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あの長い長い、坂道を一気に走りぬけ、北高正門まで辿り着くのに十二分かかった。
いつもなら、どんなに急いでも三十分以上はかかるのに。
これが修道服パワーってやつか。
後ろを振り返ると、ウニ条とそれに背負われたインデックスさん、御坂と長門に古泉が息を切らしていた。
全く、だらしない奴らだ。
ん? 朝比奈さんは?
「ハアハア……最初のビルの階段で思いっきりこけてから、ついてきてませんよ」
……使えねえ。可愛い巨乳じゃなかったら銃で撃ち殺しているところだ。
まあいい。
ここが北高……俺たちの通う高校だ。
ウニ条とインデックスさん、御坂は外部の人間だからな。
忘れ物を取りに来たって言い訳が通じ無い。どうする?
「ええと……俺はキョンの従兄弟って事で」
「アタシも長門さんの従姉妹って事にする」
「わ、わたしはどうしよう?」
インデックスさんは迷子のシスターさんで通じるだろう。
「あの、何故、誰も僕の親戚にならないのでしょうか?」
古泉。お前は鏡を良く見てから発言しろ。
- 俺たち北高メンバーは、下駄箱に向かい、上履きへと履き替える。
ウニ条たちは来客用のスリッパだ。
幸い、既に人はいない。
もう夜の九時半だからな。都合がいい。
俺は自分の下駄箱を開ける。
中に、紙切れが入っていた。
ノートの切れ端。そこには、『誰もいなくなったら、教室に来て』と、明らかな女の字で書いてあった。
背中を嫌な汗がつたう。
このメッセージ……奴か?
朝比奈さん(大)ならちゃんとした封筒に入れるはずだ。
俺は黙っていて自分の危険度が増すのを考慮して、全員を集め作戦会議をすることにした。
「朝倉涼子は、今現在は存在しないはず」
本当か? 間違いだったら鼻フックだぞ長門?
「でも、これも手がかりよね。アンタの教室に行けば、誰かいるんでしょ?」
「高確率で罠だろうが……行くしかないな」
「ですね。これだけ人数がいれば……まあ、朝倉さんでは誰も太刀打ちできませんが」
「とうまー。自動販売機あったよ! ジュース買って! ねえとうま!」
行くしかない、か。
まあ、俺もこういう事には慣れてる。
二度目のお誘い、大いに結構じゃないか。
みんな。頼りにしてるぜ。
いざとなったら、俺一人だけでも逃げるからな。
もはや、突っ込みも入らなくなった。
俺たちは、教室へ向かった。
- 俺の教室。
つまりは俺とハルヒの教室ということになる。
中は明かりが消えており、誰かがいるのかも分からない。
俺はとりあえず、扉を少し開き、古泉を中へ叩き込んだ。
そしてすぐさま閉める。
一分。二分。三分。……十分が過ぎてから声をかける。
古泉、危険は無いか?
「……あ、貴方に蹴られて首の骨が折れたようで……動けません」
使えねえ! どんだけ使えないんだお前は!
俺は他の四人に目を向け、言った。
全員で突入するぞ。
皆、頷く。
ウニ条に扉を開かせる。
最後に入るのは無論、俺だ。
中は暗く、恐らくすぐ近くでぴくぴく蠢いているのが古泉だろう。
長門。
「……了解」
長門の呟きで、古泉がこちらに寄ってきた。
「酷くないですか? 死にかけたんですよ、僕?」
うるさいので股間を容赦なく蹴り飛ばす。
静かになった。
暗闇にだいぶん目が慣れてくる。
教壇に、誰か座っている。
- 「遅いよ」
そいつは俺に笑いかけていた。
教壇から降り、教室の中程に進んで歩みを止め、微笑む。
お前か……。
「そ。意外でしょ」
くったくなく笑う、その少女は、俺の妹だった。
何でお前がここにいる?
何の用だ?
