356 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage エロ度調整中。これぐらいで丁度だろうか?] 投稿日: 2006/08/23(水) 23:50:22
四、ルヴィアだった。
白いサンダルで浜辺を歩き、白いサマードレスが風になびく。白いつば広の帽子を押さえる細い腕は、純白の手袋に包まれていた。よく見るとリボンまで真っ白いデザイン。その全てが夕焼けの色に染まり、白い肌まで上気しているように見えた。
静かに歩いてくる白いルヴィア。俺にサンダルを預け素足になると、波打ち際まで寄っていく。
「ふふっ、くすぐったい」
目を細め、波のいたずらに足の裏をまかせる、夕日に浮かぶ楽しげな少女。まるで映画のワンシーン。金色の髪がキラキラ輝いて、スボットライトの変わりになった。白いドレスはスクリーンか。逆光で体のラインがシルエットで浮かんで、思わずどきりとしてしまう。
「あのドレス。ごめんな」
「いいえ、構いませんわ」
本当に気にしてないのだろうか。お気に入りのはずの青いドレスを奪われた少女は、何でもない事のように首を振った。
「嬉しかったですから。シェロったらあんなに必死になって、私を助けよとして下さるんですもの。女なら嬉しくないはずがありませんわ。もし、またシェロが助けて下さるというのでしたら、私、ドレスなんて十着でも二十着でも惜しまなくてよ?」
ですがあんな無茶はこれっきりにして下さいね、なんて少しとがめる視線で釘を差されて、ついつい、おうと頷いてしまう。
「よろしい。ところでシェロ、これも預かって下さらない?」
もっと海と戯れたいのか。手袋を、ついでにと帽子も渡された。執事らしい動作で慇懃に受け取ってみせると、ルヴィアはクスリと微笑んで、ご苦労、といたずらっぽく頷いた。
「はしゃぎすぎて転ぶなよ?」
「もうっ、失礼ですわねっ」
細くたおやかな指で掬いあげられ、ルヴィアの周りに飛び散る水しぶき。オレンジに輝く海原のかけら。その幻想的な美しさも、彼女と比べると霞んでしまう。なんてのびのびとした、無邪気で楽しそうな笑顔だろう。本当に、この笑顔を救い出せて良かったと思った。
「そうですわっ、シェロ! 私、今日のお礼をまだ差し上げてませんでしたよね!」
いきなり、ルヴィアは何を言いだすんだろう。報酬なら今、たっぷりもらってる最中じゃないか。
「いらないさ。ルヴィアの笑顔だけで十分だ」
「わっ、私の!?」
予想外の返事だったのか。ルヴィアはあたふた慌てだして、にやけたり恥ずかしがったり取り繕ったり忙しそうだ。いつまで見てても飽きないけど、あいにくそろそろ夕食の準備を手伝わないと。
「おっ、お待ちなさい!」
「ルヴィア? ……あ、悪い悪い。靴を返してなかったな」
そうではないと否定しながら、ルヴィアは波打ち際からあがってくる。彼女の歩みはゆっくりでも、表情は確実に焦っていた。
「でしたら、シェロ、あなたにはもう一つご褒美を差し上げますわ」
「いや。別に俺は―――」
「差し上げますと申してますでしょうっ。……受け取って下さい。いえ、受け取りなさい。ミスタ・エミヤ、これは私からの命令でしてよ」
ルヴィアの顔が赤い。今にも泣きそうなほど赤い。ここで首を横に振ると本当に泣かせてしまいそうで、仕方なく頷く事にした。パサリと、サマードレスが砂に落ちる。
―――下着はつけていなかった。
357 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage ありがとうございました。完結です。] 投稿日: 2006/08/23(水) 23:53:48
エピローグ
露天風呂から眺める星空。漆黒の彼方に消える水平線。そんな広大すぎる世界にあっても、腕の中に感じる温もりのおかげで安心できた。
―――あれからしばらく。驚くほど平和な時間が流れている。
腕の中の遠坂が身じろぎした。柔らかい素肌が暖かい。控えめな胸の頂きがお湯の中で揺らめいて、膝の上にはお尻の感触。少し恥ずかしそうにしながらも、すり寄って甘えてくれるのが嬉しかった。
「そういえば、初めてなんだな。遠坂と二人っきりで入るのは」
「そう? ……そうね。こういうのも静かでいいじゃない」
みんなでわいわい入るのも好きだけど、なんておっしゃる遠坂さん。
このところ、みんなが俺と一緒に入りたがる。いつだったか桜に誘われて、それを聞いたイリヤが対抗心を燃やしたのがきっかけだった。一歩も譲らない二人に遠坂が提案したのが、みんな一緒に入る事。それには当然のように遠坂自身も含まれていたようで、結局、毎日のように女の子の裸体に囲まれて入浴する羽目になっている。
ルヴィアなんて淑女として断固拒否しますわ、なんて依怙地になっておきながら、夜中にこっそりやって来て、仕方がないから一緒に入って差し上げますとかなんとか……。おかげで真夜中にもう一度入浴するのが日課になってしまったり。ルヴィアをからかうのは楽しいからいいんだけどさ。
「呆れるぐらい立派なハーレムよね。男の子としては嬉しいんでしょうけど」
「……面目ない」
「いいわよ。一人占めできなかったのは悔しいけど、これはこれで幸せだし。だけど、いい? これ以上増やしたら承知しないからね」
「……お、おう」
にらみ付ける遠坂をぎゅっと抱いた。本当に申し訳なく思っている。遠坂、桜、イリヤにルヴィア。あんな事になってしまったら、誰か一人を切り捨てるなんてできなかった。誰か一人を選ぼうとしても、誰も選べない事に気付いただけ。彼女達には、いくら謝っても謝り足りない。正義の味方も失格だろう。みんなが仲良く、笑っていてくれる事だけが救いだった。
些事だが、枯れ果てないかも心配だ。わりと本気で。
「ところで、士郎……」
「遠坂?」
「あ、あたってる……」
「……なにがさ」
もじもじと、急に可愛くなる遠坂の表情。何があたっているか、もちろん分かった上で聞いている。すべすべな肌に興奮してきた我が息子を、遠坂のお尻めがけて押し付けていたのは、間違いなく俺の仕業だったから。遠坂も、いじわる、なんて呟いていた。ああ、それは致死量を超えている。
「遠坂。我慢できない?」
「ばっ、ばかぁ……! 知らないっていって、ふぁっ!」
擦り付けながら耳を齧った。遠坂は身をよじって逃げようとするけど、腕に力を込めて逃がさない。イヤイヤと首を振る遠坂を、愛撫で確実にその気にさせる。遠坂は羞恥に耐えきれず身を震わせ、知らずか腰を振ってしまう。そんな遠坂が愛しかった。深い口付けをしたくなった。
南海の満天の星空に見守られ、真夏の夜はまだまだ明けない。
「士郎! なまえっ、凛って呼んでっ……」
最終更新:2006年09月04日 17:24