~第二十三学区・飛行場滑走路~
上条・浜面「「なんじゃこりゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」」
七日目…9:42。上条当麻と浜面仕上は超音速旅客機のタラップから降りるなり、寝ぼけ眼を見開かせて絶叫した。
上条「ひ、飛行場が…」
浜面「く、空港が…」
二人が目にしたもの…それは管制塔に白銀色の大巨人が横臥し、その胴体を今の今まで自分達が搭乗してきた超音速旅客機が十字架のように突き刺さり、燃え尽きた愉快なオブジェであった。
上条・浜面「「……」」
空港も空港で怪獣が暴れ狂ったような惨状であり…よく着陸出来たものだと思った。
同時に、自分達はまだ夢を見てるんだ、これは何かの悪い冗談なのだと言うのが二人の共通認識であった。
そして互いに顔を見合わせ…再び周囲を見渡し…そしてまた向き直る。
浜面「…悪い、ちょっと顔つねってくれないか?オレ多分まだ夢見てるんだわ」
上条「あっ、ああ…じゃあオレも…せーのっ」
ギュウウウウウウゥゥゥゥゥゥ…
上条・浜面「「痛い痛い痛い痛い痛い痛い~!!」」
互いの頬をつねり合いながらタラップで地団駄を踏む。
約二週間ぶりとなる学園都市の土を踏む感慨も何もなく、起き抜けの頭を一瞬でフラットに戻す痛み。そこへ――
?「下りろォ!三下共がァ!!」
ゲシッ
上条・浜面「「うわわわわわわわわわ!?」」
一瞬スローな無重力感を味わった後、自由落下の法則に従って蹴り出された二人は上条が下敷きに、浜面が仰向けに…
上条・浜面「「おああああああ?!」」
ドンガラガッシャーン!と背後からの蹴撃を受けてタラップから転がり落ちる二人。
上条「ふっ、不幸だ…」
頭に星が巡る上条の上で、未だ火花が瞬く浜面がかぶりを振りながら、叫ぶ。
浜面「~~~何しやがる一方通行!!!」
一方通行「朝っぱらからくだらねェ漫談やってンじゃねェよ!後がつかえてンだろうがァ!!」
打ち止め「あなたもドリフみたいだよ!ってミサカはミサカは掌を返しながらいまいちなおめざなあなたにビシッとツッコミを入れてみる!」
タラップの上…そこには起き抜けのホワイトヘアーをガシガシと掻き回しながら不機嫌そうに見下ろす一方通行(アクセラレータ)と、対照的に元気一杯に飛び跳ねる打ち止め(ラストオーダー)の姿があった。
一方通行「~~~テメエがさンざっぱら騒ぐからだろうがクソガキィ!!!」
打ち止め「いっ、痛い痛いってミサカはミサカは千切れちゃいそうな自分のチャームポイントを押さえてみたり!」
フィアンマ「…貴様等も大概だ。早く下りろ。五月蝿くてかなわん」
そして更にその後ろに控えるは――ローマ正教最暗部、元『神の右席』指導者――『右方のフィアンマ』。
打ち止めのアホ毛を掴む一方通行の後ろで物憂げに、鬱陶しそうに、気怠げに手を振る。道を開けろと言わんばかりに。
一方通行「ああン?なンですかなンなンですかァ?一番遅く起きてきて命令口調とか舐めてンですかァ?」
フィアンマ「喚くな。頭に響く。俺様の手を煩わせるな」
至近距離でガンを飛ばす一方通行、それを冷めた様子で睥睨するフィアンマ。
ほとんど極道とマフィアのメンチの切り合いであり、一触即発状態だが――
上条「だあああぁぁぁもうっ!朝っぱらから喧嘩すんなよお前ら!そんな事してる場合じゃないだろ!?」
浜面「そ、そうだそうだー!暴力反対!マジ切れ御法度!つかお前らどんだけカルシウム足りてねえんだよ!?」
打ち止め「右に同じく!あなた達が暴れたらこの空港まで吹き飛んじゃうよ!ってミサカはミサカは演算補助の接続を――」
一方通行「打ち止めァ!」
フィアンマ「フンッ…」
上条がフィアンマをなだめすかし、浜面と打ち止めが一方通行を粘り強く押さえ込みながら四人の男と一人の少女がタラップを下りる。
二週間ぶりとなる地に足を踏みしめ、上条当麻は空を見上げる。
しみじみと感じざるを得ない。帰って来たのだと―――
―――上条「学園都市か」―――
