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初めから、わかってた事だった。



 それは避けては通れないことだということを。



 分かってた、はずだった・・・









夜。
椅子の上に膝を抱えるように座って、ナルトは湯を入れたインスタントラーメンをただぼんやりと眺めていた。





目の前のラーメンが食べごろになるのは午後八時。
昔はこの3分間がじれったくて仕方がなかった。
でも、今はこの時間が永遠に続けばいいのに、と思っている自分がいた。
カチリと家の時計の針が八時を指した。
それをナルトが耳にした瞬間。



コンコン、コンコン、コンコン。



規則正しく、自宅のドアが叩かれた。
ナルトは少しだけ目を開いた後、膝を抱えていた腕をほどいてドアに向かった。
「・・・よう」
ドアの向こうにいたのは闇に溶けるような漆黒の髪と瞳を纏った同期の上忍。
その昔、自分が必死に追い求めた人。
「今日も時間ぴったりだな、サスケ」
ナルトは来訪者に少しだけ微笑むとドアを開いて中に招き入れた。



「オレってば今から夕飯なんだけどお前食う?」
ナルトは台所でコップにお茶を注ぎながら訊いた。
「食うってソレをか?」
テーブルにちょこんと置かれているインスタントラーメンをちらりと見ながら当たり前のようにサスケはナルトが座っていた椅子の隣の椅子を引いた。
あ!それはオレのだってばよ!!とナルトは慌ててコップ片手に台所から出てきた。
そんなナルトの姿にサスケは呆れたように笑う。
その顔がなんとも苦手、というよりは弱いナルトはぎゅっと眉を顰めるとん!とお茶を差し出した。
サスケはそれを受け取るとまっすぐ口に持っていった。
「そんでメシは?」
「いい。それよりいい加減インスタントラーメン生活をやめろ。ナルト」
顎でラーメンを指され一喝されたナルトはべっと舌を出すとサスケの隣に座って目の前のラーメンを見ながら手を合わせた。



「今日の任務、綱手のばーちゃんが結構ハードって言ってたぞ?なのによくこんな早く終われたな!」
「お前にはハードかもしれねーがオレにかかればどうってことない」
「うげ!どんだけ自意識過剰なんだってばよ、サスケ」
「正常評価だ。万年ドベ」
「うっせー!もうドベでもウスラトンカチでもねーっての!!」
食事の間の他愛もない会話。
憎まれ口をお互い叩いていても、その顔に不快な色は一切現れてはいない。
むしろその逆だ。
サスケの瞳は瞳の色も虹彩も全てが真っ黒で区別がつかない。
そんな大きな目が自分だけを映していると思うのがとても恥ずかしくて、ナルトはあまりサスケを見ないようにしていた。
サスケはそんなナルトの心のうちをしっているのか否か、ナルトがラーメンを食べている間、一瞬もナルトから目を離さなかった。
まるでナルトの反応を楽しむかのように。



ラーメンを食べ終わり、ナルトはサスケをテーブルに残して台所で食器を洗っていた。
洗うといっても朝パンを置いたときに使った皿と、牛乳を注いだコップと、先ほど使った箸だけ。
でもそれをナルトは丹念に泡立てたスポンジでこすっていた。
スタスタと、後ろから小さな足音が聞こえてきた。
ナルトは気づいたが、気づいていない振りをして、食器洗いに集中する。
すると、ナルトを囲むように両脇から手が伸びてシンクを掴んだ。
「・・・いつまで洗ってんだよ」
耳元で囁かれナルトはぞくりとした感触が背筋を走ったが、それを微塵には表に出さず、食器を洗い続ける。
「ちゃんと洗ってないと汚ぇだろ?」
「そんだけの洗いもんで時間かけすぎだ」
サスケは催促するように蛇口をひねった。途端、勢いよく水が飛び出し、シンクに当たって水が飛び散る。
「・・・出しすぎだってばよ」
ふうとため息をつくと、ナルトは蛇口まわして水の量を調節し、泡だらけの食器たちを水にくぐらせる。
その間、サスケはナルトの後ろに立ったまま動かない。
まるで監視するかのようにじっとすすぐ様を眺めていた。
その視線を感じながらもナルトは丁寧にすすいだ。
すすぎ終わって水を止めても、サスケとナルトは暫くそのまま動かなかった。
「・・・動けないんだけど、サスケくん」
不満げにナルトがため息をついた後、ナルトはサスケを見ないまま文句をもらす。
「どかしたいなら力づくにでもどかせばいい・・・お前にできるならな」
フンと鼻をならしたサスケにナルトは思わず顔だけ振り返った。
視線の先にあったのは、真っ直ぐ自分に向けられた視線と勝ち誇ったように口角があがった口元。
しまった、とナルトは思ったがもう遅い。
条件反射のように自分の心臓の音がドクンと跳ね、顔中に熱が集まるのを感じた。
悔しそうに顔を歪めるナルトを嬉しそうに眺めながら、サスケはゆっくりと顔を近づけた。
すっかりサスケに負けてしまったナルトは薄く目を閉じながら、耳元でうるさく鳴り響く己の鼓動を数えながら、唇が重なるのを待った。







ふと、空気の動くのを感じて、真っ暗な寝室でナルトは目を開いた。
まだ外は暗い。ナルトはごろりと寝返りを打った。
すると隣で一緒に寝ていたはずの人間は、ベッドを降りてもうすっかり身支度を整えていた。
「起こしたか」
「別に、いいってばよ」
ナルトに背中を向けたままサスケはベストのジッパーをあげる。
その後姿をじっとナルトは見つめていた。
「服着るのめんどくせぇから、お見送りはしねーかんな」
「それはかまわないが、ちゃんと鍵はしめろよ」
サスケはくるりと振り向き、布団にくるまったままのナルトに近づくとついばむようなキスをした。




じゃあな、と至近距離で微笑まれ、ナルトもまたな、と微笑み返す。
そしてサスケは部屋を出て行った。
一人になったナルトはサスケが寝ていた場所に移動する。
そこにはもう、サスケが寝ていたぬくもりはなかった。
それでもナルトはそこに顔をうずめて布団をかぶる。



分かってるだろ、分かってるはずだろ―――



ぐりぐりと頭をベッドにこすりつけながら、ナルトは呪文のようにその言葉を頭の中で繰り返す。





分かってるはずだろ。



アイツにはちゃんといるんだ。



あるんだ。



帰る場所が。



帰るべき場所が。





―――彼の『妻』と『子供』の待つ家が―――
最終更新:2009年02月11日 01:53