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『砂々』

A:砂の世界の人。
B:話を聞く人。


A01「いつからだったかな。ある日突然、この世界の何もかもが砂に変わったんだ。僕がただ触
  れるだけで何もかもが崩れてしまう。最初は自分の部屋のドアだったかな。ドアノブに触っ
  た瞬間、目の前から消えてしまった。僕が驚いて声を上げると、心配して母さんがやってき
  た。そして母さんも消えてしまった」
B01「なるほど。その時から君はひとりぼっちになったんだね」
A02「そう。僕が持っていた何もかも、あらゆる全てが目の前で砂に変わってしまったよ。朝ご
  はんのバタートーストも、教科書の詰まったカバンも、そしてもうこの世にはいない、僕の
  大切な人たちも」
B02「それでも君がひとりぼっちにならない手段はあったと思うよ。君が触れさえしなければ、
  何も消えたりしないんだろう?」
A03「人と人との触れ合いがない生き方なんて、そんなもの誰にも許されないよ。この世界はそ
  ういうふうに出来ている。ある時、目付きの悪い不良に絡まれて殴られそうになった。だけ
  ど拳が届く前にそいつは消えてしまった。ある時、僕を哀れんで抱きしめようとした女の人
  がいた。だけど温もりが届く前に、その人も消えてしまった。そういうものさ」
B03「もしも僕が今ここで、この右手をまっすぐに突き出したなら、僕も消えてしまうのかな」
A04「そうだね。僕はそうして人が砂に変わる瞬間をたくさん見てきた。それが君の目的か
  い?」
B04「いいや。ただ、ちょっとした好奇心があってね」
A05「好奇心?」
B05「君が触れたものは砂に変わる。あらゆる全てが消えてしまう。だったら、君が今立ってる
  地面は、いったいどうなってしまうんだい」
A06「あ……」
B06「落ちた。落ちた。消えてしまった。砂の世界は消えてしまった。さようなら、儚い人」