幸せか不幸せかなんていうのは所詮、個人の主観によって変わってくるものであって、
それを定義しようとするなんてことは途方も無く無謀で、とてつもなく無駄なことだと思う。
例えば俺は朝から同居人に咬み付かれたり、登校中に不意打ちで電撃を放ってくる中学生と遭遇するなんていう、いかにも不幸な目にあったりしたところで、
友人達は「幸せ者やなぁ」などとその細い目をさらに細くして羨ましがったり「裁かれるにゃー」とサングラスで隠された瞳に殺意を宿らせたりする。
「だったら代わってくれ」なんて言った所で友人達はやれフラグだの、やれカミやん属性だのとよく分からない単語と共に怒りのオーラを放ってくるのだ。
まぁ何が言いたいのかというと、人によって状況の受け止め方、感じ方は様々だということで、さらに言えばそれは別に幸福や不幸だけではないということ。
食べ物に好き嫌いがあるように、人間に好き嫌いがあるように。それは人間として当然のことだ。
共に腐っていきたい。共に古傷を開きあいたい。共に痛みは他人に押し付けたい。
きっとこんな事を常に思っているのはあの大嘘憑き位のもので、
普通なる俺としては腐っていくなら止めたいし、古傷が開いたら手当てをしたいし、痛みは一緒に乗り越えたいと思う。
きっとこんなことを言えば大嘘憑きはお得意の詭弁で捲くし立てるのだろうが、生憎と俺は物分りの悪いオチコボレ高校生なので落ち込みはせよ、反論はできないにせよ
自身の行き方を変えるつもりは無い。
変らないものなど存在しないという言葉はよく耳にするが、変わらないものは存在すると俺は持論を持っていたりする。
それは一体なんなのか、と問質されれば上手いこと話すことはできないのだが。
論より証拠、とでも言えば良いのか。あの事件から二週間が経ち、人吉先生を始め自分の過去を色々聞いた今でも上条当麻は上条当麻のままで、相も変わらず不幸体質はそのままで。
インデックスには咬み付かれるし、財布は落とすし、同級生には頭突きされるし、特売は買えないし、
補習は受けさせられるし、スキルアウトには絡まれるし、ビリビリ中学生には追い掛け回されるし、厄介事が向こうから手を振ってやってくる。
とにかくちょっとやそっとでは人間は変わらないし代わらないのだ。
だから俺は俺のままで死ぬまで生きていくのだろうと思っていた。
例え一度死んだ身だろうが、厄介ごとに巻き込まれていようが、自分がとんでもない過負荷(マイナス)を抱えていようが、これまで通り生きていくのだろうと思っていた。
俺と一方通行と御坂美琴という少し変わった面子であの研究所を訪れ――
死んだはずの大嘘憑き、球磨川禊と三度目の再開。いや、正確には四度目の再開を果たすまでは。
だからこれは俺の「変化」についての後日談。起承転結の結の後に続いてはいけない起の話だ。
予め言っておくとこの話はバッドエンド。全てを終える頃には全てが台無しになってしまう。そんな後日談。
それでもよければ、どうか聞いてほしい。
後日談・幻想殺しの場合
「よぉーカミやん」
教室へ入ると陽気な声で挨拶をする青髪が教壇に腰をかけていた。
当たり前だが校舎は崩壊などしていなく、他のクラスメイトたちも登校しておりいつも通りの光景が目の間に広がっていた。
「土御門は?」
「今日は用事があるにゃー、やと」
「そうか」
もう一人の友人の姿が見えなかったので確認をしてみるとどうやら登校すらしていないようだ。恐らくはあの事件の後処理、そんなところだろう。
あの事件がとりあえず終結した後日、俺、青髪、土御門、姫神、人吉先生という面子で話し合いが行われた。議題は勿論、球磨川禊について。
話し合いは青髪、姫神の両者が土御門へ謝罪をするところから始まった。
特に姫神の謝り方は凄まじく、「お前そんなテンションできんのかよ」と思わず突っ込んでしまうほど。
当の土御門は顔色一つ変えず「まぁ想定の範囲内だったからにゃー。気にすることは無いぜよ」と不敵な笑みを浮かべて二人を許した。
どうにもやっぱりこの男はどこか含みのある言い回しを好むようだ。