~第二十三学区・空港内~
浜面「うわっ…めっちゃメール入って来てる…滝壺に、フレンダに、絹旗に、半蔵に、郭に…ああ電池がぁぁぁ!スパムメールかよ!?」
上条「“夜にオ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね”…“噛みつき百回の刑なんだよ!とうま!”…“今更何しに帰って来てんのよゴラァァァ!後で罰ゲームだからね!”…ふっ、不幸だ…」
一方通行「“テメエの見せ場はもうねえよクソ野郎。くたばるまで幼女と一緒に砂遊びしてろ(笑)”…あのクソ野郎(スペアプラン)!!着いたら愉快なオブジェにしてやンよォォォ!!」
フィアンマ「(着信0件…メール0件…オッレルス…シルビア)」
打ち止め「友達いないの?ってミサカはミサカは手持ち無沙汰なあなたの後ろ姿に哀愁を感じてみたり」
10:05分。五人はそれぞれ携帯端末を操作しながら現状把握と生存報告に明け暮れていた。
最終戦争後の事後処理や
その他諸々の案件を片付ける最中、振って湧いたグノーシズム(異端宗派)襲来の報に急ぎ帰国したは良いものの――
垣根『――死傷者0だ。でもってブリキの兵隊共は全滅だ。テメエらの出る幕はねえよクソッタレ』
垣根帝督のメールからわかった事…避難所が半壊してしまい、また焼け出されてはしまったが死傷者は0だと言う事。
上条「(そうか…みんな助かったんだな…)」
もちろん負傷者はいたが、一方通行を除くレベル5全員が防衛戦をやり遂げ、残る全ての人々が籠城戦を成し遂げた。
一方通行「(チッ…あのクソメルヘンが…)」
垣根帝督の未元物質(ダークマター)が避難所全域を完全にカバーし完璧にコントロールした所が大きい。
浜面「(…ホッとしたぜマジで…)」
夜明けと共に帰還した黄泉川愛穂が全学区の警備員を総動員させ、残党狩りを含めた鎮圧行動に出、無事事態は収束されたようだ。
フィアンマ「(…生きている、人間達か…)」
同時に、上層部は隠蔽工作と事後処理と情報操作と対外折衝に死に物狂いで、必死に日本国政府の介入を阻んでいるらしい、とも付け加えられていた。
垣根『さんざっぱら甘い汁と他人の生き血啜って来た連中だ。テメエらの保身にゃ必死になんだろ?せいぜい苦い汁飲めってんだ。ところでオレの飾利を見てくれ。コイツをどう思う?』
一方通行「知るかァァァァァァァァァァァ!!!」
打ち止め「あ!あの時の花飾りの人だ!ってミサカはミサカは運命的な出会いを思い返してみたり!」
今後の先行きを案じるメールもそこそこに、垣根帝督が初春飾利をぬいぐるみのように抱きながらドヤ顔で写っている写メールまで添付されていた。
惚気たっぷりのメールにブチ切れる一方通行とケラケラ笑う打ち止め、それを見やる――
フィアンマ「…奴等は何時もこうなのか?」
浜面「あれはあれで丸くなったと思うぜ。トムとジェリーくらいにはな」
フィアンマ「俺様には理解の外だ」
浜面「だろうなあ。あんたそういうキャラじゃねえしな…あっ、そうだそうだ。さっき案内所で聞いたんだが――」
右方のフィアンマ。彼もまた第三次世界大戦後、紆余曲折あって世界中をさすらう旅の途中である。
この三人の輪に加わっているのは、“上条当麻に借りを返す”ためらしい。
浜面「ターミナルは封鎖、モノレールは閉鎖らしいぞ。最悪、陸の孤島だ」
上条「げっ…って事は」
打ち止め「えー!?ここで足止め?!ってミサカはミサカは駄々をこねてみる!」
一方通行「車かっぱらってこいよ。テメエの十八番だろうがァ」
浜面「この厳戒体制の非常線張られまくってる時に出来っか!!お前のカラスみたいな羽でブワーッて飛べねえのかよ?」
一方通行「バッテリーが持たねェよ。だいたい四人も抱えて飛べる訳ねェだろうが」
フィアンマ「チッ…使えん奴め」
一方通行「スクラップの時間だクッソヤロオオオオオオォォォォォォ!!!」
上条「喧嘩すんなって上条さんいつもいつも言ってる言った言いました三段活用そげぶ!」ガッシ!ボカ!
