414 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2007/12/31(月) 22:35:17
「水銀燈、どうやら手ひどくやられたようね。
それに、この様子だと……」
深刻そうな顔をしながら、真紅はおもむろに雛苺からくんくんを取り上げた。
……いや、ちょっと待て。
今、あまりにも自然すぎて普通に流してしまいそうになったけど、なにやってるんですか真紅さん。
流れるような見事な手つきで、雛苺なんかはまだ取られたことに気がついてないし。
「水銀燈は、深い眠りについてしまったのね。
私たち薔薇乙女《ローゼンメイデン》にとっては、眠りとは何時醒めるとも分からない……」
「……その前に、真紅。
そのぬいぐるみ、いかにも元から自分のものでした、って言わんばかりに抱えないでくれ」
なにやら語り始めそうな真紅に、水を差すようなタイミングで突っ込みを入れる俺。
あのままほっといたらなし崩し的に持って帰りそうだったし。
そこで雛苺も、ようやくぬいぐるみが取られたことに気がついたらしい。
「…………あーっ!
真紅、ヒナのくんくん取ったのー!」
いや、君のものでもないからね?
気付かれた真紅は真紅で、苦々しい顔をしている。
もしやバレないと思っていたのだろうか……あの手並みじゃあ無理も無いけど。
「あ、あらいつの間にか。
ごめんなさい、つい魔が差したのだわ」
「いや、明らかに故意的……。
とにかく返してくれ、元々はそれ、水銀燈のぬいぐるみだし」
「…………………………仕方ないわね」
すっごい間があったな、今。
水銀燈の持ち物と聞いて、真紅の内部では激しい葛藤が交錯したのか。
しかし最終的に、くんくんのぬいぐるみは手放された。
しぶしぶと差し出す真紅から、俺の手に渡る探偵犬。
一体、この垂れ目の犬のどこにそこまで必死にさせる魅力があるんだろうか……?
「それで、真紅。
改めて本題に入りたいんだが」
「あぁ……くんくん……」
……なぜ遠い目をする?
真紅の視線は俺ではなく、俺が手に携えているぬいぐるみに注がれている。
視線の熱さで暖が取れそうだ。
「あの、真紅?」
「……くんくん……」
「おーい……」
「……くんくん……」
……だめだ、反応が無い。
くんくんを手放された真紅は、心ここにあらずといった具合。
なんか、今日までの真紅のイメージがガンガン壊されていくなぁ……。
本気で何しにきたのかわからないぞ。
「こうなったら……やるしかない」
俺はぬいぐるみを顔の高さまで持ち上げると、くんくんの腕をぱたぱたと振る動きをさせる。
真紅から見たら、くんくんが手を振っているように見える……はず。
そして、裏声で……。
『やぁ、ボクたんてい犬のくんくん!』
「あぁっ! くんくん! くんくんじゃないの!」
うわ、通じた。
真紅はやおら目を見開き、その顔は幸せでキラキラと輝いている。
なるほど、こうすればいいのか……真紅の新しいキャラクターが、だんだん掴めてきたな。
ええっと、確かくんくんの決め台詞は……。
『真紅、ボクからもお願いするよ!
水銀燈を、目覚めさせる方法を教えておくれ!
よろし……くんくん!!』
「わかったわ!
不肖この真紅、水銀燈の救助に全力を尽くすのだわ!」
瞳に炎をともらせて決意を口にする真紅。
……色々と言いたい事はあるけれど、燃えているみたいだし、まあいいか。
ささっとぬいぐるみを後ろに隠して、くんくん役から衛宮士郎に戻る。
「で、何をすればいいんだ?」
「ふっ、任せなさい。
いいこと、士郎。
貴方がするべきことは、唯一つ……」
「それは……?」
最終更新:2008年01月17日 21:00