土御門の事情を知る俺や、事情を知ってしまえる青髪はその言葉で土御門は自分なりの役割を終えたのだろうと理解した。食えない奴め。
その後の話し合いはなんというか、消化試合とでも言うのか、どこぞの軽音部よろしく人吉先生が持参したティーセットでお菓子を摘みながら行われた。
そんなわけで、あの事件は一応の解決をみた。
ちなみに人吉先生は久しぶりに訪れる学園都市を観光するだとかで近くのホテルに拠点を構えている。子を持つ身ながらご自由なことだ。
というか、あの容姿であの年齢はないだろう。ウチの担任である小萌先生とも知り合いみたい(先輩後輩の仲らしい)だし、やはり類は友を呼んでしまうのだろうか。
「うーん、平和だなぁ」
思わずそんなことを呟いてしまう。
「なんやぁカミやん。いつもなら不幸だーとか叫んどるのに」
俺の言葉にニヤニヤしながら言う青髪。
「姫神もなんとか能力を抑えてるみたいだし、土御門の傷もたいしたことなかったし、妹達……あぁお前には隠す必要は無いな。妹達も全員無事だしな。これ以上望むのは分不相応ですよ」
「そんなもんかいな」
「そんなもんだよ。まぁ心残りはあるんだけどな」
心残り。それは球磨川と交わした約束が果たされていないこと。いや一つは守られているのだが、もう一つはやはり実行されてはいない。
というよりも「俺たちの前に現れない」という約束と「全てを元通りにしろ」という約束が前者だけ守られたところから考えるに、やはりあの男は死んでしまったのだろう。
死者は何も語らない。
いくら他人の死をなかったことにできる力を持っていた所で、その術者が死んでしまえば使うことはできない。
「あ、そうやカミやん。放課後でええから人吉センセがホテルに来て欲しいんやと」
「そうなのか?同居人は食事の作り起きしておいたから大丈夫だけど、俺今日はちょっと用事があるんだよなぁ」
ふと思い出したように言う青髪は、どこと無く眉間に皴が寄っているように見えた。
「なに言うてんねん!人吉センセから直々のご指名やぞ!ボクがカミやんやったら今すぐにでも飛んでいくわ!」
まったくこれやからフラグ体質の男は、となにやらブツブツ呟いている青髪。
「ま、まぁその用事も少し遅い持間だから、先に人吉先生のところへ行くようにしますよ」
青髪から滲み出る怒りのオーラを感じ取った俺は、その場を取り繕うために取り合えず首を縦に振った。
まぁ実際、一方通行達との約束は完全下校時間過ぎてからだし、問題は無いだろう。
「ホント、幾らかそのフラグ建築能力をボクにも分けて欲しいわぁ」
「お前が何を言っているのか理解できないんですが……」
俺がその言葉を言った途端、教室の至る所から舌打ちが聞こえた。まずい多分これで目を向けたら俺はヤラレル。
「……でもカミやんはこれからも厄介ごとに巻き込まれるみたいやし?それで勘弁したるわ」
青髪のその言葉には先ほどまでのふざけた様子は無く、真剣な口調だった。
「大変やで、カミやん。ボクが言ったこと覚えてるやろ?」
俺は二つの単語を思い出した。
「代用可能理論と時間収歛理論……だったけか」
「その通り。よぉ覚えとったなぁ、褒めてあげるわ」
「茶化すなよ」
起こるべく出来事は回避したところで必ず起こるし、物事には必ず代わりが用意されている。
「今回、球磨川さんがカミやんと関わったことで本来起こるべき出来事が全部後回しになったんや。だからこれから一気にそれが起こると考えてもええ」
青髪は言葉を続ける。
「平行世界の過半数を占める割合で同じ事件が発生しよる」
「勿論、カミやんはその渦中にいてるよ。当然、多少のズレはこの世界では起こるからその通りに事が進むとは限らんけどな、十中八九カミやんはまた巻き込まれるで」
この世界と平行して存在する世界を自由に覗くことができる青髪は、きっとこれから起こるであろう事件の内容を把握しているのだろう。
「だったら手伝ってくれ……って訳にはいかねえか」
「うん。それは無理や」
あっさりと切り捨てられた。
「あん時……話し合いの場でも言うたけどな」
青髪は語る。