一方・右方「「~~~!!!」」
打ち止め「…本当に大丈夫かなってミサカはミサカは自分の先行き不安に頭を抱えてみる…」
上条「嗚呼…帰ったら沈利とインデックスとビリビリになにされるか…上条さんは今から不安で胃痛になりそうですよ」
帰りの足に頭を抱える浜面、上条の鉄拳制裁に頭を抱える一方通行とフィアンマ、この人達についていって大丈夫かと頭を抱える打ち止め、恋人と同居人と女友達の死より恐ろしいペナルティに頭を抱える上条当麻――すると
グウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
全員「「「「 」」」」
どこからか盛大に鳴る腹の虫、高らかに歌い上げるカエルの大合唱がガヤガヤと騒がしいロビー内であってさえ響き渡る。
上条「…誰だ?」
浜面「…お、俺じゃないぞ」
一方通行「…クソガキか?」
打ち止め「れっ、レディーにそんな質問はデリカシーないってミサカはミサカは女心のわからないあなたに無罪を主張してみる!」
フィアンマ「俺 様 だ」
全員「「「「お前かよ!!?」」」」
一斉に入る突っ込み。しかしフィアンマは動じずにかぶりを振り、恥ずかしがった様子もなく一同を見渡し。
フィアンマ「ともあれ、まずは食事にするとしよう。ここで空きっ腹を…いや頭を抱えていても埒が開かん。行くぞ」スタスタ
一方通行「なンでテメエが仕切ってンだゴラァァァァァァァァァ!!」カツンカツン
打ち止め「わーいご飯ご飯!ってミサカはミサカは食べ盛りの子供らしくはしゃいでみたり!」ピョンピョン
浜面「オレサマ系VSオラオラ系だなあ…まあ機内食出なかったしちょうどいいか。なあ?」テクテク
上条「いいんじゃねえか?そりゃ避難所も気になるけどさ…このままだと良い案も出ないだろうし…それに」トボトボ
上条は改めて携帯端末に目を落とす。本当は今すぐ飛んで帰りたい。
恐らくこの場にいる誰にも負けないほどに。しかし
上条「――大丈夫さ。あいつらなら」
~第二十三学区・レストラン『スカイスクレイパー』~
姫神「食べ過ぎた。もう動けない」
結標「私を連れて帰るって言ったじゃない!!」
10:11分。姫神秋沙と結標淡希は救護所から退散し空港内にあるレストランで遅めの朝食をとっていた。
警備員の護送車で送られる前に、一晩中戦い通しだった結標も一晩中走り通しだった姫神も空腹の限界を迎えたのである。
姫神「聞いていたの。寝たふりをしていただなんて。いけないあわきん」プニッ
結標「あわきんって呼ばないで言ったでしょ!コ、コラ突っつかないで!」
結標はパスタとサラダを、姫神は朝定食だけでは足りずにサイドメニューにチキンや山盛りポテトなどを次々と注文し、気がつけば一晩分の疲労と眠気が一気に弛緩して動けなくなっていた。
対する結標はサラダをつつきながら姫神に頬に指差されるちょっかいから逃れようと身をよじっていた。しかし
姫神「食べても。お腹が出ない貴女が。心の底から憎らしい。これから夏の盛りなのに。妬ましい」
結標「肌を出すファッションの娘はスタイルにだって人一倍気を使うのよ。貴女だって手足長いじゃない」
姫神「スレンダーな貴女と並んで歩くと。比べられそうで嫌」
結標「あーそれはあるかもね?」ニヤニヤ
姫神「かっちーん」フミッ
結標「痛い痛い!足踏まないで!」
テーブルの下で足を蹴飛ばしたり脚を践んだりと水面下での女の戦いは続く。
つい数時間前での、世界の果てで永遠の愛を誓い合った姫君と騎士のような空気は微塵もない。
それこそどこにでもいる、女子高生同士のやりとりだった。
結標「はあー…なんかさっき寝たのにまだ全然寝足りない気分。小萌の所に顔出して、避難所の様子見たら早めに帰って眠りましょう」
姫神「…うん」
そこで姫神の表情がやや落ち込む。『能力者狩り』の標的は姫神を含めた学生全てであったが、悩み続け、思い詰めた末に出奔してしまった手前、諸手を上げて帰るのが憚られる気がしたのだ。だが結標は
結標「しゃきっとしてちょうだい。貴女は生きて帰って来て、みんな生き残ったわ。胸を張って帰って、色んな人にありがとうって頭を下げて回ればいいのよ。私もそうするつもりだしね」
些細な事とは言わないが、悩み過ぎだと笑った。
一人のために戦争など起きはしない。一人の人間が戦争を終わらせる事など出来ないように。
そして一人の人間が帰って来るのを拒むような狭量な人間はあの避難所にはいないのだから。良くも悪くも
姫神「…わかった。ありがとう。淡希。お礼に。ケーキを奢る」
結標「あら?じゃあご馳走してもらおうかしら。でも貴女お金大丈夫なの?」
姫神「大丈夫。支払いは任せろー。バリバ―――」
………………シーン………………
姫神「」
結標「ちょっ、ちょっと秋沙?どうしたの?どうしてフリーズしてるの?」
姫神がボロボロになってしまったスカートから財布を取り出そうとして…固まった。
ただでさえ乏しい表情も相俟って、発条のネジが切れた人形のように。
姫神「…ない」
結標「えっ」
姫神「忘れた。第九学区の護送車の中に。鞄ごと」
姫神の表情が蒼白になる。黄泉川達に手を引かれ、無我夢中で、取る物も取らずに巨神兵から逃げ出したのだから。
ちなみに余談であるが、既に護送車はステイル=マグヌスが顕現したイノケンティウス(魔女狩りの王)で灰燼に帰している。
結標「…仕方無いわね。私が出してあげるわ。ここの払いもね」
姫神「…ごめんなさい。淡希。最後まで。役立たずで」
結標「良いわよ。生きて帰って来てくれただけで十分お釣りが来るわ」
姫神「代わりに。帰ったら。私の身体を。好きにしていい」
結標「ばっ、馬鹿!!!!!!」
鷹揚に微苦笑を浮かべながら結標は姫神を見やった。朝食代など安い物だ。
もう二度と手離せないダイヤモンド(永遠の輝き)が、自分の手に戻ったのだから。
姫神の最後のセリフにどぎまぎしつつ、自分のポケットを探ると―――
………………シーン………………
結標「」
姫神「…淡希?」
無表情で蒼白な姫神、微苦笑で脂汗をかく結標。
結標の微苦笑がひきつり笑いに、ひきつり笑いから泣き笑いに変わって行く。
結標「あは…あはは…あははは…ごめん秋沙」
姫神「…帰ったらお仕置き。今日は淡希に服を着せない」
結標も財布を無くしたのである。あれだけ座標移動を繰り返せば、あれだけ脇目も振らずに駆け抜ければ、あれだけ一騎当千の大立ち回りをすれば財布だってなくす。
しかし姫神の言葉にブチッとキレてしまった結標がテーブルを叩く。
結標「な、なによ!貴女だって無一文じゃない!私一人悪いみたいに言わないでくれる!?」
姫神「貴女だって素寒貧。このままじゃ。送られるアンチスキルの護送車が。避難所でなく留置場に」
結標「そういうのが逆ギレだって言うのよ!私だって法律違反はたくさんして来たけど無銭飲食だけはした事ないわよ!そうよ秋沙!貴女ここでウエイトレスしなさい!それで勘弁してもらうのよ!」シャー!