「ちょっとキョンくんに聞きたいことがあるんだよ」
俺とウニ条を挟んだ位置に、妹の顔があった。
「キョンくんさあ、高校に入ってからあんまりわたしと遊んでくれなくなったよね?」
そうだな。SOS団で何かと忙しいからな。
しかし、何度かイベントには連れて行ったはずだろ?
「じゃあさあ、例え話なんだけど、どうしても兄が遊んでくれなくて寂しい妹は、どうすると思う?」
何だそりゃ、俺には分からん。
「だろうね。キョンくんはお兄ちゃんの立場だからね」
だから何なんだ?
「大好きなキョンくんが、離れていくのならわたしの手で殺す」
後ろ手に隠されていた妹の右手が一閃、さっきまで俺がいた空間を鈍い金属光が薙いだ。
シャミセンを膝に抱いて尻尾を引っ張っているかのような笑顔で、妹は右手でハサミを投げつけてきた。
小学生の使う物じゃない、業者さんが工事に採用してそうな大きなハサミだ。
俺が最初の一撃をかわせたのは、俺が強いせいでもあるが、中間地点にいたウニ条のおかげとも言える。
こいつの身体が邪魔で、狙いが僅かにそれたのだろう。
妹は、スクール水着を着用していた。
- ウニ条が叫ぶ。
「おい! あの子は知り合いかよ!?」
妹だ。ただ……。
「彼の妹も、恐らく『能力』の支配を受けている。ハサミ投げの動作が小学生の域を遥かに超えている」
「しかし、小学生なら俺が押さえ込んで右手で触れば!」
ウニ条が言った刹那、妹の両手にはそれぞれハサミが握られていた。
いや、ハサミは二つじゃない。
ジャグリングのようにハサミを玩ぶ妹。
その手の中のハサミは、どんどんと増えていく。
「いくよ……『キョンクンハサミカシテェー』!」
おかしな技名と共に、無数のでかいハサミが俺たちに襲いかかる!
俺はとっさに古泉を盾にする!
間に合ったか?
電光。
ハサミは空中で溶け、床にべちゃりと落ちた。
御坂が電撃を使用したのだろう。
「……悪いけど、ちょっと気絶してもらうわよ」
「お、おい御坂!」
「軽く電撃を当てるだけよ。離れた場所からスタンガンを使うみたいなもんよ」
「怪我をさせるなよ。キョンの妹さんだ」
「分かってる!」
電光。
- しかし。
妹は電撃に合わせ、数本のハサミを投げた。
それに吸い寄せられるように、電撃はハサミに向かい、それを溶かす。
「何ですって!?」
「……理科で習ったよ。金属は、電気をよく通すってね」
妹の手元には、既に無数のハサミがあった。
「御坂! 電撃をコントロールして当てる事はできないのか!?」
「できるけど……! 威力の調整を考えると、気絶させるだけじゃすまない!」
「怪我させちまうってことか!?」
「小さな子供に浴びせたら、後遺症が残るくらいにね!」
「ちくしょう!」
「お腹すいたんだよ、とうま!」
妹は無数のハサミを空中に投げて遊んでいる。
そしてこちらを見て笑い、一斉に投げてきた!
電光。
また御坂が止めた。
しかし。
「これじゃ、どうしようもないわよ」
「手加減した電撃では止められる。しかし威力を上げると妹さんが危ない、か……!」
「八方ふさがり、というやつですね」
お、古泉。復活したのか。よし! 突撃してスクール水着を奪って来い。
「あの……今は理性を取り戻してますから」
お前の今の姿は、狂人か変質者にしか見えん。
- 「どうすることもできないのか……!?」
「何か、方法はあるはずよ!」
「無数のハサミ……アレをどうにかできればいいのですが」
「とうま! お腹すいたんだって言ってるんだよ!」
「……私の力が制限されていなければ」
意見がまとまらない。
仕方がない、俺がやる。
「キョン! お前……!?」
俺の妹だからな。
俺が一番、適任だろうさ。
俺は前に出て言う。
おい。いい加減にしろ。怒るぞ。
「怒ってるのはこっちだよ! キョンくんなんか死んじゃえ!」
……キレた。俺の中で、何かがキレた。
銃声が四回。
妹の、両の手足の付け根が、血に染まった。
俺の持ってる銃から撃ち出された弾丸が、クリーンヒットした。
ミッションコンプリート。
「いやいや待て待て! キョン、お前、銃なんかもう持って無かったはずだろ!?」
それは新川さんから奪った銃の事だろ?