「これから起こる出来事にボクは関わってはいけないんや。他の世界でボクはカミやんのクラスメイト。ただそれが役割やからな」
「今回こうして関わっただけでもイレギュラー」
「そうや。だからボクが関わったところで事件は解決できるかも知れんけど、それがこの世界にどんな影響を及ぼすのかが分からんからな」
つまり、青髪はクラスメイトとして、上条当麻の親友というのが与えられた役割なのだ。事件に加わってはいけない存在。
「だからこれからも、これまで通りの青髪ピアスをヨロシクってことや。それにな」
そう言って右手を差し出す青髪。
コイツはこう言って協力をしない理由付けをしたが、実際のところもう一つ理由がある。
平行世界をこの世界に反映できる強力な能力を使用すれば、いずれどこかの世界は崩壊してしまう、と青髪は言っていた。
ならば青髪は今まで通りその能力を使わないだろう。例え自分が死ぬような目にあったとしても。
それでも、あの時俺を止めるためにコイツは能力を使ってくれた。
その覚悟がどれだけのものか俺には想像もできないが、俺の為に使ってくれたという点で感謝をしている。
俺は青髪の手を握る。握手の形だった。
そして青髪は不適に笑いこう言った。
「ヒーローは自分の力で未来を切り開くもんなんやで」
まったく、俺の親友はどこまでもふざけてやがる。
学校が終わり、俺を呼び出した人物に会うために高級ホテルへと向かい、現在その人物が居る部屋の前に居る。
とりあえずノックをしたところ、入室許可が下りたのでドアを開く。(オートロック式だがどうやら解除してあったらしい)
「失礼しま……す?」
「いらっしゃい」
「…………」
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
学園都市でも随一である高級ホテルの一室に入ったらバスローブ姿の幼女が待っていた。
な、何を言ってるのか、わからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……
頭がどうにかなりそうだった……
平衡戦場だとか大嘘憑きだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいもの(合法ロリ)の片鱗を味わったぜ……
「なにポレナレフがDIOのスタンド攻撃を初めて食らったときみたいな顔してるのよ」
「は!」
バスローブ幼女こと人吉瞳先生(41歳)の声で自我を取り戻すことができた。
いやいや、だってバスローブ姿の幼女ですよ?ロリコンではない上条さんはいささか理解に苦しむ光景ですよ。
これで青髪なんかが居たら、えらい事になってた気がする。
「と、とりあえず着替えたらどうですか?」
「んー。面倒くさいからこのままでいいわよ。別に問題は無いでしょ」
「いや、上条さんの目のやり場的な意味で問題があるんですが……」
俺の抗議などに聞く耳は持っていないようで、人吉先生は部屋の中央にあるキングサイズのベットに腰を下ろし、
向かいにあるもう一つのベットに座るよう俺を促した。
服装についてはこの段階で諦めた俺は素直にベットに腰掛けた。
「で、なんで俺を呼び出したんですか?」
単刀直入に呼ばれた理由を問う。
人吉先生はその言葉を聞きベットの脇においてあったランドセル(なぜランドセルなのかはもう突っ込まない)から分厚い書類を取り出し、それを俺に渡す。
「カルテ……ですか?」
「うん、上条君の」
目を通すと確かに俺のカルテのコピーで、一番新しいカルテから順に揃えられていた。
その中でも記憶喪失(破壊)に関するカルテは含まれていない所から考えると、どうやらあの医師が人吉先生に渡したのだろう。
「ははは……こうやって見ると、途轍もない量ですね……ん?」
苦笑いしながらカルテを眺めていくと、記憶喪失以前のカルテが現れてきた。
まぁそれは大した内容ではなかったのだが、最後のカルテを見た瞬間、俺の手は止まった。
なぜならそのカルテだけが十二年前という表記だったからだ。
「これは……」