姫神「テンパらないで淡希。目が濁ってる。それに。ここの制服は。私のクラスメートの。メイドマニアが喜びそうなデザインだから。いや」フー!
結標「私だって仕事仲間のメイドマニアが喜びそうなこんなエグいメイド服着れないわよ!絶対に着ないからね!土御門の馬鹿じゃあるまいし!」
姫神「えっ」
結標「えっ」
姫神「なにそれ。こわい」
くしゅんっ、とどこかのグラサン金髪男のくしゃみが聞こえたのは幻聴だったのか。
片や仕事仲間、片やクラスメートとという見えざる接点ではあるが。
結標「…どうしようかしらね本当に…」
姫神「…貴女の座標移動で。逃げ(ry」
結標「それはダメ!!人として!!!」
姫神「――私達って。救われない――」
結標「それ言いたいだけでしょ!?」
そこで途方に暮れる二人。携帯端末で誰かを呼ぼうにも遠過ぎる上に混乱の坩堝でそれどころではない。
頭を抱える美少女二人。まさか食い逃げ犯で小萌に泣かれるのは流石に嫌だ。すると――
打ち止め「わーい地中海風!ってミサカはミサカは店内の雰囲気を誉めてみたり!」
一方通行「走り回るんじゃねェクソガキ!あっ、どうもすいませン。今静かにさせますンで」
浜面「…子連れの若いパパさんかよ」
上条「沈利とインデックスみたいだなー…席どうする?窓際にするか?」
フィアンマ「俺様は食えれば席など関係ない。強いて上げるなら、神の(ry」
全員「「「「言わせねえよ!?」」」」
結標・姫神「「!!!」」
その懐かしい声音に、二人の耳はうさぎのように跳ね上がった。
結標「一方通行!!」ガタッ
姫神「上条くん!!」ガタッ
席を蹴る二人、飛び出す二人、迫る二人
一方通行「テメエは!?」
上条「姫神?!何でここに!!」
この時、二人の心はまさに一つだった。
結標・姫神「「お金貸して!!!」」
上条・一方「「はァ!!?」」
この世界に、ヒーロー(金主)はいると。
~第二十三学区・レストラン『スカイスクレイパー』~
結標「…って言う事があったのよ」
一方通行「カカカ!じゃああの愉快で素敵なオブジェこさえたのはテメエかァ?。あンな真似オレだってやらねェよ」
上条「 」
浜面「オイオイ、ブイヤベース垂れてるぞ。あっ、店員さんすいません!追加いいっすか!」
姫神「モグモグ」
打ち止め「あー!ジェニィー!ってミサカはミサカは目の前でさらわれた最後のメルバトーストの名前を叫んでみたり!」
フィアンマ「つまり、あのジェット機を突っ込ませたのは…女、お前か」
結標「…そう言う事になるわね。大きい声じゃ言えないけど」
上条当麻はブイヤベースをすくうスプーンを持ったまま言葉を失っていた。
グノーシズム(異端宗派)による学園都市襲来のあらましから顛末まで知っているつもりではあった。だがしかし
上条「(…本当に皆無事で良かった…違った意味で)」
その中に無人飛行船をジャックして敵陣目掛けて吶喊攻撃を躊躇いなく敢行し…
怪獣と見紛うような巨神兵に超音速旅客機をぶつけるような無茶など…
さんざん無茶苦茶な戦い方をして来た自分でさえ素面では真似出来ない滅茶苦茶な闘い方だ。しかし
上条「あー…結標さん?」
結標「なにかしら?ええっと…」
姫神「上条くん」
結標「ああ!そうそう上条くん。なにかしら?」
一方通行「三下ァ。ンなヤツにかしこまる事ァねェぞ?目のやり場には困るだろうがなァ。カカカ!」
結標「混ぜっ返さないでくれないかしら一方通行?で…」
上条「…ありがとう!」
結標「!」
ちゃんぽん漫談を目の前で繰り広げる結標らの前で、スプーンを置いて上条は頭を下げた。
いきなりの行動に結標もやや目を見開く。そこで
上条「オレの友達を守ってくれて…本当に…本当にありがとう…!ありがとう!」
結標「あっ、いやっ、別にそんなつもりじゃ…私もただ必死だった、それだけだから。ねえ秋沙?」
姫神「私からも。ありがとう。淡希」
しどろもどろになる結標に真横で姫神が、真向かいで上条が頭を下げた。
二人の背景を知らぬ上条は純粋に姫神の友人として感謝した。
ちなみに席順は向かって右側が打ち止め・結標・姫神であり、左側が一方通行、上条、フィアンマ、浜面である。
結標「(これが…小萌と秋沙の言ってた上条当麻…昔の一方通行を倒したかも知れないって少し噂になった…無能力者)」
いずれも伝え聞きであり、目の当たりにするのは初めてだが、一見どこにでも居そうな男子高校生だ。
しかし、一方通行と、他にも得体に知れない男二人の輪の中で平然と溶け込んでいる時点で普通でない事くらいは、わかる。
浜面「げっ…滝壺からまたメールだ…“自分達だけでおいしいもの食べてないで早く帰ってきて”って…どこから見えてんだよ!?ああまた電池がぁぁぁ!」