これは別ルートで入手したんだ。
あのビルの周囲に警官がたくさん倒れてたろ?
そいつ等から、四、五丁ほど借りて、弾丸もたっぷり頂いてきてたのさ。
古泉。森さんのメイド服は、ポケットがいっぱい付いてて便利だな。
- 「……まあ、機関の特製メイド服ですから」
さて、ウニ条。気を失ってる妹を、右手で触ってくれ。
「『能力』の影響を取り除くのか? しかし、普通に戻って、怪我に対応できなくなったら……」
長門。銃の怪我だけ治して、意識を覚まさせないようにできるか?
あと、服を普段着に替えてくれ。
「できる。始める」
「そっか。怪我を治してから触ればいいんだ」
「意識を戻さないのは、夢を見ていた事にでもするのでしょうか?」
ああ。いくら心神喪失状態だったとは言え、
自分の兄貴にハサミ投げたりした事を覚えているのは辛いだろうからな。
「というか実の兄に撃たれる経験の方が辛いと思うが」
ウニ条? 頭から中身ぶちまけて、喰われたいか? ん?
「すいませんごめんなさい」
くだらねえ事をぐだぐだ抜かしやがって。
「……終わった。明日の朝には目が覚めるようにしておいた」
「服も再構成完了」
長門はできる子だよな。頭ナデナデしてやろう。
「……ご褒美?」
ああ、ご褒美だ。お前にはいつも世話になりっぱなしだ。
「お腹すいたー!」
- 確かに腹は減ってきた。
しかし食う物なんてここにはないな。
そうだ! 団室に行こう!
「……それは、少しばかり考え物ですね」
何だ古泉?
「新川さんのメッセージ……『北高』。これが妹さんがいるだけとは限りません」
「むしろ、団室に罠があるのではないかと」
「確かにな。この教室には、ハサミが無数にあるだけで、他に変わったところはないみたいだ」
「……恐らく、新川は団室で待ち構えている。そう私は考える」
「ていうかキョンが銃を妹さんに撃った事はもういいの? アタシがおかしいの?」
済んだ事をうじうじと。だから第三位止まりなんだよ、短パン中学生が。お前、ハサミ溶かしただけだろが。
「御坂……泣いてるのか?」
「泣いてないもん! 悔しくないもん! ぐしゅっ」
「短髪、なにか食べれば元気出るんだよ?」
確かに団室には罠が……新川さんの罠が仕掛けられているだろう。
長門の言うように、当人が待ち構えているかもしれない。
……。
もう帰ろうか?
全員が無言で俺を見る。
だって妹を家に連れて帰りたいし……新川さん、強そうだし。
「でも、ここで新川ってのを止めないと、被害者はまた出るぜ?」
「ですね。恐らく妹さんも、新川さんからの情報でここに連れて来られたのでしょうし」
すげえ。みんなやる気だ。俺は帰ってオナニーして寝たいのに。
- まあ、分かったよ。
俺たちは妹に猿ぐつわを噛ませ、縛り上げ、ロッカーに放り込んだ。
これなら敵に見つからないだろう。
妹を縛る時に、古泉が鼻血を出したので左耳を銃で吹っ飛ばした。
長門は治さない。
しかし、団室に行く前に、インデックスさんが言い出した。
「もう、お腹ぺこぺこで動けないんだよー!」
確かに、みんな疲労が溜まっている。
まずは食事をし、休息をとらなくては、戦いなど出来ないだろう。
俺と古泉、ウニ条は、各自、細心の注意を払って食料調達に行く事にした。
ウニ条は別棟の教室。古泉は保健室と調理室。俺は少し外に出かけてみる事になった。
全く、なんで俺が一番遠いの? 馬鹿なの? 死ぬの?
