『陽だまりの子どもたち』


誰の手も届かない場所で、
優しく笑う子がいたんだ。
たったひとりで皆のために、
静かに笑う子がいたんだ。

僕はそれが許せなかった。

だって、ひとりぼっちは寂しいじゃないか。

どうして誰もあの子に近づかないんだ。
どうして誰もあの子の手を取らないんだ。
どうして誰もあの子を救わないんだ。

それはきっと、ひとりぼっちの寂しさを知らないからだ。

だけど僕は違う。
僕ならきっと、あの子の隣に立てる。

走った。

走った。

あの子は誰よりも遠くにいたから。

走った。

走った。

僕は誰よりも遠いところを目指したから。

そうして僕はあの子にたどり着いた。
あの子は僕を見て笑った。
僕だけのために笑ってくれた。

僕はあの子の手を取った。
そのまま抱きしめた。
あの子が笑った。

刹那、世界に光が溢れた。
暗く悲しいことは消え失せて、
暖かな希望が世界を包み込んだ。
その世界の中心に僕がいた。
あの子が笑っていた。

だけど

あの子は笑っていた。

あの子は笑っていた。

今日も明日も。
そして昨日も。

あの子はいつでも笑っているから、
僕があの子を幸せにしたのかわからないんだ。

あの子はいつでも笑っているから、
僕をあの子が見ていたかわからないんだ。

僕はあの子を突き放した。
僕はあの子の手をほどいた。
僕はあの子から逃げ出した。

刹那、世界は闇に飲まれた。
暗い絶望の歌を聞いた。
肌寒い積怨(せきえん)の叫びを聞いた。
暖かな光に慣れた僕にとって、
世界の輝きはあまりに儚かった。

走った。

走った。

誰よりもあの子から遠いところへ。

走った。

走った。

僕は誰かに望まれて生きたかったから。

やがて僕は世界の果てにたどり着いた。
ここへはあの子の笑顔も届かなかった。
皆が光に飢えていた。

僕は彼らに微笑んだ。
彼らはとても喜んだ。
僕の光はか細いけれど、
皆に安らぎを与えられた。

山の稜線から時折覗く、あの子は優しく笑ってくれた。

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最終更新:2011年03月09日 22:57