一方通行「あァ?テメエの女、AIMストーカーなンだろォ?バレバレだなァ。つうか売店で電池買ってくりゃいいじゃねェか」
フィアンマ「つまり貴様は姦淫や不義密通を働けんと言う訳だな。俺様には関わりのない事だが」
浜面「普通に浮気って言えよ!滝壺泣かしたら絹旗にフレンダに麦野に八つ裂きにされちまう!それにしねえよ!俺には滝壺だけだ!…でもなんでわかるんだオレ無能力者なのに」
打ち止め「愛の力だよ!カカア天下で尻に敷かれてるんだね!ってミサカはミサカはネットワークであなたの監視を考えてみたり!」
一方通行「止めろクソガキィ!おい三下ァ!結局どうすンだァ?」
上条「そろそろ出ないとなぁ…でも避難所までどうやって行くかなあ…」
姫神「!」
結標「?」
そこで姫神は閃いた。頭に電球でも浮かび上がったように。
姫神「一緒に。来れば良い」
全員「「「「「!」」」」」
~第二十二学区・ハイウェイ~
結標「もうちょっと詰めてもらえないかしら?痛っ!足踏まないでよ一方通行!」
一方通行「テメエこそ隅に寄れェ!クソガキィ!膝の上に乗るんじゃねェ!」
打ち止め「だってキツキツなんだもーん!ってミサカはミサカはあなたのお膝が指定席!」
姫神「狭い。窓を開けて。息苦しい」
浜面「警備員!これ明らかに定員オーバーだろ!!それでいいのかアンチスキル!!」
フィアンマ「囀るな愚昧の輩共め。俺様の眠りを妨げるな」
上条「お前助手席じゃねーか!返事しろよフィアンマ!寝たふりするなっつの!」
警備員「(コイツら五月蝿い…)」
七日目…12:35分。一向は五人乗りのおんぼろセダンに揺られていた。
警備員達による厳戒態勢の中での護送で、車両も人員も足りずに差し向けられたのは警備員の自家用車。
こんな事で良いのかアンチスキル!というのが浜面仕上の主張である。
後部座席は鮨詰めないし缶詰め状態であり、食べて眠くなったのかフィアンマはうつらうつらと船を漕いでいる。
浜面「たはー…でもゴテゴテした装甲車よか良いか。あれには嫌な思い出しかねえ。黄泉川に追っ掛けられたりな」
一方通行「アイツのこった。笑いながらカーチェイスしてきたンだろうが。ハリウッドばりのアクションでよォ」
姫神「黄泉川先生は。私を何度も守ってくれた。とても。優しい人」
一方通行「優しい…なァ」
打ち止め「優しいよ!ってミサカはミサカは久しぶりに炊飯器料理が食べてみたくなったり!」
上条「黄泉川先生か…まだ学校残ってるといいな…小萌先生やみんなはどうしてた?インデックス達の事はわかるんだけどさ」
結標「元気よ。少し痩せたけれど。それから、貴女の彼女もね(まずい…食べたら眠くなってきたわ…)」
上条「…そっか」
そこで上条がやや恥ずかしそうに微笑んだ。これがあの女が選んだ男か、と思うと少々不思議な気持ちになる。
喧々囂々の車内にあって、結標はチラと姫神を見やる。そして姫神もまた――
姫神「淡希」
結標「ん?」
姫神「眠くない?肩なら。貸す」
結標「そう…じゃあお願いするわ。近くなったら起こしてちょうだい」
コテンと、結標は姫神の肩に頭を預けた。髪型は未だ白井黒子から借り受けたリボンである。
姫神「(少し。妬ける)」
後で髪紐を返そうと思う。ほんの少しだけヤキモチを妬いてしまうから。
一方通行「………………」
一方通行がこちらをキョトンとした眼差しで見つめている。
一方通行「(どうなってンだぁ?あの女人前で寝るようなキャラじゃねェだろ…)」
何か言いたそうにして、何と言葉にして良いかわからない。そんな表情に、姫神は――
姫神「シー…」
人差し指を唇に当て、悪戯っぽく笑った。
~第七学区・とある高校避難所~
禁書「とうま達が帰ってくるんだよ!!」
麦野「!!!」
御坂「!!!」
一夜明け…学園都市中のアンチスキルからジャッジメントからボランティアから続々と集結しつつ避難所にて…
インデックスは覚えたてのメールを麦野沈利と御坂美琴に携帯電話の画面ごと見せた。
禁書「今車でこっちに向かってるんだよ!あと一時間くらいで着くって!」
壊滅状態の第七学区では既に携帯電話による電波受信すら困難な有り様で…
麦野「あ…ああ…あああ…」
もちろん上条も三人にメールを送ったのだが真っ先に繋がったのはインデックスだったのである。
御坂「しっかりして第四位!ほらちゃんと見なさいよ!アイツからのメールよ!!ああもう!もっとマメに連絡しなさいよね!あの馬鹿!!」
そのインデックスもまたこぼれんばかりの笑い泣きで、御坂美琴もまた溢れんばかりの泣き笑いで、麦野沈利にいたっては…
麦野「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
御坂「ちょっ、ちょっ、第四位!まっ、待ちなさいよ!泣くの早いって!!」