腹が減って、もうこのまま家に帰ろうかと思った矢先、誰かが校門に走ってくるのが見えた。
「はあ……はあ……」
「あ、キョン君! お待たせしました……。御免なさい、遅くなっちゃって」
いえいえ、構いませんよ朝比奈さん。
貴方は本当に女神のような人だ。
今から食事なんですけど……協力してくれますよね?
「え? あ、はい……」
銃声。
- 肉の焼ける香ばしい匂いが調理室を包み込む。
「キョン。よく肉なんて見つけたな」
「そうですね。しかもこんなに大量に」
「おいしんだよぶかぶかぶ」
「こら。インデックス、がっつかないの」
「ユニークな味」
いやあ、美味いなあ。本当に美味いなあ。
朝比奈さんに感謝しなきゃなあ?
俺は脂身の部分に齧り付くと、そのまま引き千切った。
肉汁が溢れ、たまらない。
流石の大量の肉も、大勢で食べるとすぐに無くなってしまった。
「もっと食べたいんだよー!」
「流石に遠慮しろ、インデックス」
「はは。事件が解決したら、また焼肉パーティでもしましょうか」
……本当に朝比奈さんには感謝しなくちゃな。
あの人のお陰で焼肉が腹いっぱい、食べられたんだから。
「ひ、酷いです、キョンくん」
「銃で脅して、お肉を買いに行かせるなんて……」
だって俺が行ったらメイド服で目立つじゃないですか。
朝比奈さんなら似合いすぎてて大丈夫だと思ったんですよ。はは。
「むー」
下ごしらえや、タレも作ってくれてありがとうございます。とても美味しかったですよ。
「……なら、良かったですけど」
- ――
焼肉の匂いは血の匂いに変わった。
我がSOS団団室は、殺人現場に成り果てた。
俺の前には、頭を割られたスイカのようにされた古泉の死体。
御坂は足を撃ち砕かれ、動けない。
動けたとしても、小型キャパシティダウンとやらで、電撃は使えない。
インデックスさんは、真っ青な顔で御坂の横に座り込んでいる。
その二人の前に、ウニ条が庇うように膝立ちで前を見ている。
長門は喉を銃弾がかすめ、現在は自分の修復に集中している。
朝比奈さんは、とっくに白目をむいて気絶だ。
俺だけが、無傷で二丁拳銃を構えている。
しかし、勝てる気がしない。
俺たちの目の前にいる、あの男には。
そう。
ハルヒのバニースーツを着た、新川さんだ。
機関特製の拳銃を、十数丁もベルトにつなぎ、ソレを身体中にに巻いている。
糞ったれが!
何でこんな事になっちまったんだ!
- ――
調理室から出た俺たちは、SOS団団室へと向かった。
腹が満たされ、眠くなってきたが、ここまできたんだ。
もう帰りたいとは、なかなか言い出せなかった。
いや、言ったけど猛反発を喰らった。
古泉を先頭に、俺たちは団室への道を進んだ。
扉を開け(古泉が)、中に入る。
真っ暗だったが、確かに誰かいる気配を感じた。
天井の明かりのスイッチをオンにする。
そこで俺たちが見たのは。
団長机の上に、バニースーツを着込み、武装している新川さんの姿だった。
新川さんが言う。
「ずいぶんと遅かったですね」
……生憎と、ディナーを満喫していましたんでね。
俺の言葉に、新川さんは頷いた。
「いいでしょう。最後の晩餐を楽しんでこられたのです」
「思い残す事もないでしょう」
そう言って、新川さんは拳銃をこちらに向けた。
やばい。
すると古泉が俺の前に立った。
- 「もう、止めてください、新川さん!」
説得しようとしている、マイクロビキニの男子高校生と、バニースーツの初老の男。
なかなかシュールな場面だ。
「貴方は、通常の状態ではない! 『能力者』によって、おかしくなっているんです!」
「それがどうしたのですかな」
「どうした……ですって?」
「正に古泉。君が言った通りに、私は『能力』によって理性を抑えられました」
「しかし、それは正しいことなのですよ」
「……こうして、ハルたんのバニースーツを、堂々と着ることができるのですから」
「貴方は!」
「君とはもう、話をする気はありません」
銃声。
古泉の頭部が吹っ飛び、貫通した弾丸が俺に襲いかかる。
俺はぎりぎりでその弾丸を避けたのだが、
真後ろにいた長門が避け損なって、首から血を吹いた。
長門!
