127 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/20(日) 00:13:35

三、イリヤ、今履いてるパンツを貸してくれ。

 俺たちは一時リビングに待避する事にして、キッチンには罠を仕掛けておいた。完璧な罠を。人間サイズのネズミ取りを投影し、餌は脱ぎたてホカホカ香り立つパンツ。しかも「翡翠ちゃんのパンツ」の注釈入り。床板を開けてでてくる人物が俺の予想通りなら、これで間違いなく捕獲できるはずである。

「イリヤ、どうした? スカート押さえてモジモジして」
「ううっ……、いじわる……」

 なんでわざわざわたしのなのよ、なんてイリヤはブツクサいうけれど、まさか俺のを使う訳にもいかないじゃないか。そうなると女性陣の誰かから借りるしかない訳で。決してノーパンで恥ずかしがるイリヤを見たかったわけじゃない。うん、そうともさっ。

「しっ、来たわよ」
「もし犯人ならとっちめてやりますっ」

 改めて遠坂と桜が気合いを入れる。ギギーッと音をたてて開く床板。ひょっこり覗く大きなリボン。間違いない。あの人だ。

「あっ、やだっ! 埃だらけになっちゃったじゃない。って、ここ、どこかの家の台所よね。本当にこんなところにあの化けネコがいるの?」
「………………」

 あれ、別の人達じゃないか。小さな女の子が二人、何やら話し合っていた。あの子達が、……犯人?

「分からないって、相変わらず無責任ね。いい? わたしは頼まれたから仕方なく付いて来てあげたのよ。志貴に頼まれたのは貴女だけでしょう?」
「………………」
「それは……。でも、それだって志貴の自業自得だし」
「………………」

 黒い女の子と白い女の子。黒い服の子は凄く無口なのか声が小さいのか、白い服の子の声しか聞こえてこない。

「……嬉しくないっていったら、嘘になるけど」
「………………」
「ああもうっ、分かったわよ。志貴にも貴女にも感謝してるわよっ。文句いわずに手伝えばいいんでしょ、手伝えば! ってナニコレ?」
「………………?」

 呆然とトラップを眺める女の子二人。そりゃそうだろう。あんなものが家庭の台所に鎮座していたら、俺だってその家の正気を疑うだろう。

「あの子達……、使い魔ね」
「遠坂? そうなのか?」
「ええ、魔力の発し方で分かるわ。そして、そう。この感じなら、恐らくネコの使い魔ね」
「ネコ? 遠坂先輩、それならひょっとしてわたしのとき部屋に残ってた足跡は……!?」
「あの二人の可能性が強いですわね」

 ゴクリ、と喉を鳴らす女性陣。見る見る殺気が高まっていく。その怖さは昼間の件の比じゃなくて、正直、少しちびったかもしれない……。

「重要参考人ですわね。試しに捕まえてみましょう。生死不問で」
「イリヤさんは先輩を見張っていて下さい。先輩、わたし達はこれから狩りをしますけど、無理せず休んでいて下さいね」
「サクラ、任せといて。そのかわり後でわたしにも殴らせてよ」
「駄目よイリヤ。取り調べが終わってからにしなさい」

 ごめん、二人の女の子達。俺にはみんなを止める勇気がない……。



 どたばた騒ぎが始まってずいぶん経つけど、今だにどちらも捕まっていない。

「一匹そっちに逃げましたわ! ちっ!」
「危ないわねっ! ルヴィア! ガンド撃つときはもっと気を付けなさ―――、そこだっ!」
「きゃーっ。遠坂先輩わたしですわたしっー!」

 基本的に個人プレーが得意な面子なのか。連係が全くうまくいってないからだ。それに、女の子達は結構すばしっこい。俺としては頭に血が昇った遠坂達に残酷な事をしてほしくないので、都合がいいのかもしれないが。

「甘いわ、シロウ。今を逃がしたら二度と捕まえられないかもしれないでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ」

 俺のはっきりしない返事にため息をつくイリヤ。しかしだな。いくらなんでも正義の味方志望としては……。

「捕まえましたわっ。きゃっ! なっ!? ネコに変身!?」
「あっ、ルヴィアゼリッタさん、黒いのがいまリビングの方に!」
「このっー! 潔く捕まりなさいさっさとー!」

 ―――結局、二人の少女は無事に逃げられたみたいだった。



 寝付けない。あまりにも疲れすぎて今すぐにも眠りたいはずなのに、あまりにも疲れすぎて寝付く事ができない。熱い。のどが渇いて死にそうだ。熱い。ここはいつから砂漠になったのか。熱い。全身が性器になったよう。水を飲みにいこうと思っても、起き上がる事ができないほど熱い。誰か、誰か、俺を冷やしてくれないか―――?

 そのとき、誰のだろう、冷たい手のひらが額に触れた。
一、遠坂だった。
二、桜だった。
三、イリヤだった。
四、ルヴィアだった。
五、えっと……、バーサーカー?

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最終更新:2006年09月04日 17:12