麦野「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉうまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
禁書「し、しずり!落ち着くんだよ!うわっぷ!はなみずがつくんだよ!短髪!どうにかして欲しいかも!!」
御坂「わ、私に言わないでよ!わっ!ブラウスが!私のブラウスがー!!」
麦野「かぁぁぁんけいねえぇぇぇんだよぉぉぉ…かぁぁぁん…うわぁぁぁぁぁぁ…」
御坂・禁書「ダメだこりゃ(かも)」
最狂の女王様、麦野沈利をここまでボロ泣きさせられるのはアンタくらいのもんよ、と御坂美琴は独り言ちる。
同時に御坂も空を仰ぐ。恋敵で、友人とは呼べないものの知らない仲とは言えない麦野の頭を撫でながら――ふと瓦礫の彼方を見やると
滝壺「はまづら…帰ってくる」
絹旗「超朗報です!超速報です!フレンダー!超起きて下さい!やっぱりですよ!帰って来ますよ!超浜面!」
フレンダ「ふあ~…結局、徹夜明けはテンション低い訳よ…はあ。でも、おめでとう」
滝壺「ありがとう。ふれんだ」
絹旗「麦野ー!超チーンです!超チーンですよ!」
一晩中戦い続け、テントより惰眠を貪っていたフレンダが顔を覗かせる。
滝壺はその頭を撫でながらうなずく。絹旗もホッと胸を撫で下ろしながらビービー泣き続ける麦野にハンカチを手渡しに駆け寄る側を――
垣根「あのクソ野郎がもう帰ってくるだあ?言っとけ。“オメーの席ねーから!”ってよ。ハハハハハハ!」
心理定規「私は心理掌握から聞いただけよ。貴方とレベル5しか連絡先知らないのに伝えられるはずないでしょう?なんだかんだ言ってメモリーは消さないのね」
垣根「…飾利と付き合い始めて女共の番号消したら、お前ら(スクール)とアイツら(レベル5)の番号しか残らなかったんだよ…」シュン…
心理定規「(…戦ってる時と悪だくみしてる時以外は本当にダメな男ね)」
しかし、その割に瞳が底意地悪い輝きに満ちている、と心理定規は思っている。
まるで、楽勝過ぎる相手ばかりに飽いて、自分の『敵』になりうる打ち手を待つ王様のようだとも。だが。
初春「よいしょ…よいしょ…」
そこに通りがかる…避難所から自分の荷物を両手に抱えた初春飾利と
佐天「うう、荷物多いし重いなあ…うんとこしょ…」
同じく背中に背負った佐天涙子が二人並んで通りすがると
垣根「飾利ぃぃぃ!そんな重いもん持つな!腕が太くなっちまうだろうが!」バッ
初春「垣根さん!?だ、大丈夫ですよぅ!これくらい持てます!」
垣根「ダメだ!女にはハンドバック以外持たせねえのがオレの美学だ!そんなもん持って転んじまったらどうするんだ!お前だけの身体じゃねえんだぞ!?」ガバッ
初春「なななな何言ってるんですか垣根さん!私達まだほっぺにチューしか…はわわわ…」
佐天「うわー初春愛されてるねー(過保護過ぎるでしょ…どれだけお姫様扱いなのよー?)」
困り顔ながらも頬を染める初春と、背景に薔薇でも咲きそうな笑顔の垣根。
それを見てどっ白けで肩が下がり棒読みの佐天。
垣根「いけねえ!大事な事忘れてた…飾利、お前確か――に詳しかったよな?」
初春「?は、はい!少しは」
垣根「…ちっとばかしお前のアドバイスが欲しいんだ…実は」ゴニョゴニョ
初春「!で、出来るんですかそんな事!?そんなの不可能ですよぅ!」
垣根「――忘れたか飾利?オレの“未元物質”に常識は通用しねえ。お前の男の辞書に不可能の文字はありえねえんだ」
もう初春が16歳になったら結婚してしまえ、嫁に出してしまえとさえ思う。
花束の代わりに塩を撒いてやりたい気分だ、と佐天が溜め息をつく傍ら――
寮監「ふう…よし、全員揃ったな?直ちに場所を校舎から“アルカディア”へ移すぞ!校舎はもう立ち入り禁止だ!」
常盤台中学の女生徒達を引率する者
災誤「点呼始めー!!」
野太い声音を腹の底から出す教師
小萌「みんなー!上条ちゃんと姫神ちゃんが帰って来るのですよー!!って…きゃあっ!?」
生徒達「わーしょっい!わーしょっい!あのバカが帰ってくるぞー!」
生徒達の輪に飛び込み、胴上げされる担任
吹寄「姫神さん…!…上条!いったい今までどこをほっつき歩いて!」
安堵と膨れっ面を同時に浮かべるクラスメート
青髪「(…今回は読みが外れんで良かったわー…土御門はしばらく本業に忙しいんやろうなー)」
笑い目を遠くしながら彼方を仰ぐ悪友
黄泉川「痛いじゃん!巻き方ぶきっちょ過ぎじゃん!」
半死半生で生還して来た者
芳川「巻き方が甘いと血が止まらないわよ。私は自分に甘いけど」
不器用な手つきで包帯を継子結びする者
手塩「いい加減、ホチキスの、周りが、かぶれて来たんだが」