じっくりとカルテを眺めるとそこには箱庭総合病院というどこかで聞いた病院で記載されており、担当医は目の前の人吉先生になっていた。
「そう。それは私が書いたカルテ。といっても十二年前の事だからもう覚えてないでしょうけどね」
人吉先生は単純に物心つく前という意味合いで言ったのだろうが、十二年前どころかインデックスの件以前のことは何も覚えていない俺にとっては、記憶の中にあるはずも無い。
「……異常(アブノーマル)な子供達を検査する病院だったのよ」
重々しい口調で話す人吉先生。
「異常(アブノーマル)……ですか?」
「フラスコ計画って言ってね、とある高校の理事会が中心となって人間を完成させる計画があるのよ。この学園都市も一枚どころか中枢に絡んでるんだけど」
「ようは異常……天才と呼んだほうが分かり易いかしら?とにかく天才がなぜ天才たるかを解き明かし、人為的に天才を造り出すことを目標にしてるわけ」
「その為には大量のサンプルが必要で、そうやってあの手この手で異常な子供達の情報を集めてたの」
人吉先生は俺が持っているカルテを指差しながら、どこか疲れたような表情を見せる。
「もう理解しちゃったと思うけど、上条君もその対象だったのよ」
しっかりと俺を見据えて喋る人吉先生に瞳は奪われ、目を逸らす事が出来ない。
「で、でも……俺は天才なんかじゃないですよ!頭だって悪いし」
「幻想殺し」
まるで言い訳をするように話す俺を立った一言で黙らせる。そう、そんなことは俺だって分かっていた。異常な子供を集めているというのなら、この右手は異常すぎるほど異常なのだ。
「別に天才ってのは勉学に優れている、って意味じゃないわ。とにかく通常の人間とは違う何かを持っている人間って意味でのセグメンテーション。そう考えると異常に不幸な貴方の体質を危惧したご両親がこの病院へ預けるのは無理も無いわ」
「実際、その原因は右手にあったわけだしね」と今度は俺の右手を指差す。
「……確か、青髪もその病院に」
「通院してたわ。球磨川君もね」
球磨川、という単語にピクッと反応してしまう。
「その時は異常っていう括りしかなかったけど、過負荷……負能力者ってカテゴリができた今は青髪君も球磨川君もそこに分類されるわ、勿論、当時の貴方もね」
「……今は違うってことですか?」
当時、と人吉先生は言った。それはすなわち現在は違うということ。
「ええ、今の貴方は過負荷なんかじゃないわ。青髪君もね。過負荷だとかそういったのは様は心構えの違いよ」
「はぁ……」
その言葉に幾分か安心すると同時に胸の奥で何かが引っかかっている感覚を覚えた。
何かが、俺を呼んでいるような。
「今回呼んだのはこれを伝えたかっただけよ」
「そうなんですか?」
「あの上条君が今はこうやって立派に生きているだけでオバサンは感動してるのよ」
「もう大丈夫だとは思うけど一応こうやって自分の過去を知っておけば過負荷に落ちることはないと思うし」
だからこれまで通り生きてね、と親指を立ててエールを送ってくれた。
その後は先生の息子の話(どうやら面識があるようだが当然覚えていない)だったり、息子さんが必死に守ろうとしている少女の話だったりで時間が流れた。
そして気がつけば一方通行達との約束の時間が近づいていた。
「あ、すいません。俺ちょっと用事が」
「あら?用事があったの?ゴメンね長話しちゃって」
「いえいえ、とっても楽しかったですよ」
言いながら俺はベットから立ち上がり部屋を後にしようとする。
そして一度振り返り最後に質問を先生に投げかけた。
なぜこんな事を聞いたのか分からない。胸の奥に居る何かが、そうさせたのかもしれない。
「俺の過去は、本当にそれだけですか?」
俺の質問に目を開き驚いた人吉先生だったが、直ぐにいつもの笑顔を浮かべてこう言った。
「ええ、全部よ」
その言葉を聞くと、俺は「失礼します」と呟いて部屋を後にした。
帰りのエレベーターの中、独りになった俺はふと一つの言葉を呟いた。
それは誰に対して言った言葉なのかは分からない。
ただその言葉は冷たくエレベーター内に溶けていった。
『嘘つけ』
最終更新:2011年06月11日 15:36