「だ……いじょ……うぶ……すぐ、治……すか……ら」
新川さんめ! よくも長門を!
- 「本当は三人まとめて始末するつもりでしたのですが」
残念そうに新川さんは、バニースーツの食い込みを直す。
「……何なのよ! こいつが、新川……!?」
「らしいな。問答無用で古泉を殺しやがった……!」
新川さんは、御坂とウニ条を見て言う。
「ふむ。学園都市第三位『超電磁砲』と『幻想殺し』、ですか」
御坂とウニ条に戦慄が走る。
「何で俺たちの事を……!」
「アタシはともかく、コイツのことまで!?」
「……情報提供者は、どこにでもいるものですよ」
「まあ、『幻想殺し』は、あの御方に教えられたのですが」
「あの御方……?」
「ふんっ……アタシたちの能力が分かったって、どうしようもないじゃない!」
御坂が電撃を放ち始める。
しかし、新川さんは、バニースーツの胸元から、小さな機械を取り出し、言う。
「これを使えば、どうなるでしょうかね」
機械のスイッチが押される。
- 奇妙な音が、団室を包む。
「うっ……これ、は……!」
「御坂!?」
「超小型のキャパシティダウン。……どうやら『幻想殺し』には効かないようですな」
ジーザス。
御坂の電撃が使えないとなると、かなりまずい。
俺はそっと逃げ出そうと後ずさりした。
銃声。
しかし、それは俺に向けられたのではなく、御坂だった。
ウニ条がとっさに御坂を引っ張るが、御坂の足を銃弾が掠める。
「ぐっ……!」
「御坂!」
「短髪ぅっ!」
インデックスさんが駆け寄る。
やばいって、逃げろよ。
この時には、朝比奈さんは立ったまま気絶していた。
貴方は弁慶ですか?
まあ、弁慶は漏らしませんが。
足元には水溜りができていた。
- 俺たちは睨みあう。
新川さんは、楽しそうに微笑んでいる。
バニースーツの食い込みを時々直しながら。
二発の銃声。
俺は黙って発砲した。
両手の拳銃を、一発ずつだ。
しかし、同時に更に二発の銃声。
新川さんが、拳銃で俺の撃った弾丸を空で弾いた。
人間業じゃない。
「キョンさん……いきなりは無粋でしょう」
何を言いやがりますか。
古泉、俺、長門を一撃で殺そうとした人の言葉とは思えませんよ?
「ふふ……貴方には、もう少し苦痛を味わって頂きたい」
「貫通した銃弾を避けるのは、予想済みでしたよ」
「……そしてこれも」
銃声。
俺はとっさに、拳銃の引き金を引く。
新川さんの撃った弾丸は、俺の弾丸に弾き飛ばされた。
- 「思った通りだ。貴方の潜在能力は、目を見張るものがある」
「ハルたんが、何故貴方に執着するのか、分かった気がしますよ」
新川さんと同じ事をやれたとはいえ、いつまでもそれができるとは思えない。
逃げようにも、隙は無い。
このまま、俺は死ぬのか?