九死に一生を得た警備員
木山「待ってくれ。しかしこれを外したら傷が開いてしまうぞ…先生」
早く子供達に顔を出してやりたいと願う元科学者で現教師で養母まで勤める者。
冥土帰し「やれやれ。君達は本当に医者泣かせだね?」
ただ一人の死傷者も出しはしなかった名医
絶対等速「いやっほーい!お天道さんがまぶしー!!」
自分の居場所を見つけた刑務所帰りもいる
――彼等は、生きているのだ――
~第七学区・全学連復興支援委員会本部~
ボランティアA「削板さん!サイン下さい!押忍!!」
ボランティアB「軍覇さん!ハンコお願いします!オス!」
ボランティアC「リーダー!この決済頼んます!ウス!」
ボランティアD「委員長!この書類見て下さい!ごっつぁんです!」
削板「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!今朝のマネキン共(白銀近衛騎士団)よりも終わりが見えん!だが根性ぉぉぉぉぉぉ!」
雲川「…そこの数字、違ってるんだけど」
削板「ぬああああああ!?修正テープをくれ!うわぁぁぁ崩れる!この根性無しめ!男がそんなに簡単に諦めるな!」
雲川「書類に性別があるなんて初耳なんだけど」
一方…学園都市側からの調査委員会との折衝を終えた雲川芹亜は優雅に午後の紅茶を楽しみながら…
ミカン箱の机の中で山と詰まれ崩れた書類と格闘する削板軍覇の背中に足を行儀悪く投げ出していた。
芹川「…忙しくなるのはこれからだぞ、馬鹿大将。お前が本当にわかってるかどうか疑問なんだけど」
雲川芹亜は憮然としていた。学園都市側としては昨夜から今朝にかけた一件をなんとしても取り繕いたいらしい。
第三次世界大戦から先の最終戦争、加えて二週間経たずに起きた今回の事件により…
紛争地帯認定を受けて日本国政府からの介入を受ける事は断じて許さないらしい。と
削板「学生達に箝口令を敷こうが、上層部が治外法権を声高に叫ぼうが、統括理事長が残した何万の隠蔽工作のマニュアルを総動員させようが、もう根性でどうにか出来るレベルでない事くらいはオレにもわかるぞ!政治の話だからな!この街に溜まった闇と膿はもう自家中毒の域だ!そう言いたいんだろう?」
雲川「お前やっぱり頭悪くないでしょう?」
ゲシッゲシッと削板の背中を蹴る雲川。しかし山を蹴っているように動かない削板。
雲川は思う。たまにはこっちを向けと。何故自分ばかりいつもいつも前に立ちはだかって話をしなければならないのかと。しかし――
削板「だが――オレは信じてるぞ」
雲川「…何を言いたいのかわからないんだけど」
削板「――この学園都市(まち)で生きようとしている奴らの…根性をだ」
雲川「――――――」
その時、一瞬雲川の蹴り足が止まる。それは削板の言葉以上に…振り返ったからだ。削板が。
削板「あの戦闘で、正直オレも誰も死なずに済むだなんて思っちゃいなかった。だが――アイツら(学生達)は誰一人諦めなかった。すげー根性だ。頭が下がった」
雲川「………………」
削板「だからオレは信じる。生きる事を諦めなかったアイツらの根性を。神様の奇跡なんかじゃない、一人一人が築き上げたこの学園都市(せかい)にはまだまだ救いがあるってな!」
雲川「(…この男は、本当に――)」
救いようのない馬鹿だと雲川は思う。削板は全てわかった上で、消去法でもなく夢想論でもなく…
現実を見据えた上でそう言っているのだ。この街の表も裏も知りながら、だ。
雲川「…本当、お前の馬鹿さ加減につける薬が見当たらないんだけど」
削板「馬鹿は死ななきゃ治らんからな!だがオレは死なん!根性で生きる!」
雲川ほどの明晰な頭脳を持ちながら、その秤で計れない『器』を持つ男、削板軍覇。
確かに馬鹿だと思う。こんな腐り切って荒れ果て壊れてしまった世界を相手に、学園都市中の学生を巻き込んで復興支援で立ち上がろうだなんて本気で信じているのだから。しかし――
雲川「…まあ、そういう馬鹿は嫌いじゃないんだけど」
削板「そうか!」
惚れ惚れするほどの突き抜けた馬鹿さ加減が、いっそ愛おしい。
まるで風車に挑むドンキホーテのようで、馬鹿と笑う事は出来ても誰にも真似出来ない馬鹿をやるなら――
雲川「(私も、馬鹿の一人って事になるんだけど)」
ならばなってやろう。サンチョパンサでも、ロシナンテにでも。
この馬鹿がどんな騒動をこの街で引き起こすのか、見届けてやろう。その背中を――
削板「ところで」
雲川「?」
削板「さっきから白のパンツが眩しくてかなわん!」
雲川「!!!??」バッ
削板「根性で目を逸らしていたが、いい加減言わんとお前が恥をかくと思ってな!まあオレは別に気にしな――ん?なんだ?そんなに足を上げて?また見え――」
雲川「馬鹿!!!!!!」ガッ!
