「「ナルト」」
見事に重なった二つの低音の声に呼ばれて名前の主は足を止めた。
「・・・なんだってばよ」
振り返った名前の主は少々不機嫌そうに顔をゆがめている。
彼を呼び止めたのは学年一、いや、いまや学校一といっても過言ではない女子の人気を誇る二人。
無表情なのはうちはサスケ、うっすらと微笑む顔はサイ。
二人ともうずまきナルトのクラスメートだ。
「んだよ!二人そろって!オレってば今から家に帰ってこれ食うのに忙しいんだってばよ!」
ナルトはかばんからきれいにラッピングされた箱を取り出して二人に見せつける。
中身はもちろんチョコレート。今日は2月14日、バレンタインデーなのだ。
「いのにヒナタにテンテンさんもくれたし、キバやシカマルとは交換したし、今年は紅先生もくれたもんな-!大漁だってばよ♪」
ナルトは嬉しそうにかばんに溢れるカラフルな包み紙で覆われたチョコレートを見つめる。
この幸せを誰にも壊されたくないのに。
「チョコ食うのが何が忙しいんだよ、ウスラトンカチ」
「それって義理ばっかりでしょ?そんなのもらって嬉しいんですか?」
『人の心を気遣う』という概念をどこかに落としてきた目の前の野郎共はあっさりと壊してくれる。
ナルトのこめかみにはぴしりと青筋が浮かんだ。
「てめぇらはオレを怒らせるためにオレを呼び止めたのか?」
自然と口角が引きつる。人間怒るときってなんで笑顔っぽくなるんだろう。
「んなわけねぇだろ」
サスケはナルトの内心など知らずにすっぱり切り捨てる。
「じゃあなんだってばよ!!」
ナルトは思わず声を荒げた。
「「オレ(ボク)にチョコやれよ(ください)」」
一部これまたきれいに重なった二人は同時にナルトに手を差し出す。
ナルトはその手をじっと見つめた後、ついにぷつんと何かが切れた。
「だああああ!!!なんでお前らなんかにチョコなんてやんなきゃいけねえんだよ!!嫌味か!!それは嫌味か!!オレはもててますって嫌味か!!お前ら最低だってばよ!!!」
びしっと二人を交互に指差し、ナルトはたまっていたいらつきを言葉とともに一気に吐き出す。
一方言われた二人はぎっとお互いをにらみつけている。
オレは無視かコラ!!とナルトの怒りボルテージがさらに上昇。
「大体てめぇらチョコなんて腐るほど」
「もらってねーよ」
「へ?」
予想外の言葉にナルトは気をそがれてしまった。
サイを見ればボクも、と顔を縦に振る。
「んなわけ・・・」
反論しようとしたがナルトはふとそれをとどめた。
そしてその日の昼のことを思い出したのだった。
それは偶然聞いた女子の二人の会話。
二人ともチョコと思われる包みを持っていた。
「ねぇ、それサスケくんあて?」
「んー、実は迷ってるんだ」
「え?なんで!?あんたサスケくんサスケくん言ってるじゃん」
「いや、確かにサスケくんのこと好きだよ?でも、彼氏にしたいとなるとちょっと違うかなって・・・遠くから見てるのが一番なのかなって。それにサスケくんはライバル多いからこんなの埋もれちゃいそうだし、それに大体サスケくん甘いもの嫌いだし・・・」
「まぁね。それは分かるかも。サイくんもそっち系だよね。彼氏とはちょっと違うというか」
「だよねー」
「ねー」
そのときはそんなもんかと気にもとめてなかったが。
今その言葉がとても真実味を帯びてきた。
そうか、とナルトは理解した。
かっこいい男というには逆にそういうデメリットもあるのかと。
周りが周りを敬遠し、その結果、本人たちに送られることがない、という状況が生まれてしまうのか。
そして二人はコミニュケーション能力が乏しく、あまり友達と呼べる人間がいない。
だから自分に白羽の矢がたったのかと。
ナルトはそれが分かったとたん、前にいる二人の男が少しかわいそうになり、そして頼られたことが少し嬉しくなったりもしてしまった。
その素直さがナルトのいいとこであり、かわいそうなところでもある。
ナルトはふう、とため息をついた。
「分かった。ちょっと待ってろ」
二人にそう吐き捨てるとナルトはくるりと振り返って走っていった。
数分後、ナルトは息を軽くきらせながら戻ってきた。その間二人は言葉通り待っていた。
