著:5スレ目163殿
修理の犬 その14の続き



天正六(一五七八)年正月――――。
長篠での大敗から三度目の新春を迎えた。

あれから昌信はろくに眠る事も無く、武田を支えるために命を削り続けた。
外交、内政、人事、さらに海津城の抑えと、やらねばならない事は山ほどあった。

それでも――――武田の斜陽は止められなかった。


(’ー’r) 「ゲフ! ゲフ!」

近頃は、咳が止まらなくなる事が多い。医者が言うには胸を病んでいるという。

(’ー’r) 「無理もありませんね……」

信玄がそうだったように、自分も血を吐きながら命を使い切るのだろう。その事には何のためらいも無い。
だが、死ぬ前にやり残した事があった。


(’ー’r) 「さて、約束を果たさねばなりませんね」

近い内に海津城へ発たねばならない。これが最後の甲府出仕になる事は、薄々勘付いていた。



海津城に出立する前日、昌信は内藤邸を訪れた。
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(’ー’r) 「ふふ……ここに来るのも久しぶりですね」 

あの頃はよく、ここに集まったものだ。
戦と政を語り、碁・将棋を指し、酒を飲む……。今は、当時を思い出す事だけが楽しい。



(’ー’r) 「御免下され」

内藤邸の門をくぐると、おツンが出迎えに来る。

ξ(゚、 ゚*ξ 「弾正様……良くいらっしゃいました」

(’ー’r) 「お久しぶりです」

ξ(゚、 ゚*ξ 「少し……いえ、かなり痩せられましたね」

(’ー’r) 「はは……おツン殿はお変わり無いですなぁ」


座に通されると、昌景の妻・上村氏と信春の娘・おのうが既に待っていた。

(’ー’r) 「いや、お待たせしました」

ゞゝ゚ -゚ノゝ リ・ω・川 「弾正様……」

皆が昌信の痩せ衰えた姿に驚く。
過去、美丈夫として知られた容姿は既に無い。鶴の様に痩せ細った老将がそこにいた。


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                                        ゞゝ゚ -゚ノゝ       /  y ヽ 
                                       ( /  y ヽ       (o旦o_/  
                                        (o旦o_/        (___) 
                                        (___)



(’ー’r) 「さて……と」

昌信は座り、懐から書状を取りだす。

(’ー’r) 「これは三年前、一匹の忠勇の士が私に届けてくれたものです」

ξ(゚、 ゚*ξ 「一匹……まさか」

(’ー’r) 「そう、修理殿の愛犬。 ゲン、と呼ばれていましたね」

おツンにはゲンの死は伝えたものの、書状については話していない。
昌信は忘れるはずも無い、三年前の伊那駒場について語りだした。

(’ー’r) 「……そして、これは三郎兵衛殿、修理殿、美濃殿の遺書なのです」

リ・ω・川 「何と……」

(’ー’r) 「今まで隠していた事、どうかお許しください」

昌信は書状を手渡し、三人に回覧させる。その間、深々と頭を下げていた。



信春の娘・おのうが最後に読み終えると、書状は昌信の元に戻る。

(’ー’r) 「皆様、読み終えましたね」

ゞゝ゚ -゚ノゝ 「はい」

(’ー’r) 「皆様に向けられたのは最後の一文。 “大底は他の肌骨の好きに還す、紅粉を塗らずして自ら風流”です」

リ・ω・川 「その大意をお教えくださいませ、弾正様」

(’ー’r) 「これは……」

緊張で喉が詰まる。
あれだけ覚悟したのに、伝えるのは並大抵の事では無かった。


(’ー’r) 「これは、もし甲斐武田が滅びても殉ぜずとも良い、という意味です」



四人は耳を疑った。重臣の長老ともいうべき、昌信の口から発せられた言葉とは思えなかった。
ましてや、自分の良く知る夫や父が遺したとは考えられない。


ξ(゚、 ゚*ξ 「どういう事ですか!?」

(’ー’r) 「私は三人に、武田の行く末を託されました。 しかし、力及ばず……ゴホッ」

(’ー’r) 「武田は衰退していくばかりです……」

時勢というものだった。昌信はそれに抗って命を削ってきたものの、覆す事は出来なかった。
昌豊と憂いた、信玄治世の限界が内を蝕んでいる。さらに、外は難敵ばかりだった。