削板「んが!!!ぐおおお根性の入った一撃だ…!南無三っ」ダッ!
…と思った矢先に、いきなり下着の事を指摘されて雲川は踵落としを思いっきり食らわせる。
それにたまらず削板がミカン箱の書類の山と雲川から逃げ出し、それを雲川が追い掛ける。
雲川「三点バーストマグナムを寄越せ服部!あの馬鹿大将を初の死亡者にしてやりたいんだけど!!」ビュンッビュンッ!
服部「やっ、やめろって!おいよせ!削板!お前なにしたんだよ!?」
黒妻「おいおい!夫婦喧嘩は犬も食わないって…痛ぁ!?」ブスッブスッ
削板「うん?!雲川のパンツが(ry」
雲川「言うな馬鹿!もう我慢の限界なんだけど!!!」ポイッポイッ!
服部「痛っ!痛っ!なんでオレまで!」グサッグサッ
背後からボールペンや万年筆を投げつける雲川、ヒョイヒョイとジグザグでかわす削板、それに巻き込まれ共に逃げ出す服部と黒妻。
雲川「待て!待て!止まらないと足らない頭をブチ抜くぞ馬鹿大将!!!」
服部「やべえ!やべえ!完全にキレてるぞ!なんとかしろよナンバーセブン!!」
削板「女心と天気ばかりは根性ではどうにもならん!逃げるぞ!!」
黒妻「いつもの根性はどこ行っちまったんだよォォォ!!ウギャー!!!!」
雲川芹亜が怒っているのは下着を見られたからではない。
下着を見られたのに、削板がいたってノーリアクションだったからだ。
つまり、自分は女としてすら見られていないのかと逆上したのだ。
雲川「馬鹿馬鹿馬鹿!!お前なんて知るか馬鹿ー!!!」
鈍さまで原石級の削板軍覇、明晰な頭脳を持ちながら乙女心は年相応な雲川芹亜。
二人の追い掛けっこはまだまだ続く。この先も――
~とある高校・屋上~
白井「何をしていますの…あの方々は」
御坂妹「キャッキャッウフフです、とミサカはハートフルコメディな学生生活の一幕をゴーグル越しに観察します」
一方…そんな二人の様子を呆れ半分で見下ろしていた白井黒子はリボンのほどかれた髪を風に揺らしていた。
屋上の手すりの外に座りながら、御坂妹は給水塔に腰掛けながら。
御坂妹「上位個体より連絡が…全員がこちらに向かっているようです、とミサカは踏みつけにされた男達を憐れみます」
白井「そうですの…」
避難所生活を営む内に知り合った御坂妹の言葉に耳を傾けながら、白井は憂いを帯びた表情のままそよぐ風に下ろした髪を任せる。
ひとつきりのリボン、その片割れを貸し与えた張本人――結標淡希が帰還すると聞いてからずっとこの調子である。
白井「(結標淡希(あなた)が、帰って来ますの)」
彼女は帰ってくる。最愛の恋人を奪い還して。以前より高い位置に上り詰めて。
当然、御坂美琴への想いは一ミリたりとも揺らいでなどいないが、白井は忘れられない。
昨夜、最初で最後となる共闘(ダンス)を結標淡希と繰り広げてから、ずっと。
白井「(貴女は、確かに変わりましたの。強く、大きく、見違えるほどに)」
フッと鼻から抜けるように微笑む。常より大人びた表情で。
あの流血と銃弾飛び交う戦場で、あれほど心強く感じたパートナーは…
御坂美琴を除いて恐らく結標淡希が最初で最後だろうと。そして――
白井「――認めて差し上げますの。結標淡希さん――貴女は――…」
自分達にif(もし)はない。結標は帰還し、白井にリボンを返し、話はそこでおしまいだ。
それ以上でもそれ以下でもない。ただ一夜、光(白井黒子)と影(結標淡希)が交わった…ただそれだけの話だと。
白井「――貴女は――…」
御坂妹「………………」
そこで御坂妹は再び追い掛けっこを始めた削板軍覇と雲川芹亜へ視線を向ける。
入道雲広がる青空向けて…白井黒子がつぶやいた言葉の続きは、風の悪戯と思う事にした。
御坂妹「(乙女心は複雑なのです、とミサカは再び始まったボーイミーツガールに思いを馳せます)」
それが、『人間』というものだと、御坂妹は知っているから―――
最終更新:2011年03月27日 22:19