSFの活動においても大変役立つ。また、カナダやオーストラリアなどの遠隔地で働いた経験、バックパッカーとして途上国を長期旅行した経験も役立つと考えられる。
他言語の知識
派遣地域によっては他の言語の知識も役立つ。(ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語など)
募集職種 [編集]
国境なき医師団(MSF)は以下の医療従事者、非医療従事者を募集している。なお、欠員の有無は活動地のニーズによる。

医療従事者 [編集]
医師
内科医、小児科医、産婦人科医
外科医、整形外科医、形成外科医、麻酔科医
精神科医
パラメディカルスタッフ
薬剤師
看護師、手術室看護師
助産師
臨床心理士
臨床検査技師
疫学専門家など
非医療従事者 [編集]
国境なき医師団(MSF)の活動は、医療従事者のみならず非医療従事者の仕事にも支えられている。非医療従事者との連携やサポートなしに医療活動を円滑に実施することは不可能である。非医療従事者は全派遣者の約40%を占めている。

非医療スタッフ
ロジスティシャン(物資調達管理調整員)
アドミニストレーター(財務・人事管理責任者)
メカニック(車両保守専門家)
建築、建設専門家など

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最終更新:2011年02月02日 23:43