「ほら、手」
ナルトが催促し、二人が手を出す。
すると小さな四角いものが落とされた。
「これは・・・」
「10円チョコ?」
二人は手のひらに乗った小さなチョコをじっと見つめる。
「なんだよ文句あっか!?お前らがほしいって言うから買ってきてやったんだろ!ありがたくもらいやがれ!」
ナルトは腕を組んでふんぞり返る。
二人がチョコをもらえてないと思っているナルトは少し優越感さえ抱いていた。
「けっ、待たせといてこれかよ、ドベ」
サスケは悪態をつきながらポケットにそれを突っ込む。
なんだよ!買ってやったのに!!と吼えるナルトを完全無視。
「まぁケチくさいけど、ありがとう」
サイもこれまたさらりと悪態をつきつつ、その場で包み紙を開けてそれを口に放り込む。
相変わらずの二人にわざわざ買ってやった自分の行動をナルトは後悔していた。
「じゃあお返ししなくちゃね」
サイの言葉にナルトはえ?とサイを見つめた。
「何々!?ホワイトデーにでも何かくれ・・・?」
期待した瞳でサイを見ていたナルトの頬を両手で包まれた。
と同時に顔がどんどん近づいてくる。
「!!!!!」
「!!!!!」
ナルトと隣で見ていたサスケがぎょっと同じリアクションをする。
あっという間にナルトの唇とサイのそれがくっついていた。
「-------!!!???」
声にならない声とともにサイをはがそうとナルトは抵抗するが、無駄に終わる。
サスケはただただその姿を目を見開いて見つめるだけ。
「・・・ぷはぁ!!」
やっと両手の拘束が解かれ、ナルトは勢いよく後ろに下がる。
豪快に口を袖で拭くナルトはもう涙目だ。
「・・・美味しかった?君の選んだチョコ」
サイは輝くような笑顔でナルトに問いかける。
「・・・知るかああああああ!!!!」
ナルトは目を潤ませたまま、叫ぶとそのままダッシュで帰ってしまった。
クスクスとサイはその後姿を見守る。
「・・・・・おい」
そこでようやくサスケが起動し、がっちりとサイの肩を掴んだ。
「てめぇ人の前でなにやってんだあぁ・・・?」
どす黒いオーラが彼の周りを包んでいるような異様な雰囲気が流れる。
「君だってしたかったなら素直にすればいいでしょう。ツンデレなんてもう古いですよ」
そんなオーラを知ってかしらずか、サイはいつもの笑顔を浮かべている。
「上等だコラ!!てめぇぶっ殺す!!!!」
「君にできるんですか?」
そこから二人の激しいバトルが始まったとか、しないとか。
一方、ナルトは涙で視界が悪い中ひたすらに走っていた。
(くっそ!!サスケもサイも大っ嫌いだってばよ!!)
頭はそれでいっぱい。だから後ろで名を呼ばれていることなんかにはまったく気づいてなかった。
「ナルトおおおおおおおおお!!!???」
目いっぱい叫ばれ、ようやくナルトはその声に気づいた。
「へ?」
ナルトが振り向いたとたん、何かが顔にクリーンヒットした。
その勢いに負け、ナルトはそのまま後ろに倒れた。
「いってーー!!なんだって・・・ば?」
顔にぶつかったものを摘み上げれば、それはひときわ大きいラッピングされた包み。
「あんたいい加減気づきなさいよ!何度叫んだと思ってんのよ!!」
その聞き覚えのある声にナルトが目を向ければ、息を切らし、肩を揺らせながら叫ぶ女の子の姿が。
「サクラちゃん!!」
その姿にナルトはぱっと顔を明るくする。
「え!?じゃあコレ・・・??」
ナルトがその包みに目をやると同時にサクラはまた叫ぶ。
「いっとくけどそれ義理だからね!大きいのは失敗作詰め込んだから!それだけだから!!」
サクラの言葉をよそにナルトの目はキラキラと輝き、顔がほころぶ。
「サクラちゃん!!ありがとうってばよ!!」
ナルトはそのチョコを上に掲げてまぶしいほどの笑顔を向けた。
「・・・全部食べなきゃ承知しないからね!しゃーんなろ!」
そのときのサクラの顔がじゃっかん紅く染まっているように見えたのは夕日に照らされていたからか。
ナルトは先ほどといっぺん、幸せいっぱいで家路に着いた。
男も女も心ときめく、そんなバレンタインデーのひとコマ。
最終更新:2009年02月16日 23:28