85side.サンジsage2011/05/28(土) 18:56:35.16 ID:???
彼女はとても頭の回転が早い。
勘も良く、機転も効いて、俺はいつも彼女の咄嗟の行動だったり、航海術だったり感心させられてばかりだ。
だからそれに気づいた時は、正直驚いた。
いや、それ以上に嬉しくて可笑しくて。
昂揚とする感情を解放する機会を今か今かと伺っていた。
その日はロビンちゃんが見張りをする日で、女部屋には彼女しかいない事を分っていた。
机におやつを置くと背中を向けたまま「ありがとう」と一言。
視線は相変わらず手元のノートにあって、俺の方を振り向きもしない後ろ姿をしばらく眺めていた。
最初はなんでもない風なのに、徐々にそわそわし始める小さな背中。
甲板とか、他に仲間がいる時はそうでもないのに、今は特別。
閉鎖された空間で俺と二人きり。──それを、痛いくらいに意識している。
しきりにペンを動かしてはいるけれど、手の位置が全く移動していない。
日誌を書くことすらまともにできずにいるの、バレバレだよ。ナミさん。
ククっと、喉が鳴りそうになるのを、必死に堪える。
まだ駄目だ。
こんなところで彼女に気づかせてしまっては、面白くない。
ふいに意味無く左右に揺れていたペンの動きがぴたっと止まる。
お。そろそろかな?
「見てないで、部屋から出てって」
くるりとこちらを向いたその顔は、どこか不貞腐れたような、恥ずかしそうな感じだった。
無遠慮に視線を投げつけ続けていたこちらに非があるというのに。
何故かナミさんの方が怒られた子供のような顔している。
その様子は本当に…。
「クソ可愛いな、ナミさんはv」
おっと。
思わず声に出ちまった。
ま、本当の事だからいいか。
「何よそれ、馬鹿にしてるの?」
何がそんなに気に食わなかったのか、椅子から降りてつかつかと歩み寄ってくる。
可愛いなんて、日頃から散々言っているし、彼女も散々流している言葉だってのに。
「…なんか、小さな子供に言うような感じだった」
なるほど。
それが気に障ったのか。
たしかに、いつもは女王様みたいな態度で俺に接する彼女に俺は下僕のように従っている。
勘のいい彼女はすぐに気付いたのだろう。
俺の声のトーンが、麗しきレディに対してというよりも、愛くるしい小動物に向けたようなものだったというのを。
でもそれを受け流してしまえない理由は彼女の中にある。
「そんな事ないですよ」
「いーえ、そんな事ありました!」
「俺は正直に、思った事そのままを言葉にしただけです」
「へーえ。つまりサンジ君は私を、そうやって子供扱いしていたって事なのね」
「してないって、マジで」
「でも、だってなんか雰囲気が…」
「俺はいつもナミさんを、女の子として見ているよ」
「おんなのこ、なのね。ほらやっぱり、子供じゃない」
子供扱いされていると思いムキになって、ますます子供のような怒り方をする。
どうしてそんな事をこんなにも気にするのか。
俺が、じゃなくて。
分っていないのが本人だという事実に少しだけ苦笑する。
それに何の誤解をしたのか、さらにむくれるナミさん。
「じゃあ証明してあげようか?」
「え…?」
その細い手をそっと掴みぐいっと引き寄せる。
彼女に抵抗の暇を与える前にすぐそこにあるベットにまで引っ張っていき───。
「サンジ君?…な…?!」
押し倒した。
いつも勝気な彼女だけど、身体的な力はどう考えても俺の方が上で。
俺は本気を出す事もなく彼女を押さえつけるのは容易な事。
今まではする気がなかっただけで、しようと思えばいつでもできた。
綺麗なオレンジ色の髪が白いシーツの上で鮮やかに主張する。
本当に子供扱いしていたらけしてありえない体勢。
困惑しながらも俺を見あげてくる表情に、心臓がぎゅっと鷲掴みにされた。
ああ、もう何度も見てきたあの瞳だ。
少し熱っぽくて、切なげに潤んでいて。
だけど自身で自覚していないだけに戸惑いの色も強く、危うい幼さがある。
なまじ頭の回転が早く、自分自身の欲望には本当はとても抑制的な性格故か。
こういう事にばかり鈍いなんて、反則だ。
───気がつくと、いつも感じる彼女からの熱い視線。
目が合いそうになると慌てて逸らされる。
そういう時には必ずほんのりと染まっている頬。
偶然手が触れると小さくびくつく。
俺が他のレディに声をかけていると、いつもより少しだけ表情や声に元気がなくなる。
彼女の無茶ぶりに俺の食い付きが悪いと、その瞳に不安の色が微かに混じる。
仲間としての距離を頑なに守ろうとしながらも、子供扱いを嫌がり。
俺に1人の女として見られたがっていたナミさん。
彼女自身ですら気づいていない彼女の気持ち。
気のせいだとか、思いこみかもしれないとか、何度も振り払ってきたのは俺。
その度に、俺が感じた事への辻褄合わせを彼女の方からしていって。
全ての女性が大好きな俺は、特定の誰かに恋をする自分の姿なんて思い描いた事などなく。
だからナミさんが俺の言葉を真面目に取る事がなくても気にした事はなかった。
でも、ナミさんから寄せられる想いを知った瞬間から、何かが変わった。
言葉だけではなく本当の気持ちまで封印してしまおうとする不器用な彼女。
彼女の気持ちを受けて始めて本物の気持ちを育てたゲンキンな俺。
追いかけているようで追いかけられている。
追いかけられているようで追いかけている。
このクソ曖昧で、どこまで行っても境界線に隔てられた関係性。
それも今日で終わらせる。
さて、この状況をどう料理するか。
今から少し先の展開を考え、腕の中に納まる甘い香りに俺は酔いしれていた。
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時系列的にはサンジside→ナミsideですがあえてナミsideを先に投下させて頂きました
最終更新:2011年07月11日 22:07