ウニ条は、御坂とインデックスさんを庇って動かない。
御坂は、キャパシティダウンで能力が使えない。
長門は自分の怪我の治療中。
朝比奈さんは気絶中。
特攻役の古泉は死んだ。
はは。
チェックメイトか。
古泉。
あの世で、またチェスをやろうぜ。
思えば、ハルヒのお陰で無茶苦茶だったが、
概ね平和な団活が懐かしい。
新川さんが、朝比奈さんに拳銃を向ける。
俺はその弾丸を弾き返す用意をする。
しかし、一時しのぎだ。
いつまでも続くわけが無い。
その時。
- カシャリ、と音がした。
見ると、新川さんの胸元の機械 ―キャパシティダウン― が、針のようなものに貫かれている。
音が消える。
団室の、扉の向こうから声が聞こえる。
「小型のキャパシティダウンとは、恐れ入りましたわ」
その人物は、ゆっくりと近づいてくる。
「けれど。影響範囲が小さいのが難点ですわね」
「お陰で、わたくしは針を飛ばす事ができましたの」
ツインテールの小柄な女の子だった。
「白井っ!」
「黒子ぉ!」
「ガチレズなんだよ!」
どうやら、味方らしい。
御坂が、電撃を新川さんに向けて放つ。
新川さんは紙一重で避ける。
「これはこれは……学園都市の『空間移動能力者』、といったところですかな?」
ツインテールの少女は、左腕の腕章を見せつける。
「白井黒子。ジャッジメントですの」
- 白井黒子の登場で、戦況は一変した。
御坂も立てないながらも力を使う。
電撃が、針が、銃弾が飛び交う。
しかし、新川さんはそれを避け、逸らし、弾く。
「何て……強さですの!」
「黒子! 手加減せずに、体内に針をテレポートさせなさい!」
「それは……!」
新川さんが遮る。
「遅かったですね。私は既に準備が整いました」
何のことですか新川さん。
「キャパシティダウン……二つ持っていると言いませんでしたかね?」
いつの間にか、新川さんの片手には、壊れていない、さっきと同じ機械が握られていた。
「しまった!」
ウニ条が走る。
「さぁせるかよぉぉぉぉぉぉっ!」
しかし、スイッチが入るほうが早かった。
耳障りな音が、また響く。
更に新川さんは、機械を団室入り口近くの棚の上に投げる。
「うっ……また……!」
「ふ、不覚……ですのっ!」
- 逆転された?
もう、無理なのか?
死ぬの、俺?
俺だけでも見逃してください、新川さん!
しかし、新川さんは息をつき、言った。
「……流石に、疲れました」
「銃も、これだけ用意したというのに弾切れですし」
「ここは、一旦引くとしましょう」
そういうと、新川さんは、窓ガラスをぶち破り、外へと脱出した。
俺は急いで割れた窓の下を見る。
そこには、タクシーが止まっていて、エンジンがかかった。
運転席には新川さん。
タクシーは、猛スピードで学校の外へと、消えていった。
……。
助かった、のか?
団室を見渡すと、ほぼ全員が満身創痍だった。
しかし。
俺たちは生き残った。
生きてる事は、勝ちなんだ。
- 俺は、棚の機械を握りつぶした。
音が止む。
「お姉さま! おみ足を怪我しておられるではありませんか!」
「大丈夫よ、このくらい」
「……インターフェイスの修復完了」
「御坂美琴。貴方の負傷を治療する」
「すまん、長門さん」
「ありがとう、ね……」
「……治療能力者ですの?」
「ゆきは、うちゅうじんなんだよ、くろこ!」
「……ふわぁ、おはようございますぅ~」
全く。
今まで命がけの戦闘をしていたと言うのに、平和な奴らだ。
状況は、何も変わっていない。
新川さんは、ハルヒのバニースーツを持って逃げた。
大変なのは寧ろこれからだろう。
お前はいいよな、脱落できたんだから。
俺は頭部がぐしゃぐしゃの古泉の死体に話しかけた。
もちろん、返事は無かった。
死体は、返事をしない。
分かっていた事だった。
それは、蒸し暑い夜の事だった。
最終更新:2010年09月23日 00:37