(’ー’r) 「家康は常に武田領を狙っていますし、おそらく……信長の総攻撃もそう遠い事では無いでしょう」

(’ー’r) 「他にも上杉……言わば大敵に囲まれているのですよ、今の武田は」

(’ー’r) 「万一滅亡となった時……私は武田の遺臣とその一族を、出来るだけ多く救いたいのです」

ξ(゚、 ゚*ξ リ・ω・川 ゞゝ゚ -゚ノゝ 「……」

設楽ヶ原決戦を前にした三人にも劣らない悲壮な決意を、昌信はたった一人で抱えていた。


(’ー’r) 「その為に、ゲフッ! 私財を投じて……金策に駆け回り、ある程度の備えも出来ました」

激務の他に、慣れない資金繰りまで駆け回っていたのだ。当然、眠る暇など無かった。


本来、忠義に篤い昌信は、主家の滅亡が前提の策を練る事など無かったはずだ。
だが、昌信は武田の破滅が迫っている事が分かる。自分の命が尽きる事も肌で感じていた。

そうなった以上、自分の信念すら曲げなければならない。
滅亡の末、無数の遺臣を殉死、または野垂れ死にさせる事は防がねばならなかった。



(’ー’r) 「ふふ、ここだけの話ですよ……甲斐・信濃の各地に分けて、隠してあるのです」

(’ー’r) 「武田の埋蔵金……とでも言うのでしょうか。 ふふ……ゲフッゲフッ、ゴハッ!」

ξ(゚、 ゚*ξ 「弾正様!」

ついに昌信は血を吐いた。急いで駆け寄った三人は、誰もが泣いていた。



(’ー’r) 「これで……万一、御家滅亡となっても多くの家臣が救われるでしょう……」

昌信一世一代の策であった。
三人の朋友が伝えたかった遺言は、必ずしも自身の選んだ解釈に限らないだろう。

だが、今の昌信は三年ぶりに安らぎに満たされていた。
こんな心地は、あの朋友たちと語り合っていた時以来のものだった。


(’ー’r) (これでよろしいな……皆さま方……)

  ∧ ∧         ∧ ∧    ∧ ∧    /⌒ヽ
  ( *^ー)       (・ω・´)  彡`Д´ ミ  (^ω^ )  /⌒ヽ
  /  Y i       / Y  ヽ  /  y ヽ  / Y  ヽ (´ω`∪)
 L_|0=<O      L_|ニ|__/ 〈_」ニL__ヒi  L_|ニ|__/   |  ヽ ノ)
 ノ__))_)     (三(三_/ 〈⌒ゞノ⌒_〉 (三(三_/つ (_,,,_,,,)ノ
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
二∥二二∥二二∥二二∥二二∥二二∥二二∥二二∥二二∥二
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    蕊蕊      蕊蕊      蕊蕊      蕊蕊


武田滅亡の際、遺臣の動揺を抑えたのがこの遺産であった。
遺臣が再仕官または帰農するにあたって、それまでの食い扶持として使われた。

武田の遺臣は各地に散らばり、血脈を残した。
そして、その血脈が山県大弐や川路聖謨(内藤氏)らを輩出する。



(’ー’r) 「肩の荷が降りたようです……もう、これも必要ありませんね」

昌信は書状で血を拭うと、それを囲炉裏の中に放り込んだ。
瞬く間に燃えて灰となる。ここ三年の間、この灰の為に生きてきたようなものだ。

だが、これで一匹の犬が届けた朋友たちの想いは伝えきった。


昌信は微笑みを浮かべながら、いつまでも囲炉裏の中の灰を見つめていた。
                                                        おわり

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最終更新:2010年08月15日 15:20